主に哀咲のTRPG(CoC)用wiki。ほぼ身内様向け。「そこのレディ、ティータイムの御供にクトゥルフ神話は如何かな」

概要

はじめましてをもう一度 -Et in Arcadia ego-

タイトル:#はじめましてをもう一度 / どい 様(@himako_d8686e)
制作:哀咲
使用に関して:改変、リプレイ等公開自由。制作者もしくはwikiのURLを明記してください。

シナリオ



<あらすじ>
死神(わたし)はアルカディアにおいても在る―――死の根源から逃れるすべを未だ人類は獲ていない。
未だ神の領域たるそれを、願ったことはないか。
あるはずだ。なくてはならない。
貴方の目の前に、ただ立ち尽くした幼子の姿に、あのひとの面影があるという理由だけだとしても。


<キャラシについて>
自らの魂を消費してでも、生きていてほしいと思わせる「ヒト」がいる人物がよい。
新規、継続、ロスト問わず、必須技能も指定しない。


<舞台>
理想郷「原初のアルカディア」-原始的な理想、穏やかな生命、時間。書物、絵画、ほか、
様々なものに写し取られていない、確かなはじまりの一つ。原初の理想郷。これから生まれるための道筋。


<推奨人数>
一人


<友好>
NPC(KPC)-探索者に合わせ新規構成しても、継続で深く関わりのある人物のキャラクターシートの流用
(ロスト探索者可)でもよい。探索者に「自らの魂を消費してでも、生きていてほしい」と思わせる者。
何かしらの現象、事件、事故―――に巻き込まれ、「原初のアルカディア」に入ってしまった魂的存在となっている。
その影響で必ず幼い子供の姿で現れる。


<敵対>
シュブ・ニグラス(マレウス・モンストロルムp178,9)-万物の母、地母神としての性質が前面に出ている。
「アルカディア」の基礎部を胎に収めてしまっていて、人類にとって近くも凶悪な物体となっている。
世界を構成する要素であり、表立って登場することはない。


<その他事項>
これはNPCに導かれるシナリオではなく、NPCを導くシナリオである。大半の場合と逆であると思われる。
必要な情報は用意するし、進行についてのあれこれは記すが、
今回導く側である「探索者」が投げ出せばその時点で当シナリオは終了するに等しい。
RPや信念、世界構成、神話的存在への恐怖といった感情の果てに、導きの資格を放棄するというものであるなら
それは否定されるべきではないが、導かれる側もできれば、最後まで導いてくれるように振舞うこと。
また、クリアするということに情報の一切は正直、必要ない。ただのフレーバーですらある。ただ、ひとつの選択が、すべてを選ぶ。


<せかいのはじまり>
ごぼ、と何かに隔たれた空間の先から聞こえてくるようなくぐもった、吐き出したような、音。
意識を遠くに投げていたが、いやにその音に引き戻されて、瞬きをする。
暗い水の中であった。音を立てたのは自らの吐息で出来上がった泡。隔たれたのではなく、自らの鼓膜が包まれていた。
記憶になどあってたまるか。水の中に飛び込んだわけでもないし、水が発生するような事象にあったわけでもないはずだ。
兎に角、不幸中の幸いか、泡によって僅かに感じることのできた、方向感覚に引き寄せられるように水を掻き分け、上へ向かった。
案外にも地上は近く、水を割いた先で鮮烈な太陽の日差しを受けて目が悲鳴を上げ、咄嗟に逸らした先で口に水が入り込み。
乾いた地上の空気をげほごほと鳴らしながら、なんとか立ち上がれる程度の水位まで辿り着いていた。
薄く涙が覆った瞳で捉えられるものは、しいて言うなら、何もなかった。
いや、ある。勿論風景はそこにあったが―――普段生活をしている場所とはあまりに違いすぎた。
都会ではなく、かといって田舎というものでもなく、ただ広く、広く、遠くに山を抱えた高地や、盆地というのだろうか。
そんなただの原っぱ。
書籍や絵画、映像、様々な分野で「原野」というものを理解はしていたし、どのような光景をそう呼ぶのかは感覚としてわかるだろう。
ただそれを本当に目の前にしたこの瞬間に感じたのは、美しさや香りや風のことではなくて、単純な、放り出されてしまった、そんなことだった。(1/1d3)
何もない。
自分が這い上がって来たはずの水辺は、存在はしている。這い上がったときに潰してしまったらしい草や濡れた跡が自分の足元にまで続いている。
小川のよう、とはいってもそれはサイズ比の問題で、実際はヒトなど軽く溺れ死ねるほどのもの。
ただそれ以外には本当に―――。
本当に?
頬を伝う水。さっき散々鳴らした喉がちくりと傷んだ。

