最終更新:ID:siKjTSQZwA 2020年09月25日(金) 05:56:45履歴
<あらすじ>
『何番目』か。
我々はそういう生き物であるはずだった。
<キャラシについて>
有料公開中の「ヒトの目醒めよ、幸あらんことを」の設定・背景を共有ないし前提としている。
前記シナリオを通過した探索者は不可、HOに基づく新規推奨。
また前記シナリオを未プレイ、未読の場合は本シナリオを推奨しない。技能としては基本的な探索技能を最低限とする。
HOについてはその他事項に記載。
<舞台>
座標不明の島、星の孤島 内、廃墟
<推奨人数>
一人〜四人ほど
*以下、KP情報
<敵対>
No-4-1「ステラ」 -マザーコード-4の初子、長男。
人間体を維持してはいるが一部が経年劣化により露出した状態のショゴス・ロード(マレウス・モンストロルムp57-58)。
??? -No-4-1がマザーコードと認識するもの。(マレウス・モンストロルムp178-179を参照)
<その他事項>
第六版に基づいて制作。七版使用時には改変が必要。
HO (全PC同)
・PCキャラ
貴方は「マザーコード計画」の「マザーコード-4」から発生した、
ショゴスもしくはショゴス・ロード(マレウス・モンストロルムp57-58)を核として生きる人体形。半神話生物体とも言える存在である。
自らが「ショゴス」群のものである認識があり、自らが同族の願いの為に生まれた存在であることを理解している。
同族の類を見ただけで発狂することはない。(SAN減少値が最大5)
また、ショゴスとはいえ人体であるため、ステータスはモンスターとしての能力値ではなく探索者(人)としてのものに順ずる。
年齢も特に指定はないが、少なくとも1900年代の生まれと言える方が都合がいいだろう。
国籍に限りはなく、身体的特徴も各々が設定した形に作った、生まれたとして解釈し、
あまりに(KPの都合など多数のことにおいて)ひどいものとされなければ、自由にしてよい。
人間として生活をしている前提なので、職業なども決めて職業技能を割り振ってもよいし、恋人や既婚者がいても当然だろう。
子供が生まれているかもしれない。また、今回参加するPCキャラ同士が同時期に生まれた「きょうだい」であってもいいし、
「双子」などとされる存在でもよい。時期がばらばらな「親戚」であってもいい。
中身がショゴスか、ロードかはどちらでもよいが、INTやPOWが高ければ恐らくロードとしての素質がある者だろう。
名前に関しては、苗字、ファミリーネームとして日本人としてなら「羽角(はずみ)」、英語圏なら「Clay(クレイ)」、
仏語圏なら「Argile(アルジル)」、独語圏なら「Lehm(レーム)」、西語圏なら「Arcilla(アルシーリャ)」、
中華圏なら「汪(ワン/おう)」といったものを採用すべき(そうであった方が都合がいい程度)である。
これらに共通することは、「粘土」だとか「水溜まり」というようなものを意味する程度のものだ。
注意として、この者の中身は決して「原ショゴス」ではないことがあげられる。
また、これは必須ではないが個別ナンバーをNo-4-「5b〜25b」の間で自由に設定してもよい。
・計画においての目的
マザーコード計画は、座標不明の深海底に建設され、太古の戦の末に放棄された古のものまたはミ=ゴのものであったと考えられる
研究施設や都市のいくつかに入植したショゴスの群れによって考案されたものである。
元々ロード体は人間を模倣できたが、かなりの精神力を必要とし外的ショックであっさりと元来の姿をさらけ出すという欠点がある。
それを解消するのが計画の第一の目的である。基本ロードと言われる個体は群れることはなく、それぞれに生きるとされるが、
「人間を完璧に模倣する」という目的のもと一定数がこの計画に参加している。ある程度の研究が進み、
人間の形を維持できるようになったのがコード-2以降で、PCたち-4体ともなるともはや人間と区別がつかないものとなった。
これにより第二の目的が設定される。コード-4以降から、「人間として陸上に適応し、他の同族群を支援する」
という目的を与えられることになった。近現代史において人類は圧倒的な破壊兵器を生産し、
爆発的な増加によってほとんどの土地に蔓延る存在だ。それに馴染み、理解し、浸透するスパイのような役回りと言える。
終わりがない仕事であり、貴方の生の目的に終着点はない。
コード-4群生体は貴方以外にも存在し、この世界に現存しているのは十体〜二十ほどである。
5群生体も二十前後であるが、-6群生体は現在「二十六体」が存在していることを知っている。
・マザーコード-4
このシナリオで作られる探索者たちの「母」となったもの。現在では機能停止、生命活動停止、というべきか。
人間でいうところの鬼籍のひとである。その遺体なるものがどこに流されたか、子供たちの知る由のないことだ。
母に愛着があるかどうかを問うのは愚かといえる。本来道具として造られた命であれば、個の特別性などない。
でも、もしかすれば、あるいは。
前記シナリオでは何も知らない状態でシナリオが開始されたが、今回は探索者の中身が「人外的」で、
あくまで人間を「真似て」生活していることをポイントとしてPLに伝えたほうがよい。もしも「人間的」であるRPを挟みたいのなら、
模倣が上手く、多くの人間と触れ合う生き方を選択している者といえるだろう。
また、人間と触れ合うということへのリスクを排除できると言える存在であった方が自由なRPができる。
計画への理解度はそれぞれあってよいが、自分たちが「そう生まれた」という点は共通認識としてあるべきだ。
また、もしも人体としてあり得る範囲の、生命活動が危険な状態になった際
(即死レベルのダメージ、窒息によるダメージ、出血多量によるダメージなど)に、一度だけぐらいなら耐えきることが(死を回避)できる。
死を回避したとて、ダメージが継続状態にあればまたすぐに生命活動は終了し、意識は途切れるだろう。
起死回生は、人の身に起こる奇跡ではなく、種としての能力の本能的発露と見るべきだ。
<動物の目のまぶたの開閉運動>
瞬きをした。いつの間にやら、意識を休止させていたらしい。狭い視界に捉えられた色が正しいとするのなら、灰色。
すすけている、古ぼけた、コンクリートだろうか。重力に従って床に転がっている四肢を動かして、
背中の筋肉と腹の筋肉を援け、半身を持ち上げた。特別な不具合はないだろうが、なんとなく全身が気だるい。
同じようにして、何処か機械的に起き上がって来た面々を見て、なにを思うだろうか。いや、特に何も思わないのが自らの普通なのだろう。
だが。
また、まぶたが開閉した。
人間の瞳の構造において、ソレを見抜けるわけがなかったが、それは臭いというべきか、第六感と言われる外としての力か。
どう表現しようがどうでもよい。ただ、目の前の人間の形をした何かは、少なくとも「同類」であることはわかった。
こういうとき、向かい合う相手がどういう立場かを確認するための言葉が取り決められていた。
真似る心理は不思議なもので、口を重たくさせるが、やがて誰か一体が口にするだろう。
『何番目』か、と。
それは「計画」で生まれたものか、否か。そうであれば、何番目の素体から出でたものか。
