出所も送られた先も不明の、単なる怪文書に過ぎない。
朝鮮総連の幹部が「自作自演だった」と告白?で取り上げた説については、直接『わが朝鮮総連の罪と罰』を読めばデマであることが簡単に確認できるのですが、ではそのデマはどこから発生したのでしょうか。調べてみると、以下のようなページがありました。
日本国内・朝鮮総連
どうやら朝鮮総連に批判的な文章を集めたページのようですが、後半部分に『わが朝鮮総連の罪と罰』からの引用(「すわ一大事と…たいていうまくいった」の箇所。この部分については捏造ではなく、実際にそうした記述があります。ちなみにこれはデパートの展示会で展示物が盗まれた事件の容疑で在日朝鮮人の少年を「引っぱっていったまま帰してくれない」警察に抗議した場面。この記述の後に、実際少年が無実であったことも書かれています)に続き、「自作自演」についての文章が掲載されています。おそらくはこの二つが混同され、いつの間にか『わが朝鮮総連の罪と罰』に「自作自演だったと告白する記述があった」という話になったのでしょう。
さて、この「自作自演」云々についての部分の後に
引用元と見られるリンクが貼られています。そこから一部引用してみます。
朝鮮総連関係者が本紙宛に告発メールを送付! チマチョゴリ事件は我々の自作自演だ
26日、本紙に東日本地方在住の朝鮮総連関係者を名乗る呉永達(仮名)氏 から、衝撃のメールが届いた。
(中略)
新亜出版社 貴中
貴下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。 私は、総連の内幕をマスコミに流している者であります。何卒、編集部様が参考にされますようお願い申し上げます。
(中略)報道の「デマ」によって、これだけの同胞がひどい目に遭っていますよ、を強調するため、自作自演の被害者をつくり、あたかも日本人が再びわが民族に危害を加えたように捏造し、マスコミに報道さす。 自作自演のためには、被害者役(子供は特に世間の同情を呼ぶ)とよごれ役(我々が金を払って雇う)を決めて、できるだけ人々に注目されやすい目立った場所(警察関係者がいない場所)で実行する。よごれ者役は裏おもてを知っているが、被害者の少女や家族は何も知らない。日本人がやったと思い、わが総連の団結力は強固なものになる。日本人がチマ・チョゴリを切りつけるわけがない。
(後略)
一見もっともらしく思えます。しかしよく読むと、おかしな点がいくつもあります。
この文章は朝鮮総連関係者と称する呉永達
(仮名)氏が「新亜出版社」に告発メールを送った、という体裁になっています。しかし、「新亜出版社」で検索しても、日本国内でそういう名前の出版社が実在する(もしくは実在した)という情報は出てきません(韓国・香港には同名の出版社があるようです)。新亜出版社に告発メールを送ったとされる呉永達
(仮名)氏はどうやって「新亜出版社」という出版社(およびそのメールアドレス)を知ったのでしょうか?そもそも「総連の内幕を
マスコミに流している」という呉永達
(仮名)氏は、なぜ大手の出版社ではなく、検索にも引っかからないようなマイナーな出版社にだけこの情報をリークしたのでしょう?
仮に、「新亜出版社」が日本国内に実在する出版社だとするなら、そしてその「新亜出版社」が呉永達
(仮名)氏からメールを受け取ったのも事実であるとするなら、
なぜ「新亜出版社」はメール(の一部)をネット上に流出させるだけで満足し、それを本や雑誌などの形で出版しないのでしょうか。もしこの内容が事実であったとしたら、とんでもない特ダネ・大スクープだというのに。
以上のことから考えても、この文章は単なる怪文書以上の何者でもないと言えるでしょう。少なくとも「チマチョゴリ切り裂き事件が自作自演であった証拠」としては信憑性がなさすぎます。もし、この文章が事実であると主張する人がいるなら、まずは
「日本国内に新亜出版社という出版社が(少なくともこのメールが送られたとされる1998年6月3日時点で)実在したこと」を証明するところから始めるべきでしょう。
関連ページ:
チマチョゴリ切り裂き事件は自作自演?
朝鮮総連の幹部が「自作自演だった」と告白?