主に哀咲のTRPG(CoC)用wiki。ほぼ身内様向け。「そこのレディ、ティータイムの御供にクトゥルフ神話は如何かな」

概要

制作:哀咲
テキストオンセ:〜2、3時間
傾向:RP、ほぼ一本道

使用に関して:
改変、リプレイ等公開自由。制作者もしくはwikiのURLを明記してください。


シナリオ


<あらすじ>
本を、眺めてみる。………………。
この本はもっと、優しい名前だった、気がする。


<キャラシについて>
継続探索者推奨。特筆すべき頻度の技能はない。
だが、終盤のSANC次第では全て崩れる場合があるため留意すること。


<舞台>
玉座


<推奨人数>
一人

<敵対>
クルーシュチャ方程式 (マレウス・モンストロルムp204,205)-INT18以外も対象にする代わりに劣化している。


<その他事項>
制作には第六版を使用。七版での利用時には各判定などの調整を必要とする。
舞台は不明地だが、探索者の背景としては現代日本を想定しているため、他国籍や他国育ちを相手にする場合は細々とした表現に変化を加えるとよい。
本を読み進めるだけのシナリオである。
PCの親族や知人などで目立つロストした探索者がいる場合は、
本の語調をその者に近づけたり一人称を変えたりすることなど、大筋が通るならば思うように語り掛けてよい。


<記憶がない>
何をしていたのだろう。
節々が痛く、なにかに押し付けられてそのまま意識を失ったような。
手に触れた固い感触。本だ。誰の本だ?
ここは、なんだ?私は、俺は、ぼくは、…?
何を求めてる?
ただ、今、体を預けている椅子は、寝起きの目にはひどく痛むぐらいに、豪奢で繊細な彫りが入っている。
本を、眺めてみる。
………………「Take away」。
この本はもっと、優しい名前だった、気がする。不思議と貴方はそんなことを思って、顔を上げる。
真っ白だ。
雪が積もったわけでも雲で白んでいるわけでも、光源の上に立っているわけでも、目が瞑れているわけでもなく。
ただ白い。
色がない。三原色のしずくを吸い取ってしまえたのならこんな色になるだろうか?
空も土もない。
だが、貴方は一つの椅子……造りからして、「玉座」という言葉が一番合うのだと思われる、
正直快適に過ごすには適さないそれはその白の中でもはっきりと輪郭を持っていたし、認識もできた。
できればクッションか何か、一つ自分の身体と玉座の合間に挟んでおきたいところだが、生憎のところ、手にあるのは分厚い革のハードカバー。
冷たい椅子に、なにを語るわけでもない本。
空間に根付いているはずなのに、椅子から離して探るように動かした爪先がつかむことのない床、土、
少なくともこの玉座がここに平行に立てているわけを成立させる「もの」。
何もない。
求めているのは何も。(0/1d3)

まず、探すのは何だろうか。
恐らくは自分自身の何か。例えば意識が覚えているものを思い返す。ポケットなんかに何かが紛れ込んではいないだろうか。
記憶は、なんでもない。ありふれた日常。友人と遊んだとか、仕事で倒れ込むようにベッドに沈んだだとか。
引きこもっていただけの日であったとか、ゲームで脳を擦切らせたとか。
胸元や、腰のあたりを探ったとして。手にできるのはどうしようもない糸くず。
埃未満の埃。飴やガム、薬の包み紙。自分の髪の毛。存在を忘れていたポケットティッシュ。何かのイベントのチケットの半券。
自分が生きている、行動の先にここに来てしまったと証明しうる細々な存在ばかりが手に触れては白の中に落ちていく。

落ちる。

つまり、重力は確かにあってそれは自分の認識している方向に正しく働いている。
そして、思考を回すことを困難にさせない程度の空気がここにはある。
色の、明暗の認識ができる程度の照光もあると言えるのだろう。
少なくともすぐ死ぬなんていう事態はないと思えるが、身を預けられるものがこの冷たい玉座しかないのは、
できればここからすぐに自分の知っている何処かへ還りつきたいという気持ちにさせた。

