主に哀咲のTRPG(CoC)用wiki。ほぼ身内様向け。「そこのレディ、ティータイムの御供にクトゥルフ神話は如何かな」

概要

製作:哀咲
プレイ時間:テキストオンセ 3、4時間前後
傾向:クローズド、ソロ推奨
トレーラー協力:空鮫 さま





使用に関して:
改変、リプレイ等公開自由。制作者もしくはwikiのURLを明記してください。


シナリオ



<あらすじ>
彼女のゆくえを探しあて
その唇にキスをして手を取り
まだらな草地を歩きまわり......


<キャラシについて>
基本的な技能に加え、地質学やナビゲートといった自然に触れるような面の多い探索者が有効と思われる。


<舞台>
理想郷「アルカディア」-ギリシャの一地方。実在の地域としては山岳地帯で農耕には向かない当時としては貧しい地域であり、牧畜を中心にしていた。
原始的で隔絶された田舎での牧畜生活が、素朴な牧人の楽園として描かれ理想郷として名を連ねることとなった。


<友好>
御崎 時臣-ロストによって帰り路が分からない人だったもの。弓を持っている。


<敵対>
ヴルトゥーム(マレウス・モンストロルムp147)-花の形をした神、火星にて不死である代わりに長期の睡眠を行う神。直接介入はない。
ショゴス(マレウス・モンストロルムp57)-ルートによって出現。


<その他>
世界背景を「いつかの...」を初めとしたいくつかのシナリオの大部分と共有する。
探索者を継続させる必要はないが、キャンペーンを組むこともKPの技量次第ではできるだろう。


<居眠り追い越しの先に>
貴方は帰りの電車に乗る。今日一日を振り返ることもなく、ただ疲労を背負った体を運よく空いていた席に沈めて荷物を抱える。
瞼が重い。瞬きを繰り返し、光を必死に摂取してもその目は暗闇に落ちてしまう。
ふわりとした酩酊のなか、荷物の重みを抱える手の平だけがどこか現実を示唆しているようで、
完全な休息ではない少しの不満が心を過った頃、がたん、と車両が大きく揺れた。

静寂が訪れる。その静寂の中でただもう四肢を伸ばしきって眠りこけてしまいたい。
そんな欲求が心を埋めるのも当然のことだが、貴方の肩を誰かがつかんで揺らしている。
車掌だろうか、自分は寝こけ、終点まで来てしまったのではないか。そんな少しだけひやりとした気配に体が飛び上った。
目の前にいるのは車掌のような人ではなく、まだ幼さが残るような青年だった。(0/1)

この時点で探索者自身が乗っていた車両部、後方車両一つのみが残されている。
後方の車両は扉が歪んでいて開けることが出来ない。現在の車両を一通り見ても置き忘れた新聞や傘もなく、
どこか年月が経ってしまったかのように古ぼけた印象を受ける。
くすんだ窓の向こうは、一言で表せば黄色い世界が広がり、車両の扉は開ききって開閉の機能を失っているようである。
探索者を起こした青年は背中に何か背負っているが、それ以外に不審な点はなく、普通の日本人だ。
「目ぇ覚めた?」
色々と困惑するだろう探索者を目にして自分も困惑しているかのように青年は眉を顰めながら口にする。
この青年は基本的に聞かれたことには答える。意図して嘘をついたりすることはない。

*質疑応答
・名前:「時臣。……だったと思うわ。うん、ちょっと自信ないけど」
嘘はついておらず、確かに本人は時臣という名であった者だが、今はその名を失うぐらいのことが起こっている為、本人は自覚なしに本名か不安に思っている。

・背中の荷物
見たいと言えば背中から降ろして見せてくれるし、必要があれば触らせてくれる。
専門の知識がないとはっきりとした情報は得られないが、「弓矢」であることはわかる。
スポーツ関連の知識に長ける職業などなら<アイデア>などの判定を持って、この「弓矢」一式は「洋弓」「アーチェリー」と言われているものであり、
日本人が早々持っているものではないことを理解できる。
もし<洋弓>に関連する技能を持っているなら、見た瞬間にそれがアーチェリー競技用のものであると分かるし、
それが「フィールドアーチェリー」と呼ばれる森林などで行われる競技用であるとも分かるだろうし、
その弓が「コンパウンド」と呼ばれる力学と機械的な要素で組み上げられた近代発祥のものだとも判別がつく。
それに伴う他の細々とした器具(スタビライザー、スコープなど)も所持している。
(化合弓とも言われるように、端には滑車がついていて少ない力で弓を弾くことができる設計になっている)

