冷戦時代の核実験や民間防衛をめぐるカルチャー

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キューバ危機(1962/10)の日記・読者投稿


キューバ危機は「世界が核戦争に近づいた( the world came close to nuclear war)」(BBC)、「核戦争の瀬戸際(on the brink of nuclear war)」(NY Times)と評されている。

しかし、日本国内で、そのような差し迫る危機という印象を書いた記録はまず見られない。

文学者 竹内好 (1910-1977)の日記はまずらしく、全面戦争の危機を感じさせる「幻想」が書かれている。
キューバ問題が重大化する。(1962/10/21, p.310)

けさのテレビで、キューバの危機がもちこたえられたのを知った、信州へ来てから、今ごろ東京が爆撃されているのではないかという幻想がつきまとっていたが、ひと安心というものだ。もっとも私の幻想が古くさいことも事実だ。報道されたときはもう危機はとっくに過ぎているのだろう。(1962/10/25, p.302)

キューバ問題で、ソ連が譲歩し、ミサイルを撤去することになった。この事件をめぐる報道にはどうも盲点があるような気がする。(1962/10/29, p.305)

[竹内好全集 第16巻 (日記 下), 筑摩書房, 1981.11]

これ以外だと、差し迫る感はない。

歌人 吉野秀雄(1902-1967)の日記には、少しだけ言及がある。特に差し迫る感はない。
<欄外>キューバを海上封鎖すとの米ケネディ声明は世界的大問題となる (1962/10/23, p.150)

<欄外>ソ連、キューバのミサイル基地撤去を声明、キューバの危機一週間にて一応去る。フルシチョフの態度やよし。(1962/10/29, p.153)

[吉野秀雄全集 第6巻 (日記 第1), 筑摩書房, 1970]

小説家・詩人 高見順 (190701965)の日記には「愕然」という言葉がある。
夕刊で、ケネディ大統領のキューバ封鎖声明を知り、愕然とする。(1962/10/23)
夕刊に、キューバ封鎖、今夜11時に発効」と大きな見出し。(1962/10/24)

[ "高見順日記 続 第1巻 (わが文壇生活 1 昭和35年-昭和37年)", 勁草書房, 1975 ]

一般人の日記・投稿の集積から、とある農村の中学校長の記述。キューバ危機解決直後の時期の学校生徒の会話にある雰囲気で、特に差し迫るものはない。
昭和三十七年十一月二日(最近のこどもの戦争観)
キューバ問題が報道されてから、教室でもこどもたちの間で戦争の話がときどき出る。それを聞いていると、朝鮮戦争がはじまったころのこどもの話し方とは、かなり違ってきているような感じがする。
あのころは戦争の悲惨なことや、絶対に避けなければならない点が多かったが、最近では、どんな戦闘が行われるだろうかなど、進歩した科学兵器に関心が向けられているように思う。この変わり方の背後には、こどもの読物や映画、テレビなどからの影響が考えられる。(福冨稔, 農村の中学校長: "投書", pp.270-271)

[ "人生曼陀羅 : 庶民の日記集", 日本記者クラブ, 1975 ]

朝日新聞の一般投稿欄にあったのは以下の3件で、特に日本をも巻き込む戦争という印象は見られない。
キューバ問題に思う
埼玉 遠藤三郎 69

それがキューバにミサイル基地を造ったということで米国は開戦前夜のような大騒ぎをしているとのことです。どてっ腹に近くミサイル基地を造られては米国が脅威を感ずるのも無理からぬことで、ソ連が本当にキューバに中距離弾道ミサイル (IRBM) 基地を造ったとすれば、その人を食ったようなやり方には賛成できません。
しかし、古いことばに「わが身をつねって人の痛さを知れ」ということがあります。キューバのミサイル基地に、中・ソ周辺に配置された米軍のミサイル基地は中・ソを脅威していることに変りはないでしょう。キューバのミサイル基地は攻撃的で、中・ソ周辺のそれは防御的だという理論は成りたちません。もともとあらゆる戦力は攻撃にも防御にも共通のものでありますから…。
古い寓話に、太陽と風の神が旅人の万とを脱がせる競争をして太陽が勝ったという話がありました。キューバにミサイル基地を造らせまいとするならば、武力による武器輸入封鎖などという物騒な手段はやめて、米国水らが中・ソ周辺のミサイル基地を撤収するのが賢明ではないでしょうか。平和を愛好する日本の、そして米国の友邦である日本の池田首相は、速かにケネディ大統領に親書を送るなり、あるいは国連代表に訓令して、米国に冷静さを取戻すよう勧告することを希望してやみません。(無職)


米の対ソ政策に賛成
静岡 高柳章

米・ソはいまキューバ問題で激しく対立している。アメリカはキューバにソ連の中距離弾道ミサイル基地を確認した。そして海上封鎖政策をとった。これについて本欄で、アメリカに理性を求める意見が紹介されたが、私はアメリカの処置を支持したい。
アメリカの対ソ政策は、ケネディ大統領の言う如く、正義の擁護である。アメリカの自由主義思想、民主主義が、いかにすぐれたものであるかを知ったわれわれは雨離為火と協力して、これをソ連国民に知らさなければならない。
ソ連がアメリカに投げる批判は、ただ一つ「アメリカ帝国主義者ども」、良識ある人々が首をかしげることばである。それは、どうもアメリカの対日政策などに関係があるようだ。アメリカが、極東での自由主義国の安全を確保するため、占領政策の打切りとも相まって、日本の帝国主義者を批判しないことなども根底になっているのだろう。だが、アメリカの本心はもちろん、ロバート・ケネディがその著「正義の友と勇敢な敵」に書いている通りである。正義感の強い国民であることを望んでいるのだ。(無職)


キューバ情勢をめぐっての会話
福島 玄葉和伸 23

その日は、新聞の第一面に、キューバ問題での米・ソ間の新情勢が大きく報道されていた。それをめぐっての工場、事務室での会話である。
「戦争かな、問題がこじれれば鉄鋼も回復するんだが」
「鉄鋼株も額面を回復するぞ」
「海運株を買おうかな、昨日は三、四円上がった」
もっとも、まじめな話というわけではなく、出まかせの発言で、あとは笑い声で消された。
日本経済は、株式市場を見ても株価が安値を更新している。中でも鉄鋼部門が悪い。私たちの工場なども合金鉄を製造しているが、大手鉄鋼会社の不振に影響されてお手上げ寸前である。もうかったという経験から、戦争があればよくなると思っているのだ。
だが、そういうことでいいのだろうか。鉄鋼の回復を、刑期を上昇させることを、無批判に戦争に結び付けて考えることを私は恐れる。 (会社員)

[朝日新聞 夕刊 声 (1962/10)]







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