霧の雨が降る - シナリオ:故に消える血

概要

製作:哀咲
プレイ時間:テキストオンセ 3時間前後
傾向:一本道。クローズド。
(「ゆえにきえるち」 ―――貴方故に器得る知)

使用に関して:
改変、リプレイ等公開自由。制作者もしくはwikiのURLを明記してください。


シナリオ



<あらすじ>
選択肢は君の目の前だ。
その天秤に心と命とをかけることになるだろう。
君は生粋の生物か、それとも生粋の餓える者だろうか。


<キャラシについて>
INT18の探索者(できることなら理系)
KP調整で高INTなどと条件を緩めても構わない。


<舞台>
不明


<推奨人数>
一人


<友好>
なし


<敵対>
クルーシュチャ方程式 (マレウス・モンストロルムp204,205)


<その他事項>
シナリオの前提としてINT18の探索者である必要(改変次第でそれ限りではない)があるため、
セッション前の確認作業などを注意して行うことを推奨する。


<手紙>
かたん。
探索者の耳に音が届いた。
それは、貴方の家のポストに投函された音、アパートなどなら新聞受けに挟まっていて、
仕事中ならデスクの引き出しが少し動き、そこに滑り込んだのようにそれは入っているだろう。
真っ白な洋式封筒が宛先も送り主も主張せずにそこにいる。
手に取るなら、何の抵抗もなく封筒はするりと抜けて、手に収まる。
もし手に取らないなどという判断を下す探索者がいたとしてもその手紙は、棄てても棄てても毎日同じ時間にかたん、と探索者の家のポストを鳴らす。
ポストなどから外を確認しても、人の姿はなく、誰かが届けたのだとしても姿を消すのが早すぎやしないかと思うだろう。

真っ白な封筒を開けると、同じように真っ白な便箋だろう用紙が二つ折りにされて入っている。


<無限次元ヒルベルト空間>
二つ折りの紙を開くと、白を埋めつくようにびっしりと、黒いインクが走っている。
それは文字と数字とが組み合わさり、奇怪な文章となって繰り広げられている。
ただ、頭に自信のある探索者には理解が及んだだろう。
これは「方程式」であると。
知っているかたちをしていると。

式へ、ある程度の理解を示した探索者は唐突な眩暈に襲われる。
抵抗する場合はPOW100との対抗になるが、余程のことがない限り、自動失敗で倒れるだろう。

握りしめてしまっていたのだろう紙の、くしゃりとしたむず痒いような感触に意識が浮上する。
目がはっきりと色を捉えるころには、自分が仰向けで倒れていると気づく。
世界は暗く、黒く、墨どころか、宇宙から星を拭い去ってしまったかのようで、
ともすれば上下左右も分からなくなりそうなものだった。だが、探索者は然りと感覚を保持し、どちらが右か左か、上か下か、承知している。
それは、起き上がったその先にある、僅かな光が探索者を照らし、黒い空間の壁と床との繋ぎ目をぼんやりと描き出していたからだろう。(0/1)

そこに立っていても、何が起こるわけでもなく、風の通る感触も何かがいる気配もない。
拭いきれない不安がじわりじわりと這い上がる。立ち止まっているほど、光へ依存するような感覚に探索者は侵されて堪らないだろう。
光の下へ行くと、そこにあるのは蝋燭だった。炎は青く、蝋燭が持つには高温すぎる火やしないかと思うだろう。
その青い火が、一本だけしかないというのに端まで照らしている。
そうしてわかることだが、光は浮いている。ふわりふわりと。蝋燭が、なんの台も必要とせず、宙に浮き、
時折誘うように上下左右に揺らぐのを見て、少なからずここは常識は通用しないのかという思いを抱くだろう。(0/1)

蝋燭に触れることはできるが、普通に熱い。長時間触れれば当然火傷をすることになる。

ある程度その空間の空気にも慣れた探索者には、辺りを見渡す余裕もあるだろう。
背後を振り向けば歩いてきたはずの道はなく、真黒な壁だった。そしてその壁にはっきりと浮かび上がらせる為のような、白い塗料で、
「解答せよ」
と書かれている。(0/1)
解答―――と言えば、手の中の紙を思い出すだろう。
もし放り捨てるなどのRPを挟んでいたとしても、紙は利き手の中にある。
そこに書かれた方程式。この空間の中、ただ「解答」と言われればこれしかないと、探索者は理解する。



<解答の為の足踏み>
解答の為に、探索者はまずその「方程式」を確認すると思われる。
が、「方程式」という理解は及ぶが、どうにもこうにも、少し式を弄っては止まり、弄っては止まる。書くものが欲しい、と思うだろう。
そうしていると、きぃ、と金具の擦れる音がする。正面に白い扉が現れ、その戸を開けた音だ。
見える範囲に今いる場所と同じような部屋が広がっており、真ん中に机と椅子が見えた。