・ここが何処か
「ごめん、分からない」とだけ話す。実際時臣が知るこの世界の要素は野山の裾野のようで、森林があったり丘があったりという感覚的なものばかりだ。

・ここの住人ではないのか
「……いや、此処にはしばらくいる、かな。うん、ここら辺は動物が多くて」
首をかしげながら答えるその青年に違和感しかないが、それでも彼は嘘を言っているわけではないので、心理学はたいして意味を成さない。

・動物が多い
そのままの意味であり、彼はその動物を時折狩っているらしい。
何故だかわからず何の意味があるかもわからないが時折その弓で射抜いて、とある樹の根元へ持っていく。
曰く、そうしてくれと頼まれているような気がする。だからだ。言葉を添えるなら「女神(アルテミスなど)がそう言う」からだ。

他のことは基本として「わからない」と返答する。必要最低限の事項しか知らないし感じてもいないようだ。
探索者のことについては彼もわからず、珍しく建造物らしきものがあるから入ってみれば探索者が寝ていたと言う。
現代っ子のような素振りの青年が電車車両を「建造物」と評することに謎を覚える暇はなく、青年はさっさと荷物を担ぎなおして外に出て行く。
探索者を客人として見るわけでも迷い人として見るわけでもないようで、人がいたからという理由だけで行動していたのだろう。


<弓の撓る音>
探索者は彼を追いかけるなどといった理由で出て行かない限りは車両部にいることができるし、一度出てもその車両はそこに存在し続けている。
だが、振り返り見た車両は廃線になって幾数年も経って朽ち果てた、どこか日常とはかけ離れた光景となって貴方の目に入る。
そしてそれを包む背景自体もが、ここはいつもの日常ではないと口にしているかのようだ。
曇った窓から見えていた黄色は、腿辺りまでを覆うほどの高さの花々であり、黄色とそれを支えるための緑しか見えない。(0/1)
<博物学>:種類は様々で世界のありとあらゆる黄色を宿す花をかき集めたかのようなキメラのような花畑だ。花の分類から居所を知るのは不可能である。
<地質学>:土は知る限りで言う「褐色森林土」のような色、手触りをしている。温帯〜冷帯の地域では平均的なものであり、異常性はない。
見渡す限り黄色しかないが、探索者が外に出て周囲を散策し始めた頃に、弓が引かれ矢が空気を割いて飛ぶ、独特の音が聞こえてくるだろう。
探索者が目標にできるのはその音ぐらいだ。

もし最初から時臣についてくるようであれば、時臣が急に弓を構え、矢をつがえる様子を見て少し困惑を覚えるだろう。
けれども彼の視線の先を追えば何かが黄色を揺らしていることに気が付く。

