最終更新:ID:siKjTSQZwA 2022年03月19日(土) 04:50:18履歴
製作:哀咲
プレイ時間:テキストオンセ 3時間前後
傾向:一本道。クローズドワールド探索型。
使用に関して:
改変、リプレイ等公開自由。制作者もしくはwikiのURLを明記してください。
またこのシナリオにおいて、キリスト教や歴史的事項を取り扱っており、自己解釈も多いことをご理解ください。
プレイ時間:テキストオンセ 3時間前後
傾向:一本道。クローズドワールド探索型。
使用に関して:
改変、リプレイ等公開自由。制作者もしくはwikiのURLを明記してください。
またこのシナリオにおいて、キリスト教や歴史的事項を取り扱っており、自己解釈も多いことをご理解ください。
<あらすじ>
追い求めた安らぎのかなた あなたの想いに嘘偽りなく
全てのことに終わりがあるというのなら それはきっと此処のことだろう
半ばを過ぎれば 遠かったものも近くなり 踏み出すよりも眠りたくなる
生きることに意義を求めるのなら、貴方は
<キャラシについて>
継続探索者 推奨。
推奨技能:特になし
<舞台>
仮初のグ・エディン・ナ
<推奨人数>
一人
<友好>
グ・エディン・ナの聖母
(仮初のグ・エディン・ナによって編まれ、形成されたオートマタのようなもの)
<敵対>
エデンの蛇 三賢者の代理品:狩り立てる恐怖
アダムの代理品:とある魔導師
アダムに御業を与えるもの:ニャルラトホテプ
<その他事項>
グ・エディン・ナ:
平野の境界の意。チグリス川沿岸の肥沃な土地を差すシュメール語。
古代メソポタミアの都市国家がこの土地を巡り、幾度も争ったとされる。「エデンの園」のモデルは、このグ・エディン・ナとする説がある。
この説に沿う形態を取り、「"本物の"グ・エディン・ナは、まさに聖書に書かれたエデンの園であった」、として扱う。
ただし、シナリオの舞台となるのは、"仮初の"グ・エディン・ナである。本物ではない。
基本的に一本道シナリオなので、誘導の多さを割り切るように。
<恵雨>
これは夢だと、瞬間的に探索者は悟る。よくある感覚だろう。
意識が浮上してきているときに見る夢、自分がはっきりと「見ている」と思う夢。そんな感覚を持って、探索者はそこに立っていた。
地面の感触はなく……海の上に立っている。空は蒼く、群青の海の上には、蓮花のように上を向き、花々が咲き誇る。
見ただけでもわかる水生の花ではない花たちが、そこには咲き誇り、当然のように根を張っている。
夢だからそんなこともあるだろう。そう違和感を打ち消した探索者は、何かに魅かれるように足を前に出した。
僅かに揺れる水面に体のバランスが崩れ、苦心するものの、前へと歩いていく。
やがて、ぽつりと雨が降り出した。
頬に触れる水は冷たいが、嫌な感じはしない。
傘はない。濡れるのをそのままにするしかない、と思う探索者が頬を拭って前を改めて向けば、すっと差し出される傘の柄に、僅かでも驚きはするだろう。(0/1)
「ようこそ、グ・エディン・ナへ」
そう紡いだ声は落ち着いた女性の声だった。傘を受け取りながら姿を確認すれば、黒髪で青い目のすらりとした女性が立っている。
淡い緑の傘を差した彼女は、少しぎこちなく笑う。
「グ・エディン・ナ」という言葉に<知識>/2:聖書のエデンと同意であるということをたまたま知っている。
「グ・エディン・ナ」という言葉に<歴史>:チグリス川沿岸の肥沃な土地を差すこと、
古代メソポタミアの都市国家がこの土地を巡り、幾度も争ったとされることを知っている。
女性に<目星>:美しい造形をしていて、大体の人が認める美人であろうことは見て取れる。だが、青い目はどこか硝子玉のようで、動いているような気配がない。(0/1)
女性に<心理学>・成功:声が実に平坦で、感情があるなしから議論すべき存在では?と考えてしまう。(0/1)
差し出された傘は黒だった。差すも差さないもそれは自由だ。ペナルティはない。
