霧の雨が降る - シナリオ:蛍のかえりみち

概要

製作:哀咲
プレイ時間:テキストオンセ 3時間前後
      オフセッション 1時間〜2時間前後

使用に関して:
改変、リプレイ等公開自由。制作者もしくはwikiのURLを明記してください。


シナリオ




<あらすじ>
ふわふわと曲がりくねり、落ちては上がる淡い緑に見える光が一斉に辺りに浮かぶ。
満天の星空の下、包まれて人は、いなくなる。


<キャラシについて>
HO 警察官
出身問わず、とある場所に派遣された形になる。
「警察官」であり、「地域派遣」の対象になり得るのなら、新規、継続問わない。


<舞台>
地方都市 天火町(あまびまち)


<推奨人数>
一人〜二人


<友好>
警察官 御崎 駿(みさき すぐる) - 探索者の同僚となる青年。性格が合うかどうかはわからないが「いいやつ」。
最後の神隠し 御崎 きぬ - 駿の曾祖母。存命、八十六歳。旧姓「八坂」。


<敵対>
ルーメン(マレウス・モンストロルムp119)-光束。世界の「接合点」の守り人。


<その他事項>
探索者は天火町出身にはしないように。
「接合点」は、自然に存在する現世を横切る何か重要な場所とされる。
年に二回、真実を隠している帳が取り払われ、現世の正しい姿と恐怖がつかの間現れるのだという。
帳によって人の感覚では認知できないようになっている接合点に辿り着くのは、
余程勇敢か、無謀か、それとも自らその道を行かんとするものかというほど限られている。
「接合点」に動植物は近寄らない。ルーメンも敵意を向けられたり、
行為を邪魔されるなどしないかぎりこちら側に接触することも攻撃することもない。



<蛍火祭>
貴方は地方都市の天火という町に派遣され幾ばくかの警察官だ。
一時的な人員不足の為の異動で、当該地方管轄所課の人員補充が完了次第、
自身の希望する所課へ戻ることを約束にこの不思議な異動を受け入れた。
勿論「希望する所課へ"確定"で異動できる」などという美味い話があるわけはない。
ないのだが、貴方の同僚である「御崎 駿」が天火の出身であることから半強制的に異動が決まったと泣きついてきたのだ。
駿は悪いやつではないし、馬鹿正直だ。
「せっかく警察官になって町出たんに、戻ってきたらかっこ悪ぃやん!
二人とかならちょっと派遣されたよみたいな雰囲気出せるじゃん!今度飯おごるわ!!」
と、半ば押しきられたのだが、不思議と悪い気はしない。むしろ地元のやつがいればわかることも多いだろう。

 御崎 駿 警察官 26歳  HP 12 / MP 13 SAN 65/65 DB1d4
STR 12 CON 10 POW 13 DEX 11 APP 13 SIZ 14 INT 13 EDU 14
 法律 35% コンピューター 30% 運転 50%
 信用 60% 言いくるめ 30% ナビゲート 30%(+20%)
 目星 65% 図書館 60% 聞き耳 50%
 追跡 40% 応急手当 58% 拳銃 30% 組み付き 60% 回避 40%

基本的には彼とバディを組む形で行動することになる。また、駿は土地勘があるためナビゲートに補正がかかっている。
探索者も月日である程度の土地勘を覚え始めてはいるが、住宅密集地などになるとやはり駿の方が優秀という形になるだろう。
最初こそ異動を不安視していたかもしれない。
だが、駿の面子のため、奢られる飯のため、出世のため、すっかり今は善良な天火町民に笑顔を振りまいている。

駿がある日、いつでも暇な派出所内で陽気に話を始める。
「今日の夜な、蛍火(ほたるび)祭ってのがあるんだわ」


・蛍火祭
天火町の夏の祭り。六月二週目の日曜に開催される。成体まで育てた蛍を野に放ち、その光を追って町を歩きまわる。
蛍火を先祖の魂として考え、その導きを信じるという意味があるという。
最近は前日にある程度の範囲を網で囲うことで蛍の動きを一定化させているため、子供が迷ったりすることはまずない。
昨今問題視される、放流による遺伝子交雑についても、放流する蛍は地域内で確保されたもので、
遺伝子汚染が起こらないように岸辺の保全などを行うということで手を打っていて、
その手間を惜しまない程度にはこの地に根付いた祭りであると理解できるだろう。


