反「嫌韓」FAQ(仮)

在日は、日本が嫌い(反日)なのになぜ日本に留まり続けるのか。日本が嫌なら祖国に帰れば良いではないか。

大きなお世話だ。

こうした主張は、表現は様々(「日本が嫌なら帰れ！」という乱暴なものから「素朴な疑問なのですが、なぜあなたたちは日本が嫌いなのに祖国に帰らないのでしょうか」というような慇懃なものまで)ですがしばしば見られます。そしてこの主張には、いくつもの誤り、欺瞞、そして暴力性が含まれています。

まず第一に「在日は日本が嫌い」というのは単なる思い込みです。おそらくそういう風に考える人の脳裏にあるのは、日本の差別的な政策(朝鮮高校の高校無償化法からの排除など)や、日本社会に根深く存在する在日コリアン差別を告発・批判する人々の姿ではないかと思われます。そうした人々を見て、短絡的に「日本(そのもの、あるいは全体)」が、ひいては「(日本人である)自分自身」が否定されたように感じ、「そんなに日本が嫌なら…」と反発する人々が少なくないのでしょう。しかし果たして日本の政治や社会を批判したり、差別を告発したりする人々は「日本が嫌い」だからそうするのでしょうか。

現在の在日コリアンのほとんど(二世以降)は日本で生まれ育ち、日本の文化・環境に囲まれ、親しみ、そして日本で一生を終えます。その意味においては日本人とほとんど変わりません。自分が暮らす(暮らし続ける)場所をより良い所にしたい、悪い部分があるなら正したいと思うのは当然でしょう。

第二に、在日コリアンに「国に帰れ(あるいは「帰ればいいのに」)」というのは二重の暴力性をはらんでいます。先にも述べたように、二世以降の在日コリアンにとって、日本は生まれ育った国であり、「自分の国」で、それぞれの地域に根ざした暮らしをしていることでしょう。たとえば大阪で生まれ育った在日コリアンであれば大阪弁を話し、「吉本」の笑いに親しみ、阪神タイガースを熱烈に応援する(※注１)。そうして暮らしてきた人に対して「国に帰れ」というのは、それまでのその人の人生、言い換えればその人が人生の中で培ってきたアイデンティティ・人としての「核」を根底から否定し、傷つけるのです。

また、「日本を批判→日本が嫌い(＝反日)」という決めつけは、ただ単に短絡的であるのみならず、別の問題もはらんでいます。日本に対する批判に限らず「批判」と呼ばれるものの中には(当たり前の話ですが)妥当と思われるものもあればそうでないものもあります。だからこそ「批判」に対してはそれが妥当か否か、妥当でないとすればどの点がどのように妥当でないのかきちんと検証・検討しなければなりません。しかし「日本批判→日本が嫌い(＝反日)」という決めつけ・レッテル貼りはそうした「面倒な」検証・検討を必要としないため、「思考停止」をもたらします。こうした風潮が強くなればどうなるでしょうか。多くの人が自分の頭で考えることをやめ、「空気」を読んで「多数派」や「大きな威勢の良い掛け声」に流され、それらと異なる意見を抱いても沈黙したり、あるいは他者の異なる意見を排除したり、というのはまさに熱狂の中で無謀な戦争に突き進み、途中でやめることもできず内外に甚大な被害と犠牲をもたらしたかつての日本の姿そのものです(※注２)。

マイノリティ(少数派・非主流派)の意見を排除せずに尊重し、きちんと受け止める(※注３)。これは別の言い方をすれば「多様性を確保する」ということでもあります。「多様性の確保」とは「可能性・選択肢の確保」でもあります。マジョリティ(多数派・主流派)の主張や方法に問題があった時、別の主張が確保されていれば流れを修正することができます。逆にそれが確保されていなければ、多くの人の目に敗戦が明らかになってもなお流れを正すことが出来ずに破滅への道を歩んだかつての日本と同じになってしまいます。そういう意味で、マイノリティの主張を尊重するというのはマジョリティの「利益」にとっても、実は大切なことなのです。

(※注１)ここでは具体的なイメージを思い浮かべやすいようにあえてステレオタイプな「大阪人」の描写の仕方をしましたが、もちろん「大阪弁を話さず、吉本の笑いも阪神タイガースも好きではない」大阪人を否定するものではありません。

(※注２)その意味で、現在よく使われる「反日」と、戦時中の「売国奴」という言葉の使われ方は非常によく似ています。

(※注３)念のために補足しておくと、「排除せずに尊重し、きちんと受け止める」というのは、何も「無条件で肯定する」ということではありません。