冷戦時代の核実験や民間防衛をめぐるカルチャー

テクニカル

核デバイスの概要


核デバイスを概説する。詳しくは、Carey Sublette氏のNuclear Weapons Frequently Asked Questionsを参照のこと。

デバイスの種類

使用目的や規模により、核デバイスには以下のような種類がある。なお、分裂デバイスから開発が始まったが、分裂燃料が高価であることから、比較的安価で軽い融合燃料を使うようになった。
  • 分裂型デバイス(fission weapon):
    分裂反応のみを使用するデバイス。分裂用の燃料は固体の重金属である。
  • 分裂・融合結合デバイス(combined fission/fusion weapon):
    分裂反応と融合反応を用いる。分裂用燃料である固体の重金属と融合用のD-T混合ガスや液化リチウム、ケーシングのタングステンや融合の起爆用の重金属など多相かつ多物質の構造を持つ。
    • 分裂促進デバイス(boosted fission weapon):
      分裂用燃料の中心にD-Tガスを少量おいて、分裂の熱で融合させ、発生した中性子で、分裂反応を促進する。純分裂デバイスの分裂の効率の悪さを改善するために開発された。
    • 分裂・融合 2段階デバイス (staged fission-fusion weapon):
      分裂デバイスのエネルギーでD-T融合などを行ない、より大きなエネルギーを取り出す。球形の分裂反応部分と円筒形の融合部分からなるデバイス。中性子を遮蔽せず、中性子をすべて放出する中性子デバイスなどの変種がある。
    • 分裂・融合・分裂 3段階デバイス(staged fission-fusion-fission weapon):
      分裂デバイスのエネルギーで融合を行ない、融合でできる中性子で多量の放射性物質を生成する分裂反応を起こす。エネルギーよりも、放射性物質生成に力点をおいたデバイスである。(最近は製造されていないと思われる。)

分裂デバイスの物理

まず、分裂デバイスについて触れる。融合デバイスも反応のトリガに分裂デバイスを用いるので、分裂デバイスは無視できない。分裂デバイスの基本は
  1. 爆薬などで臨界を超える密度を実現する。(密度最高の状態は高々250ナノ秒しか続かない)
  2. 密度最高の状態になった瞬間に、10個程度の中性子を照射する。
  3. 分裂反応がある程度進むまで、分裂燃料が自分自身の熱でばらばらにならないようにする。
である。

1.は爆縮の固体力学、3.は熱での爆発的膨張の固体力学である。衝撃波と熱を伴う現象なので、固体といっても構造解析とは大きく異なる。おそらく衝突解析とも近い部分はないと思われる。ただし、分裂反応で放出されるエネルギーの80\%近くが、分裂した「破片」の運動エネルギーの形で放出される。

2.については、常時10ナノ秒に1個程度、中性子を放出するような仕掛けをつくればよいので、計算物理の大規模計算とは無縁である。物理としては中性子の輸送という現象があるにせよ、実質的には、衝撃波を伴う固体力学計算が重要と思われる。

分裂・融合結合デバイスの物理

分裂・融合2段階デバイス(熱核デバイス)

もっともメジャーな分裂・融合結合デバイスである分裂・融合2段階デバイス(熱核デバイス)を概説する。

融合反応には以下の6つがある。
  1. D + T -> He4 + n + 17.59 MeV
  2. D + D -> He3 + n + 3.27 MeV
  3. D + D -> T + p + 4.03 MeV
  4. H_e3 + D -> He4 + p + 18.34 MeV
  5. Li6 +n -> T + He4 + 4.78 Mev
  6. Li7 +n -> T + He4 + n - 2.47 Mev


このうち、(1)の反応が最も効率がよい。しかし、Tは高価でかつ年5.5\%ずつdecayしてゆくので核デバイスの燃料としてふさわしくない。そこで、現在は(2)および(3)のD+Dの反応を用いる。ただし、重水素そのものは保存しにくいので、固体である重水素化リチウムの形で保存する。このリチウム自身も(5)および(6)の反応により融合反応に参加し、さらに(1)の反応の原料たるTも供給する。