【―――此処は、アルカディアと名付けられたかつての地。今は理想郷と願われたせかい。夢に在り、いのちを抱え、運命を断ち、ただその原初の位置に還し、また現世へ送る、生命活動における終局と発端を賄う二つとない唯一無二、原生の海、失いし園、黄金の林檎の産地、わたしの胎のなか、歩んだ先に新たな命は成す。回帰。原初の回帰。願い。希望。巡る。流れる。失う。そして得る。人生という未知の先に、道の先に満ちたものを、さいしょに戻していく。道を還る。いのちはかえる。海に。ワタシに。せかいに。その機構。その原理。その摂理。処理されるべき、遂行されるべき、実行されるべき、再生されるべき、開始されるべき、行使されるべき。マキア。マシン。マキネ。マシナ。マスキーネ。ギープ。定義、ワタシは機械的にそう行う。からして、これは機構である。組立図である。設計書である。指示書である。図解である。―――システム・アルカディア。そう命題する。命名する。名付ける。エデン、ヘヴン、涅槃、写し世、アリとあらゆる世界に置ける終局の中でも、初めを産むこのワタシのからだである此処をアルカディアと評す。ヒトの原初的な理想。それを喰い解した私の描いた理想郷。そして其処から産まれるこどもたち。すなわちわたしのすべて、わたしのせかい、わたしのワタシ私―――】

激しい言葉の羅列が頭に直接叩き込まれる痛みというのは、実際のところ、存在はしないはずだ。
だが、確かに頭蓋の内側から悲鳴が上がるようにずくりとした痛みが走っては、また生まれて走る。

【導け、海へ、導け、海へ、導け、回帰に、導け、回帰に、戻り、戻れ、戻れ、帰れ、還れ、そしてまた、発生。新たな名を。発生、魂に器を、移し替える、変える。そして生まれる。導け、回帰に、導け、再生へ。命題、此処に行使すべし。原初回帰機構システム・アルカディア、システム・アルカディア、システム―――】

うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい―――!
「どうしたの?おにい(ねえ)ちゃん」
ぽつりと、呼び掛けられただけで、頭蓋は静まり返る。
不思議と、落ち着きが、やってくる。
声の持ち主は、気が付けば膝をついていた貴方の顔を前に回り込んで覗き込んだ。
幼い子だ。けれど―――、確かに、そう、生きていてと、願っているはずの、面影がそこにいる。
ここに、いては、いけないはずの。(1d3/1d8)

もしも、<神話>技能を目安として、30%以上所持している探索者であれば、
この世界自体が、いわゆる「あの世」とは別種のものだと本質的に理解してもよいだろう。
<アイデア>に成功すれば、川は生死の境界線のイメージがあることを知識としてわかっているだろう。
人間の神話系体に詳しいのなら、<人類学>や<知識/2>、<アイデア/2>などで、「アルカディア」というワードに紐づいて、
ステュクス河―――ひいては、レーテー、ムネーモシュネー、コーキュートス、アケローン、プレゲトーンといった名称を思い浮かぶ。

ただ、貴方とその幼子はこの異境で出逢ってしまい、そして貴方の中には刻まれている。
原初の記憶の工程、死した肉体から剥がれ出た魂に再び肉体をあてがう術を。
ただ―――このアルカディアを踏破して、遥かな原初の星の海へ往くだけだ。何も知らない幼子の手を引いて、歩いていけばいいだけだ。
それだけで、どうしてかここに来てしまった、きみを、例えば、自分の知らないきみだとしても、その魂は生きてくれるのだ。

