忘却からの帰還〜Atomic Age

ロシアのタイムトラベルSF作品は、ソビエト時代の物語と比較して、権威、記憶、社会組織の描写において顕著な差異を示す。ソビエト過去を舞台とする作品（Lomakina, 2025; Maslinskaia, 2024）では、政府構造は厳格かつ制度的に規制されており、集団的なイデオロギー枠組み、親子関係の規律、世代間の継続性および共同記憶が強調される。一方、ポストソビエト期の作品（Toymentsev, 2019; Abramov, 2023）では、権威はハイブリッドでしばしば権威主義的に描かれ、ディストピアや改変歴史の装置を通じて、暴力の循環、トラウマ、イデオロギーの断絶による混乱が際立つ。

主要な相違点は次の通りである：

1. 政府描写: ソビエト作品では、イデオロギー主導で統一された権力（規制された制度と明示的な教化）を描くのに対し、ポストソビエト作品では、あいまいでディストピア的、時に封建的な権力が描かれる。
2. 社会構造: ソビエト時代の物語は集団的記憶、世代間の橋渡し、継続性に重点を置くのに対し、現代ロシアの作品は郷愁、トラウマ、社会的アイデンティティの分断を前景化する。

両時代ともにタイムトラベルを語りの装置として用いているが、集団的で規制された権力・社会の描写から、より対立的かつ批評的な反映へと移行している点が両者の本質的な違いである。

本研究は、以下の基準に基づいて、Semantic Scholarコーパスから126万本以上の論文の中から50本を抽出し、タイムトラベルを主題としたロシアまたはソビエト時代のSF作品において、政府および社会構造の描写に焦点を当てて分析対象を選定した：

1. ジャンルとタイムトラベル: SF作品であり、タイムトラベルが主要なプロット装置として使われ、社会構造の比較に寄与しているか。
2. 地理的起源: ソビエト連邦（1991年以前）またはロシア（1991年以降）で出版された作品か。
3. 社会的内容: 政府構造または社会組織についての詳細な記述が含まれているか。
4. 学術的価値: 原作またはその学術的分析・評論が対象であるか。

以下の情報が各論文から抽出された：

1. 作品の種類: ジャンル（小説、短編、児童文学、ディストピア等）と時代（ソビエト期／ポストソビエト期）
2. 政府および社会構造の描写: 政治制度、社会階層、イデオロギー枠組み、権力構造の詳細
3. タイムトラベルの語り方: 装置、目的、時間のつながり、イデオロギー的含意
4. 世代間および歴史的視点: 世代間関係、記憶・トラウマの表象、歴史の連続性・断絶
5. イデオロギー的変遷および批評: ソビエト／ポストソビエト体制への批評、物語の変質、歴史的断絶の表現、批評手法

著者	分析対象	時代	主題	方法
Lomakina (2025)	子どもの視点からのソビエト過去へのタイムトラベル小説	ソビエト期（1980年代）	世代間の連続性、児童文化	文学分析（要旨のみ）
Maslinskaia (2024)	戦争とタイムトラベルを扱う児童文学の比較分析	ソビエト〜現代	戦争記憶、教化、世代断絶	文学的テーマ分析（要旨）
Toymentsev (2019)	ポストソビエト・ディストピア文学	ポストソビエト期（1990〜2010年代）	権威主義、循環史、風刺	文学分析（全文）
Abramov (2023)	代替歴史ジャンルの社会学・文学分析	ポストソビエト期（近年）	郷愁、トラウマ、イデオロギー	社会学＋文学分析（要旨）

タイムトラベルと政治的言説:

1. Lomakina: ソビエト時代の堅苦しさを批判しつつ、世代間の橋渡しを図る装置としてタイムトラベルを使用。
2. Maslinskaia: タイムトラベルは戦争記憶を伝える手段として機能するが、イデオロギー的には中立的に描かれる。
3. Toymentsev: ディストピアは過去の権威主義体制を再演する場であり、イデオロギーの曖昧さを批評。
4. Abramov: 代替歴史はソビエト崩壊後のトラウマ的反応として機能し、郷愁と不安定なイデオロギーが交錯。

• ソビエト期作品では、制度的で規律ある大人の権威が描かれ、集団活動が強調される。
• ポストソビエト作品では、権力は混合的で権威主義的、暴力的装置（秘密警察、体制暴力）によって維持される。
• 作品はしばしば世代間の対比や、ソビエトとポストソビエトの断絶を明確に描写。

1. Lomakina: 児童文化を通してソビエトと現代の連続性と断絶を併記。
2. Maslinskaia: 家族の記憶と戦争の英雄性から個人主義へと移行する過程を描く。
3. Toymentsev: ディストピアにおいて社会構造は停滞または退行し、進歩性は排除される。
4. Abramov: 社会構造はトラウマとイデオロギーの対立の場として描かれる。

• ソビエトとポストソビエトの子ども像の対比が頻出。
• 歴史記憶は共感や教育の手段として、あるいは断絶とトラウマの象徴として描かれる。
• 時代の連続性よりも、断絶・循環・不安といった表象が多い。

本分析は文学的および社会学的考察に基づいており、読者ベースの実証的研究は含まれていない。また、対象文献の多くが要旨のみによるものであるため、解釈の信頼性には限界がある。

• Abramov, R. N. (2023). "Russian Science Fiction in the Genre of Alternative History as a Reflection of Mass Consciousness: Sociological Approaches." *Sociologiceskie Issledovaniâ.*
• Toymentsev, S. (2019). "Retro-Future in Post-Soviet Dystopia." *CLCWeb: Comparative Literature and Culture.*
• Maslinskaia, S. (2024). "New Eyewitnesses to the War: Time Travel in Russian Children’s Literature about WWII." *ILCEA.*
• Lomakina, 2025. "Детский взгляд в повести "Назад в пионерское": переход поколений и "энциклопедия" советского детства." *Tomsk State Pedagogical University Bulletin.*