時臣が放った矢は近くで見ていればすぐに見えなくなる。遠くからそれを目にしたのなら、太陽の光を反射させながら飛んでいくそれは恐ろしい速さであり、
とても自分たちがイメージする古い「弓矢」とはかけ離れたもののように思える。
空気抵抗などなかったかのように真っ直ぐと飛ばされた矢はやがて、動いていた黄色の中から断末魔をあげさせ、そこだけを赤く染めた。
時臣が黄色を分け進んでいき、やがて赤色になったそれを持ち上げる。
片手で持ち上げるにはあまりにも大きく見える、猪のようであった。(0/1)
「あんたか。……ここらにはこういうのが一杯いるからどっか行くなら気ぃつけろよ」
時臣はそれを当然のことのように伝達すると、矢を引き抜いて矢じりについた血を何かの布で拭って、元の矢筒に戻す。
そして仕留めた猪を抱えてまたどこかへ立ち去っていく。
彼を追いかけるか否かは探索者の好きにするといいだろうが、時臣に続かなければ何も知らない探索者はこの黄色の中で迷子になるしかないだろう。
時臣についていけば、彼が分けて進んでできた野道を歩くことができる。大量の花も、足を包み込めば重荷でしかないとありありと告げるようだ。
彼が行く先を見ると遠くには黄色ではない緑や、茶色がようやっと見えてきて少しだけ目尻を下げることができる。
<目星>:木々……つまり森を形成しているように見える。手前に隠れ切らない背面の大きな木々を見るに、少し丘のように競り上がった場所があるのだろう。
<聞き耳>:花の中に混じって、砂糖を思わせるような甘い匂いを感じる。
<芸術>など香りなどに使える感覚的技能:砂糖を思い浮かべるが、それとはまた違った濃さを持つにおいだ。
甘すぎるが、何処か花の和らぐそれも持ち合わせていてふわふわとする心地にさせる。(0/1)
時臣に香りのことを聞けば、森の奥にあるリンゴの樹だろうな、とこぼす。
探索者が知る限り「リンゴ」はここまで甘ったるい人間ですら捉えられるほど濃い状態で香るなどということはないはずだが。
時臣は抱えた猪を時折抱えなおしながら、さくさくと歩いて行く。その足が草で擦れ、小さな擦り傷が出来ても何も気にせずに。

時臣に<目星>:擦り傷が消えたように見えた。(1/1d2)
時臣の行動へ<聞き耳>:草を分ける音に混じり、じゅっ……と何か焼けるような、
溶解するようななんとも言えない音が聞こえた気がする。(0/1)

森へ踏み込む前に、時臣は探索者がついて来ているかどうかを一度確認する。
あとから追いかけている状況なら、探索者が近くまでやってくるのを待つこともあるだろう。
彼の脚にあったような気がする擦り傷は何もなく、汚れもない。
「森んなかは棘とかもあるから気ぃつけろよな」
それだけ告げて、また行軍を再開する。


<文明の残り滓>
黄色の地平線を超えて現れた茶色と緑や、赤に近い色を混ぜた暗い世界へ足を踏み入れる。
先に時臣から聞いた通りに木々は茨のように鋭く枝と葉を伸ばして互いを攻撃しあっているかのようだ。
鳥の気配もなく、何処か死んでいるような森だと探索者は思うだろう。
黒い土が湿り気を帯びて独特のにおいを発する。それに混じる甘い香りは酷く気持ちが悪いもののように感じられる。
その土の上に狩った猪の血が零れた瞬間、蒸発するような音を立て、跡は消えた。(1/1d4)
時臣は光が差し込む道を選んで進んで行く。
時臣の後をすぐ追っていくのなら森の中を進むのに障害は少ない。時折<目星>や<回避>などで棘や茨、枝の先を避けたりする必要はある。
少しの間を置いて追いかける場合は<ナビゲート>もしくは<地質学>、<追跡>などを利用する。

何にせよ森の中を歩いていた探索者の足元が、何かに引っかかり、危うく転び掛け、土に手を付ける。
その湿り気を帯びたものは腐葉土の感触に似ていて決して無為な気持ち悪さを発生させるものではなかったが、
何に躓いたのかと咄嗟に振り向いた探索者が見るのは、半分ほどが土に埋まっていて溶かされている様子の扉……そのドアノブであった。(1/1d2)
どうしてそんなものがあるのかと顔を上げ、立ち上がる探索者の視界にはようやっと様々なものが茨の合間から現れるのだろう。
ブロック塀のような石の崩れた何か。椅子のような四つ足のもの、遠くの陰に隠れてはっきりとしないものは、何かの建物だったものだろうか。
どうして気づけなかったのかが分からないほど、それらはよく見えた。

