最終更新:ID:Q1XQE+pOlw 2025年05月04日(日) 08:52:34履歴
凄まじい揺れで目が覚めた。
「あれ、確か…」
レイが私を抱えて、雷雲に飛び込んで、何か大きなものに……
「レイ!!」
慌てて辺りを見ると、壁にレイの書き置きが刻まれていた。すぐに戻るとは書いてあるけど、この揺れはおかしい!早く探しに行かないと!!
「待ってて、レイ…!」
閃刀を掴み、痛みを堪えて洞窟の外へと出た。
「何これ…?」
音を頼りに湖まで来た私は目を疑った。薙ぎ倒された木々、泥が巻き上げられて酷く濁った湖、大きな足跡や半月状に抉れた跡が残る地面。どう見ても巨大な生き物が暴れ回ったとしか思えない。
「あれは!」
大きな足跡のそばにレイの靴を見つけた。血の跡は見当たらない。もしかして攫われた?私のせいで弱ってたから?
「レイ…!」
不甲斐なさに拳を握り締める。早くこの足跡を辿ろう、そうすればレイに会えるはずだ。
足跡を辿って鬱蒼とした森林を歩く。足跡の他にも、木や枝が折れている場所があるから分かりやすい。
「ふぅ、はぁ、はぁ…」
大きな石のそばで休む。本当は休憩もなくレイを探したい。でもレイを連れて逃げる時、私が足手まといになったらいけないから。
「すぅ、はぁ…うん、行こう」
時間は短いけれど息は整えられた。痛みも少しはマシになった。深呼吸して出発しようとした。
その時だった。こちらを見る視線に気付いたのは。
「…!?あなた、誰?」
緑の中では目立つ桃色の髪。顔を半ば覆い隠すまで伸びたその髪からは紫色の瞳が覗いていた。そして頭には片方が折れた2本の角。人、なんだろうか?
「…ゥウ!」
その人物は唸り声を出すと私が目指す方とは逆に走り去ってしまった。
「あっ、待っ…!」
どうしよう、レイも心配だけどあの人も放っておけない。
私は、どうしたら…?
「大丈夫…ゆっくりでいいから」
「ウ…ウン…」
浅い川辺でようやく彼女を見つけ、ゆっくりと下流へ共に歩いて行く。
さっきこっちを見ていた、桃色の髪の人。結局レイではなく『彼女』を選んでしまった。
でもレイならこう言うはずだ。
「助けるのは私じゃない」って
レイの強さ、優しさ。戦いの中で何度も感じて、私も貴女みたいになりたいと思うようになった。
だから、この人を助けるんだ。自分の手が届くこの人を、レイみたいに。
「靴の跡…!」
大勢の靴の跡が下流に伸びていっている。この先に人がいるんだ!よかった…!この人を保護してもらったら一緒にレイを…
『■…■■……■』
…今何か聞こえた気がする。
生き物が、吠えてる?
「グ、ウゥ…!」
「ど、どうしたの!?」
その声に反応するように突然、『彼女』は上を向いた。何が
「ウ ア アア…!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
さっき聞こえた声と、同じ声。
どういうこと?
バシャン!!
「…な、何?」
「■■■■■…!」
川の中に見たことのない生き物が立っていた。大きさは私よりちょっと上。見た目は図鑑で見た狼に似てる。けど狼は二足歩行なんてしてなかった。
「■■■!」
「…ッ!!」
狼が身体を低くして突撃をしてきたがこれを避ける。速い、でもレイよりも遅い。これなら…!
「はっ!!」
「■■■■!?■■■■■!?」
再度の突撃に合わせてすれ違いざまに閃刀を振るう。肉を裂く感覚と共に赤い血飛沫が飛ぶ。頬に大きな傷を負った狼は酷く驚いているようだ。
「…!!」
勝機は逃さない。一気に近づきそのまま閃刀を倒れた狼の首元に振り下ろす。
いや、出来なかった。
「どう、して…!?」
「グルルルルル…!」
振り下ろそうとした腕は『彼女』に止められていた。意味がわからない、なんで?