<目星>:玉座は薄い乳白色をしていると思う。塗料で出すような色ではなく、ただ巨石を削って作り上げたもののようなそんな色だ。
思い浮かぶ石の名前は大理石。
<アイデア>、<芸術>、<制作>:色合いを見ていて思うことが一つあった。古代の彫刻がちょうどこんな風な色味で、
人力一つで削り上げられたとは思いたくはないほどの繊細なそれであったのだ。
<歴史>、<人類学>、<芸術>、<考古学>:ヘレニズムのそれが一番正解に近い気がする。
自然的なエネルギーを求めて描かれるそれらは「動き」に溢れ、纏った布を表現する美しい「ひだ」は恐ろしくすら思えるほど透明感すらある。
<地質学>、<博物学>、<化学>:大理石を用いたものであると仮定してよいだろうと判別できる。
ただ「一つの大理石」から彫られたものであるとすれば、異様なほど大きい。
恐らく「皮」だけであるとか、繋いだものであるとか―――貴方の知識はそう思いたい。
ただ、繋ぎ目は見当たらない。勿論、そんなもの見えない場所にしまい込むのが普通ではあるが。
<オカルト>、<心理学>、<天文学>:大理石にはパワーストーンとして、能力の成長を促す、冷静さを取り戻す、
夢の実現を手助けする、自らの願望を明確にする、といった力があるとされることを知っている。

冷たい石に走る、何かの植物をモチーフとしたもの。まるでこの椅子自体が誰かの身体であって、腰から流れる布のラインを描く「ひだ」。
よくよく見れば背面は仰け反っているのか、背筋を伸ばしているからか。どちらにしても目を引くのはきっと、翼であろう部位が存在していることだ。
椅子の背から生えているそれは途中で折れてしまっていて、その全容は窺えないが、鳥のもつそれではなく、どちらかと言えば滑空の為に使う被膜のそれである。
拭えない違和感。
きっとそれなりにメディアを摂取していて、ある程度勉学に時間を費やしていた、
現代における「普通」を経過していれば意識せずとも、彫刻作品として賞賛される「サモトラケのニケ」を主軸に、
大航海時代の木造船の帆先などを多量のイメージを当てはめて、対比させている状態に陥る。
貴方の中にあるそういう、「イメージ」が語るには、こういう翼は鳥の柔らかな羽毛が求められるのだ、と。
今この被膜である必要性とは、いったい何を語るのだろう。


<石上>
冷たい座に縫い付けられて何分経ったか。それとも何時間か。少しずつ体勢を変えても硬い感触は酷く骨身に染みる。
時の経過を空は教えてはくれない。影もだ。
何か、もしも事を進めたいと願っているのなら、手の内にある本だけが、その頁分の希望としか言えない。
もしも探索初期で落としていた(故意かどうかはさておき)場合、気が付けばまたそれなりの重量が戻ってきていることだろう。

「Take away」―――奪う、取り上げる、奪い去る……なんと訳して整えるべきか。

あまりいい意味ではないと思う。革のカバーは暗い赤を宿している。まるで乾ききった絵具とも、静脈から溢れた赤黒い血液のそれとも言える色。
色味のない遊び紙がその書籍の実直さと、つまらなさを伝えてくれる。目次はない。開いたとして、そもそも自分の読める言語だろうか。
それは杞憂のうちに消えた。

―――
私は、朝日に怯えている。私に来る筈のない清らかな明日に怯えている。来る筈のないソレに何故怯える必要があると言うのか?簡単な話だ。
私に、清らかなソレを享受できるほどの「純正」がないからに他ならない。
―――

読める言語が目の前に広がったことにも驚きだが、ホットスタートにもほどがある勢いのある単語。
突然なんの話かとも思うし、純正とはと気になる自分もいる、ただはてなを浮かべるだけではないのは、何故だろう。
明日に清らかも何もない。ただ流れる時間に区分として与えられた名前に善も悪もない。明日が怖いとか、朝日が嫌だとかはまだわかるかな。
明日が嫌なら、死んでしまえばいいじゃないか。それができないのならただのふりか、まだきっと手をかける段差があるんじゃない?

―――
しかし、こうして窓をすり抜ける朝日は酷く朱く、朱く。夜の終わりと混ざり合って紫色を産む。その光景を否定できない。
夜から朝へ。夕から夜へ。変遷する世界。無理矢理に睡眠を取ろうとして徒となった疲労感を拭えずに、その流れに流されてはまた落ちる。
繰り返す。
私は、繰り返す。
大事なものをどうにかして手元に引き寄せて、壊れないようにと、壊してしまわないようにと必死になり、
結果として大事なものにならなかったなにかを壊して回る。
今さら、怨嗟の声なぞどうでもいい。蛇が満足気に空を飛ぶのもいい。
私は「奪う」側であって、「奪われる」側には居たくない。奪われてたまるか。
また日は昇り、夜に帰っていく。夜は産まれ直すために月を数える。その数える合間に、私は奪う。
その原因が、私であるなど、知らないふりをしている。
―――