「どうした、大丈夫か」

しばらくすれば時臣が異変に気付き、声をかけてくれる。彼は視界のものになんら興味を示しておらず、
指を差すなどをして誘導しても「よくわからない」とだけ述べる。
見えてはいるようだが、それがどういったものかを理解できないようである。
<心理学>や<精神分析>などを用いても彼は嘘をついているわけではないことしかわからない。知らないことを申し訳なく思う素振りもない。
彼は純粋に探索者を心配して怪我などをしていないか見てくれるが、それをどう感じ取るかは探索者の警戒心次第だろう。
探索者に怪我がないことを確認すれば、立ち上がらせて時臣はまた歩き出す。
その先は何処か開けた場所のようで薄暗い森のなかを一転、太陽光で輝いている。
不安を抱くかはともかく、探索者を出迎えるのは僅かなさざめきにも似た水の流れる音だ。
鈴のように転がるその音自体は何を不穏に思うものでもないが、黒い森を抜けた先の光り輝く湖の岸辺などというものに何の期待を抱けるのだろうか。
その湖の水源は地下であるらしく、泡が時折水面を揺らしている。僅かにくぼんだ所から水が流れ、森へ消えていく。
湖を覗き込めば探索者はすぐ気が付くだろう。土の断面が晒される透明度の高い水の中に、たくさんの十字架が建っていることに。(1/1d4+1)
だがその湖には藻や水草が芽吹き、魚……
<博物学>などをしても探索者の知識の及ぶ範囲に知るその姿はない―――、水棲の昆虫などの多くの生命が営みを続けている。
十字架もその世界の一部でしかないように、草が絡まったりして魚の隠れ場所になっているようにも思える。
その十字架の根元が僅かに膨らみを持っているように見えることだけを除けば、知っている自然の在り方そのものであるのに。
純度の高い水の香りが混じるせいか、此処は少しだけ甘い香りが薄らいでいる。

ここで時臣が行動を起こす。猪を足元に降ろし、矢の先を使い器用に毛皮をはぎ取って、
というにはあまりにも乱雑で力任せの為に抉るように近い行動であったが、確かに革を手にしてその肉は湖へと放り込むのだ。
ばしゃんという音が静寂を破る。湖の魚たちは瞬時にその陰を避けてから餌だと認識したのか食いつまむ様子が見て取れ、重い猪の肉は堕ちていく。
血に濡れた革を手にし、湖を血で汚しながらも時臣は立ち上がり、また歩いて行く。

湖に<目星>:赤色は水に広がっていくのではなく、なぜか何かの流動性を持って流れ、時臣が歩いて行く方へと続いている。


<血の色のせかい>
猪の血が示した先に向かい、湖の横を通りぬける。その時臣を追いかければ探索者には新たな景色が衝撃を与えに来るだろう。
足元のくぼみから流れていく血。赤いものが流れ出でた先を見れば、初めの黄色など生易しく穏やかなものだったもののように思えるほどに
鮮血のようなまぶしい赤が目を刺し貫く。
赤い花は少し窪んだところに群生しているようであり、後ろの丘を見ればその以降に赤はまったくない。この赤が何故に赤なのかは考える余地がある。

花に<目星>:花自体におかしなようすはないが、「その一帯」にしか咲いていないようである。
花に<聞き耳>:香りは一層強くなっているが、赤い花の香りではないらしく、赤い花自体は無臭に近いことを感じられる。
花に<博物学>:見目などを鑑みれば、「アネモネ」のように見えるだろう。

アネモネに<知識>:一般的に毒があり、手折ったりした際に出る液に触れれば皮膚炎などを起こすものであると知っている。
アネモネに<アイデア>:アネモネに当てはまる花言葉は多数あり、どれをどうとるかにもよるが、
「はかない夢」、「真実」、「希望」……「嫉妬の為の無実の犠牲」とあまり前向きなものではないと思い至る。
アネモネに<他言語:ギリシア>:ギリシア語で「風」を意味する通り、種子は風によって蒔かれる。
また、ギリシア神話に美の女神アフロディテに愛された狩りを好む美青年アドニスが産まれの伝説として残っている。