互いに同じ意味を持つ言葉を名前に据えている同士の確認のために用意された合言葉だ。
問いかけられれば、貴方はこう答える。そう答える。それが当然で、悩む理由もない。
こう問いかけてきているだけで、凡そ同類なのだ―――。
『マザーコード-4』
もしもここにいたのが人間だったなら。ヒトだったなら。
重なる答えに笑うものもいただろう、困惑するものもいただろう、苦笑いを浮かべるか、頭を抱えたろう。
だが生憎と、今ここにいるのはヒトではなく、人の形をした何かだ。
それを確認した貴方たちは人間としての名を互いに伝えるなり、年長らしきものからナンバリングをするもよし、
誰が誰と分かればそれでよしという程度の個の認識を済ませ、事の解決に臨む。
周囲はところどころに亀裂が走り、傷んだコンクリートブロックで構成された室内のようである。
窓があるが、開閉機能はないようで汚れた硝子越しではあるが、外の様子を教えてくれる。
少なくとも記憶にあるような場所ではない。見えるのは人の手が加わっていないのだろう鬱蒼とした森を見下ろす構図。
高台にある建物の中であると理解してよい。森より先に目を向ければきらきらと煌めく青いものが見える。
まだ巨大な湖か海かは判別がつかないが、それ自体はたいして重要ではない。
ただ、寝転がっていた一室には何かしら書類のようなものがいくつか無造作に散らばっている。
・書類
数枚の紙切れとはいえ、物によってはとんでもないものだというのに。
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マザーコード計画
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そんな題を記された書類群は、貴方たちの興味を引くのに十分であったし、危機感や自らの命題を失うような恐怖を覚えるかもしれない。(0/1)
いくつかの写真が付属されている。その写真の中に納まっているのは計画の要とされたショゴス・ロードの中の誰かだろう。
態々そのように形態を取らずともよいのに、マザーは美しい女性の形を描き、記録用媒体に視線を投げかけ、微笑む仕草を見せている。
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マザーコード計画 母体-6についての報告書
他母体より戦闘能力に欠け、頭脳面で勝る。また、他個体群よりも、「こども」へ向ける感情量が多い。
マザーコードとこどもらが接触することはまずないだろうが、下手に刺激することもない。
こどもらへの無用な手出しは控えることを徹底すべし。
また、反乱防止の一環としてこどもらの様子を定期報告としてマザーコードへ上げることを推奨する。
上層管理代表 No-210a
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自分たちより二つあとの母体での計画進行記録のようであった。それ自体は謎でもなんでもない。
今も何処かの底で同胞が生まれ、陸に上がってきているというだけなのだから。
Noというのは自分たちに割り振られた人間でいう「名前」に近いもので、貴方たちも勿論持っている。
ただ、マザーコードから生まれたものは割り振りも変わって、マザーコードのナンバーとともに数字が振られる。
例えば、No-4-24bというコードならば、「-4(マザー)」「-24b(個体ナンバー)」というように。
また、ここで振られる「a」「b」の違いは、「a」が計画を回すための研究や、内部管理の為に海底に残ったもので、
「b」は探索者のように外での情報収集の円滑化といったことに従事するもの、ということだ。
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マザーコード計画-6 No-6-1、-6-2、-6-3らについて
人型がほぼ固着し、動きや思考能力も人間のそれといっていい。-5体群よりも本質を理解するのに時間がかかるようで、
成人を迎えようとしているが、未だに自らが何なのかわかっていないようである。
二十三歳となるまでは経過観察を続けるが、本質発露に至らない場合は我々からアプローチをかける必要もある。
また、本質発露に至らないわけは不明ではあるが、三体はそれぞれ「趣味」「愛好」「嫌悪」「取捨選択」といったものに
関してそれぞれ別の回答をする。これを恐らく「個性」と称する。
この「個性」に関しての情報をNo-b諸群に要求する。
また、その「個性」と仮称するものに対しマザーコード-6はどのような反応を見せているかを纏められたし。
下層管理代表 No-341a
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ああ、そういえば、やたら「個性」について情報を集めろと言われた時期もあったと懐古できる個体もいるかもしれない。
懐古できる個体のNoは恐らくかなり前半の数字だろう。
ただ、これらの書類が示すのは、此処が関係施設であったか、もしくはそれらを探る人間が使っていた場所かの二択である。
どちらにしても希望的観測ではない。前者であれば壊滅状態に陥っているし、後者であれば人間に「我々」が知られている可能性があるからだ。
奇跡的に書類は読める状態かつ、記録としては冒頭のものを手に出来たことを僥倖とするか、偶然ではない何かの存在を思うかはそれぞれだ。
窓が一つだけの白けた部屋に留まる理由はない。
<脚を持つ動物が行う、足による移動のうち、比較的低速のもの>
白けた部屋から出たければ一つの扉を開くだけだった。
その先に何があるのかは知れないが、少なくとも全員が一瞬で蒸発することなどはないだろう。
むしろ「我々」が瞬間に蒸発するなどというのもおかしな話だ。
決してこの身は堅牢なきものといえど、根源を為す魂は脆くはない。何が起こったのかという理解が及ぶ程度の時間は生き残れるだろう。
扉は何の特徴もなく、気配も音もなく、ただ開けられるために鎮座している。少し軋む蝶番が憎たらしいと言えばいいのか、
いや、違った、面倒、いやこれも違う。とげとげしい?……もういいだろう。
目の前には同じコンクリートブロックでくみ上げられた空間らしき、細長の場。
複数の扉が連なるっているさまからすれば、廊下というべき場所だろう。
振り返れば自分たちが出てきた場所は当然のことながら、突き当りに存在する。部屋の名前を記すものはなく、ただ並んでいる。
もしかすればかつてあったのかもしれないが、今に残ってはいなかった。
廊下は真っ直ぐで、遠くに曲がり角か何か、影がある。進む方向は一つしかなかったが、手前から見て左から右へ扉が順々と並んでいる。
正確な数は廊下を通り抜けて確認するしか把握する術はないだろう。
ひたすらに、何かを飲み込むぐらいに静かだ。そして、飾り気がない。こういうときどういう表現をするのが「らしい」のか。
求められた「個性」に順じるなら、「怖い」とか「不気味」とか、「無」とか「冷たい」とか。言葉を探すだけならいくらでもできる。
だけど、それらにはっきりとした芯を持ち、血を通わせ熱を持たせて、自分の心とする力を、貴方たちはまだ持っていないようであった。(0/1)
扉を順に開けていく探索者であれば余計な世話であるが、もしも皆自身の本源がショゴスということを理由に