「アァ…!」
「くっ!」
「ギャン!!」
腕に噛み付こうとした『彼女』に仕方なく蹴りを入れて引き剥がす。悲鳴をあげた『彼女』は蹲る狼に寄り添うと、こちらを睨みつけた。
「ヴゥゥゥゥ…!」
「■■■■…■■■■■……」
私は悲痛な声をあげる狼を庇う姿に混乱していた。『彼女』の目には見覚えがあった。レイに助けられた時にレイがしていた目。
あれは『怒り』だ。
あの狼は『彼女』にとって大切なモノなの?どういうことなの?なんで?どういう関係なの?次から次へと疑問が浮かぶ。
だから気づくのが遅れた。『彼女』が視線を私の後ろに向けた事に。
音も無く私の背後に立っていたものに
「しまっ」
衝撃 痛み 飛んでる? 水 冷たい
耳 鳴り が まずい視 界が
あ れ 狼 が おお きい もう 一匹
拳
立って 避け
「うっ!?ぐっ!うう……!」
「ウウッ!グルル!ウゥルルルル…!ガァ!!」
「あぐっ!げほげほっ!!」
気づけば何処かの洞穴で私は殴られていた。
胴体も顔も痛みが酷い。口を切ったらしく咳をしたら血が飛び散った。
『彼女』は馬乗りになって私を殴り続けている。拳の皮がめくれて血が出ているにも拘らず、ずっと。
「や、やべて…なん、で…?」
「ガァッ!!」
「うぎっ!?ああっ……」
鼻の奥で痛みが走り、口の中の血が濃くなった。息が、し辛い…
「だ、め…やめて……」
この人を、人殺しにしたくない。せめて、それだけでも
「ヴルゥ…!■■■■■■!!」
「…!」
お願い、止まって…!
「■■■■■!」
「!!ガウッ!」
入り口の方から声が聞こえた。『彼女』は私から退くとそちらへ駆け出して行った。
目を向けるとそこには私が傷をつけた狼と、それよりもかなり大きな黒い狼。そして黒い狼に嬉しそうに寄り添う『彼女』の姿があった。
それを見てようやく気づく。『彼女』が守っていた狼は…!
「■■■■!!」
「え゛うっ!?げほげほっ!!ぐうっ!うう…!」
傷つけた狼…『子供』が寄ってきて私の首を絞め上げ始める。
「がっ、ああぁ…!」
「■■■…!」
苦しい 空気が 吸えな い
「あ゛……げ……!げひぃっ!?」
「■■■■■…!」
苦しい 苦 しい 頬が 痛 爪で 裂かれ て
しぬ? わたし しぬ?
「い゛……あぁ…」
こわい こわい よ
ジワァ……シュワァァ…ショロロロ…パタパタパタ…
「■■■…」
「あ゛っ!ぜぇっ…!ひゅう…!ぜぇっ…!ひゅう…!ごほごほっ!!」
きゅうに 手を はなした?なん
「■■!」
「いっ…!?あぁ!!服、がぁっ!?あぅ…!」
服を破られて、投げ出されたのは『彼女』の前。
「ウゥ!」
「や、やめて…!」
抵抗すら間に合わず、植物の蔓で手首を縛られる。そして後ろからやって来た『子供』が私の股の匂いを嗅ぎ出した。
「■■■」スンスン
「だめ、やめて…」
ざらり
「いぴっ!?や、やだやだ!やっ!ああっ!?」
舐めっ!?
ざり、ぴちゃぴちゃ、ざりざりざり
「いいっ!?うぅ…!やっ!あ…んんっ!!」
今まで感じた事の無い感覚。嫌な事の筈なのに
すごく、ゾクゾクする
「■■■■■」
「ひっ…!ま、待って…!」
『子供』が上を向いた性器を私に近づけてくる…!怖い…やだ、嫌だ!!