ただ、その回帰の流れに乗せることに異を唱える者もいるだろう。頭蓋に響いた言葉自体が不穏で、自分自体がまずいものなのではと考えても仕方はない。
そんな簡単でうまい話があるか、というと、世界はそんなに優しくはなかったと、思ってしまう。だが、他に縋るものはない。
居座ることを決めても、それは正しいだろう。異質な世界に紛れ込んだ二人、どう過ごすかを考えたっていい。
はじめまして、をここで告げてもいい。
道を外れて、幼子が眠ってしまうまで歩いて、例えばまた、川に身を投げてもいい。
ただ、「従わない」のならば、この生き物の影一つない原野に黒く、明かりを受けても尚、何も写さないような黒い毛皮を着た四つ足の獣が現れ、ただ見つめてくる。
膨らみのある身体はなぜかぼこぼこと泡立つように弾けては膨らむ。似ているものを探すのなら随分と着ぶくれしてしまった熊だろうか。
鋭い瞳孔が、ただあなただけをみつめる。今はまだ何もしない。だが、きっと【私】とはあいつで、
それはつまり【此処】で、「されるべき」と主張するばかりの何かの瞳は、ただ何も持たず、それでも貴方だけを見ている。(1/1d3)
脳漿に叩き込まれた手順が繰り返される。意識を塗り固めるように。

〇システム・アルカディア
探索者に与えられた情報は以下の通りである。

性質
・理想郷アルカディアに聳える山並みを超えた先に、すべての生命の始まりである原初の海が在る。
・原初の海に辿り着いた生命の魂は、海から産まれる新たな肉体と結びつくことで、現世に再び発生(誕生)する。
・その性質上、同一人物にはなり得えない。
・アルカディアに到着した時点で、忘却の川を越えてきているため、記憶がない。が、アルカディアまで辿り着くのは、「なまえ」を失わずに来た者のみである。
・「なまえ」を最後の道のりであるアルカディアで消失することが、転生の条件である。
・「なまえ」を失わないことは許されない
・許されない
・許さない
・回帰―――始まりの点に還り着くということは、ゼロになるということだ。なまえだろうと、なんだろうと残してはならない。
・残されるべきではない。
・残してはならない。
・残すな。
・なまえを渡すな。
・忘れろ
・全て忘れろ。

……、表現としてこうなっているわけではなく。
「探索者」がこのアルカディアについて回想すれば、上記の通りに情報が開示されるのだ。脅迫観念渦巻く言葉も全てそのまま。
「なまえ」にある意味での執着心があることは、明らかであるし、探索者も理解してよい。


<遥か遠き、>
何をするにせよ、ある程度はNPCとの交流を図るものと見られる。
海に向かって歩くという場合も、ある程度のRPが発生するだろう。そのための会話例などを当項目に記載する。

〇NPCの行動
基本的に探索者に追従する。指示や方針があればそれに従う。生まれたての雛と同じだ。
キャラデザインの根幹にかかわるような事案であれば、拒否や抵抗を見せるのも問題ではない。
服装は大きくてぶかぶかなTシャツをかぶさっているような姿だが、その背には違和感がある。

「こんなに広いの、はじめて」
「あのお山までいくの?」
「海?行く!」
「ある、かでぃあ?川?わからない」
「なまえ?×××だよ」

ただ、探索者に発見されない限り提示しないのが、「弓矢」である。
探索者によって存在を示唆されなければ自らも認識できないが、弓は背中に背負うように、矢は片手で握っている。
探索者が発見して、見せてといった要望を何度もするようならようやく見せる、宝物のように扱う。

・弓矢
生前がどうあれ、なぜかNPCが所持しているもの。探索者が<目星>などで違和感に気づかない限り、
所持している本人すら忘れていたかのようにふるまうこと。
矢は一本しかなく、弓は曲げた棒に紐を張ったものなどのよくあるイメージのものとは違い、
金属がメインでできているもので、端には滑車がついている。専門用語として知っている者が見れば、
それは「コンパウンドボウ(化合弓)」であると言える。近代的で、実際に引いてみればそれほど力がかからないことが分かる。
弓本体のグリップ部分近くに、よくよく見れば「Artemis」と刻まれている。