個人行動の一環として扉を開けていく際には発生する描写に注意すること。
シナリオ上では探索者に一番近い左手の扉から一番、向かい側の右手が二番と数える。
廊下を調べるものもいるだろう。窓の類はないが、足元あたりには一定間隔で細い棒のような隙間が空いている。
硝子のような破片が散らばっているさまも確認でき、恐らくはライトが一定にはめ込まれていたのだと理解する。
隙間を覗き込んだりするなら、接続のための金属部分も確認できるだろう。
扉の横にははめ込まれたプレートのようなものがあるが、劣化で読むことができない。
だがその形状は見覚えがあるような気がするのだ。「研究所」のようだと。
また、扉はアナログ式な鍵ではなく、指紋認証らしき機器が接続されているらしく、ノブの上に黒い液晶が取りつけられている。
ノブを捻れば分かることだが、その液晶は鍵の役割を正常に果たしていない。扉は問題なく解錠する。少しばかり立て付けが悪い感覚はあった。
だが、試してみる者もいるだろう。指先を押し付ける。冷たい画面からピッ、という存在を認識された音を聞いて意識が持ち上がる。
鈍く光る赤いラインが下から上へ流れて行って、指紋を読み取るさまを見る。
自分の指紋がどういったものかまでは、貴方は知らないだろうが、それでも液晶は然りと認証し、
解錠を扉に促し、指紋の主に向かって解錠した旨を電子的な音声で告げるだろう。(0/1)
<片目では鼻側および上側で約60度、下側に約70度、耳側に約90〜100度>
〇一番目の扉
左側の一番近い扉だ。以降の扉は全て共通してプレートらしきもの(劣化により読解不可)、指紋認証システム(機能としては)が備え付けられている。
聞き耳を立てても音はしない。開けば思ったより大きな部屋が目の前に広がるだろう。四方形で形自体には違和感はない。
窓は扉の正面に一つだけあって光を部屋の中へ大きく採り入れる。あたりにガラスや劣化して剥がれ落ちたのだろう壁材の一部が転がる。
何かの操作の為か、デスクトップパソコンが一台佇んでおり、
そこに接続されたコードを辿ると小さな試験管のようなものが並べられた箱、棚というべきものがある。
今は稼働していないのは明白で、試験管を並べた保管庫のようなものは表面を覆うガラスが割れ、中身が剝きだしの状態だ。
PCは電気が来ていないのか故障か、電源がつかない。いくつか事務用のデスクが置かれ、資料の陳列棚らしきものもある。
日差しに照らされた部屋で砕けた硝子がきらきらと煌めくなか、目につくといえば床の状態だろうか。
床に<目星>:硝子や壁材の下敷きとなっているが、何かの跡が残っている。
何か重たいものを引き摺ったかのような擦れたような形だ。
注意すべくは下敷きになっていたせいか、それがどことなく湿った感触のあるものだということだ。
デスク付近<目星>、<図書館>など:崩れたプラスチック製のファイルの中から零れたいくつかの書類を探り当てる。
試験管に<目星>:試験管は濁っていたり、割れていたりと役割を果たせていない。
なんとかまだ無事な方の残ったいくつかのものを見る限り、液体が入っている。臭いはしないが、粘度がある。
試験管の中のものに<化学>など:人間としての知識でも粘度の高い液体というだけではなんとも判断しかねる。
水ではなく、デンプン質の何かとか、そういった類のものだろうか。
試験管のものに<アイデア/3>:何となく、「自分」に似ているような、そんな気がする。(0/1)
・零れた書類
報告書やそれに付随する図を含むものだ。
ただ、目に見えた数字は少し、在りもしないはずの心を逆撫でるような心地だ。
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マザーコード計画-4 No-4-3、No-4-4の蒸発事故報告
運動場システムの外部的操作による突発的で急激な気温・湿度上昇による過度な負担によって、
人間でいう「意識喪失」「気絶」の類の状態に上記Noが陥る。
通常体による救出作業時に、通常体に被害はなく、「人間」の側のダメージが原因であると思われ、
皮膚が一部融解、出血・組織液の流失が見られたが運動場から救出されたのちに自己修復、要三秒程度。
この修復能力は我々のものであり、人間のもつ自己修復能力では不可能と算出。
奇しくもNo-4群体は「人でない」という結果を知らしめる事故であった。
事故原因:外部操作端末を所持していたNo-327aによる不注意の誤作動
処理:該当Noの降級、権限剥奪
対策:運動場担当Noによる再現数値の上限設定、特殊ロック設置
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自分の生まれる前の話である。それにどうと言えど、「そんなことがあったのか」と何かことりと落ちる感触が胸を撫でる。
今までも幾度か感じたことのあるそれを何と言うのだったか。
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簡易報告書 No-4-1による運動場システムへのハッキング行為、被害
状況と現場、映像記録などよりNo-4-1が、きょうだい体の不慮の事故の原因追及の為、自己判断で行動したと思われる。
経路不明の電子機器系統知識により、内部システムへの侵入、操作痕をNo-4-1の私物ラックトップより確認した。
痕跡自体は稚拙だが、No-4-1の「自己決定」、「必要知識の収集」といった自発的能力があまりにも他個体より高い。
痕跡解析が完了し、対策セキュリティの構築を進行中。
また、強制アクセスのためかシステムの誤作動が発露。上限値を開放し、「極地」を再現。何故そのような仕様にした。
仕様を担当した者の処遇は上層群に委任す。極地再現により、計測時-50℃を記録。
通常体であっても動作に支障を生じ、移動がままならない。
人皮の状態で防護服、防寒服を被せた状態で最低ランクの行動が可能であった。確認作業中、No-4-2をプール内部で発見。
半身が水に浸かっていた状態で極地となったのか、凍った水に半ば埋もれるようであった。本体も凍り付き、化石に似た状態であった。
外部へ速やかに搬送されたものの、修復能力すらも死に絶えていた。表面を覆う氷にいくらかの源液の流出が見られたが、
人型を保ち続けていたことに関してはこれからの計画の発展において重要であると言える。冷凍保存を続け、研究対象にどうか。
また、この件の責任についてはNo-4-1体が負うべきと考えられるが、
ひとまずプライベートルーム内に緊急ロックを五重ほどにして施錠し、見張りを置くという処理を行った。
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我々に死という概念が、こんな形で降り注ぐものだったのか。いずれ行動不能に陥り、
活動停止となったとしてもそれに「時間」のような概念はあまりにも狭いものと思い込んでいた。
そうではないのだ。
これは、何だろうか。予感、と言えばいいのか。
我々すら、一瞬で死に絶えるものがこの世界にはあるのだ。(1/1d4)
〇二番目の扉
こちらも形は大体一番目と同じようなさまだったが、不思議な部屋でもある。
沢山の鉢植え、プランターが並び、罅割れた窓からだろうか、風に揺らぐ双葉が見える。