「屋台もいくつか出るし、まあ、ほら。見回り行こうぜ」
要は、祭りを見回るという名目でサボろうぜ、どうせ二人しかいない派出所だから。ということだ。
しかりつける上司も居なければ、悪戯好きな子供が多いわけでもない。毎日の記録をきちんと書けば、時間の都合はいくらでもつくだろう。
「夕方には仕事も暑さもどうにかなるだろ」
と、駿は貴方と約束をすると案外真面目に業務に取り組み始める。こいつがいいやつと言われるのはこういうところだろう。
しばらくして日が落ちる頃には基本業務も終わり、一応の体裁として祭りの見回りと称して残業時間が始まる。
子供たちが集まって、いろんな屋台に立ち寄ってはしゃいでいる。
年頃のカップルが互いの浴衣姿をどう評していいのか言葉に悩みうつむくさまも見られ、
駿と探索者が「どうして自分の隣はこいつなのか」という思いを巡らせながらも祭の会場を警らする。
不審なところもなく、迷子になっただとか財布を落としただとかのちょっとしたハプニングも起こらず、平和な祭りの風景が少しずつ夜に染みていく。
赤らんでいた空が黒い絨毯になり、月や星が浮かぶなかも、しばらくは屋台の喧騒が祭りの主役を担っていたが、
九時を回る頃になると、適当に置かれたスピーカーが質の悪い音声を流す。
『蛍の放流を行います。参加する方は中央にお集まりください。』
その声で集まった子供たちが列をつくり、運営側から放流用の蛍の入った虫篭を受け取るさまを、
小学校のビオトープができたことなどを思い出しながらも、貴方と駿は見守る。
放流参加者に蛍が行き渡ると、運営がこちらですと子供の列を連れていく。
駿もほいほいついていくものだから探索者もその背を追いかけることになるだろう。

もし追いかけなかった場合は一部の導入をスキップして探索パートへ突入することも可能である。



<揺れる火>
この項目をスキップ(導入に参加しない)ことで適当な場所からすぐに次からの探索へ進むことができるが、
この項で発生する事案についての情報や、特別な発見を見落とすことになる。

拡声器を手にした案内役が、「どの方面でも最後には南の水路へ繋がるようになっています。
南の水路まで辿り着いた方から自由解散となります」と伝える。
南の水路について駿に確認を取れば、南の田園地域の大きな用水路のことであると分かる。
用水路に虫を放してもよいのかなどについて意見を述べれば、
「途中から網の隙間が大きくなってくから、南につくころには蛍は別のとこに飛んでってる」、
「隙間が大きいとこは蛍の生息地域だし、大丈夫なんじゃね?」という回答を得られる。

「では蛍の放流を開始します」

掛け声とともに虫篭から蛍が放たれる。ふわふわと曲がりくねり、落ちては上がる淡い緑に見える光が一斉に辺りに浮かぶ。
右を向いても左を向いてもどこからともなく緑光に囲まれ、道が分からなくなりそうな気分になる。
子供たちは自分の放った蛍を慌てて追いかけ、広々とした田畑の荒道へと進む。
「俺たちはこっち行こうぜ」
駿は適当な蛍をターゲットにし、追いかけ始める。蛍を見失っても道は一本道になっているようで迷うことはないだろう。
一定間隔で古ぼけた街灯がある道は、探索者の生きてきた世界観とそぐわないかもしれない。
遠くを見ても夜の暗がりで区切りすら怪しい視界で、真っ直ぐにぽつぽつと僅かな明かりだけが落ち、
その隙間を緑光が飛んでいくさまは幻想的とも言えるが、その分の恐怖感が煽られる。(0/1)
静かな世界だ。人工の光が少ない、穏やかな空気。透き通った空に浮かぶ星。
満天の星空と形容されるものを見るのはいつぶりだろうか。いや、もしかすれば初めてかもしれない。
「はあ、久々だわ。懐かし〜。お前の住んでたとこにはこういう祭り、あったか?」
神社や寺が何かの縁日を開いたり、街の催事としての祭り、様々な祭りは数多くあれど、
ただ蛍を追いかけるだけの祭りは確実に初めてだと言えるだろう。
どちらにしても、駿はそうか〜と間延びした返答をしながら、蛍を追いかけ続ける。
その背中が少し、いつもと違う気がするのは、雰囲気のせいか?

駿に<目星>:目につく差異はなく、自分と同じ警官の制服と制帽、装備を身に着けている。
駿に<医学>、<アイデア>、<言語:日本語>など:普段から落ち着きがある方とは言えないが、それが助長されているように感じる。
駿に<精神分析>、<心理学>:人と目を合わせて話す、歩調を合わせるといった点で気安くも駿の最大的な特徴と感じ取れていた
「根の真面目さ」、「気遣い」、「思いやる優しさ」といったものが見えず、今目の前を歩く、
いやもう走り始めた彼は、ただ好奇心で突っ走ってしまう少年のようだ。(1/1d4)