みちっ、ぷつっ…!
「やだ、やだぁ…!!」
怖い怖い怖い怖い…!
ぶちっ!
「うぎゅっ!?いっ…あああぁ…!」
入って、入ってる……!自分以外の熱が伝わる。こんなの知らない…!
「■■■■■!」
「うっ、ううっ!いっ、やっ…!やめ、やめて、たすけっ…!」
腰 掴まれて 奥に たくさん あたって
「うう…!やめて!これ、い」
「■■■■■■■!!」
「痛い痛い痛い痛い痛い!!髪引っ張らないで!!」
「■■■■■!■■■■■■!」
「大人しくするっ!!するから!はなしてぇ!!」
「■■■!■■■■■!!」
「いっ!?うぅ…!うぅぅ…!!」
痛くて、辛くて、苦しくて
でもわからない感覚もあって
わからないのが 怖い
「誰か…誰かぁ…」
ザッザッザッ
足音…?
間違いない。足音が近づいてくる。
そうだった、さっきの足跡…!人がいるんだ!痛めつけられるのを我慢して私は叫んだ。
「お願い!!誰か助けて!!」
「■■■■?」
「■■■!!」
「■■■■■」
「うそ…?」
入って来たのは『子供』と同じ毛色の狼達。大きさにばらつきはあるけど、間違いなく『彼女』の子供達だ。何かを咀嚼している口回りや、爪は赤黒く汚れている。
あれは まさか
「■■?■■!■■■!」
一匹が咳き込んで口から何かが飛び出した。
蜘蛛?
いや、蜘蛛が指輪を嵌めているわけがない
「うそ、だ…」
視界から色が褪せていく。『子供』が私に突き立てる感覚だけが残されていく。
私のせい?私があそこに行ったから?
私が『彼女』を助けようとしたから?私がレイみたいになろうとしたから?
私がレイを選ばなかったから?
「あ、ああっ…ごめん、なさい…」
私がした事は無意味だった
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…!」
私は犠牲を増やした
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
これは罰なんだ…
「ごめんなさい…!ごめんなさい…!」
だから 受け入れる
「■■■■■!」
「あっ…ああ……でてる…おなか、あつい…」
「ごめん…レイ…」
私は あなたに なれなかった
閃刀の欠片で作ったナイフで『お母さん』の髪を切る。少々不格好だけど前よりも視界が確保できて『お母さん』も嬉しそうだ。
「ン!」
「ありがとう、ございます…」
バランスが上手く取れない身体を『お母さん』は手助けしてくれる。あの日からどれだけ経ったのかはわからない。けれど私の所業を『お母さん』は許してくれたみたいだ。
奥で身体を休めていると『彼』が戻ってきた。腕にはたくさんの生き物と果実があった。
「■■■■■!」
「おかえ…きゃっ!?」
『彼』は私に駆け寄ってきて、頬の傷を一舐め。私も『彼』の頬の傷をそっと舐める。
「れる…ふふ、もう少しだよ」
「■■!!」
大きく膨れたお腹を優しく撫でると、中で赤ちゃんは嬉しそうに動いてくれた。
傷つけてしまった『彼』の番になる事。これが私にとっての罰。誰も助けられなかった私の罪。
でも今は、今この瞬間だけはそれを忘れたい。今の気持ちを叫びたい。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
『彼』そっくりの声で私は叫んだ。
【ユーマリア大陸生息生物調査報告書No.███】
名称:ワーウルフ
説明∶狼に酷似した姿を持つ二足歩行の哺乳類です。身長は約2〜2.5m、体重は約100〜130kgとなっています。
狼の特徴を有しており、聴覚、嗅覚に優れる他、群れを成し高度な意思疎通を行い、狩りを行う事が確認されています。