本末転倒。滅裂な言葉。それでも世界を美しく表現しようと言わんばかりのそれらに辟易する、
理解が追い付かない、そもそも蛇は空を「飛ぶ」ことはない。都合で滑空はするかもしれないが。
<生物学>、<アイデア/2>、<知識/2>:水平距離100mを滑空する蛇がいる(パラダイストビヘビ)のを知っているが、あくまでそれは滑空だ。

もし探索者が神話技能を持ち合わせていた場合、試してもよい。
成功すれば空飛ぶ蛇、に一種の勘、のようなものが働いて座っているその椅子の折れた被膜を見てしまい、背筋に冷気がまとわりつくだろう、(1/1d3)

書き手が何を思っているのか、これは未知数だ。ただ、少なくとも喜劇の類ではないことは確かで、
人様の懺悔を聞かされているような気持が喉を掠める。どうでもいい、知らない、意味が分からない―――表現できる言葉はたくさんある。
読むのをやめようと思えど、手が本を閉じてしまうことを許さない。頑なに閉じることだけは。
まるで表紙が張り付いてきている、いや。続けろ、と言わんばかりに。

<目星>に成功すると、たくさんの言葉の中に紛れるように、何かの数字がいくつか散在していることに気が付く。
だが、それらは前後の繋がりもなければ脈絡もなく、文節の位置も守らず自由奔放に紙に散っている。自分の遊び場のように。

―――
世界には、信仰というものがある。それはいいんだ。その信仰が、とても
―――人を救うような存在ではなくとも、崇める人間がいる限り、その神とやらは息づいている。
知っている者がこの世界七十億のうち一人でも存在してしまえば、その信仰は成立している。
だから、きっと、神はいなくなりはしない。いい意味でも、悪い意味でも。
鶏が先か卵が先か、程度の話なんだろう。本当にそれを目指していないものが考えるにはあまりにも重いテーマだろう。
私は、悪い神ばかりを知っている。なんなら何度か挨拶ぐらいはしたさ。まあ、意味などない行為だけど。
悪い神を知っているから、私が悪なわけではない。ただ、「知っている」人間を探している信仰者は何処に行けども居るもんだ。
私は神と挨拶が交わせる程度に知っていて、そういう人々は神と逢いたがる。焦がれている。だからこそ、私に神に逢う術を問いかける。
私は答える。その面談をする為にどれだけの犠牲が出るか分かったもんじゃないからやめておけ、と。
まあ、そもそも「会える」と思っている人間が止められるなら、私だって強硬手段はとらない。
大体がそれでも神を求める。その犠牲の枠幅に自分たちが、家族が、恋人が、世界が含まれる可能性を考えない。

世界よりもほしい報酬なんてない。家族よりもほしい報酬なんてない。

報酬がいらないなら、喉から手が出るほど欲しいものを報酬としてしまえと行動するのがあいつらで。
質にされないように私も動く必要がある。何度も何度も小競り合いが起きては、私は私を「規格外」とするものを使って叩き落とす。
それがあいつらが欲しがっている神の末端のようなものであるなんて、一切を金繰り捨てるように無視しながら。
―――
その天秤は、酷く歪んでいるように見える。(1/1d3)

数字に気が付いている状態で、<アイデア/3>、<物理/2>、<幸運/2>などで、
頁の動きに合わせて散在する数字が綺麗に並んでいっているのではないだろうかと、ふと信じがたいようなことを思う。
もし、頁を透かしてみたりするなどの行動をすれば、散らばったものが一つに合致していくさまが見て取れるだろう。(0/1)

INT18のステータスを持つ探索者は、上記のことに気が付いた際、<知識>や<アイデア>を試みていいだろう。
成功した場合、見たことのない「方程式」だと思い至る。


奇妙な話を語っている。だが、世界は変わらない。足は相変わらずふらふらと惑う。
風も吹かず、地も鳴ることもなく。ただ貼りつくように開かれた本と、ほんの少しの指や手の腹が、汗をかいているのを感じる。
白が目障りだ。もう帰りたい、逃げたい、終わりたい。様々な思いが錯綜しては溜息となる。
張り詰めた弦を刺激すればいずれ切れることなんて、誰しもが知っているだろうに。