彼女は、ようこそと言ったきりしばらくは口を利かない。ただ傘を差し、立ち尽くし、探索者を真っ直ぐと見ているだけだ。
〇女性に質問する
質問されたことに解答可能ならば、女性は答える。
以下解答例
・あなたはだれ→「私は、……片割れです」
・片割れ?→「片割れは、片割れです」
・名前は?「……ありますが、今ここではお答えできかねます」
・ここはなに、どこ?→「ここは、グ・エディン・ナ。それ以上でもそれ以下でもないです」
・これは夢?→「夢だと思うならば夢、それ以上の意味が必要ですか」
・ここで何をしている?→「此処にいます。そう望まれています」
・ここから出たい→「なら奥へ行きましょう。案内もしますよ」
質問中に<目星>:口は動いているが、言葉の発音と合っていない口パクのように見える。
質問中に<心理学>・成功:感情はありそうだが、必要最低限、という枠組みにしまわれたようなそんな感じがする。
探索者が奥に行くことを望んだなら、案内を申し出る。
案内を頼まれれば、女性は数歩前を歩き、そのペースを崩さない。機械のように。
歩いていくと少しずつ木々が生い茂り、森へ進んで行っていることに気付くだろう。
森は青々とした葉をふわふわと雨に濡らし、心地よい音を立てている。
僅かな間から温かい日差しが降り、時折開いた穴からは碧い空に真っ白な雲が流れていくのが見える。
天気雨と言っていいのだろうか悩んでいるような些細なうちに、女性の足がぴたりと合わせられ、止まった。
<存在の名前>
止まったのを怪訝に思い、声をかけるなりするだろう。そうすると女性はぽつりと言う。
「白い蛇。…貴方の存在に気づいたようです」
彼女の視線の先に居るのは、森と同等の背丈を持つ巨大な蛇の頭。しゅるりと舌を出すその巨体は鱗の先までも白く染まっている。
赤い目を瞬かせながら、首をかしげる。
蛇に<目星>:巨大な牙に赤い何かが付着しているのを見て、思わず背筋が震えてしまう。(0/1)
蛇に<生物学>:見た目形は自分の知っている蛇と同じである。
女性と探索者、蛇がしばらく向き合っていると、蛇が赤い舌、大きな牙を曝け出しながら口を開く。
『ここは、ごしゅじんのせかい。……おまえ、はいるの、きょかいる』
巨大な蛇がその大きな顎を動かし、言葉を介する姿を見て驚愕するだろう。(0/1)
"きょか"という言葉を聞いても、貰った記憶もないと思う探索者の心情を知ってか知らずか、女性は蛇に至って普通に話しかける。
「迷い人です。きょかはいりません」
『……まいご。……とくべつ?』
「とくべつ」
『でも、ぼくがごしゅじんとのおやくそく、やぶることになるの、かわんない』
蛇は感情を得ているらしく、頭を下げて俯いた。その「主」を相当好いているらしいのはすぐにわかる。
女性は首を傾げ、考えるようなしぐさを見せる。対し蛇は何かを思いついたように顔を上げた。
尾先が探索者を示し、教師か何かに指名されたような気分になるだろう。
『おまえ、なに?おまえ、そんざい、おしえて』
蛇の言葉に<母国語>:「名前」を聞かれているのだと感じるが、「存在」を教えるとはどういうことだろう。
蛇の言葉に<アイデア>:「存在」―――、自分自身の苗字や、名前。一族、血筋。それこそ人間という種族すら用を成すだろうと考える。
探索者が何か名前を口にする前に、女性が口を素早く開く。
「このひとは、"カイン"」
名前を訊いた蛇は、納得したように尾を下ろし、身をくねらせ道を開ける。
『きょか。おまえ、カイン。わかった。そうそんざいする、よかった。とおる?いいよ』
蛇が開けた道の先は、森が鬱蒼と暗く彩っている。
<御許の広場>
「行きましょう、カイン」
と女性が言う。
「……私はカインとお呼びするほかありません、すみません」
少しも済まなそうではない顔でそう言っている。
POW*5のロールをし、失敗した場合は、『自分は"カイン"』という認識が濃くなり、本名などよりも"カイン"であると、そう思い始める。
鬱蒼とした森を進んで行く。雨は未だ降り続き、傘は重くなる一方だ。