だんだんと足早になっていった駿は気が付けば、駆け出していく。
周りには誰もいない、明かりも見当たらない真っ暗な先へ。貴方の知らない領域へ。
声をかけて、引き留めても彼は夏休みの始まったばかりの少年のように、無邪気な笑い声を放って、駆けていく。
「あっちに蛍が行った、行こうぜ!」
虫網を持って、眩しい日差しの下にいたのだろうかつての少年の姿で。
追いかけても追いかけても、暗闇に混じった背中は見えない。
ただ目の前に浮かび上がった道は真っ直ぐしかなく、ただひたすら前に行くか、戻るかになる。
空は満天の星。足元は未舗装の田道。街灯はなく、遠くにほんの少し明かりが見えるだけ。
迷った?そんなまさか……―――。ふと、いやに冷たい汗が背を流れるのを感じた瞬間、
何かが弾けたような音がして瞬きをすれば、そよそよ、ちゃぷちゃぷとゆったり流れる水の音が意識を持ち上げさせる。
深夜零時を回ろうとしている。
まばらについた明かりが、家の在り処を差している。貴方が目にしたのは、コンクリで固められた水路だった。(1d2/1d4+1)



<まず声から忘れられる>
上の導入をスキップした場合は、この項における最初の事案「駿の行方不明」から話が続く。
前後の話の繋がりはKPPL間ですり合わせること。

深夜帯に歩くこともできるが、明かりも人通りもめっきり減る田舎の夜を出歩き人探しをするのはあまりにも難しい。
探索者はひとまず帰宅し、朝を迎えてから交番に戻る、駿の家に赴くといった行動が可能だ。
そもそも様子が変だったとはいえ、いい歳をした大人の迷子を不安視するだろうか?まずは、落ち着こう。

〇交番に戻る
交番は駿と共に後にした状態のままで人が戻った形跡はない。
ロッカーなどを確認しても駿の私服がそこにかかっており、着替えずに制服状態のままで何処か行方知れずになっているのが分かるだろう。
交番で住民の基本的な情報などを探りだすことができるが特筆すべきものは、現在はない。

〇駿の家
鍵がかかっている。戸締りも完璧だ。電気ガスのメーターも微々として動かない。
何らかの手段で家に侵入してもよいが、普通に生活の跡があるだけで駿に直接繋がるものはない。

別れてしまったのが深夜零時になる前だとしても、朝に帰った形跡もないのはいささかおかしい。
自分たちはシフト制とはいえ今日は二人とも出勤日で、無断欠勤するほど駿は警官という仕事を馬鹿にしてはいないし、不真面目でもない。
無邪気な声が貴方の頭の中を響いて回る。
「あっちに蛍が行った」
「行こうぜ」
「あっちに……」
「……行った……」
「ほた……」
ふと、頭の中の声を聴いて悩んでいた貴方は思う。
「駿って、こんな声だっただろうか」と。(0/1)
問題として認識すると明らかに異質と言えるスピードで響いていた声が遠のき、
ただの文字列が頭のなかに浮かぶだけの味気ない無色の記憶になっていく。
人間、忘れられるときは声からだという。にしても、早すぎる。

声をすっかり堕としてしまったかのように忘れた事実があまりにもおかしい。
ちょっと道を間違えただとか、そんなふうに言い訳できる代物ではない。
この悪質な何かだけが、探索者に与えられる行動理由だ。

ここから「天火町」を自由に行動し、探索することができる。
本拠は交番か自宅かのどちらかで、必要に応じて道具などを買い足すこともできるだろう。

・天火町図書館

・天火町役場

・南用水路

が、まずこの事件で赴くことができる場所だ。


〇図書館
天火町唯一の図書館。平日ということもあり人影は少ないが、空調が効いていて快適な場所だ。
この町の数人の司書が本の整理や保管に尽力している。
調査対象がはっきりしていれば技能を振らずとも書籍を見つけることができる。そうでない場合は<図書館>での判定を要する。

・蛍火祭について
『天火地域史 第三巻』
天火町の夏の祭り。六月二週目の日曜に開催される。成体まで育てた蛍を野に放ち、その光を追って町を歩きまわる。
蛍火を先祖の魂として考え、その導きを信じるという意味があるという。元は蛍狩りが発展した形であると考えられている地域行事の一つだ。
古くといっても江戸、明治初期の農民の貧困が相次いだ時代には特に、
先祖の魂に子供が連れていかれる祭りであったと言われ、一種の口減らしのやり口としても有効であった。
多いときは過半数が夜に迷い、山に入り込んだとも言われている。
事実として「天日山」では子供が身に着けていたとされる櫛などの腐食しにくいものが数点見つかっている。(1/1d3)


・蛍について
ホタル(蛍、螢)は、コウチュウ目(鞘翅目)・ホタル科に分類される昆虫の総称。発光することで知られる昆虫。
日本で「ホタル」といえば、本州以南の日本各地に分布し、5月から6月にかけて孵化するゲンジボタルだが、国内では四十種が確認されている。
ゲンジボタルの成虫が初夏に発生するため、ホタルは夏の風物詩と捉えられており、夜の蛍の発光を鑑賞する「蛍狩り」が行われる。
成虫の体長は数mm〜30mmほどで、甲虫としては小型〜中型である。体は前後に細長く、平たい。全体に黒っぽい体つきで、その体は甲虫としては柔らかい。