―――
そう。この問いかけは終わらない。終われることなどない。まさしく私の死の床まで続く。
鶏が先か、卵が先かなんて、分からない。それこそ「それ」を観測できない限りは、分からない。
確定しないブラックボックス。私が手を伸ばした瞬間から始まった悪夢。
いや、悪夢などと称しては、今までの歩み全てを否定する。その道中に手に入れたものを拒んでしまう。失くしたものを忘れてしまう。
忘れてはいけない。失くしてもいけない。拒むことなぞ、猶更。
私は、どの世界の私だろうと、そうしたし、これから後を追ってくる私もそうだろう。
きっとそれが正しいと思って踏み出してしまう。毒を食らえばその毒を塗り替えていけると願う。
そのせいでやがて、こんなに惨めに、邪悪に堕ちて、悔いて、それでも―――。
いまあるもの。
今、私を私と差すもの。私が生きる理由の為に、毒を食い、悪を飼い慣らし、闇を呑み込んで、世界を見下ろす。
見下ろしたとき、世界は語る。

世界はチェスのように、決まり手はないのだと。
決まり手がなければ、反則でもして必勝を成すしかない。負けてはいけないのが私。
負けたらそれは、死と同じで、私が死んでしまったら、…?
―――

何故そこで思い悩んだ?そこまで断定してなぜ首を傾げる。
負けてはいけないのなら、その通りに振舞うのは当然であって、異質なことではない。その戦いの勝ち負けがどういうことはともかくとして。
まだ玉座の周りは何も起こすこともなく、変わることもない。まだ頁が足りないのか、何かを見落としているのか。

<聞き耳>に成功すると、遠くという感覚を表現するには難しい世界ながら、風を切る質量の音が聞こえる。それを人は羽ばたきと称する。
この存在にあえて近づきたいと考え、アクションを取る探索者の場合、<聞き耳>を35%でロールする。
成功した場合、敵意のない「狩り立てる恐怖」が目の前に現れるが、最後の段階まで行かない限り派手な行動はしない。
また、この空間にいる「狩り立てる恐怖」はすでに召喚/従属されたものであるため、探索者からの従属の呪文などは効力外となる。

―――
河が、真上からの陽かりに照らされて煌めく。山が、その裾野の影を描く。雲が質量を以って立体を成す。
道が天露で時折光を持って、明暗を産む。擦れ、熱を持ったものが雷となって塔の上に奔る。
空の冷徹が子をなして雹と雪と落ちる。月が恋しがって波を呼び、海は混ぜられ命をつくり続ける。
砂が人の手に係ると透明になって、世界に溢れる光明をまねる。雷を人の手に落としたが故に世界は明るいまま。
金銀が手に入るものとなれば、価値が転げて、石ころに力を見出し縋る。木々を燃やしたのは自らなのに、苗を植えて誤魔化そうとする。
時間が全てを変質させては、懐かしむという業となる。

時間が、見せてくれるものが、ある。
―――

どこか痛烈な語り草だ。
その痛烈さに胸のあたりに実際の痛みさえ覚えてしまうだろう。

<医学>:感情の起伏に由来する痛みにしては、はっきりとしていて何かの症状ではないだろうかと考えてしまう。(0/1)
<心理学>:何処か同情や、何かに近い感情をこの登場人物に持っていることに気が付く。
<精神分析>:語り部が酷く錯乱しているさまが目に浮かぶようだ。それでも個を捨てていない、棄てられない姿は目も当てられない。(0/1)

―――
未来。
これからどうなるか観測できない「時間」。その流れが、皆の時間の流れが、私に、無情なほど、生きろと願う。生きろという。
世界を美しいとみるこの眼が先を求める。破滅であろうと栄華だろうと、退化だろうと進化だろうと、それはそこにあるだけで素晴らしいと定義すべきもの。
簡潔に述べるのであれば。

寄り添ってくれる人の最期を見届けたい。友人と語らう時間を失いたくない。
子供たちが強くなっていくさまを誇りたい。血肉を分けた兄弟たちを失望させたくはない。
私は私でありたい。

そういう未来を、見たい。
だから、でも、それで、血の雨を降らせていいわけが
―――

振り出しに戻るとはまさにこのことだ。
同じ話を繰り返して。でも、それは確かな思いなのだろう。
ちくりとまた、胸に刺すような痛みが走った。押さえても何もなく服に皺を刻むだけだ。いったいなんだろう。