その一方で狼とは違う部分も存在します。一般的な狼の場合、性成熟した個体が群れを出て、新たな群れを作るのが通説です。ところがワーウルフの場合だと子供が性成熟しても群れから出ていくパターンは少なく、子供のパートナーが見つかるまでは群れに留めておく事例が殆どです。また一つのターゲットに執着し、目的が達成できなかったとしても狩猟、簒奪、交尾などの機会を伺います。
【Fランク囚人を使用した探索記録映像より抜粋】
ヘルメットカメラの映像、ただし撮影者が走っている為激しく揺れる画面。
『おい!おい!!この████本部!!聞こえねえのか!?』
「これは貴重な記録だ。言葉を」
『うるせえ!!見てるだろテメエら!さっさと俺を回収に来やがれ!!』
「まだ対象の映像を撮れていない。回収はまだだ」
『████!?██!██!テメエら全員████████!!』
「DABL-JP012、対象の撮影を行え」
「やってる場合じゃねえんだよ!!テメエら嘘つきやがって!!何が狼の撮影だ!あれは…」
四方から聞こえるワーウルフの遠吠え
「あ……ああああああああ!!ちくしょう、ちくしょう!!」
段々と近づく足音と鳴き声
「████!!ふざけるな!こんなの!!うわあああ!?」
横転した後、撮影者はワーウルフに組み伏せられた。
ワーウルフは撮影者よりも大柄な個体。体毛は桃色で身体つきや乳房の発達からメスと確定。
その背後には黒色のワーウルフと成人女性と思しき人影が確認出来る。
「やめろ…!やめろやめろやめ」
カメラがヘルメットごと取り外され放り投げられた。遠くでFランク囚人がワーウルフに連れ去られる映像が映る。
【補遺】
GPSを用いたFランク囚人の回収は、ワーウルフ達の凄まじい抵抗により失敗に終わった。いくら替えが利くとはいえ、Fランク囚人の消費は出来るだけ抑えるように。
評議会ー███より
「あれ、確か…」
レイが私を抱えて、雷雲に飛び込んで、何か大きなものに……
「レイ!!」
慌てて辺りを見ると、壁にレイの書き置きが刻まれていた。すぐに戻るとは書いてあるけど、この揺れはおかしい!早く探しに行かないと!!
「待ってて、レイ…!」
閃刀を掴み、痛みを堪えて洞窟の外へと出た。
「何これ…?」
音を頼りに湖まで来た私は目を疑った。薙ぎ倒された木々、泥が巻き上げられて酷く濁った湖、大きな足跡や半月状に抉れた跡が残る地面。どう見ても巨大な生き物が暴れ回ったとしか思えない。
「あれは!」
大きな足跡のそばにレイの靴を見つけた。血の跡は見当たらない。もしかして攫われた?私のせいで弱ってたから?
「レイ…!」
不甲斐なさに拳を握り締める。早くこの足跡を辿ろう、そうすればレイに会えるはずだ。
足跡を辿って鬱蒼とした森林を歩く。足跡の他にも、木や枝が折れている場所があるから分かりやすい。
「ふぅ、はぁ、はぁ…」
大きな石のそばで休む。本当は休憩もなくレイを探したい。でもレイを連れて逃げる時、私が足手まといになったらいけないから。
「すぅ、はぁ…うん、行こう」
時間は短いけれど息は整えられた。痛みも少しはマシになった。深呼吸して出発しようとした。
その時だった。こちらを見る視線に気付いたのは。
「…!?あなた、誰?」
緑の中では目立つ桃色の髪。顔を半ば覆い隠すまで伸びたその髪からは紫色の瞳が覗いていた。そして頭には片方が折れた2本の角。人、なんだろうか?
「…ゥウ!」
その人物は唸り声を出すと私が目指す方とは逆に走り去ってしまった。
「あっ、待っ…!」
どうしよう、レイも心配だけどあの人も放っておけない。
私は、どうしたら…?