水をやるための如雨露と、蛇口。園芸用の腐葉土の袋が端に置かれている。それは、あまりにも誰かの気配を帯びている。(0/1)
鉢、プランターを全て確認したとしてもほとんどがまだ芽が出て数日幾ばくか、程度ではっきりと植物の種類を定めるのは難しい。
ただ無秩序ではなく意図的に並べたのだろう、性格が伺えるような並びと、芽の間隔と。
自然に入り込んだわけではなく、誰かが丁寧に土を敷き、種を植えたのだ。ここには、誰かがいる。
植物を育てるという感性を持つ生物体がだ。
鉢、プランター内の土に触れるなど、何かしらのことを試みた場合:普通の土に混じって、何かぐにゅりとしたものが覗いているのを見つける。
それが何かは検討がつかない。
〇三番目の扉
薄暗い。光を入れる為の唯一の窓が何かに塞がれている。いや、その様を見て目は勝手に世界を縮尺し見る。
巨大な水槽が設置されている。光を遮るのは水と巨大な硝子だ。その中に本来収まるべき生物はいない。
そもそも何かを飼うような内装を怠っている。隠れ家となる石や草の影すらないただの水の中。
濁りの方が彩り強い水の中にぷかりと浮かぶものが、何なのか。
泥か?脂か?いや、違う。でも、何故―――。
それに瞳はない。口はない。呼吸もなく、鼓動もない。ただの塊となったものだ。
確かに、下手にこの大地に足をつけるよりかは、水の中の方が穏やかだった頃もあったろう―――我々という生物は。
水槽に揺蕩う黒々とした塊に、生が宿っていないことがせめての救いと言えるのか、それでも、十分すぎた。
同族に似た、小さな塊がふわふわと何処から来るものかわからない水の動きに弄ばれ、
壁にぶつかってぴしゃり、という僅かな音を残して水を汚し、ただ、浮かぶ。(0/1d3)
余りに衝撃的な情報に一瞬の混濁を覚えたが、部屋を見渡せる余裕のあるものはいるだろう。
開いた扉の影に滑り込んでいる、果てた書類たちを拾い上げる手が震えているかどうか、定かではない。
・果てた書類
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No-4-2
急激な気温変化によるショックダメージによる生命活動停止と判断。
凍った水面との摩擦で擦傷、裂傷が見られるもこれらは軽傷の部類。
また傷口からは通常の血液ほか、「泥」も流出していた。
人のDNAから造られたはずの身体に、我々の「泥」が流れているのか疑問が残る。
No-4-2 解剖記録
結論として体内に「泥」は発見されず、血管内を流れるものは人間の血液である。
残留量などから考えるに、頭部機能停止後に心臓停止が発生したと思われる。
我々に本来頭部と言えるものはないが、頭部による電気信号がなければやがて身体は停止し、人間でいうところの「死」となるようだ。
意識が先に無くなる、ということである。対し身体自体は生存の為に活動を行うも、
最適解を受信できない以上、残った運動、栄養、あらゆるエネルギーを使い果たせば終わるものである。
そのエネルギーが残っている間は臓腑は生きているもので、時間経過によって劣化するものの、
確かに適切な処置があれば「移植」といった判断ができるのもうなずける。
仕組みが人間に近づいているという証明はできたが、「泥」が何処から発生したものか、判断しかねる。
補遺
もしかすれば、こどもらは「人間」の意識の層を持ち、上層の意識帯が死んでも無意識層は生存しており、
安全を求め、最適解を為そうとしていたのではないか。
結果として、出自の分からない泥となって流失し、「皮」を棄てることで生きながらえることを考えたとすれば、
No-4-1の行動原理なども含め、システムとしては理解できる。
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〇四番目の扉
もはや扉を開けることそのものが作業となり果てる。
どういう事情か、この研究所は我々のことについて詳しい。関連施設なのは間違いない。
では、どうしてここまで荒れているのかが問題となってくる。
重いと表現できる心持で、開いた扉の先にはまたおかしな風景があった。
先ほど見たはずの光景だ。鉢、プランターが整然と並び、脇に如雨露と水道、土があり。
変化らしい変化といえば、芽が出たばかりの幼いそれではなく、どうにか背を伸ばしたものになっていることだ。
<博物学>、<化学>、<地質学>など:キク科コウオウソウ属の草花の特徴があるように思える。
二番目の扉に戻っても、双葉が覗く世界がある。ここに戻ってきても当然のように背が伸びた茎がお目見えする。
もしも同時に観測する手法を取った場合のみ、変化がある。
二手に分かれ、同時に部屋を見るだなんて、何かおかしくなったのかもしれない。だが、その行動は幸か不幸か、新たな情報を産んだ。
双葉は背伸びをして一生懸命に僅かに差し込む光を食む。伸びた茎は、喉を潤す術を無くしたそれのように枯れて、
自らの身体の重みで腰を曲げてしまっている。(1/1d3)
同時に見るのをやめれば、また光景はそれぞれのものに戻るが、一度それを見てしまったら、この空間の「時間」すら信じられなくなるだろう。
鉢、プランター内の土に触れるなど、何かしらのことを試みた場合:普通の土に混じって、何かぐにゅりとしたものが覗いているのを見つける。
三番目の水槽を見た、書類を全て確認しているといった状態であれば、
そのぐにゅりとしたものが、「泥」であると分かるだろう。それが、誰から流れたものかまではわからずとも。
<人間が持つ知的作用を総称する言葉、狭義では概念・判断・推理を行うことを指す>
四つの扉だけで、誰かがここにはいて、誰かが「泥」を囲い、草花を育てているということまではわかるだろう。
「泥」が利用されている状況まで気づいたのなら、泥の持ち主の同族である自分が此処にいる因果はわからずとも、
適当な行動を取る必要を思うだろう。
五番目までくれば廊下の真ん中あたりか、さすがに奥の限界点が見えてくる。
同じような指紋認証システムがついた扉だ。かつて暮らしていた、あの場所を思い出すような、扉が一番奥にある。
途中影になっていたところ、左右に横道が存在していることにも目が行くが、どちらとも天井や壁が崩れて塞いでしまっていた。
どうであれ、幼少期と表現される時代を過ごしていた場所に似ている。それは嫌な予感ばかりを与えてくる。
〇五番目の扉
ようやく有用な場所に出れたようだ。資料棚の並びとその中身の充実に一瞬の安心感すらあった。
<目星>:ファイルにまとめられたカルテらしきものを棚から引き出す。
<図書館>:書類棚には似合わない文庫本に手が伸びた。
・カルテ
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No-4-3
事故以降、思考能力、知力の低下が見られたため長期的に観察と状態に応じ処置を行う。
頭部スキャン検査で、脳へのダメージが広範囲にみられた。
事故より三か月後、生命活動停止を確認
身体ダメージは回復できたが、内臓ダメージは回復できなかった模様。解剖へ回す。
解剖記録
スキャン画像内で確認された被ダメージ部位が、「泥」に覆われていた。
予測としては欠損を補うものか、回復のための処置のどちらかであるが、どちらとも確証にいたる材料はない。