近年において、自然保護の気運と相まり蛍の放流が各地で行われるようになっているが、以下の問題点が挙げられる。
ホタルを放流したはいいが、川辺の環境や植生により定着できない
観光客がライトを点灯させ、ホタルの活動が妨げられた
観光客が道を塞ぎ、地域住民の交通に支障を来たした
川を汚さないようにと、子供たちの川遊びまでも禁止された
ホタルとコイ(水生昆虫などを貪欲に捕食する)を同じ水域に放流した など。
また、他地域の蛍、幼虫の餌にとなるカワニナ(巻貝の一種)を放流すると「遺伝子汚染」が引き起こされるため、推奨はされていない。


・蛍の情報を得たあとの「蛍火祭」についてさらに調べる場合
『天火町新聞 蛍火祭放流、疑念深まる』
蛍火祭における「蛍の放流」について特集を組んだ号の新聞。遺伝子汚染について触れている。
記者の質問に対し、責任者が「遺伝子汚染については認識している。地域で一定数の蛍を捕獲、生育し放流を行う方針」であると返答している。
記事は古いもので、年号は昭和となっている。


・遺伝子汚染について
遺伝子汚染とは、生物、とりわけ野生の個体群の遺伝子プール(遺伝子構成)が、人間活動の影響によって近縁個体群と交雑(浸透性交雑)し、
変化する現象を一種の環境破壊との含意を込め、批判的視点から呼ぶ呼称。
同じ生物種であっても、生息地域が異なるため遺伝子の交流を欠く、
あるいは完全に隔離されていなくても一定の障壁が存在するなどの理由で、
通常は地理的に異なる個体群(生態型・亜種など)相互の間では遺伝子の構成(遺伝子プール)が微妙に異なっている。
これをヒトに置き換えると、黒人や白人等の人種、
さらに細分化すれば白人であってもアングロ・サクソン人やゲルマン人等の民族など、異なった人種や民族に例えられる。
また、野生動植物の個体群と、そこから人為的選抜や育種、
さらには近年の遺伝子組換技術によって作出された多くの作物・家畜とでは、遺伝子構成が大きく異なっている。
このような場合、ある在来個体群の生息域に、別の個体群が人為的に持ち込まれることにより、
両者が交雑して純粋な在来個体群の持つ遺伝子プールに変化が生じる。
この在来個体群の遺伝子プールの状態の不可逆的消失および、その途中の過程を遺伝子汚染と呼ぶ。

日本の生物では「メダカ」、「サンショウウオ」「ヒキガエル」などがこの問題に直面しているとされる。


・蛍火祭についての「歴史的」資料
いくつか点在するが、どれも地域史の範疇のなぞりしかないが、資料元・協力として役場の名が挙げられている。


・天日山(あまひやま)について
天火町の南東部に聳える標高約二千ほどの山。町のシンボルでもあり、古くから親しまれた。
ちょうど朝日が差し込む位置が緩やかな丘陵部となっていて、山から太陽が顔を出すように見える。
そのことから愛好家の間では結構な人気がある。また、名前の由来は「太陽が現れる山」、「天の山」であるとされている。



〇町役場
天火町の行政を担う場であり、成人式などの一定の行事のために大きめのホールを敷地内に持つ。
特別目新しいものなどはないが、地域史を取り扱う区画があり、展示などを行っているらしい。
小学生などの社会科見学のワンステップ目がここなのだろう。
町役場では「警官」という立場を使い、ある程度上役の人物と話をすることもできる。
地域史の展示コーナーでは図書館と大して情報は変わらない。

それらしい理由をもって、地域史などの担当者を<言いくるめ>るか、<説得>、<信用>させることで
役場でも地域史に詳しい人物が貴方の対応を行うことになる。
その相手にどれほど情報を明け渡すかで返答も変わるが、一警官の求める「情報」ではないとその人物は看破している。
故に、人物を登場させることができればほぼ情報は開示されてよい。

・蛍火祭について
「江戸や明治のころの記録にはすでに祭りの名称が書かれており、当時から脈々と続くものと認識しております」
「蛍の遺伝子汚染については昭和のころに提示した通り、地域の蛍を元に生育した蛍を放流するという形で防いでいます。
また、一定の予算を蛍などを含む地域自然保護に割り当て、古くからの町の環境を壊さないように努めています」
「また蛍を追いかけていくうちに道に迷う子供などが出ますので、今では網を使ってある程度誘導をすることで安全化を図っています。
人員も増やして放流地域を見て回っています。ただ、あまり明かりを増やすと蛍の行動を阻害してしまうので、明かりだけは今のままです」
「蛍火祭で使うルートはどれも町役場から天日山へ向かう道で、一本道のものを選んでいます。
どれも最終的には田畑の用水路で止まるように設定し、かつ蛍が自然に帰れるようにならべく水の多いところ……ですかね。
人間は用水路を越えて田畑を踏み荒らして山に向かうことはしませんが、蛍は飛べるので」
「過去に、口減らしの意味を含めていたのは事実です。今を生きる我々にその責任はありません。
当時のように貧困にあえいでもいない我々がその事実を完全に理解できるとは思えない。
ですから、この事実を伝えることだけがかつて神隠しとなった人々に報いるものだと考えます」