背中の違和感に対し、<目星>、<アイデア>などで成功した場合以下のように描写する。
ただ、その大きさと金属の持つ威圧感が、どのように幼子の背に隠れていたのか。
隠れるわけがないその大きさと重量感と、この世界の旧さとの相反する感触に気持ち悪いと感じるだろう。
器械であった。物理的法則を利用した、知識の塊とも言えるものである。
それが幼子の背にたった「今」、担がれていることに気づいた―――まるで狐に化かされたかのように、
ただ背中についていた草が、ぼやけてそう仕上がった。これに何の意味があるのだろう。(0/1)

「なんだか大切なもの」
「これは、おにい(ねえ)ちゃんにもあげないよ」
弓を何故持っているなどの問いに関して「……わからない。よくわかんない、でもたいせつ」
「Artemis」に関して「…?もじ?あるてみす。意味はわかんない」
使い方を理解しているか、などに関して「うーん、なんとなく…なんとなく…」

・黒い熊について
「きらい。……なんでだろね」
「くろやぎさんたら読まずにたべた♪」
実際に見つめてきている熊がいる際に示して問いかけた場合「……くま?そう見えるの?」
何に見えるかなどの問い「…………やぎ」

・名前を憶えているか確認する
 定期的に確認している場合は問題なく返答する。
 間がある、たまの確認の場合は少し言い淀む感覚がある。
 回数によっては教えられるまで答えられない場合もあってもよい。


<みちびきのほし>
「アルカディア」の導きにそって歩いていく場合、当項以下の描写を参照する。

道らしい道もない。探索者にとっては脛ほどの高さの草でも幼子には腕すら覆い隠しそうなほどに見える。
二人、揃って歩いていく。小さな足並み。それに合わせるのに苦労はないが、どことない焦りはあった。
パーンの草笛の、酷く狂乱たるや。ただの風も、何かの声に聴こえてしまう。

・RPを行う場合
基本的に聞かれたことには返答し、嘘はつかない。もとにしたキャラデザインを用い、
前世の経験側から応答すると、まだ「残っている」演出としていいだろう。
アルカディア内を進んでいる場合、この「前世」も削れていく為、
歩きながら会話しているというのなら、ふと口ごもるのもいい。
好きなもの嫌いなものといった質疑もころころと答えが変わるべきだし、
答えに困った先、見つけた何かをそうとしていい。
そして、出来得るなら「手をつないで」もらうことを実戦する。


周辺を注視する場合:時折、明かりを受けても尚、何も写さないような黒い毛皮を着た四つ足の獣が現れ、ただ見つめてくる。ただ、見ている。
空を確認する場合:不思議と昼間のような明るさはあるのに、空は夜の黒いカーテンが敷かれ、いくつかの星が並んでいるのが見える。
星に<天文学>、<知識/2>、<アイデア/2>、<化学>:星の並びを正確に読み取ることができる。
北斗七星の柄杓を見つける。そして北斗七星は、おおぐま座の腰から尾にかけて存在する恒星七つのことだ。
α、β、二つの星の間隔を五倍にするとほぼ北極星ことポラリスの位置に辿り着く。北への導きの星。

おおぐま座に関して<歴史-15%>、<知識/3>、<ギリシア語>など:アルテミスとカリストーの逸話を頭の隅から引き寄せることができる。
アルテミスの従者として処女を誓い、狩りに明け暮れる生活をしていたカリストーだが、ゼウスに見初められてしまい、子を身ごもる。
誓いを破られたアルテミスは憤慨してカリストーを放逐した。やがてカリストーは息子アルカスを出産するも、
それを知ったゼウスの妻ヘーラーに呪われ、大熊と化してしまった。
森を放浪し過ごすも、成長したアルカスと遭遇し、抱きしめようとしたところを母と知らないアルカスは後ずさり、
槍で応戦しようとする―――それを見たゼウスが旋風で二人を天に上げ、おおぐま座とうしかい座とするが、
カリストーが星座に上げられたことを知り怒ったヘーラーは海の神に頼み、北の海に降りて休むことを許さなかった。
だが、カリストーとはアルテミスの別名とも謂れ、その原基はもはや見えることはない。