「大丈夫…ゆっくりでいいから」
「ウ…ウン…」
浅い川辺でようやく彼女を見つけ、ゆっくりと下流へ共に歩いて行く。
さっきこっちを見ていた、桃色の髪の人。結局レイではなく『彼女』を選んでしまった。
でもレイならこう言うはずだ。
「助けるのは私じゃない」って
レイの強さ、優しさ。戦いの中で何度も感じて、私も貴女みたいになりたいと思うようになった。
だから、この人を助けるんだ。自分の手が届くこの人を、レイみたいに。
「靴の跡…!」
大勢の靴の跡が下流に伸びていっている。この先に人がいるんだ!よかった…!この人を保護してもらったら一緒にレイを…
『■…■■……■』
…今何か聞こえた気がする。
生き物が、吠えてる?
「グ、ウゥ…!」
「ど、どうしたの!?」
その声に反応するように突然、『彼女』は上を向いた。何が
「ウ ア アア…!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
さっき聞こえた声と、同じ声。
どういうこと?
バシャン!!
「…な、何?」
「■■■■■…!」
川の中に見たことのない生き物が立っていた。大きさは私よりちょっと上。見た目は図鑑で見た狼に似てる。けど狼は二足歩行なんてしてなかった。
「■■■!」
「…ッ!!」
狼が身体を低くして突撃をしてきたがこれを避ける。速い、でもレイよりも遅い。これなら…!
「はっ!!」
「■■■■!?■■■■■!?」
再度の突撃に合わせてすれ違いざまに閃刀を振るう。肉を裂く感覚と共に赤い血飛沫が飛ぶ。頬に大きな傷を負った狼は酷く驚いているようだ。
「…!!」
勝機は逃さない。一気に近づきそのまま閃刀を倒れた狼の首元に振り下ろす。
いや、出来なかった。
「どう、して…!?」
「グルルルルル…!」
振り下ろそうとした腕は『彼女』に止められていた。意味がわからない、なんで?
「アァ…!」
「くっ!」
「ギャン!!」
腕に噛み付こうとした『彼女』に仕方なく蹴りを入れて引き剥がす。悲鳴をあげた『彼女』は蹲る狼に寄り添うと、こちらを睨みつけた。
「ヴゥゥゥゥ…!」
「■■■■…■■■■■……」
私は悲痛な声をあげる狼を庇う姿に混乱していた。『彼女』の目には見覚えがあった。レイに助けられた時にレイがしていた目。
あれは『怒り』だ。
あの狼は『彼女』にとって大切なモノなの?どういうことなの?なんで?どういう関係なの?次から次へと疑問が浮かぶ。
だから気づくのが遅れた。『彼女』が視線を私の後ろに向けた事に。
音も無く私の背後に立っていたものに
「しまっ」
衝撃 痛み 飛んでる? 水 冷たい
耳 鳴り が まずい視 界が
あ れ 狼 が おお きい もう 一匹
拳
立って 避け
「うっ!?ぐっ!うう……!」
「ウウッ!グルル!ウゥルルルル…!ガァ!!」
「あぐっ!げほげほっ!!」
気づけば何処かの洞穴で私は殴られていた。
胴体も顔も痛みが酷い。口を切ったらしく咳をしたら血が飛び散った。
『彼女』は馬乗りになって私を殴り続けている。拳の皮がめくれて血が出ているにも拘らず、ずっと。
「や、やべて…なん、で…?」
「ガァッ!!」
「うぎっ!?ああっ……」
鼻の奥で痛みが走り、口の中の血が濃くなった。息が、し辛い…
「だ、め…やめて……」
この人を、人殺しにしたくない。せめて、それだけでも
「ヴルゥ…!■■■■■■!!」
「…!」
お願い、止まって…!