・環境保護について
「この町は良くも悪くも四角形で、区分けの線引きがしやすい。
北は学校や大型商業などの施設が立つ発展型の町ですが、南側の山裾は今も手付かずと言いますか、川や田畑が広がる農業地区になっています。
そのため環境保護というのはほとんど南のことです。北でもゴミの分別、リサイクルなどは勿論ですが……」
「天日山は今でも多くの生き物が生息しています。狐、狸、鼠……蝙蝠。
そして流れの緩やかな川と生物にとって住みやすい植物の生息地帯となっています。その中に蛍も勿論含まれます」
「天日山は古くからの名所です。この天火町の朝日はあそこから差すものだと誰もかも思っていますし、
学校によっては天日山のある方が南だとか教えるそうで」


・天日山について
「あれでも一応火山の分類です。今は休火山なので登山もできます。昔の噴火でこの土地は肥えたものとなって農業で栄えました。
山とともに暮らすので猟師や林業を営んでいるところも多いですね。火山灰の混ざった土は水はけがよいので、サツマイモなんかがよく採れます」
「天日山は、朝日の出る場として一種の民間信仰のようなものを持ちます。富士山のご当地版みたいな。
名前の由来は朝日が必ずそこから現れるから、天の日がいずる山ということらしいです」
「山道の半ばには社もたてられています。無人で、管理は町が。
年に二回基礎点検をして、台風が来たときは緊急点検を。賽銭箱の賽銭は管理費として使われます」
「前回の点検は少し前、五月末で、次は冬を迎える前、十月半ばを予定しています」


・神隠しについて
「……蛍火祭で行方の分からなくなった人はそう呼ばれます。
山に呼ばれた、天日に呼ばれた、つまりは山の神が連れて行ったとして心を安らげる、……言い訳ですね」
「記録上最後の神隠しは、戦前の……昭和十二年でしたか。1938年ですね。だいたい八十年前。当時五歳の女の子です」
「名前はなんだったか。でも確か、数日後に山の社で発見されて今もご存命なのは確かです」
「今、ご存命で御年八十六歳になられますね。えーとご結婚でお名前が変わっているので
今どこに住んでいらっしゃるかまでは把握しておりませんが……あ、記録ありました。八坂きぬさん」
「記録上では……健康状態には問題なし。ほとんど"蛍火祭"の日と変わらない姿だった。まさに神隠しと」

これ以上のことは警察の方が権限が強く、情報が探しやすいだろう。
町役場で神隠しについての情報、とくに八坂きぬという人物についての情報を訊いたあとは、交番でその人物の所在を調べることができる。
住所録などを当たればすぐにわかるが、あくまで神隠しの記録は「旧姓」であり、現在の名前は「御崎」という。


〇南用水路
今はコンクリートで縁を固められた用水路。南地区の田畑に安定した水量を供給するとともに、降雨による過度な水量を排除する。
特別気になることはない。
ただ、蛍火祭で通ってきたはずのルートを考えるとまっすぐには山にはいけない。
畑や田んぼを踏み荒らせる勇気があるなら別だが、今そんなことをする人はそうはいないだろう。


〇天日山
山道が通っているため、日中に登るのは特に問題なく可能だ。
山中に社があり、小さ目な鳥居と賽銭箱と巨大なご神木が聳え立つちょっとした休憩スペースだ。
立ち寄る人も多いのか、ベンチと手水舎が設置されている。

<目星>や<博物学>などに成功すれば、周囲の光景をご神木以外には植物らしき植物の姿が見られず、山の中にぽっかりと空いた穴のように思えるかもしれない。
<地質学>などで本格的に周辺を探索すれば、ご神木を中心とした数十メートル範囲に動植物の姿が見られず、
まるでここを意図的に避けているような印象を受けるだろう。

昼間に行っても静かな空間であること以外に気になる点はない。



<冥加が人の幸とは限らず>
この項に行く頃には、最後の神隠しの被害者きぬの所在、駿との関係性を見出している程度が望ましい。
住所を確認してその番地を訪ねれば、今の若者が見れば珍しいほど立派で平屋の純和の家がある。
垣根の向こうには理想的な縁側があって、涼んだりできるのだろう。
玄関口の呼び出しを押せば、ジー……という古めかしい音がして、はいはいと穏やかな声がして玄関のガラス戸を開けてくれる。
貴方は恐らく制服でその場に行くのだろう。そうでなくても構わないが少なくとも「警察官」かつ「駿の同僚」であることは開示する。
そして曽祖母であるきぬは貴方という人を知っている。