―――
笑うな。嗤うな、嗤うんじゃない、黙ってくれ、ああそうだよ、愚かで何がいけないんだ、
私が求めるものと世界の乖離がなんだ、私の手が非情を打ち続けてどうしたっていうんだ。
生きるために手を打つことを恥じてどうする。
生きるために食らう。
生きるために、最善を。
―――

このころには風を切る音が間近に聞こえてもいいだろう。姿は遠く、影程度にしか認識はできないが、それは蛇に翼を取ってつけたような、
物語としてはワイバーンと表現されるものか、足はなくただ長い躯体を滑らせるように羽でこの世界をくるくると回る何かがいる。
ちくちくとした爪の長い指が頬をつくような痛みだったそれが、どくんと脈動をはっきりと邪魔する鈍痛となって襲う。
頬を脂汗が伝う。だが、まだ耐えられないような痛みではなく、間隔も長い。だが、間違いなく死に至らしめるものだ。(1/1d6)

白の中に飛び交う影を目で追う。汗が何処かへ落ちていく。呼吸が早くなる。どくりと傷む。下を向く。気が付いた。
ちょうどこの玉座の下方だろうか。遠い距離に黒い円がある。まるでぽっかりと空いた穴のようだ。
吸い込まれそうになる。真っ白の中に浮いた黒は、酷く救いに見えて仕方がない。

貴方は選ぶことができる。穴に飛び込んでみるか、まだ先を見てみるかを。


奪え、
頁をめくった。
そこには今までになく、真っ黒なインクが敷き詰められていて、黒い紙を用いたと言った方が正しく見えるほどのものがあった。
数字が散らばっているさまも、言葉もそのインクにほとんどを掻き消されて、読めはしない。
ただ、そこに白いインクが落ちていなければ完璧に消せていたはずだ。

―――
飛び込んでくれるなよ。
―――

這いだした黒い獣に抵抗するように黒い紙に現れる白いインクは、時折今まさにその攻防を行っているかのように黒に浸食される。

―――
痛いかもしれない。だが、一時のものだ。耐えろ。
これに、きみを塗り替えきる力はない。だから、耐えてくれ。
どうしてこんなふうにしたのか問いかけたいのかもしれない。どうしてきみだったのかとも
れは私にもわからない。気まぐれだから。
気づいているかもしれないが、この本には数字や記号が散っている。それを理解するな。
もうすぐ、その散らばったものが一個の数式となる。その答えもまたこれには刻まれている。
最後まで頁をめくり、蛇たちに本を向けてくれ。頁を食うように言ってある。
答えだけでは成り立たない。その過程も、一個の群体だ。
一つでも欠ければ、いい。
でもきみの手はきっと、本に囚われて動かせない。いや、だらこそこんな無茶な一手が打てる。
―――

蛇の影が近づいてくる。

―――
まで開かねば扉も開かないというのなら、最後までいくしかない。
最後まで開けば心を食われるというのなら、その手段を断つ。
生きるための手を選ぼう。
生きるための痛みを選ぼう。

ここまでやっておいて何を今さらかと思うだろうが、謝罪を。すまかった。

何のための謝罪かは、正直わからない。きみがここに来てしまったことは私の責任ではないし、
奴が現れることに関しても私の責任とは言えない。なんならこんなことになっているのはきみ自身の責任とも言える。
ただ、「もしかして誰かが」、と考えて対抗策を組んだ私がいることが引き金なのはわかっている。たぶん、これが謝りたい理由だ。
信じてくれとは甘い言葉だとも。だが、信じてくれ。
いうは、生きているんだ。
痛みを感じてくれ。がむしゃらに暴れてくれていい。分の悪い賭けと罵ってくれ。
そして願ってくれ。悪魔の蛇がきみを救ってくれることを。王冠の隙間をくぐって答えを奪え。
それが奴に対する最高の仕返しだ。
―――