No-4-4
No-4-3のこともあって、健康診断が定期的に行われたが経過良好である。だがあまりにも危険分子に近く、「a」群に振り分けられることが決定した。
No-4-4の自己診断とその報告により、人間体への信号途絶による行動能力の低下が発生したことがわかった。
その原因は恐らくは事故のダメージだろうが、スキャン画像や他診断でそれらしいダメージが発見されることはなかった。
これをどう、我々の中で解釈すればよいのかは定かではないものの、これが心的ダメージによるものであったとすれば、
こどもは「心」を獲得したものと断定される。
「心」に関して、「b」群に通告して集めた情報をもとに実験を行う。
かつての事故を、あくまでダメージのない程度に再現し、その反応を記録する。
担当Noにおいて医療班、警備班の使用を申請、実験の申告。これを上層受理。
運動場に-4を配置。座標を指定、移動を不可とする。その後上限を開放、気温をゆるやかに上げていく。
特に変化はなかったものの、35℃を記録したあたりから-4体があたりを見渡す素振りをし始める。
発汗量の増加を確認。手で仰ぐなどの行動が見られる。
40℃を超えたあたりから見回す動作が激しくなる。困惑、恐怖を示す単語の発声。
DNA情報から推察されていた「国籍」に順じて、母国語、通用語、世界共通語、と発声は多岐にわたる。声量は大きくなる。
42℃でその場に座り込む、意識混濁が見られた。
43℃。言語ではない、絶叫を発し、意識途絶。実験終了、以降を医療班に委託。
実験被害報告
以前の被害ほどではないが、皮膚へのダメージを確認。意識が回復して数時間は恐慌状態にあり、会話、対話不能。
身体ダメージは回復の兆候を見せたが、以前の事故によるダメージと思われる行動力低下は治癒せず。
- 4に実験の記憶を確認するも意識混濁、記憶喪失、といった状態である。
その行動直後に理由を問うも、明確な回答はなし。正確に言うなら「回答できない」。
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(1/1d4)
・文庫本
文庫本とは表現するも、中身は短い楽譜とアルファベット群も混じっている。
使い古したもので、読解が不明なページの方が多い。
全文をしっかり読めたうえで、楽譜も読解できるものとなるとこの一つきりだ。
他のページより汚さないようにか、ページの端は折られて付箋代わりとなっているものの、日焼け以外の劣化が見られない。
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Ave, Maris stella
Déi mater alma
Atque semper Virgo
Félix caeli porta
Sumens illud Ave
Gabriélis ore
Funda nos in pace
Mutans Evae nomen
Solve vincla reis
Profer lumen caecis
Mala nostra pelle
Bona cuncta posce
Monstra te esse matrem
Sumat per te preces
Qui pro nobis natus
tulit esse tuus
Virgo singularis
Inter omnes mitis
Nos culpis solutos
Mites fac et castos
Vitam praesta puram
Iter para tutum
Ut videntes Jesum
Semper collaetemur
Sit laus Deo Patri
Summo Christo decus
Spiritui sancto
Tribus honor unus
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<ラテン語>を所持していれば全文を意味も含めて理解できる。「アヴェ・マリス・ステラ(めでたし、海の星)」という題目の四行七連詩であるようだ。
恐らく、生まれてこの方アルファベットの並びを見たことがないというものはいないだろう。
さすがに最初の行はなんとなくでも発声できるだろう。「アヴェ マリス ステラ」と。
マリス・ステラという言葉に<天文学>があれば、聞き馴染みがあってもよい。
航海を守護する星なら、それはつまり方角を示す導き星なのだから。
〇六番目の扉
まるでそう決めているかのようだ。偶数番に気が付いたかはそれぞれだろうが、
この扉の向こうにも鉢とプランターがそれぞれ列をなし、行儀よく居座る。
その土から出ているのは鮮やかな橙に染まる空を写し取ったもの、目に染みる黄色い果実を思わせる弾ける色とが八方に広がる形。
穏やかな風景にも見えたんだ、他の部屋の様がなければ。
<知識>や<生物学>、<博物学>など:園芸で親しまれ、教育機関などでもよく利用されているマリーゴールドであるとわかる。
<目星>:影に巧妙に隠されていたが壁の一部が崩れ、穴が開いている。一人ずつなら通れそうなほどだ。穴を通して見えるのは陰鬱な森の影と湿った臭い。
穴から脱出を考える者もいるだろう。構わない。だが、座標もなく地図もなく、方角を示すものもなければ彷徨うことになるのは必須だ。
人間の身体ではあまりにも厳しい生存率を少しでも上げてから、せめて穴をくぐるべきだろう。
探索の為に出るというのもありだろう。ただ、広がるのは獣のいない森と、きらきらと自ら輝いているような内海と、
黒い空だけだが。時間をかけ、半径5kmほどの世界の端に触れさせてもいい。よくわからない物質が壁を作り、外と此処とを分けている。
壁の向こうは暗く、時折通りすがる魚の形の異質さ、大きさが「深海」であることをなんとなく教えてくれる。
また、この部屋も他の偶数番部屋と同時に観測した際にのみ変化がある。
花は咲いている。だが、色だけが抜け落ちたかのように鮮やかさは枯れ、茶色がただそこに伸びているさまだ。
四番目は相変わらず、水を求めて手を伸ばす枯れ木のようなそれで、二番目の幼い芽だけが鮮やかに輝く。
〇七番目の扉
しん、と冷える。まるでこの部屋自体が冷蔵の為のそれであるかと言わんばかりに。扉のすぐ横に温度計が設置されている。
室温は一桁台に調整されているらしく、十より下を維持し続けている。
ただ、そんな大層なものを使っているわりには、雑な扱いをしていると印象を受けるほかない。
何もない床にただ、人の形をしたものが二つ、寝転がされているのだ。
その顔に覚えはないが、非常に整っている、いや、我々としてはこういうべきだろう。「低コスト」な顔つきだと。
服を着ていないかわりに質素な布が体にはかけられている。雑に置いているにしては、これに丁寧にしようという心持ちが見え隠れしているようで、異質だ。(0/1)
人型に<目星>:ところどころ皮膚が爛れたようになって、黒々としたものが流れている。
それがこの室温で固着しているらしく、床から剥がし取るほど強い力をかけなければ体は動かせそうにない。
<医学>、<生物学>など:形は確かに人で、心拍がないあたり死んでいる、と言えるだろう。
傷口から流れて固着したそれが我々の側であると示している。
〇八番目の扉