この融合燃料を反応させるために、融合デバイスをつくる。球形の分裂部分と円筒形の融合部分を接合した形をしている。なお、融合部分も球形につくる場合もある。

融合反応は次の手順で進む。
  1. 分裂トリガ(分裂デバイスそのもの)が核分裂による爆発を起す。このとき、80\%以上のエネルギーは軟X線として放出される。
  2. 放出された軟X線は、瞬時にプラスチックフォームを満たして平衡状態になる。プラスチックは完全にイオン化される。
  3. 融合燃料のカプセルは極高温に加熱されるが、融合燃料は遮蔽やpusher/tamperがあるため加熱されない。
  4. tamperが加熱され、膨張し、燃料カプセルを一気に圧縮する。ほとんど爆縮状態。このときの圧力はほぼ一様。
  5. 燃料カプセルはもとの半径の1/30くらいに圧縮される。すなわち密度は1000倍になる。そして融合反応が始まる。
  6. 融合の熱はpusher/tamperに閉じ込められ、融合燃料を加熱し融合反応を加速する。
  7. 中心軸のロッドも1/4くらいに圧縮され、分裂反応を始める。この熱が融合反応を加速する。

融合反応により3億度の高温に達することもある。軟X線を使うことで、分裂デバイス自体の爆発よりもはるかに高速に、かつ一様に融合燃料の圧縮できるところが、融合デバイス(Teller-Ulam構造)の特徴である。

なお、融合デバイスの一種である中性子デバイスは、少し構造が異なる。これは、エネルギーよりも中性子を放出することを優先するためである。

熱核デバイス中の解析すべき物理現象

分裂部分は分裂デバイスと同様であるので、融合部分についてのみ考える。

プラスチックフォームの部分に軟X線が満ちるのに要する時間は数ナノ秒である。ここは、おそらく境界条件としてよいと思われる。フォトンガス状態の軟X線から受ける熱で、pusher/tamperに衝撃波が発生する。ここからが数値計算の対象であろう。固体中を500km/s程度の速度で通過する、場合によって放射を伴う衝撃波の挙動は、構造解析とは無縁の現象である。従って、むしろ圧縮性流体に近い扱いをするのが妥当と考えられる。

次にこの衝撃波などにより、一気に融合燃料の体積を1/1000に圧縮する過程がある。この融合燃料は固体であるが、その挙動はやはり構造解析ではなく、圧縮性流体に近い扱いをするのが妥当である。ただし、この段階からは、融合反応に伴う融合燃料の成分比率の変化と熱の発生を計算に含めなければならない。なお、融合反応は基本的には、時間変化する化学反応であり、特殊な計算をするとは考えられない。

最終的に融合燃料自身の熱で、融合燃料部分が膨張し融合反応が停止する。この段階で、どれだけの融合燃料が反応したかが、熱核デバイスのエネルギー効率を決定する。

中性子デバイスの構造と物理

中性子デバイスは、熱核デバイスを小規模化したもので、構造も近い。ただし、発生した中性子をプルトニウムなどが吸収せず、外部へ放射させることと小規模な使用を目的としているため、融合部分構造は熱核デバイスと異なる。基本的には分裂トリガによって、熱や放射を供給し、これが融合燃料を入れたカプセルの壁に衝撃波を発生させて、融合燃料を圧縮する。

熱核デバイスと異なり、融合燃料が重水素化リチウムのような固体ではなく、D-T混合ガスである。
従って、固体と気体を含む体系となる。なお、トリチウムを用いるので、トリチウムの年5.5\%の崩壊を補うというメンテナンスが必要となる。

分裂促進デバイスの構造物理

分裂デバイスは燃料の多くが分裂反応を起こす前に、デバイスがこわれてしまうという問題を解決するために開発されたのが、分裂促進デバイスである。従って、基本構造は分裂デバイスと同じである。ただし、固体であるプルトニウムの球体の中心に、D-T混合ガスもしくは固体の重水素化リチウムなどを少しだけ(ほんの数グラム)入れてある。





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