「カイン……この名を忘れないように。……」
どこかから鳥が飛び立つ音がする。何かの動物の鳴き声がする。
「その名は、貴方の道を導くから」
言い込めるような囁きに耳を傾けながら、探索者は進んで行く。時折傘を振り、雨粒を落としては、女性は進む。
やがて開けた場所に出る。鬱蒼とした森を抜けた先はぱっと広がった場所だった。
どこかで見たことあるような、どこか外国の広場のような、知っているような、そんなことはないような不思議な気持ちにさせる。
周りには靄がかかったように遠くにあるように見えるが、どうもたくさんの建物があるように見える。
周辺に<目星>:四つの塔に丸い屋根のドームの建物、二つの塔を抱えた荘厳な教会らしき建物、
真っ直ぐと聳え立ち、かちかちとこの距離にして音を響かせてくる時計塔、18本もの塔を従え、天に煌々と輝く十字架を持つ巨大建築物、
四角く細長いシルエットのゴシックな教会、硝子とコンクリートの柱で組上げられた透明にも見える建物、
多くの石柱が連なり三角屋根を支えているもの……それらを繋げるように合間合間に生える煉瓦造りのように見える石橋がこの広い場所を囲むように存在していた。
上記の建物群に<知識>+<アイデア>:順に―――ハギア・ソフィア、ケルン大聖堂、エリザベスタワー(ビッグベン)、
サグラダファミリア(完成予想図の通りの形状)、カンタベリー大聖堂、キューガーデン、パルテノン神殿、ローマ帝国の水道橋――であるとわかる。
呆然と見上げているだろう探索者を振り返り、女性は独り言つ。
「ここは、グ・エディン・ナ……主の世界、主の望むものがすべて、ここにある……それくらいの意識でいないと驚き疲れますよ」
どれかに近寄ろうとしても、近づく気配はなくどこまでも遠くに、幻想のように存在している。
ぽっかりとここだけ隕石にでも抉られたかのような広場を意にもせず、女性は進んで行こうとする。
もし女性に質問などある場合、以下の解答例を反映して解答するように。
〇女性に質問する
質問されたことに解答可能ならば、女性は答える。
以下解答例
・あなたはだれ→「私は、……片割れです」
・片割れ?→「片割れは、片割れです」
・名前は?「ありません」
・ここはなに、どこ?→「ここは、グ・エディン・ナ。それ以上でもそれ以下でもないです」
・これは夢?→「夢だと思うならば夢、それ以上の意味が必要ですか」
・ここで何をしている?→「此処にいます。そう望まれています」
・ここから出たい→「なら奥へ行きましょう。案内もしますよ」
(上記まで第一項と同様)
・主の望むもの→「……あのひとはきれいなものが好き、生きとし生けるものも好き……」
・蛇のこと→「蛇は主が呼び、ここを守護させています。御使い……とも言えるでしょう」
・この広場→「主は、……あのひとは、いろんなものを知っている、"大多数の人間にとって"、なにが美しいか言える。
ここは、……カイン、貴方にとっても美しい場所ではないですか?」
・この場所は嫌い→「そう、ですか。貴方は少数派、ということでしょうか」
・教会が多い→「……教会というものは、総じて美しく荘厳に作られるものです。違いますか?」
・主は何?→「主は主、あのひとはあのひと。……貴方と同じものと思うのですが」
・"カイン"という名前→「咄嗟に出ました。……ここには必要のない名前なんです、だからそうつけました」
各国の「美しい」ものが完成形、破損前の姿で揃うこの場にどこか寒気を覚えながらも探索者は女性の後を追うしかないだろう。
だがしゅるり、ぴちゃん、という音が歩みを遮る。蛇が濡れた石畳を滑り込んできた音だろうか、再び白く巨大なその姿が頭を垂れ、目の前に浮かんだ。
薄い霧に包まれたかのように、白く辺りに溶けてしまいそうなその蛇は、探索者を認めると牙を見せる。
『……カイン、と、きいた、それにまちがいは、ない?』
先ほどの蛇とはどうやら違う個体であると、その言葉で理解できるだろう。確認の問いに頷くなり返答するなりし、Yesを示せば、蛇は牙を口の中に隠す。