「すぐちゃんのお友達ね」
「どうぞどうぞ上がってって」

とどこでも変わらない優しい田舎のおばあちゃんの出迎えを受け、そそくさと座らされ冷たい麦茶を出され、
どこから仕入れたのかわからない独特のセンスをした甘い菓子とせんべいが一緒に真ん中に置かれる。ここまで想像通りだといっそ清々しいだろう。
きぬは敵対することは決してない。駿の安否を伝えるかはともかくだが、話の流れとして駿がいなくなったということが伝わる可能性は高い。
それでも探索者を責めることはせず、昔の自分のことを思い出す。

「すぐちゃん……。ああ、昨日は蛍火の日だったわねぇ」
「いなくなったのね?すぐちゃん」
「貴方は悪くないのよ。たぶん、そういう血筋なのよ。私もねぇ、子供のころ神様のところに行きかけて……」

詳しく聞かせてくれとせがめば、きぬはゆっくりと、だがなるべく正確に話をしようと言葉を探る。

「五歳ぐらいのときだったかしらねぇ……蛍火祭で、かかさまがねぇ、浴衣を縫うてくれたの。
とびきりかわいいやつねぇ。はしゃいじゃって……夢中で蛍を追いかけて、気が付いたら真っ白なところにいてねえ」
「人影がぽつんと立っていたから、ここはどこ?と聞いたら、神様のおうちなんですって。
神様が、浴衣をほめてくれたのもんで、かわいいべべを着ているね、いい子にしていたのだねと、ととさまのように言うもんじゃて、
私は今日、かかさまが出してくれた、卸したての浴衣ですってお伝えしたの」
「そしたら神様は、そりゃあかかさまもととさまも心配しとるだろう、と仰って手を握ってくだすったの」
「気が付いたら山の社の鳥居のところに座っとって、しばらくすっど朝日が昇ったもんで、
歩いて家に帰ったら、みんなが帰って来たって驚いたもんじゃから、あぁ、神様のところにいたんじゃなあってお話」
「結婚して家を出てしまうまで、時折白い靄のような夢を見ていたんで、私は神様が守ってくだすってると思って毎日山に向かってお祈りしてねぇ。
……だからすぐちゃんのことも、悪いようにはしないと思うんよ」
「すぐちゃん、東京に行って戻ってきたもんじゃて、神様喜んでついついやってしまったのかもしれん……」

なむなむ、と山の方向へ手をすり合わせなんとない念仏を唱えるきぬはそのまま口にする。

「神様の手を握ったとき……私ぁ、名乗らんかった。昔からよう言うもんじゃけど、
神様に名前を教えたら帰れなくなるいうもんじゃね。あんたも気ぃつけんといけんよ」
「すぐちゃんも私の話を覚えてりゃ、帰ってこれるさ……。いい子じゃから、きっと、大丈夫じゃ。
……もし、あんたがよければすぐちゃんを迎えにいってくれんかね。
山の社に……私が目ぇ覚めたんが日の出前じゃ、晩にはきっと神様は答えてくれるじゃろ……」
「神様に、すぐちゃんはいい子で、出世しとって、みんなのために働く子やから、お返しください、
ってお願いするんじゃよ。でも、名前を言っちゃいけん。あんたもすぐちゃんの名前も駄目じゃ」
「ばあは……すまんがもう山を登れる足はねぇで、すまんの。帰ってきたらおいしいごはん作っちゃるよ」


きぬの話を訊いて夜まで待機でも構わないが、追加情報として以下を探索できる。
情報が出る場としてが図書館が妥当だ。

・神隠しについて
『神隠しの正体 民間信仰の暗部』 

神隠しに遭いやすい者の項
一口に「神隠し」と言っても、行方不明者、迷子、家出、失踪、夜逃げ、誘拐、
拉致、監禁、口減らし、殺害、事故により身動きが取れないなど要因は多岐にわたる。
神隠しには「遭いやすい気質」があるといわれ、子供の場合は神経質な者や知的障害がある者、
女性の場合、産後の肥立ちが悪いなど、精神的に不安定な時期に遭いやすかったとされる。
また、神隠しの「神」は多種様々な神格、天狗などの民間信仰的な神格が宛てられることから、
「夕方にかくれんぼをしていると隠れ神に連れていかれる」といった戒めが生まれている。
近代になると「よそ者には近づくな」など「人さらい」を原因と考える場合も増え、
古典的な「神」の仕業と考える場合は少なくなっていると思われる。
また、近代では鎖国の終わりと共に白人が出入りするようになったこともあり、
「天狗」の仕業というのも暗に白人に連れていかれたと噂するような記述も見られる。