偶数だ、以前の扉の向こうを思えば、自然とプランターの列を思うだろう。だが、意外にも訪れた光景は違った。
部屋というにはほぼ倒壊している。近くで芽生えた木が壁を天井を貫いているのだ。
貫かれた場所からほろりと零れるコンクリートのかけらが、日差しにきらきらと浮かぶ。
その下に、ぽつんと、半ば土に還った床に、きっとちょうどこの木の枝を集めて縛ったのだろう、粗雑なつくりの十字架が刺さっている。
交差部分に引っ掛けられている花輪を思うに、「墓」なのだろう。花輪は新鮮でまだ萎びる気配がない。つい最近かけた、いや、かけ直したというべきか。
近づけば、誰かの爪先にこつんと当たる感覚があるだろう。その感覚を元に土を払ってみれば、石のプレートが姿を現す。
文字を覚えたばかりの子供のような、ひ弱な線を持って削り取られ、刻まれた名前、いや正しく名前と言えるだろうか。
自分たちも例外ではないのに、正しい名前ではないと思ってしまう。
『No-4-2』
我々に「死」という事実など、……。
まだ土を被っているプレートに手を伸ばすかはまた、別の行動とカウントするべきだろう。
全てを確認するべくプレートの端から端まで指を走らせたなら、ナンバリングの下にもまだ何か刻まれていることに気が付いていい。
『ミリカ』
〇九番目の扉
執務室のような様をしている。部屋らしくカーペットが敷かれているが、劣化で穴が開いてしまっていたり、解れている箇所が見られる。
デスクの他に棚が設置されているが、そこまで物は多くない。
デスクを確認すれば、叩きつけられたかのように散らばる書類を拾い上げられるだろう。
棚の数少ない物品を漁れば自由帳のような冊子が手元に落ちる。
・叩きつけられた書類
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No-4-1についての追加報告
事件以降、二週間ほどは大人しくしていたが、突然に行動を開始。セキュリティをアンロックし始める。
中層管理でロックを増やして今のところは対処できているものの、対抗は終わる気配がない。
また、確認したところセキュリティ突破の他に、各情報システムに接続した形跡があり、
恐らく-4-3、-4らについての報告書や、-2の解剖記録などを閲覧したと思われる。
映像を確認。
何処に隠していたのか、機器を大量に所持している。それらを人間の手で複数を同時に操作している。
セキュリティがまた解除された。今のところは他の情報系統への接続である程度の力の分散があるものの、
情報が終われば最終的に力が注がれるのは扉のロックセキュリティだ。対処を求む。
No-4-1の処遇決定
強制活動停止。能力は有用であるため完全停止はさせず、仮死状態を保つ。
部屋の一つを潰して保存庫とした。
計画は続行。
No-4-1、完全活動停止の-2、-3、自己疑似活動停止の-4、これらを欠番とし、以降は-5からナンバリングを施す。
マザーへこれは報告されない。また、報告をしない。
以上
マザーコード計画総管理 No-578a
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(1/1d3)
・自由帳
手書きがいっそ珍しくもある。
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アイリスは起きない。サビアも起きない。ミリカ、ミリカはぼくが殺してしまったんだった。
状況、不明。
No-4-1「ステラ」。承認。理解。意識、固定。
接続するべきシステム機構が存在しない。確認が不能、指紋システムは稼働している、何故
確認。
下層部は不明。中層部、土砂により完全に封鎖。残るはこの上層のみ。大した機構はない。システムも、情報も。
探索にて身体の一部欠損。痛覚は機能せず。修復能力もどうやら喪失。
血が、気が付けば泥になって、代わりに埋めた。不自由はない。
通信機器を発見。……機能せず。
書類はいらない。知っている。知っている。でも、どうしてアイリスは活動を再開しない?
自己停止なら、復帰も可能。違う?
アイリス、は、熱いのが嫌、嗚呼、理解及ぶ。ならあそこは、良い。
サビアは、無理だろうか。
マザーコードはどうした
此処にいないのはおかしい、そもそも、此処は研究所か?
周囲散策。森。半径5km。島?……防壁らしきものがある。違う。
……壁の向こうが薄ら見える。水、たくさんの水。水の中。魚の影。水中。
まだ行っていない部屋がある。
空。なにかいる。マザーコード?きっと、そう。
どうにかしなきゃ、どうにか、しないと。幸い、ここにシステムがある。どうにか、なにか
再生措置、措置。システムセキュリティ、もういらない。壊して
せめて起きて
起きて
感情
くるしいおきない
防壁の向こうの、何かきらきらしているものに、願う
なにか、おもいだした。なに?
あう゛ぇ、すて、r、まりす、
……なまえ?
マザーコードの名前って、なんだ
システムをひっくり返して、
「マリア」―――。
名前を呼んでみた
アイリスはこれでも起きなかったけど
今日も呼んでみた
システムは稼働中、問題なし
問題、なし……
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(0/1d3)
〇十番目の扉
かつて確かに機能していたのだろう、電子的な板、デスクトップやラックトップが散らかり放題になっている。
どれもバッテリー切れか何かでただの箱。ただ、何かが此処で過ごしているのだろう、薄汚れた毛布やソファに皺がついている。
控えめなデスクに樹の枝を削って作ったのだろう、切っ先の鋭いペンのようなものが置かれ、紙を抑えている。
インクは見当たらないが、近くにナイフがあるところを見ると、そういうことなんだろう。
ぼたりと跡を残す黒い液体を手作りのペンでひっぱり上げ、紙に記すのはどうしてだろう。行動が不可解だとも。
ただ、一人きりになると案外、そんな風になってしまうのかもしれない。
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ぼく、アイリス、サビア、ミリカ。
ステラ。アイリス。サビア、ミリカ。
……なんだかぼくだけ仲間外れ
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<知識/3>、<アイデア/3>、<他言語>、<生物学>、<博物学>などで、ステラ以外の名は花の名前であると理解してよい。
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ステラ、すてら、でも、マリス・ステラ、マザーコードと一緒
ぼくだけ?か、そう
今日も、アイリスも、サビアも、ミリカもマザーコードも反応がなくて
何の部屋かわからないところにあった、袋の中の種を、育てる
土がない
泥でも、いけるかな
マザーコード応答を
お願い
花が咲いてる、泥でもよかったの?……マリーゴールドだ
マリー……
なんで?
いっぱい咲いた、ミリカにあげた
ごめんねミリカ。ぼくは、お兄ちゃん、だったはず、だ
ぼくのせいで、終わってたらどうしようか
ぼくのせいで全部なくなってたらどうしようか
これから生まれるはずだった家族も?
「家族」?