「■■■■■!」
「!!ガウッ!」
入り口の方から声が聞こえた。『彼女』は私から退くとそちらへ駆け出して行った。
目を向けるとそこには私が傷をつけた狼と、それよりもかなり大きな黒い狼。そして黒い狼に嬉しそうに寄り添う『彼女』の姿があった。
それを見てようやく気づく。『彼女』が守っていた狼は…!
「■■■■!!」
「え゛うっ!?げほげほっ!!ぐうっ!うう…!」
傷つけた狼…『子供』が寄ってきて私の首を絞め上げ始める。
「がっ、ああぁ…!」
「■■■…!」
苦しい 空気が 吸えな い
「あ゛……げ……!げひぃっ!?」
「■■■■■…!」
苦しい 苦 しい 頬が 痛 爪で 裂かれ て
しぬ? わたし しぬ?
「い゛……あぁ…」
こわい こわい よ
ジワァ……シュワァァ…ショロロロ…パタパタパタ…
「■■■…」
「あ゛っ!ぜぇっ…!ひゅう…!ぜぇっ…!ひゅう…!ごほごほっ!!」
きゅうに 手を はなした?なん
「■■!」
「いっ…!?あぁ!!服、がぁっ!?あぅ…!」
服を破られて、投げ出されたのは『彼女』の前。
「ウゥ!」
「や、やめて…!」
抵抗すら間に合わず、植物の蔓で手首を縛られる。そして後ろからやって来た『子供』が私の股の匂いを嗅ぎ出した。
「■■■」スンスン
「だめ、やめて…」
ざらり
「いぴっ!?や、やだやだ!やっ!ああっ!?」
舐めっ!?
ざり、ぴちゃぴちゃ、ざりざりざり
「いいっ!?うぅ…!やっ!あ…んんっ!!」
今まで感じた事の無い感覚。嫌な事の筈なのに
すごく、ゾクゾクする
「■■■■■」
「ひっ…!ま、待って…!」
『子供』が上を向いた性器を私に近づけてくる…!怖い…やだ、嫌だ!!
みちっ、ぷつっ…!
「やだ、やだぁ…!!」
怖い怖い怖い怖い…!
ぶちっ!
「うぎゅっ!?いっ…あああぁ…!」
入って、入ってる……!自分以外の熱が伝わる。こんなの知らない…!
「■■■■■!」
「うっ、ううっ!いっ、やっ…!やめ、やめて、たすけっ…!」
腰 掴まれて 奥に たくさん あたって
「うう…!やめて!これ、い」
「■■■■■■■!!」
「痛い痛い痛い痛い痛い!!髪引っ張らないで!!」
「■■■■■!■■■■■■!」
「大人しくするっ!!するから!はなしてぇ!!」
「■■■!■■■■■!!」
「いっ!?うぅ…!うぅぅ…!!」
痛くて、辛くて、苦しくて
でもわからない感覚もあって
わからないのが 怖い
「誰か…誰かぁ…」
ザッザッザッ
足音…?
間違いない。足音が近づいてくる。
そうだった、さっきの足跡…!人がいるんだ!痛めつけられるのを我慢して私は叫んだ。
「お願い!!誰か助けて!!」
「■■■■?」
「■■■!!」
「■■■■■」
「うそ…?」
入って来たのは『子供』と同じ毛色の狼達。大きさにばらつきはあるけど、間違いなく『彼女』の子供達だ。何かを咀嚼している口回りや、爪は赤黒く汚れている。
あれは まさか
「■■?■■!■■■!」
一匹が咳き込んで口から何かが飛び出した。
蜘蛛?
いや、蜘蛛が指輪を嵌めているわけがない
「うそ、だ…」
視界から色が褪せていく。『子供』が私に突き立てる感覚だけが残されていく。
私のせい?私があそこに行ったから?
私が『彼女』を助けようとしたから?私がレイみたいになろうとしたから?
私がレイを選ばなかったから?