結界・道標についての項
神域は自然の環境が移り変わる場所だけでなく、逢魔時や丑三つ時のように、一日の時刻にもその神域へ誘う、境であると考えられた。
そしてこれらが時代を経るにしたがい、神籬などだけでなく、道の形状が特徴的になる峰や峠や坂、
時には人の作った橋や村境や町境などの門、集落の境界や、道の交差する辻なども含め「境界」と考えた。
さらに社会基盤が充実すると、伝統的な日本家屋の道と敷地の間の垣根や、
屋外にあった便所や納戸や蔵、住居と外部を仕切る雨戸や障子なども、あの世とこの世の境と考えられ、
境を簡単に往来できぬように、連縄だけでなく節分での「鰯の魔除け」などが結界として設けられるようになった。
お盆にホオズキを飾るのもあの世へ旅立った祖霊(祖先の霊)や精霊が、
迷わず辿り着けるようにと気遣って設けられた「道を照らす鬼火の灯」に例えたものである。

もともとは「道に迷わないよう」にと作られた道標もあるが、「集落に禍が及ばないよう」や「まちがって神域に入らないよう」に
との思いからの結界も存在する。また、旅や道すがらの安全を願って建立された塚や、
それに類する石造りの像が今日でも信仰され路傍に佇んでいる。身近な例としては地蔵など。


神隠しの原因とされる神の項
一口に神隠しとは言うが、この「神」には様々な種類が宛てられる。
自然を神代として考える古神道の神だけでなく、
天狗に代表される民間信仰としての山の神や山姥・鬼・狐などの山や原野に係わる妖怪の類などもある。
子供が遭ってしまう伝承も多いことから、子供を亡くした雨女という妖怪の仕業であるとも伝えられる。

今回の案件としては、原初的な「古神道的な神」を差して神隠しと言っていることが推察できる。



<かえせ、もどせと太鼓を叩き>
この項はきぬから話を訊くことで、天日山の社を目指す項であり、前述の行動がなければ当該イベントは発生しないものとする。

晩に天日山を目指し歩いて行くと、祭りの名残か、緑光がふわふわりと漂っているさまが見て取れる。
山に近づくたび緑は増えていく。人工の明かりは減る、緑の光だけがぽつぽつと光り輝く。
真っ直ぐと浮かび上がるようにして山までの道のりが淡い緑で縁取られ、天日山はこの夜闇のなかでもくっきりと浮いて見える。
まるで自分がこれから異世界に向かうかのような、底の無い冷えた感情が這い寄る。(1/1d4)
少しずつ山に近づき、山道に足をかける。夜の山なんて普段なら絶対に近づかない場所だ。
こんなことをさせてくれた友人には是が非でもいい飯を奢ってもらわねばなるまい。
ざくり、ざくりと目にほとんど見えない石ころを踏みつけ、時折頬を掠る葉を手で叩き落として、上へ、上へ。
少し汗が浮かび、息が途切れる頃。
小さな社の姿が闇から現れる。
緑の光がゆらゆらと鳥居の赤を見せてくれる。手水舎のかすかな水の音がして、この場にまだ自分の理解できる背景があることに安堵する。
目の前に聳え立つご神木の巨大さが嫌に染みて、蛍がそれを縁取って強調するように漂う。
誰の姿もなく、気配もない。誰かいるかと問いかけても答えは帰ってこない。
神隠しなんてそんなふうに考えてしまった自分がやはり馬鹿だったのではないのか。
そう思い、土を踏み躙れば、一等眩しい光が、蛍火とは違う、真っ白で目に刺さるような光があたりに広がっていく。
冷たい。なのに体のうちは熱く、熱く、焼けるような、なのに冷たくて。
極寒の原野に放り込まれて、成すすべもないちっぽけな自分を思い描けば、それを鏡のように映した黒い影がぽつんと落ちた。(1/1d4)
光は揺れている。いや、視界が白く染められてもなお、揺れている表現は難しいものだが、
それでも確かに命あるもののように鼓動し、揺れる。落ちた影は、身を縮めて眠っている子供のような様だ。
白に緑が時折混じる。白を背景にして、蛍がふらふらと宛てのない空の旅を続けている。
それを目で追っていくうちに、人影が一つ増えていることに気が付くのだ。
しっかりとおのれの脚で立つその影は眠っている子供の影の頭を撫でているようにも見えたが、それはよくないことだと感じ取る。
『ぼうや よいこだ ねんねしな』
何処からともかく音が響いた。頭を撫でる影が蛍とともに現れた貴方に気づいたように首をかしげるさまを見る。

『おや、また蛍の帰りかえ』

どこか古ぼけた印象の受ける声だが、性別の区別が付けづらい、というよりも
音声として認識しているのかすら怪しい何かが自分に向けて発せられるのは不快で、不安で、気持ち悪くすら思う。(0/1)