ミリカに今日も、花をあげる
遠い空のマザーコードにもあげてみた。
何か落ちてきた
泥だ
ぼくらとおなじだ、おなじもの、水槽にいれてあげた
マザーコードはいきてる
じゃあ、全部終わってない
ねえ聞いてアイリス、起きて
マザーコードはまだ生きてたよ
アイリス
今日も泥が落ちてきた
ぼくは、またお兄ちゃんになれるのかな。ミリカ
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<宵の明星>
最後の扉だった。
廊下の、始まりから対面の、どこか覚えのある形のそれだ。何もわかってはいない、何も理解し得ていない。
だが、すくなくとも、この奥に「ステラ」の形跡があるべきだろう。
小さな部屋ではなかった。
もはや天井や壁を探す方が難しいほどだろう。黒々としたものが空を覆い、めきり、と何かを軋ませ、ばきりと森の一部を破壊する音が聞こえる。
黒々としたものに一定間隔で隙間があるような気がする。それが、恐らく――脚部の分かれ目か何か、と理解するまでどれくらい必要だ?
勿論こんなもの、マザーコードではない。
解るはずだ。
けれど、解っていないから彼はここに未だいるのだろう。
―――敬愛なる一番目よ。兄よ。星よ。
空を見上げて呆ける顔つきも、低コストのそれ。もしかしたら貴方たちの誰かによく似ていたかもしれない。
だが、左肩から指先までが抉れ、代わりのように溢れてべしゃべしゃと床に落ちる液体が腕の代わりのように蠢いている。
自分だって、下手すればそんなことになるだろうに。
そんな兄を、
気持ち悪いと思ってしまったら、(1d3/1d8)
黒いものに何かがきらめいている。ここに差し込んでいたのは陽の光ではなかったと悟る。それは瞳のようであった。
ただ、あまりにも遠く、遠くにあるのに星のようにひたすらに輝いて、光源に至る。
宵の明星だったら何も怖くはなかった。
「マザーコード、どうしたの」
癖のない言葉が投げかけられて、ようやっと、僅かな壁に残った機械と空とを見上げていた彼が、気が付いた。
驚いているようだった。純粋な感情が浮かんでいた。星のようにきらきらした目で、驚きを彩っていた。
可哀想なほどぼろぼろで、修復もままならない創を抱えて、それでも生きるそれは、酷く混乱しているのが見て取れた。
もしも、探索者の中に女性体がいたのなら、彼は、最愛の妹とも言えるアイリスをその探索者に重ねるだろう。
「アイリス、起きたの」
「やっと起きた、の。でも、なに、それは」
女性体がいなかったとしても、貴方たちを差して彼は困惑を口にする。
「なに」と。
貴方の弟妹ですとはとても言い出せはしない。きっと―――信じてはくれない。
落ちてきた泥を「死んでいるもの」と認識できていない、その意識の薄さでは、何も信じられはしない。すべてが否定される。
それでも貴方たちが言うべき言葉があった。
黒い存在が「マザーコード」ではない、という旨の発言をした場合のみ進行する。他の事項はステラが全て否定形で返す。
兄と呼べば、知らないというし、アイリスは死んだと言えば自己停止しているだけだと。子供の我儘のように必死になって言い返してくる。
我々の母はもっと小さな存在であったこと。それを解っている。小さな胎からこの形をもらい受け、我々は生きている。
苦しいのかもしれない。つらいのかもしれない。
けれど、この器は、決して嫌いではない。
流れるのは赤い液体で。暑さにも寒さにも弱くて。水の中は大変で、歩くことにすら力を使うこの貧弱な器。
それでも、今までを過ごした身体だ。
黒いこのソラにそれを否定されてはたまらない。泥を吐き出すだけのものを母などと呼称できるか。
ステラは泣きわめくことを覚えていたようだ。大きな滴を瞳から吐き出しながら、枯れる喉を絞る。
「Ave、Maris stella、Déi mater alm…」
ただ、その言葉は続かなかった。煩い蠅を叩き落とすような仕草だった。
ソラが、明星を抱えたものが、星の子を、"踏みつぶした"。
あまりに一瞬の出来事だ。
それでも土に散った泥と、真っ赤な液体に、確かに彼だって―――生きていたはずなのに。(1/1d6)
衝動が襲う。これを何というのか。解っていても、分かりたくない。それでも、嗚咽と涙が酷く喉を傷めつける。
もぞり、と何かくすぐったいように身を捩っているような、目の動きをした黒いソラが、何かを落とした。
泥だ。
ただ、その泥に何かが混じっている。白いものだ。誰か一人が手を伸ばすといいだろう。紙切れだ。
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マザーコード-6、研究所ともに消失
こどもら含め、全No行方不明
原因不明
音声記録、一部のみ復旧:「記録、No-210a。マザーコード-6と、そのこどもへ。誕生日おめでとう」
上級Noによる「千の貌」の召喚による全滅と判断。
計画は凍結される。
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悲しい。
哀しいんだ。何もかも。
だって、こんなことがあっていいのかって。こんな理不尽があっていいのかって。
我々は何の為に生まれて、何の為に母の胎から生まれ、人のまねをしているのか。
その意義が、がらがらと崩れ落ちていく。
ただ、そんな表の言い訳をしているけれど。
―――ぼくらのかぞくが、いなくなったのだと
<星の海、いと優しき神の御母よ>
行動をしなければならない。
兄を踏みつぶしたソラがまた蠢いている。泣き叫ぶ暇も与えてはくれないんだ。
森が気まぐれに悲鳴を上げた。コンクリートが巨大な煙を上げる。
それに混じった花弁を見て視ぬふりをしないと、蹲ってしまいそうだ。
逃げる?構える?どうする?
「……うみへ。あなから、まっす、ぐ」
か細い声が、ぼこ、ぼこりと泥に泡を生じさせていた。兄だったものが、囁いている。
「そ、う。僕らの、かあさんは、コレじゃ、ない、ね」
「まり、す、す、てら。ほしの、う……み……かあさん、……海……そっ、か」
力尽きていく声を、何処かへ手を伸ばそうとするように流れていく液体は、最期、一つ、思い出したようにつぶやいた。
「アイ、リス……サ、……あ……ミ…r」
兄の言葉を信じ、六番目の部屋にある穴を抜け、真っ直ぐ走り抜ければ最初の窓から見えた海へ辿りつくだろう。
ただ、そこまで行くまでに何分かかるだろう。その間に何度このソラは動くだろう。
一度ぐらいは<幸運>や<回避>をするぐらいだろうか。
生きて帰りたいなら、それくらいはしなければならない。
潰れ、ひしゃげ、折れて、壊れて。
煙立つ場所に、マリーゴールドの花弁が無残なほど飛び交う酷い世界で、走り抜ける。
ただ、走る。途中、墓だった十字架がへし折られて破片が飛んでいるさまを見るだろう。
それでも、少しはマシだ。
兄は、ようやっと解ったんだ。
息を切らす。
奔ることにどうして呼吸が必要なのか。もう、分からない。自然にすぎて、分離して考えることなどできはしない。
見えた海は、ソラに相反して酷く青く染まって見えて、波に揺らぐ明星が本物のそれに見えた。
涙の理由は混じってごちゃ混ぜになって、もう何のために流したものかわからない。
海に入ることに戸惑う時間はない。ソラの脚が迫る。地面が揺れる。
もうとっくに解体されてしまったその場所を振り返ったとして、見えるのは花びらの吹き荒れる土煙。
流れた血がどうなったかなんて。
知らないふりをして、星の海へ飛び込んだ。
不思議とぬるま湯につかったような、変な心地よさがあった。
切らした息も、どうしてか整い始めている。誰かが、手を―――引っ張ってくれている。
誰だろう。
誰が良い?