脈動が、一つ一つが重く、胸を破りぬいてでもこの世に生まれようとする寄生虫のように痛みを寄せ始める。
目がくらみ、前が見えなくなっていく。這いつくばりたい。何かに縋りたい、でもここにはない、ばたついた足が大理石を蹴る。
打った肉はそれもまた痛みを呼ぶ。だけど抑え込んだ胸が一番、今何か、貫かれるような。
血でも吐ければよかったのに、そんなこともなくただ、ねじ切られるように、穿つように、なのに肉体の損傷はなく、何でどうして理由のない痛みが、心臓を叩く。
苦しい。
痛い。
熱い。
寒い。
生きて抉られているようだ。生きて、穴を穿たれるなんて。銃弾が爆発したような、火薬が詰め込まれていたかのような、爆弾が爆発した?
何処からともなく体の内にいた銃弾が骨をへし折る幻の音を聞く。
鋭く加工された骨が肺に、心臓に、柔らかな内部を抉っては突き刺さり、巡る血液が噴き出すさまを幻視する。
悶えて体を椅子に打ち付ければ、その振動で刃がまた中を割いて、身体の空洞を染めていく。
水の中でもないのに溺れるような、何処に縋る余地もない困難な呼吸。
ぐちゃぐちゃにされる。こわされる。なに、なんていえば、いたい。いたい、いたい。
決してこれは自分の身体に訪れていることではない。けれど、幻であるはずのそれは聴覚と痛覚を打ち鳴らす。(1d6+2/1d10+1d4)

「悪名高き神から、明日を奪え。」

蛇の羽ばたきが間近で。牙の煌めきが見えた気がして。
最後の頁をめくった。


どこかでかちりとピースが嵌ったような音がする。鉄錆の臭いがする。もうほとんど見えない。
吐き出すこともできない蝕みを罵りたくとも、呼吸をするだけで体が悲鳴を上げる。
びりっと、あっさりとした音とほんの少しだけ感じ取れた、痛みのなかに響く衝撃。
嗚呼。

ああ、奪った―――


<内気なはにかみ>
手から重みが離れていく。
奪った。
かはっ、と自分の喉奥から絞りだされた空気が痛みを吐き出してくれる。血が体を巡って、冷たくなった肉を温める。
冷たいものから体が離れた。
いや。
取り戻した視界で、貴方は見る。玉座が逆さまになって遠のいていく。いや、これは、自分が落ちているというべきか。重力が反転したかのように、上に落ちる。
蛇の影はなく。黒いなにかもいない。
手から本も零れ落ちて、落下の風に頁がばたばたと暴れているさまは悔しがっているようにも見えた。
もう遠くにあるのに、暴れるのを終えた頁の文字が読める。

―――
ああ、そうだ。
私の話は忘れてくれよ。どうやら作家の才能はないみたいだからね。
―――

ふっ、と口元が緩むのを感じた頃。
何か柔らかいものが背に触れた。独特の香りが心地よく、緑と桃色が世界に走る。
柔らかく、ふわりと体を包み、根を見せることもなく、視界一杯に広がってやがて眠りへ誘う。
それが何の花だったか。

「さあね」と。本の語り部は言うのだろう。

目覚めるころにはすっかり忘れてるのさ。


<奪い取った明日>

TE 「奪い給え」 痛みに耐え、王冠をくぐった
生還:1d10
奪い取った答え:1d8
篝火花の冠:1d6


NE 「内気」 痛みに耐えられず、発狂して生還した
生還:1d10
奪い取った答え:1d4
篝火花の冠:1d4


BE 「途切れた時間」 最後まで頁を捲らず、黒い穴に飛び込んでしまった
ロスト(物質的な死亡ではなく、クルーシュチャ方程式に呑み込まれて変質し、意識を無くす。)


<その他捕捉>
途中で読むのをやめ、白の中に飛び込んでもまたどこからか玉座に落とされるだけのループである。
本はクルーシュチャ方程式を再現する装置であり、最初から読んでいく(頁をめくる)ことで
散在している数字や記号が合わさって最終的に方程式の形を成す……つもり。
だがINT18の理解できる人間が自分で解答しているわけではないので効力としては弱く、
激しい痛みを耐え抜けばいいぐらいの代物となっている。発狂した場合はどうなの?という話だが、
「大理石」でできた玉座は「冷静さを取り戻し、夢の実現を手助けし、自らの願望を明確にする」。
自然的なエネルギーを描く彫刻がそれを後押しする。
花はシクラメン。「内気なはにかみ」。
また、そういう「機構」としてここに顕現されたものであるため、逆から読むという提案は受け入れられない。

玉座のデザインは勝利の女神ニケをモチーフに、心を奪う敵に対し、明日を奪い取る勝利を願って魔術的に作り出されたものと考えてよい。
迷い込むだろう人のための足場として存在する。とどめを蛇に任せたのはある種誤魔化しが効くからだろう。
悪魔さえも従える王の名は、ソロモン。

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