赤に動揺する探索者を手招きしながら、時臣は毒草の花の中を難なく歩いて行く。
時折彼の脚が花を踏んでしまい、液が流れ出ているはずなのに彼の肌に荒れや炎症の様子は一切ない。
時臣はアネモネをかき分け、その群生を阻むなだらかな円を描いているような丘の根元にたどり着く。
彼はおもむろに手の中の革を丘の地面に張り付けるようにして置いた。
何処からか甘い香りが勢いを増し、ばきりべきりと激しい何かが折れるような折ったような音が重なり合い、
やがては地鳴りとなって探索者の足を覚束ないものと変えて、丘を真っ二つに引き裂いた。
丘だと思っていたのがそもの間違いだったのだろうか。
大きく真っ二つに割れたそこから覗くはずの断層は影も何もなく色もなく、ただ延々の闇だけがある。
そしてその中を寝床にしていたかのように、探索者の頭上で光を遮るよう激しく伸ばされた枝が風に撓り、
軋んで黄金の実を宿した巨大な樹が目の前で傾いて今に地に伏しそうなぐらいに近い場所にあった。(1d2/1d4+1)
その大樹の枝先に先ほどの猪の革は引っかかり、地を滴らせて赤い花びらを揺らす。
すっかり薄暗くなったこの場でまともに動くのは時臣ぐらいのものだ。
「ん?なんだこれ、前にはなかったんだが」
時臣はそう言って、とある枝を手折る。見た目とは裏腹に重い軋みと鈍い音がして樹の全体が揺れ、実が少し落ちる。
その枝には何か手帳のような、襤褸切れに近い紙の束が、まるでそこで読み書きしていた人がいたかのように枝を挟み込むようにしてかかっている。
時臣自身は興味がないようで、それをすぐに探索者へ渡す。

紙自体に特別な違和感はなく、ほとんどが掠れて読めなくなっているようである。
触れた感触や見た目と重みの比較からして、水に濡れていたかのようだ。
掠れた文字ばかりの中、探索者の目はどうにか読解できる範囲を見つけ出す。

『革を被れば獣となろう。だが黄金は獣の目にも明らかで、それが不死というのなら猶更であった。』
どこか物語の語り口のようで、これはもともと物語の何かの断片かとも思い至る。
『不死の果実を抱く女神は時にして枝から零れ落ちた。それは不死を失くす出来事であった。女神は胡桃で持ち帰ろう』

もし探索者が古代ギリシア神話、北欧神話群といったものに通じ、詳しい人物と判断される場合は、
上の文を「カリュドーンの猪」、「黄金の果実」を思わせる文であること、
下の文を「神々の食事である不死を与える果実の管理を担当する守護女神、イズンを彷彿とさせることを理解させる。

紙切れはまた擦り切れた身で言葉を語る。

『彼女のゆくえを探しあて
 その唇にキスをして手を取り
 まだらな草地を歩きまわり
 時が過ぎるまで摘もう
 月の銀色の林檎を
 太陽の黄金の林檎を』

いつ頃からだろうか。
木々の影だと思っていた暗がりは「夜」のものであったのは。
この詩文を見た探索者が顔を上げれば、空は焼けて赤と紫、黒とを混じらせる夕焼けの色をしていた。
いや、もうほとんどが黒に染め上げられ、頂点にあった太陽は月にすり替わっている。
赤色は黒に混じって見えなくなり、風は冷たく頬から熱を奪う。
目の前の青年は暗がりの中、目の光を一層強くした様子でにこりと笑った。
「腹減ったろ。ここで飲み食いするならこれぐらいしかねぇんだ。旨いよ?」
差し出された果実は、何処か梨のようなものであり、足元に転がった輝くそれらとは違っていた。
よくよく見れば黄金ばかりが輝いていただけで、大樹には様々な実が寄せ合っているようであった。
林檎やオレンジに見えるもの、胡桃のような小さなもの……
土地柄も何もなく、ただただ人の願望の塊がそこには群れをなして生えているのだ。(1/1d3)


<夜の象徴するもの>
日が落ちていく。貴方はそれを見ている。目の前の青年は適当にもぎ取ったその果実を勧める。
<オカルト>があれば、「ヨモツヘグイ」といった
「神々や死者の世界の食物を口にしたら帰れなくなる」といった基礎知識は備えているだろう。
だが、その知識がなくとも。
アネモネの赤い花が散ったのを探索者の視界の端は捉えていた。青年を切り裂かんとその爪は向けられた。
風を切ったその手の平は毛皮で覆われ、黒く曲がった背中を探索者へ向ける。
一言で言うなら熊が森の中から青年の手の平の果実を振り払うように爪を振るったのだ。
その事実がどうとでも語られるが、その一振りによって「胡桃」が貴方の手元には零れ落ち、
青年の頭上には赤黒い、自らが仕留めた血みどろの革が、落ちていくのが見えるだろう。