POW*4のロールをし、失敗した場合は、『自分はカイン』という認識が濃くなり、本名などよりも"カイン"と、そう思い始める。(0/1)
『おくにいく、なまえ、だいじ。ごしゅじんに、ちゃんという。わかった?』
注意の前書きのように蛇は告げる。女性はそれに何も言うことなく探索者が返事をするのを見ている。
『カイン。……なんだか、すっごく、いやなひびき。わるいおと。……ぼくは、きらい』
何か文句を言おうものならば、すぐに牙が向けられるだろう。
『ぼくがきらい、それは、ごしゅじんも、きらい。……おぼえておくといい、わかった?』
まるで言い聞かせるように蛇は首を器用にかしげて見せた。赤い目がぱちぱちと瞬く。
嫌いな理由を問うのなら蛇は、尾をびたんびたんと癇癪を起したように石畳に叩きつけ、溜まった雨水を飛ばす。
『だってここはグ・エディン・ナだもの。よのせつり、ってやつだよ』
そう、当然のように答えるだけだろう。
女性を見れば悪びれる様子もなく、蛇の横をすり抜けようとしている。蛇もそれを意に介していない。
女性についていくのなら白蛇はその背を見送り、また雨水に濡れた石畳の上を滑り、遠い風景のなかに消えていくだろう。
<幻想庭園>
広場を抜け、遠くに写る風景も霧に消えた頃。傘を重くしていた雨はふっと途切れたように止む。
ぱさりと傘を畳み、女性は尚も進む。
地面は真っ直ぐとどこかの街道のように石畳が続き、道の端には規則正しく街燈が置かれ、淡い灯で足元を照らしてきている。
空は真っ赤に火照り、日は少しずつ月と入れ替わっていくところだ。周囲は木に囲まれ、少し目を離せばまた鬱蒼とした場所に逆戻りの気分になる。
水たまりが所々にできた街道をゆく。石の合間に少しずつ草が顔を出し始める。
「もう少しで最奥です。遠くてすみません、カイン」
<聞き耳>:森の中からの視線を複数感じる。(0/1)
かつかつと歩いていくと、やがてまた道が開け大きな土地に出る。
計算され設営されたと思わしき段状になっている大理石の地盤に、色味鮮やかな土、聳え立つ大樹と。
階段は長く設えられ、整えられた芝生、等間隔に植えられた花が高台故の風に吹かれ、揺れる……
はっきりと見えないが、内部でくみ上げられているのだろう水が、高台の頂上から滝のように流れ落ち、
長い階段麓の湖のような巨大な水場を形成しているのだと思えた。
庭園という表現が一番しっくりと来るだろう。
これまた大きな門に閉ざされたその庭園を目の前にして、再び巨大な白蛇が姿を現し、赤い目で探索者を写す。
奥の庭園に<知識>:バビロンの空中庭園……という言葉が頭を過る。
『……おまえが、カイン?』
その蛇の問いに、この蛇も前の二匹とは違う個体であると察するだろう。問いに答えれば蛇は穏やかな口調で話し始める。
POW*3のロールをし、失敗した場合は、『自分はカイン』という認識が濃くなり、咄嗟に本名が出て来なくなってしまう。(0/1d3)
『ここ、かぎ、あけてあげる、けど、そのまえにわたすもの、ある』
門を器用に開放し、尾を探索者の目の前に突き刺した。尾が抜かれ、僅かに抉れた土が零れる。
その穴には、木を削って作ったらしいナイフのようなものが落ちている。
『それ、もっていけ』
そう言って蛇は庭園へ一足先に消えて行った。
「……持っていて損はないと思います」
と、女性も木のナイフを持つことを薦める。
◇木のナイフ
耐久度や固定値のダメージはないAF品である。素朴で簡素な作り。
ナイフを拾うか、先に行くことを急かすと女性は庭園へ足を向ける。蛇が滑った跡を追う形になりながら、どこまでも幻想的に創造された庭園の中を通っていく。
庭園には何か見えない仕切りでもあるように、中に入ってしまうと門や空も霞んで見える。
鳥の鳴き声、虫の羽音、獣の立てる音さえ聞こえ、一個の確立された「世界」のようにも思えるだろう。
<三賢者の代理品>
その世界を歩いていき、階段を昇り、息も切れそうになるほどの高みまでやってきた。