「Artemis」という単語に<知識/2>、<歴史>、<他言語(ヨーロッパ系であれば全て可)/2>、
<ギリシア語>、<ラテン語>、<アイデア/2>、<人類学>:アルテミスはギリシャ神話における月、狩猟の女神である。
古くは山野の神として野獣に関わるとされ、多産―――出産の守護神、地母神ともされる。
アルカディアの山野を駆け、鹿を狩猟するものであるが、「遠矢射る」―――地に向けて矢を射ればそれは疫病となり、
女性に射れば痛みのない死をもたらす。そのため産褥の苦痛を逃れる「死」を恵むともされた。
アルテミスに関してある程度情報を引き出せる者は、ほぼ自動的に「オリオン」に関しても情報を所持しているはずだ。
特別記載はしないが、何かあればそれについては知っているという前提とする。

上記の探索事項をおおよそ終えたころにイベントを挟む。

代り映えのない景色ではあったが、山の形は少しずつ鮮明になってきて、道のりは正しいことを告げる。
ただ、それで。だから、なにに―――、もし、ふとしたことで、思ってしまえばそれは激しい痛みとなって内側から脳髄を襲う。
【命題、此処に行使すべし。原初回帰機構システム・アルカディア】
うるさい!
同じことしか言わない機械のアナウンスに腹を立ててしまっても仕方がないけれど、
それでも苛々と積み重なる茨が自らを傷つけていく。
【「なまえ」を失わないことは許されない許されない許さない残されるべきではない残してはならない残すななまえを渡すな忘れろ全て忘れろ。この原野においてそれこそが平等で正当で―――】
もはや言葉すら碌に拾えない痛みに朦朧とする。握られた手の感覚が、強まった。それはなぜかと言えば、

「熱い!」

という自分に助けを求めて縋りついてきた幼子の悲鳴だった。(1/1d3)
焼けるような音はしないし、火の気もなく、煙もない、ただ、熱いのは事実で熱気が近くから感じられる。
そして、その子に何かを齎すとすれば当然ながら、一つ。弓矢である。
手を伸ばせば熱気はそこから放たれていると言え、弓を握れば確かに熱いと思う、思ったのに。
次の瞬間には、ぱたりとその熱反応は忽然として消えてしまったが。幼子に返しても、何も起こらない。
金属の冷ややかな感触に触れ、子は安心したというように怖がることもなく背に負う。
自分自身の頭からきていたはずの悲鳴は、熱に焼けてなくなったかのように静まりかえっている。

・熱に関して
「突然かぁっっと熱くなったの」
「背中?だいじょうぶ、痛くないよ」

弓を確認すれば、グリップ部の「Artemis」という文字が熱によって溶けた金属か―――にしては、
あまりにも非現実的な状態だが、溶けた金属が再度固まってしまって、変形した結果、一部読めなくなる。

RPを繰り返すたび、同じように「原初に還る」、「回帰に乗る」、といった初期に提示されている目標のようなそれに異を唱える、
否定的な感情・発言、といったものをするたびに、この「熱」のイベントが発生する。
三回、四回ほどだろうか、流石に二回もやれば懲りてくれると思うが、あまりにもこれを繰り返すなら、
探索者として「名前を忘れさせない」という選択肢を消去する。
「Artemis」という文字が完全に消える。


<ごちゃ混ぜになった理想>
.
.
.
.
.
.
.
.
.
時折、黒熊に睨まれながらも道を進む。
時折、草笛の音に哀しくなる。
時折、名を忘れかけた仔に新たに吹き込む。
もういかほどの時間を費やしたのか。分からない。
だが、頭蓋に響くものは相変わらず同じで、その度に幼子の呼びかけと、弓の熱に引き戻される。
もう刻まれていた名前すら溶けたそれに完全に覆い隠された。
だが、もう目の前にそれは来ていた。