時臣と名乗った青年は、体に猪の革が触れた瞬間、叫ぶ。それは人のものとも獣の咆哮とも言えぬあいまいなものだ。
けれども泡立つように暗がりの中、青年の形は確かに変わっていく。背負った金属の弓矢は土にいとも簡単に捨てられて、がしゃりと鈍い音を残す。
ざわりとした感触が背を這う頃には、青年だったものは巨大な、元の革よりも数倍は縦も横もあり弓のように曲線を描く牙を持った猪に成り代わっていた。
探索者との合間にいた熊はいつの間にか森へ逃げてしまったようであり、猪と探索者とを阻むものはない。
逃げる?
さて、どうしたらいいのだろう。猪というと猪突猛進という言葉ばかりが思い浮かぶが、案外猪はその言葉通りとは言えないものである。
巨大な猪が土を蹄で抉った衝撃で、地に堕ちた果実たちが空へ浮かぶ。
月の光できらめくその多くの中でも、黄金の果実はどうも猪の気を引くには十分であったようで、猪の目から探索者が消えたことは十分に理解できるだろう。

〇猪からの逃亡
猪は黄金の果実に気を取られ、最初は追いかけることはなくその場からの逃走自体はまったく問題ない。
だが、歩んできた道は夜というものでまったく姿色を変えてしまっていて、元の道をたどることも難しい。
湖までは戻って来れるだろうが、その先の森は特に暗い為、
<目星>-10%、<ナビゲート>、<地質学>、<追跡>-5%、<アイデア>-15%
といった技能に三回成功する必要がある。また、技能に三回失敗した場合、
猪の気は元に戻されて縄張りに侵入していた探索者のにおいをかぎ取って追いかけてくる。
逆に探索者はにおいに関する<聞き耳>はほぼ使えない状況である。

三回成功した時点で、黄色の花畑に戻ってきて、電車の姿をとらえることができる。


<不死の果実>
猪から逃げ切ろうと思うなら、こんな花畑のど真ん中にはいたくはないだろう。
探索者は元々身を置いていた電車の中へ逃げ込む。
探索者が逃げ込んできた瞬間、ぱっと明かりがついて夜を照らし出す。(0/1)
天井からじじ、というどこか耳慣れた電気の通る音が聞こえて、電気によって造られた明かりが探索者に影を造る。
ぷしゅ、と間抜けな気圧操作の音がして後ろのドアが閉まるのが分かるだろう。
どうあってこうなったのかはまったくわかりやしない。それでも息を整えた頃に、電車の蛍光が行き先を教える。

以降、分岐

・「胡桃」を手にして逃げ込んだ場合
「次は〇〇駅」と、探索者が見知った駅の名前がそこに描かれ、がたんと電車は一つの揺れで自らを取り戻したかのように滑らかに動いていく。
逆光でよく見えないけれど、追いかけてきた猪がまだ駆けているのが見えた。
それが猪かどうか、……いや、なんだかその姿は猪というより巨大なスライムのようにも見えた気がするが、きっと気のせいだと思いたい。
探索者は誰もいない電車の中、そのシートに体を預けた。

生還。TE。

・「リンゴ」「オレンジ」を手にして逃げ込んだ場合
「次は――――――」駅名がエラーを吐いたパソコンのように、古いテレビのようにノイズのせいで読むことができない。
けれども、なんだか不安が探索者を襲う。
けれど、走りつかれた体に必要なのは休息で、探索者自身それを望んでいた。
身体を誰もいないシートに預けた。
……遠くで、ぽちゃんと水の音が、聞こえた気がして。
「そなたらにはわかったか、どうだまだか?」
そんな問いかけが、頭を揺らして、穏やかに貴方の意識を奪っていく。

生還もしくはロスト、BE

・何も取得していない場合
そもそも電車は廃車のままで、反応も動くこともなく、扉が開くこともなく、閉まることもなく猪の侵入、半分はその牙で容易く折られてしまうだろう。
少なくとも此処に逃げ込んだことを後悔する程度の絶望が探索者を襲うのは間違いなく、その意識は猪の牙の切っ先に狩られ、戻ることはないのだろう。