一つも呼吸を乱していない女性は、探索者を振り返り、前へ進むように手振りをする。
「主の下へ行く前にひとつ、確認事項があります」
前へ進んだ探索者の背後から導くように女性は囁く。視界に入るのは今まで出会ったものだろう白い三匹の大蛇であった。
揃って赤い目を向ける蛇の背には、―――蝙蝠のような、体に見合う大きさの羽が生え、神聖なものから悪魔に転じたように醜く思える。(1d3/1d6)
『おまえは、"カイン"』
『"カイン"……ここ、グ・エディン・ナでは、のろわれた、なまえ』
『そのいみわかる?のろわれた、のがだいじなの』
<アイデア>:「カイン」―――「カインとアベル」と呼ばれるものを思い出す。
→<知識>:旧約聖書 創世記第四章に綴られた兄弟の名。人類史上初めての……殺人事件。
『ほかのなまえ、なのっても、かえれない』
『"カイン"となのって、ここをおいだされる』
『かえるすべはそれ。でも、おまえのなまえ、ほかにある』
『それをおもいだせるようにしなきゃいけない』
『ぼくらはできないけど』
『かみさまのかじつ、それできるからだいじょうぶ』
この時女性を見やるなら、機械染みた平坦な動きだった彼女の口元が、僅かにほころんでいるように見えるだろう。
『だから、おまえ、"カイン"』
『のろわれたこ』
『わかった?』
POW*2のロールをし、失敗した場合は、『自分はカイン』という認識が濃くなり、本名を一時的に消失する。
本名をそもそも思い出せず、カインであると認識してしまうのでSANチェックは発生しない。
言い聞かされた"カイン"を見て蛇は頷いたような気がした。
『ぼくらは、ごしゅじんのためにいる』
『ごしゅじんをがいする、それはぼくら、おこる』
『ごしゅじんをいじめるのはいけない、わかった?』
一つ一つ、まるで赤子に言い聞かせるように言葉を吐く蛇は、難しい言葉を噛み砕いて教え子に伝える賢者のようだ。
わかったと理解を示せば、蛇たち―――賢者たちは羽を広げる。
『じゃあいこう』
『あわてないようにね』
『はじまりのばしょは、このした』
足元が光った。下を見やれば、階段ピラミッド型になっている頂上の床、十字架が大きく描かれたその床が二つに割れ、
滝を作っていた水源すら堕ち、奈落のような穴へと消えていく。水が地についたような音は聞こえなかった。
<はじまりのばしょ>
割れた床に成す術もなく体が浮き、重力に負けて堕ちてゆく。それは女性や賢者たちも同様のはずだった。
だが、賢者たちは己の羽で浮き上がり、自ら速度を上げて奈落へと行く。
それを見送った女性は、激しい落下の風に髪と服の裾を荒ばせながら、ゆっくりとその手にあった傘を開いた。
ぱさっという軽い音と共に開ききった傘は、風に乗り、ふわりと女性の身体が浮き上がり、
明らかに、おかしいぐらいに、夢物語のように、ゆったりと奈落へと向かい始めた。
それを見て、探索者も傘を開くなら、ゆったりとした速度になり、じわりじわりと底へ向かっていく。
(もし最初に傘を受け取らないようなことになっていた場合は、下まで一直線で堕ちていく。
落ちた先は水面であり、水面に叩きつけられ、かなりの深度まで体は沈むだろうが、死ぬようなことはなく、水面には浮き上がれる。
だが、それ相応の恐怖心を覚えるだろう。1/1d3。)
のんびりという言葉がぴったり合う速度で堕ちてゆけば、やがて奈落に光が溢れた。まるでそこに太陽の日差しがあるかのように暖かで、確かな光だった。
視界が開け、眩しさに瞬間目が閉じられてしまうほどだろう。鮮やかな晴天、透明で、光りに染め上げられた青色が溶ける水面。
舞い上がる花びら。蛇たちは一足、二足先に体を、地とも言えない水面に着け、羽を閉じていた。
足が水面に着くころには眩しさにも慣れて、穏やかに降り立つことができる。傘を閉じた女性が、はっきりと微笑みを浮かべた。
その視線の先には、ぽつんと大樹が立ち、葉を揺らしていた。
大樹に<目星>:赤い色がひとつ、見える。
周辺に<目星>:大樹以外には何もないように見える。