「ねぇ」

不安げに声をかける幼子に笑いかける。
目の前に広がるのは、目指した果て―――原初の海―――。
だけど、ふと。



〇幼子が名前を忘れていた場合
もうすでにそれは「なされた」。
幼子は、名前を失ったことすら「きおくにない」。もちろん自分も、君の名前など忘れたのだが。
ならば、ただもう、もう一度を、与えるだけだ。
還れ、還れ。母なる海へ。戻れ。戻れ、現世に。生きて、生きて、そしたら。
そうしたら。

子は海へ浸る。心地よいのか、穏やかな笑みで。

その笑みの向けられた先にいるのは、自分で。
足もつかなくなって少し苦しそうに振り返ったきみは、矢を弓に番えていた。
それを何とも思わない自分も自分ではあるけれど、幼子だったものは、酷く嬉しそうに弓を弾き絞る。
子供とは思えない力と、敏捷をもって。
それは、そうだ。
この魂のエネルギーを持ってきみが次に生くための元にするならば。
放たれた矢が額に迫る。
弓に刻まれた文字が、あり得ないはずの角度の反射で一瞬だけ、垣間見える。
「Artemis」と月女神の弓を示していたはずのそこは、厚く塗り替えられて「Arkas」と。
かつて熊に変じてしまった母を知らずに刃を向けてしまった子の名前になって。
再び母にその力を剥いた。

いたくはなかった。
遠のくもののなかに、ひとつ声が響いている。
「Vanitas vanitatum omnia vanitas!」
幼子の声で。
その意味を、分かってしまいたくはないのに。
「空っぽの空っぽ、無益なのに、頑張っちゃったね」
意識はそれを訊くまで、


……それでも、きみがいきているということが、なによりもたいせつだから。



END アルカスと三分割



〇名前を憶えていた場合
目の前の海。
それはとても美しく、暖かい光にきらきらと輝いていたはずなのに。
幼子は、何かを理解したように弓を構えた。ぱっと離された手が、虚しい。
空には、導きの星を埋めるほど大きく、真ん丸な月が浮かんで遍くを見下ろしている。

幼子は叫んだ。

「――――――!」

名前を。
自らの存在を。
それはどうしてだか、酷く嬉しく、悲しくも、辛くも、けれど、けれど、自分という存在を認めてくれたような、満足感。
幼子だった者が引き絞る弓、それが例えこちらを向いていたとしても。
それでいいんだ、と何の理由もないのに思える自分。足元に波打つ海は、暖かかった。
厚く、塗り替えられていたはずの弓の銘もまた、「Artemis」に還り咲き、放たれた矢は。
貴方を貫くことはなく、酷い炸裂に似た音を耳に叩き込むだけだった。
金属音にも似た悲鳴の音が鼓膜をさらに貫いて、酷く混乱の中振り返れば、
片目に突き刺さった矢に悶絶する黒山羊の姿が、いや、もっと大きな塊のような、獣なのだけど獰猛な。

熊だ。
山羊だ。
熊だ。
山羊だ、
熊、
どちらにもならない何かだ。
熊か。
山羊か。
山羊だな。頭から聳えた角が悠然とそれを語っているのに気づけなかった。
悲鳴の最中でありながらも吼える様には、殺意しかなく。

ふと、そう。
振り返った傍から、ただ、ひたすらに原野であった。喪失と始まりの同居したせかいは、あまりにも何もなく、
何もなく、黒く、闇で、夜で、道などはなく、空もなく、まるで巣穴のような大穴でしかなかった。
どうにか保っているらしき獣は、未だ溢れる殺意を抱えながらも、ただ一本の矢に悶え苦しんでいる。
矢を放った手は、再び自分の手にかけられて。
海へと誘う。
ただ、大丈夫という一言に、今度は自分が導かれる側となる。
腰まで海に浸かれば、逃がして堪るものかという殺意で、獣が駆け始める。(1/1d6)