「あ、ああっ…ごめん、なさい…」
私がした事は無意味だった
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…!」
私は犠牲を増やした
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
これは罰なんだ…
「ごめんなさい…!ごめんなさい…!」
だから 受け入れる
「■■■■■!」
「あっ…ああ……でてる…おなか、あつい…」
「ごめん…レイ…」
私は あなたに なれなかった
閃刀の欠片で作ったナイフで『お母さん』の髪を切る。少々不格好だけど前よりも視界が確保できて『お母さん』も嬉しそうだ。
「ン!」
「ありがとう、ございます…」
バランスが上手く取れない身体を『お母さん』は手助けしてくれる。あの日からどれだけ経ったのかはわからない。けれど私の所業を『お母さん』は許してくれたみたいだ。
奥で身体を休めていると『彼』が戻ってきた。腕にはたくさんの生き物と果実があった。
「■■■■■!」
「おかえ…きゃっ!?」
『彼』は私に駆け寄ってきて、頬の傷を一舐め。私も『彼』の頬の傷をそっと舐める。
「れる…ふふ、もう少しだよ」
「■■!!」
大きく膨れたお腹を優しく撫でると、中で赤ちゃんは嬉しそうに動いてくれた。
傷つけてしまった『彼』の番になる事。これが私にとっての罰。誰も助けられなかった私の罪。
でも今は、今この瞬間だけはそれを忘れたい。今の気持ちを叫びたい。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
『彼』そっくりの声で私は叫んだ。
【ユーマリア大陸生息生物調査報告書No.███】
名称:ワーウルフ
説明∶狼に酷似した姿を持つ二足歩行の哺乳類です。身長は約2〜2.5m、体重は約100〜130kgとなっています。
狼の特徴を有しており、聴覚、嗅覚に優れる他、群れを成し高度な意思疎通を行い、狩りを行う事が確認されています。
その一方で狼とは違う部分も存在します。一般的な狼の場合、性成熟した個体が群れを出て、新たな群れを作るのが通説です。ところがワーウルフの場合だと子供が性成熟しても群れから出ていくパターンは少なく、子供のパートナーが見つかるまでは群れに留めておく事例が殆どです。また一つのターゲットに執着し、目的が達成できなかったとしても狩猟、簒奪、交尾などの機会を伺います。
【Fランク囚人を使用した探索記録映像より抜粋】
ヘルメットカメラの映像、ただし撮影者が走っている為激しく揺れる画面。
『おい!おい!!この████本部!!聞こえねえのか!?』
「これは貴重な記録だ。言葉を」
『うるせえ!!見てるだろテメエら!さっさと俺を回収に来やがれ!!』
「まだ対象の映像を撮れていない。回収はまだだ」
『████!?██!██!テメエら全員████████!!』
「DABL-JP012、対象の撮影を行え」
「やってる場合じゃねえんだよ!!テメエら嘘つきやがって!!何が狼の撮影だ!あれは…」
四方から聞こえるワーウルフの遠吠え
「あ……ああああああああ!!ちくしょう、ちくしょう!!」
段々と近づく足音と鳴き声
「████!!ふざけるな!こんなの!!うわあああ!?」
横転した後、撮影者はワーウルフに組み伏せられた。
ワーウルフは撮影者よりも大柄な個体。体毛は桃色で身体つきや乳房の発達からメスと確定。
その背後には黒色のワーウルフと成人女性と思しき人影が確認出来る。
「やめろ…!やめろやめろやめ」
カメラがヘルメットごと取り外され放り投げられた。遠くでFランク囚人がワーウルフに連れ去られる映像が映る。
【補遺】
GPSを用いたFランク囚人の回収は、ワーウルフ達の凄まじい抵抗により失敗に終わった。いくら替えが利くとはいえ、Fランク囚人の消費は出来るだけ抑えるように。
評議会ー███より
コメントをかく