周辺に<聞き耳>:ほぼ無音の世界だ。耳鳴りすらするほど。
賢者たちはこれ以上は自分たちの領分ではないと、静かに佇み頭を大樹に向けている。口も開かずにそこにオブジェのようにいる。
女性は微笑みを湛え、再び先行くことを即す。
水面を揺らし、無音の世界に音を生み出しながら、進んで行くとそのあとをついてくる音がする。
大樹の根元まで赴く。根は太く、見たことがないほどに長い。
透明な水の底よりももっと深くまで伸ばしているように見え、底の無さに少しばかり背筋が震えるかもしれない。
探索者―――"カイン"の目の前に垂れるように、頭上にある真っ赤な実が時折風に揺れる。
不思議と、林檎のようにも無花果の実のようにも見えるが、何にせよ至上の甘さを持つに違いないと思った。
「足元をご覧なさい」
女性が言う。
水面を覗き込めば、水に沈みながら、美しい形態を残し、絡んだ大樹の根を気にも留めずに、目を閉じ眠る、男の姿が一つ、あった。(1/1d3)
透明度の高さにより、まるで鏡を見ているような錯覚に陥るが、明らかに自分ではない他人。
茶色い髪を水に揺蕩わせ、穏やかな顔で眠る彼の口元などからは泡は出てきていない。
「ここの創造主さま。私たちの主」
女性は膝を尽き、慈しむようにその手を水に沈めた。途端どこからか大樹の細かな根が奥底の闇から這い出て、指に絡まる。
「いきている」
女性は、今までの機械的なソレはなんだったのかと問い詰めたいほどに、穏やかで優しい心音を顔に写しながら、唇を開く。
「さあ、迷い人。もうわかるでしょう。賢者たちは告げたのだから、貴方の帰り道を」
<失楽園>
もし迷うようなことがあれば、<アイデア>を振らせてもいい。
簡易的に表現すると、生還する方法は
◇「カイン」と名乗る。
一点のみであるが、
◇真っ赤な実を取り、口にする。
これをしない限り、忘れてしまった『本当の名前』を思い出せないまま、現実世界に帰還してしまう。
(POWロールでノーミスを記録した稀有な場合等の対処は、次項に記載)
上記の方法は、どちらから先にしても構わないが、EDへと移行するタイミングはをKPが測る必要がある。
〇「カイン」―――そう名乗ると、今まで無音だった世界が激しい轟音と共に揺らぐ。
蛇たちが再び羽を広げ騒ぎ出す。
『カイン!おとうとごろしのつみびと!カイン!のろわれたなまえ!』
『ここはつみびとのためのばしょじゃない!』
『そっこくここからたちされ!』
その目には敵意はなく、単純に「主」にカインという存在を告げようとしているように感じる。
「カイン、さよならよ。ここに貴方のような罪人はいてはいけないの」
女性も同調したように口を開く。
「私は―――イヴまたはエヴァと呼ばれる者。そして、ここに眠る私たちの主は、―――アダム、アベル……儚い者、空虚……」
〇実を取り、口にする。
木のナイフを使わなければ、固い枝によって手にするのを遮られるだろう。
その赤い実を口にする。それは、―――知恵の実。ヒトを、人足らしめんとする「神の御業」。
目が開く。「……カインじゃない」と、思う。「―――――だ」名前が浮かぶ。一文字一文字。
だが今ここでそれを口にしてはいけない。
「カイン」だからこそ、ここを出て行けるのだから。
カインと名乗った探索者の目の前で、ガシャン!と硝子が砕け散ったような音と共に天が割れ、雪のように微かに煌めいて消えてゆく。
大樹は衰え、葉を落としていく。
「だいじょうぶ、貴方にそう、見えているだけ。貴方に楽園にいる資格はない、それだけのこと」
水面に沈められた、イヴの手に指が絡んでいるのが見えた。それは、「アダム」の手だった。
「―――おはよう」
イヴの優しい言の葉は彼にだけ紡がれるのだ。そう思った。
「アダム」の目が、水面越しでも鋭く身を貫いた。輝く血色の瞳だった。(0/1)
激しい音と、揺らいだ水面にナイフと実を取り落した。太い根が体に絡む。
ぽちゃん、ぽちゃん―――ナイフと実が、水面に堕ちた音を最後に、視界が黒く染まり、夢は、途切れる。
<目醒め>