「死はここにもある。死を忘れるなかれ。」

悟った言の葉を紡ぐ幼子は、知っている形まで成長して、知っている声で、知っている笑顔で。

「花を摘んで。食べて。飲んで。陽気になろう」

喜びにあふれた言の葉を紡ぐ君は、もはや海に沈む直前で、自分も、もう口が海に沈んだ。

「明日はどうなるかわからないのだから」

そう高らかに。遥かな空、遥かな月。北上、天上、全ての上にある女神を指さして。
『Artemis Kallistē』
ただ、名前を名乗るのと同じように告げた。
輝ける月から、何か一条のものが降って来る―――それを矢と認識するまでそう時間はかからない。
「行こう」
そう呟いた君の手に惹かれ、海に潜り切る。
水面にさえぎられながらも、酷く鮮烈な叫びがくぐもって聞こえてくる。
矢は、正しいものを穿ったのか。
その答えは、神話にはない。

海の中は温い。ただ深みへ行くその行程の中。

水の感触がなくなっていく。ここは海か?
遥かな空に浮かぶ月が、星が、風が、それを否定する。

海でもなく、ただ、空でもなく。
世界の中のほんの少しの狭間で。

「また明日」

さっき吐き出した言の葉をさらに上乗せて否定するような君の笑顔に見送られて、意識が浮かぶ。

END 『私にかなう動物など、この世にあるものか。』


<END詳細>
上項のENDの分岐において「なまえ」の有無が判断の材料である。情報をいくら集めたなどは、報酬に追加する。

※もし幼子の所有する弓矢「Artemis」の存在を確認、認知できていなかった場合でも「なまえ」の次第で
 ENDは分岐する。突然現れた弓矢に大なり小なり驚きはする(0/1)だろうが。

BE 「アルカスと三分割」
NPCの名前を忘れさせてしまった場合。
「魂」をかけてこの行為に及んでいるという点については重要視されるべきだ。
それを探索者のステータスに反映させるときに、「肉体的な死」とするか、「精神的な死」とするかはどちらでもよい。
ただ、魂が吹き飛ばされても文句は言えない。アレは確かにそう宣言した、「アルカディア」の名にかけて。

生還とする場合でも、魂―――SANに絶大なダメージを与えるものとする。
とはいえ目標は達した。
あの子はまた産まれるのだろう。
もうきみとは、わからないのかもしれないけれど。

生還の場合:SAN減少 1d100
<みちびきのほし>項の探索情報を二個以上取得で、減少値ダイスを割ることができる。
1 周辺を注視する場合
2 空を確認する場合
3 星に見るために各種技能
4 おおぐま座に関して各種技能
5 「Artemis」という単語に各種技能

2/5取得:÷2=50、1d50となる
3/5:÷3=33.3...のため、1d30+1d3とする
4/5:÷4=25 のため、1d20+5とする
5/5:÷5=20、1d20

正直、この割引前提のSAN設定であるため、本当に何も「しない」探索者だった場合は、肉体的損失などを与えて割り引くなどすることをお勧めする。
タイトルが「三分割」とあるように、SAN、肉体ともう一つ、大切な何か、とするなど。


TE 「『私にかなう動物など、この世にあるものか。』」
NPCが名前を憶えていた場合。
オリオンは豪語した。だからあの獣はそうなった。
夢から醒める。
海でもなく空でもなく、この狭間の地上で。
君も君のままで、目覚めてくれた。
あの原野は、なにを目指すものなのかは果たして疑問のままであるけれども、辿り着いた答えは、君が持っている。

生還:1d10
<みちびきのほし>項の探索情報 完全収集(5/5)時:1d20

知識は重要な武器となる。時には死に至らしめるものでもある。
どちらにせよ、明日のために学を持ち、明日の死に行くのに学の多さを気にしてどうする。
我々は今日を生きなければそも、どうしようもない。
アルカディアにも死はある。いつか来る。ならば今日は食べて飲んで。
「初めまして」の日を繰り返せば、それは「また明日」への道になる。それが絶える日まで、また明日。


<「はじめましてをもう一度」>
二回目はないほうがいい。あるべきではない。
だから、「また明日」を進むべきで、だけどそれは新しい「初めまして」で。

というような解釈をした。

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