冷戦時代の核実験や民間防衛をめぐるカルチャー

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ロシア右翼

プーチンの「小さな勝利の戦争」


帝政ロシア・ソビエト連邦・ロシア連邦を通じて、「ロシア」は「小さな勝利の戦争」を行い、そのまま成功して「小さな勝利の戦争(Маленькая победоносная война)」に終わったり、失敗して敗北したり、泥沼化したりしてきた。

プーチンもまた、「小さな勝利の戦争」を使ってきた。おおよそ、以下がそれに該当する。
紛争期間主要目的国内への影響国際社会の反応
第二次チェチェン紛争1999年〜2009年チェチェンの支配回復プーチン大統領の初期の支持率向上に貢献賛否両論、内政問題と捉えられる
ロシア・グルジア戦争2008年8月南オセチア、アブハジアを支援力の誇示として称賛される非難、NATOとの関係悪化
クリミア併合2014年3月ウクライナからのクリミア併合高い支持率、「クリミア効果」制裁、国際社会の非難
シリアへの介入2015年〜現在アサド政権を支援成功、世界的な大国として描かれる政権支援に対する批判

この後、2022年に始まる「ウクライナ侵略」ももともとは「小さな勝利の戦争」のはずが、失敗して長期化したものとみなされる。これもロシアの歴史ではよくあること。
プーチンの軍事介入における「小さな勝利の戦争」神話の再検討

プーチン政権下の軍事作戦は、単なる「小さな勝利戦争」として一括りにできない複雑な成果をもたらしており、その評価には慎重な検討を要する。歴史的な概念としての「小さな勝利戦争(small victorious war)」は、近年ではプーチンによる軍事介入戦略を分析する枠組みとして用いられてきた(A Small Victorious War? The Symbolic Politics of Vladimir Putin 参照)。

近年の分析によれば、軍事的成果が芳しくない現状や、制裁による深刻な経済的影響にもかかわらず、ロシアが戦場で勝利を収める可能性は依然として残されているとされる。ただし、それは極めて高い代償を伴う勝利である(Russia’s War in Ukraine: Identity, History, and Conflict)。しかしながら、ウクライナ戦争においてロシア軍は「紙の虎」にすぎないことが露呈し、老朽化した軍隊が体制の維持と新帝国主義的ビジョンの演出のために利用されているに過ぎないという評価もある(Putin Has a New Secret Weapon in Syria: Chechens)。

これら一連の軍事衝突における共通の特徴として、プーチンは民間インフラへの大規模な攻撃や人口の強制移動といった戦術を繰り返し用いている点が挙げられる。国連によれば、ウクライナにおいてプーチンは1200万人以上の市民を住居から追いやったとされる(In Ukraine, Putin Repeats Tactics From Syria and Chechnya)。これらの戦術は、シリアやチェチェンにおける過去の軍事行動と類似している。

確かに、いくつかの軍事介入は短期的な目標を達成したが、戦略的な全体像ははるかに複雑である。特にウクライナ戦争は、ロシア軍の能力的限界を露呈させただけでなく、国際社会における孤立と経済制裁という深刻な結果をもたらし、これらの軍事行動の長期的な戦略的利益を著しく損なっている。
個々の「小さな勝利の戦争」

以下、もう少し長めのコメント...

第二次チェチェン戦争(1999–2009年) (ie Citizendium)

  • 概要:1999年、ウラジーミル・プーチンが首相に就任した直後に開始された本戦争は、第一次チェチェン戦争後の混乱を受けて、ロシアによるチェチェン支配の再確立を目的としたものである。武装勢力による反乱を鎮圧し、親モスクワ派政府を樹立するために、広範な軍事作戦が展開された。公式には2009年に終結したとされる。
  • 意義:この戦争への断固とした対応は、プーチンの権力基盤の確立に決定的な役割を果たした。彼の支持率は急上昇し、2000年には強力な支持を背景に大統領に選出された。ロシア国内のメディアは本戦争を「テロとの戦い」として描写し、国民の結束を促すとともに、プーチンの指導者像を「強く断固たる存在」として確立させた。
  • 評価:戦争は10年に及んだものの、初期段階における成功が強調され、第一次チェチェン戦争における混沌を終焉させたという国内評価が支配的であった。結果として地域はロシアの支配下で一定の安定を見せ、「勝利」の側面が強調されることとなった。

ロシア・グルジア戦争(2008年) (ie Atlantic Council)
  • 概要:2008年8月、南オセチアおよびアブハジアといった分離主義地域への支援を名目に、ロシアはグルジア(現ジョージア)への軍事介入を実施した。この5日間の戦闘を経て、ロシアは両地域の独立を承認し、軍事基地を設置した。これは欧米が支援するグルジアの主権に対する直接的挑戦であった。
  • 意義:この戦争は、ロシアが「近隣諸国(近い外国)」における影響力を軍事力によって行使する意思を示すものであり、とりわけNATO拡大といった西側の勢力圏拡大への反発として理解された。親欧米的なグルジア政権への挑戦であると同時に、プーチン政権下の対外政策の転換点ともなった。国内的には、ロシアの力を誇示する戦争として称賛された。
  • 評価:戦争は短期間で決着がつき、分離主義地域の支援という目的を達成したうえで、グルジアに打撃を与えた点で「勝利」として受け止められた。プーチンの指導力はここでも「ロシアの利益を守る存在」として強調されることとなった。

クリミア併合(2014年) (ie. EU External Action, Brookings)
  • 概要:2014年、ウクライナにおける革命とヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領の失脚を契機に、ロシアは「緑の小人」と呼ばれる正体不明の軍隊を展開し、同年3月に住民投票を実施。これによりクリミアはロシアに編入されたとされた。
  • 意義:「歴史的にロシアの領土を回復する行為」として、ロシア国内では高く評価され、プーチンの支持率は過去最高を記録した(いわゆる「クリミア効果」)。NATOおよびEUの拡大という文脈の中で、西側に対する明確な挑戦と見なされ、国際的な緊張を招いたものの、国内的には地政学的勝利と認識された。
  • 評価:ロシア側の視点からは流血を伴わず、迅速かつ効果的に目的を達成したことから、「小規模かつ勝利の戦争」として国民に受け入れられた。まさにこの分類に適合する典型例といえる。

シリア内戦への介入(2015年〜現在) (ie. CSIS, US Naval Institute)
  • 概要:2015年9月より、ロシアはバッシャール・アル=アサド政権を支援する形でシリア内戦に軍事介入を開始した。空爆、海軍作戦、民間軍事会社を通じた地上支援などにより、アレッポを含む重要拠点の奪還に貢献した。
  • 意義:この介入は、ロシアにとって中東における影響力を拡大する機会であり、新兵器の実戦運用や地政学的足場の確保という点でも戦略的意義を持った。また、イランなどとの関係強化を図ると同時に、ロシア国内では国際的影響力の誇示として報道され、軍事力の優位性が強調された。
  • 評価:本戦争は現在も継続中であるが、限定的介入(空・海軍中心)という性格を持つことから、大規模戦争とは異なる。特に初期段階の成果が「勝利」として国内メディアで強調されており、「小規模かつ勝利の戦争」という物語に合致している。





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