『こちらにおいでなさい、お座りなさい』

そうしてはいけない。蛍とともに帰って来たわけじゃあない。名前を呼んでもいけない、言ってもいけない。
探索者はいくつか行動を起こすことを考えるだろう。相当特異な行動出ない限りは可能だが、その行動が「神様」を怒らせるかもしれない。
無理矢理帰ろうとする、連れて帰ろうとすると神様は自分の境界で何をする、と怒る。
怒らせてしまった場合、「神様」―――ルーメンは自分自身、光を用いて、
怒りの原因をうちから原野の冷気を持って"焼く"ことを試みる。
50%だが、CONへの永久的な1d6のダメージは、のちに重傷の火傷として体に影響を与える。

きぬの場合を思い出すなどをして、行動を考える場合はヒントを与えるのも良い。

きぬの場合は、
普段子供が来ていない上等なもの、祭りの日の為に母親が縫い、その日に卸した浴衣を見せ、
「今日の為に母が作った」と宣言した。ここらは農村であり、そのような特別は本当に稀だ。昭和に入り、時代が洋装に移り替わる頃でも変わらず。
可愛い浴衣を用意してくれたのは母という情報と、今日出してくれた卸したての服という話は、
おおよその場合、子供を神隠しに見せかけて口減らす行為ではない、とこの神なるものは思考している。
そのため「きぬ」には帰る場所があり、帰りを待つ者がいて、
決して見殺しの為にここに来たわけではないと悟り、自然の「接合点」であるこの神域から返したのである。
探索者が掴めるヒントとしては、「誰かが帰りを待っている子」であると示す、というところだ。
それに自分を適応させて、迎えに来たのだというのもよい。きぬを引き合いに出して、待っているのだというのもよい。
警察という世の為人の為の仕事をしている人間が消えていいわけがないというのもよい。

名前を教えなければ、神なるもの―――光束、ルーメンは、自らの守る神域から解放するだろう。

逆に粗相をする(単純に悪口や、敵意を向けるなどの行為を行う)、
「名前」を語るような真似をすればルーメンはすぐさま駿ともども探索者すら接合された隙間の向こうに情け容赦なくねじ込もうと行動を開始するだろう。

上手く、解放させてくれるように願った場合、神とされるものは名残おしそうに座り込んだ影の肩を叩き、ゆすり起こす。
『ぼうや、お迎えが来たよ。お帰りなさい、おかえりなさい。』
『蛍の光は眩しかったか、悪いことをした』
『良い服を着ている。良く育っている。良い子や、目を覚ましや、お帰りよ』
『愛されておる、良い子』
『懐かしい匂いがする。……そう、昔にもこんな子が、綺麗なべべを来た、可愛らしい子だった』
『あの子の鼓動を感じる。優しさを、……そうか。そうか。ぼうや、真っ直ぐお帰りよ。次は迷わないように』

『懐かしい……この地の……』

(1d3/1d6)


<神隠しの終わり>
ほんの一瞬のような、泡沫の時間。
光が収束していく。ほんの小さな隙間を埋め立て、なかったことにするようにぎゅう、とつまり、やがて周囲は闇夜に戻された。
酷い明暗の差に視界がちかちかと安定せず、座り込んだ貴方の横で、誰かが身じろぐ音がする。

「…………懐かしい、……光……」

覚えのある、仲間の声だった。
すとんと意識が落ちて、まだじっとりと肌に吸い付くような空気が嫌に眠気を誘う。


目を覚ませば、大の大人の警察官らが鳥居を背もたれに、朝日を出迎える。
ふわふわとした記憶に残るかすかな白は、今となっては違和感すらなく、ただ「ああ、神様か」と心にストンと納得とともに居座っている。
眩しい朝日に目を細めていれば、すくりと横で立ち上がり、大きく伸びをする姿がある。
「おはよう」
貴方もきっと、おはようと返すのだろう。
「ただいま」
彼の笑顔に、ふう、と溜息に近い何かを零して、山を下りるべく、貴方も立ち上がった―――。


<帰り道>
駿を連れて帰ることができればこのシナリオはTEとなる。

TE
生還:1d8
駿を連れて帰る:1d6
朝日:1d4

ルーメンを怒らせるなどして攻撃を受け逃げ帰ってきた場合は、探索者は生存したものと扱うが、当然駿は消えていなくなる。

BE
生還:1d8
消えた友人:-1d6


<その他事項>
天火町の天日山のご神木が「接合点」であり、古くから蛍の姿をまねて人の目をごまかしていたルーメンたちと、
祖先の魂と勘違いし祭りを興した人間との距離がおかしくなっていった、という話。
天火町のルーメンたちはおおよそほかの同族たちよりも幾ばくか人間味があるだろうが、
それでも本能として訪れた人を拒みはしない性質であるため、神隠しが時折起こっていた。

駿はその後、恐らく望んで天火町に残り、いつか来るかもしれない神隠しを防ぐために毎年蛍を見送るだろう。