……祈る言葉がアレだったのだから、「マリア」なんだろう。
初めて感じる温もりが、こんな海の中だなんて誰が笑って聞いてくれるんだ。
あのひとの傍に、いたのだ。ただそれだけの事実に、涙で傷んでいた目が、意識を投げ出す。
瞬きをした。いつの間にやら、意識を休止させていたらしい。広い視界に捉えられた色が正しいとするのなら、空だ。
水に濡れて重たい体を引き摺って、掴めない砂をつかむようにして、身体を持ち上げた。
けほ、と肺が中に入った水を吐き出す。見上げた場所は、まだ見知った場所で、どうにか帰ることはできそうだ。
傍らに同族はいなかったが、きっと配置されたそれぞれの場所に戻ったのだろう。
まあ、帰る場所が本当は何処かだなんて、そんな虚しいことを―――考えるのは後にしよう。
星の海へ還るには、まだ、早い気がした。
<黄金の花>
生存かロストかの二択であり、明確な線引きは「星」の導きがあったかどうか、である。
星の導きなきものががむしゃらに穴を通り抜けても見えるべき場所は見えないのだから。
生還:1d10
海の星:1d8
導き:1d4
Myrica:+1
<解説>
マザーコード計画は、それぞれの場所、地域に根付くために五大洋にそれぞれ散らばっていた。
マザーコード-4計画機関は「アヴェ・マリス・ステラ」から察するに欧州近くの北大西洋〜地中海近くに存在していたと考えられる。
No1、全ての-4個体群の兄として生まれたかつて「ステラ」と呼ばれた個体は、
精神的に不安定であったが電子機器に関する能力が高く、将来を有望視されていた。
が、-4機関で蒸発事故が発生し、ステラの弟妹にあたる-3「サビア」、-4「アイリス」が深刻なダメージを受けた。
不慮の事故ではあったが、管理体制の杜撰さを見たステラの行動は、自らの能力を生かし、システムの穴を攻撃するというものであった。
それが警告であったのか、仕返しや敵討ちだったのかはともかく、その結果-2、妹にあたる「ミリカ」が凍死の憂き目に合う。
まだ「個性」、「感情」、「意思」、といった物質的ではないモノを扱いきれない社員たちはステラをコールドスリープすることで対処を後回しにした。
やがて-4群生体が全てそれぞれの配置につき、計画は「-6」段階に突入した。その計画はかつて-4計画機関であった研究所が担当していた。
そのため、-6群生体などに関する書類もいくつかみられる。だが、巨大神性「千の貌」の召喚により殺戮と破壊が行われ、計画は海の中へ散った。
千の貌に目をつけられたとマザーコード計画は長期限凍結、その情報すべてが海に消えたはずだった。
星の孤島は、そのかつて-4研究機関だった場所、大量殺戮と破壊が行われた巨大な研究所の一部に、
千の貌の気配に呼応して(もしくは意図的に呼ばれ)、やってきた「シュブ・ニグラス」が宿った場所。
海に漂っていた「マザーコード-4」のかけらを喰っている為、ステラは勘違いをしている。
世界は母の胎に包まれ、穏やかな環境を作ってはいるが、胎を越えてしまう(星の内海から産まれ出でる)と現実が突き刺さる。
ただ、母の胎から出る為には相応の準備がいる。母に刺激を与えて出産を促すとか、なかから水を溢れさせて自分を現実に触れされるだとか。
そういった行為に値するのが、「ステラの導きによって星の海へ飛び込むこと」だ。
恐らく、やってきた母が「マザーコード」を喰っていなければ、かつての故郷はその腹に収まっただけだろう。
喰った「コード」が-4でなければステラが目覚めることも、貴方たち-4群生体が引き込まれることもなかった。
たとえそれが手の平の上の出来事だったとして、誰がそれに気が付くというのだろうか。これはただの流れる記憶の物語だ。
星の海に消える、聖母から出でた導きの星の最期の物語。
ステラ(Stella):ラテン語 "星"
マリア(Maria):聖母マリア
マリス(Maris):ラテン語 "海の"
ステラ・マリス(Stella Maris):星の海、星の海の聖母=聖母マリア
マリアがキリスト教徒の希望の印、導きの星としての役割として強調される場合に古来より使われた。
旧約聖書のイスラエルを内地として、宗教、政治などの精神的な境線などを比喩表現として「海」としたことが由来であるとされ、
聖母マリアはその境線、「海」で生計を立てる人々の案内人、守護者として今も空より導く。
マリス・ステラ (Maris Stella):"海の星" とはこぐま座アルファ星または北極星、その他様々
地中海東岸より見た、西の海に輝く星、宵の明星つまり金星であるとする解釈もある。
陸地の見えない外洋で天体を観測することにより位置を把握する「天測航法」に基づいたもので、
聖母マリアと結びついたのはギリシア語からラテン語で意訳される際の翻訳ミスであるとする説もあるが、
この意は引き継がれ、現代でもカトリックでは一般的である。
アイリス(Iris):ラテン語学名 "菖蒲(アヤメ科)"
良い便り、嬉しい便り、吉報、愛、貴方を大切にします、私は燃えている、消息
サビア(sabia):ラテン語学名 "アオカズラ(アワブキ科)"
活力、芯の強さ、治癒、根気、努力
ミリカ(Myrica):ラテン語学名 "ヤマモモ(ヤマモモ科)"
ただ一人を愛する、一途な、教訓
マリーゴールド:キク科コウオウソウ属の草花、英名「聖母マリアの黄金の花」
悲しみ、変わらぬ愛、健康、予言
※これらはどれも諸説あり、確定情報ではないことを了承願う。
<解説2>
動物の目のまぶたの開閉運動 →瞬き
脚を持つ動物が行う、足による移動のうち、比較的低速のもの →歩行
片目では鼻側および上側で約60度、下側に約70度、耳側に約90〜100度 →人間の視野
人間が持つ知的作用を総称する言葉、狭義では概念・判断・推理を行うことを指す →思考
人間は考える葦である。―――Blaise Pascal
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