ロスト。

・果実を口にしてしまった場合
猪に狩られる前に視界がゆがみ、暗くなる。体の感覚がなくなっていく恐怖すら薄れてやがて、なくなっていく。
ふと目の前の猪が美味しそうに見えた。
あなたは口を開いた。
巨大で真っ暗な、何処に在るかもわからない口を。

神話系生物に変化、ロスト。


・胡桃を木に戻す、キスをするなどの特殊場面
胡桃は木の枝へと瞬時に戻る。
目の前の猪は巨大な液状の怪物に見え、暗闇に溶けていく。
けれどもその体には無数の目があり、黄金の林檎を食い終わった後ならば、探索者をその目全てに捉えて追いかけるだろう。
この後、逃亡し電車に乗り込めた場合はTEルートとする。
※ただし怪物(ショゴス)を見てしまったSANチェックが発生する。


<はかない夢、薄れゆく希望、真実、君を愛す、嫉妬の為の無実の犠牲、希望、期待。>
EDに関する追記。

TE 「はかない夢、薄れゆく希望、真実、けれども期待を」
後遺症もなく、ただはっと目が覚め、いつもの駅で慌てて荷物を抱えて降りていく。淡い記憶に描かれたあの場所は何処にあるのだろうか。
いや、あっていいのだろうか。
恐らくは、ない方が、良いのだろう。

生還:1d8
守護女神の実:1d4
真実とはかない夢、希望:1d2


BE 「はかない夢、薄れゆく希望と真実、嫉妬の為の無実の、犠牲者」
後遺症を持つ生還、もしくはロスト相当とする。何かやらかしていると思えばロストさせるのもいいし、何も考えていないからこそ生還させるもいい。
PCを見て選ぶのも良いだろう。

生還時
重たい眠りから目を覚ます。終点ですよと揺さぶり起こされたまま、放り出されるように何処かもはっきりしない駅を出た。
あまり、記憶がない。分からない。
……自分は、どういった人間だったか?

生還:1d8
不死を求める果実:1d3
無実の犠牲者:自己に関する記憶障害1d10日〜1d3ヵ月ほど。


ロスト時
重たい眠りの中、瞼も開けられないまま。夜の中へ、落ちていく。
夜という、破滅の中へ食われるように、落ちていく。


変成ロスト時
もはや自我らしきものはなく、ただアルカディアを彷徨う獣の一匹になるだけだ。


特殊ルートを通った場合
TEの報酬に加えて時臣の弓、AF「アルカディア」を手に入れられる。(ただし受け取るかどうかは本人次第:車掌に起こされて忘れ物だと言って誘導する)
投擲系、射撃系技能の際、使用宣言をすると出目に補正+10%。ただし、ロール後にMPを3消費する。耐久力は1d20+10。
滑車のついた一般的なコンパウンドボウだが、弓に「Arcadia」と彫られている。矢以外の備品は全て揃っている状態(スコープなど)であり、
専門店などに持ち込めばそれなりの値段で売却もできるし、整備などもできるだろう。


<その他補足>
ギリシャ神話 黄金の果実、アタランテー、カリュドーンの猪、アルテミス、アネモネ、アドニス
北欧神話 不死の果実、イズン、「散文のエッダ」
他 ウィリアム・バトラー・イェイツ『さまようイーンガスの歌』より引用

時臣について
ロスト探索者で神話生物になってしまって自分のことを曖昧にしか思い出せずに理想郷から出られないままループを繰り返している。
それを可哀そうな子ととらえるか、自業自得の末ととらえるかはKP次第でありPLの感性にもよる。
形見のような形でAFを授与される場合があるが、形見とは思わない、思えない状況下ではあえてAF報酬なしもよい。

PCが生還後のアフターストーリーとして、アーチェリー選手や時臣の名を調べれば、
若手アーチェリー選手が行方不明などというニュースなどにたどり着いたり、探せば実際の試合の動画などを見ることができるだろう。
彼の名前は確かに「時臣」である。「御崎 時臣」。まだ若い、無垢に的を射抜いては裾野を駆ける、狩人の姿。

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