実を食し、「知恵」を手に入れてしまった人間は、「目が開けた」状態であるという。
そんなことを思考しながら、人間たる探索者は眠りから覚めた。
長い夢だった。カインなどと名乗った自分は、結果としてあそこから追い出されるように帰ってきたのだ。
選択肢がなかったとしても、これでよかったと思うのか。
それは探索者次第としか言いようがないけれども―――、「なにか」を反映した「理想郷」は、「唯の成りの果て」ではないだろうか。
難しいことは分からずとも、あそこは「自分自身にとっては理想郷と成り得なかった」。
そうして、再び現実に戻るのだ。
理想郷じゃなくても、楽園じゃなくても、きっと求めるものがある世界へ。
<ED分岐>
以下ED分岐
True END 求心の世界 以下三点をクリアし、生還する。
「カイン」と名乗り、仮初から追い出される:1d6
「知恵の実」を口にし、名を思い出す:1d4
「アベル」を殺さなかった:1d3
Normal END 罪人のなまえ 以下一点をクリアし、「知恵の実」を口にしないで生還する。
「カイン」と名乗り、仮初から追い出される:1d6
思い出せない本当の名前:SANC 1d6/1d10
「アベル」を殺さなかった:判定に影響なし、報酬なし
―――カイン、罪人、失楽園、大地に憎まれる、そんな、そんな繰り返しが頭に響いて、割れそうだった。
Bad END 大地と母の呪い 「アベル」を殺害したすべての場合。
「アベル」の殺害:激高したイヴによって大樹が操られ、絞殺される。ロスト。
―――「この手に残る、赤い液体はなんだろう?」眠るように天へ逝った貴方を見送る輩は、皆そう思う。
※POW対抗にすべて成功した場合の探索者のみに適応
→NEに分岐した場合のみ、名前を思い出せないという状況が軽微になる。SANCが1d3/1d6に減少。
カインと上塗りされてはいるが、本名を薄らに覚えているので、時間が経てば思い出せるかもしれない。
※もし、最初に『カイン』と名乗らずに、本名を名乗ったりした場合はNPCのRP説得で、『カイン』と名乗らせるように誘導する。
それでもなお、<失楽園>の項にて、『カイン』と名乗るべきところを本名などで名乗ってしまった場合。
→ Your Selection END 楽園
貴方が別の名を名乗った。その行為によって、現実への帰り道たる、貴方に与えられたはずの『カイン』という名は意味を失くし、掻き消える。
門は、貴方の為に開くことはもう―――永遠とないだろう。
それでもいいのだ、貴方には。
ここが楽園だと思った貴方には。
仮初を現実としてしまった貴方には。
この一つの世界で、衰えることも忘れ、貴方は気儘に浸透していく。
そうして、やがて本当の名も忘れてしまう程の刻が経ったのなら―――。
平穏に、何も苦しむこともなく、貴方の「こころ」には、終末が訪れるのだろう。
半ばを過ぎていた貴方には、死というエデンの方が近かった、それだけのことなのだ。
<その他事項>
旧約聖書創世記をメインに、「エデンの園」「理想郷」「終末」などというテーマで組み立て、書いたもの。
聖書他、実在する聖地や教会など様々なものを取り入れているが、現実のものとは全て無関係である。
聖書の内容を知っていたりすると、有利にもなってしまう。
逆にKPをする場合は、なんとなくでも創世記の話に触れておくと理解しやすいかもしれない。
「こんな理想郷よりも、現実の、この世界で生きよう」そう探索者が思ってくれると、製作者としては万々歳。
シナリオ内の用語については解説がなくとも、運用には支障がないと判断し、記載はしない。
大体wikiに書いてあるから大丈夫。
当シナリオは、宗教観などといった観念・意見などを否定するものではなく、あくまで個人解釈的に作成されたものであり、
このシナリオをプレイして発生した問題において、製作者は責任を負いませんのでご了承ください。
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