そちらに移ると、扉はばたん、と閉まり、白い扉は泡沫と消える。
そしてまた、代わりのようにべちゃり、と白い塗料が「解答せよ」と迫り続けていた。(1/1d3)
部屋には前の部屋と同じような蝋燭が四方に設置されている。それらによって照らされていて、薄暗くはあるが行動に影響はない。
時折、じゅっと音を立てて炎が揺らぐのが確認できる。何かに燃焼を阻害されたのかと、探索者の視線を天井へ持っていく。

机と椅子を確認すると、大量の用紙と羽ペンとインク壺が用意されている簡素な机と椅子であり、引き出しなどはない。
ここを利用し、解答するのを基本とする為、ここにメモを置いておくと言う場合は手から紙を引き離して構わない。
そのほかの場合はすべて利き手に戻る。無理に引きはがしたりすると、圧倒的な接着力を発揮され、皮膚がべりっと剥がれる痛みが走る。(HP-1d3、SANC 1/1d3)

この部屋には机と椅子の他、四角い部屋の中に前方に灰色の扉、左右に白い扉があり、右の扉と左の扉は誘うように開いている。前方の扉は何をしても開かない。

もし天井を見た場合:地図などによくある方角を示す記号が描かれ、前方の灰色の扉と左の白い扉の間が北、となっている。
方角記号を見た上で<アイデア>、<知識>など:北東が「鬼門」とされている方角であり、ちょうど灰色の扉の位置だと思うだろう。薄気味悪く感じる。(0/1)


〇右の扉
薄暗い。見渡す限り何もない部屋だが、ところどころに白い塗料が散っているように見える。
右の扉へ→次項<囁く白>へ

〇左の扉
明るい。本棚が並び、ぎっしりと本が詰まっているのが見える。
左の扉へ→次々項<興奮材料>へ



<囁く白>
右の扉を潜った探索者。右の部屋に踏み入れた瞬間、ぴちゃんという水音がした気がした。
それに辺りを見渡せば、まだ乾きっていないのか、白い塗料がぽたぽたと垂れているのが見えるだろう。
蝋燭の蝋のようにも見えた。ここには一本の短い蝋燭がふわふわ浮き、ぼんやりと薄暗く照らす。
壁の内側から激しい音を立ててぶちまけられたような白い塗料は、次々と文字を作り、探索者の母国語で訴えかけてくる。

「間違えるんだ、正答してはいけない」
「分かってもいいが、書くな、答えを」
「利口な君ならこう思うだろう」
「何故そんなことを書くか」
「それは、我々がこの空間を作る材料になったから」
「応えてしまったから」
「解答してしまった、正答で」
「まさか当たるとは思わなかったが、喜び勇んで」
「次には手に囚われてた」
「生きろ、抜け出すんだ」
「そうすることで、ヒトという知性を証明できる」
「こわいこわいこわいこわいこわい」
「我々の知が器を得るのさ」
「ここの黒は血なのさ」
「真っ赤な血が酸化した、それだけさ」
「冗談かな?」
「ち?ち?さんか?まっくろ、なんで、すごいね、あは」
「さてね」
「 5n(n = 1, 2, 3, …)」
「お前はいい加減ヒルベルトのホテル話の計算を止めろ」
「アレフゼロは飽きたよ」
「アレフ数と言えば、俺たちはもう何人いるんだかね。本当にヒルベルトのホテルだよ、ここはさ」
「そもそもアレフ、っていうのはヘブライ語で」
「すまんがここには理系ばかりなんだよ、史学科さんよ」
「知ってるわそんなん。エウクレイデスの話でもするか?おぉ?」
「仲良くしてくれよ、五月蠅くて嫌になる」

べちゃりべちゃりとまるで生えるように塗料は重なる。文章は語り掛けるように、
友人と語らうかのように自由で、かつ、理性を感じる言葉で、壁を染めて行った。

『空間を作る材料』
『黒は血』
『冗談かな?』

ふと探索者は悟るだろう。ここで、果てた人がいる可能性を、ここに、魂か、何かか、ここにいるのだと。(1/1d6)
もし、探索者が部屋に向かって発声して質問する、ぴちゃりと乾ききっていない塗料を指に付着させ、
書くなどといった行為で対話を試みた場合は、部屋は応じることができる。

以下:部屋の持つ情報及び、部屋情報
・この空間が真黒なのは、ヒトの血が酸化したからだ。少しばかり、強すぎるけれども。
・手は、正答してしまうと鬼門から出てくる。どこまでも追い回す。
・手に捕まった者はこうしてこの部屋の一部となる。仕組みはいまいちわからないが、最初の方の奴は狂ってたりして、随分と騒がしい。
・変に敵対心を燃やしたり、学者のプライドとか、そういうので正答しようとしてしまう奴が多い結果、我々はこうなり続けてる。
・いい加減生還者も出していきたい。それが前駆者のできること。
・「正答」による「解答」で手が出てくるのならば、「誤答」で「解答」することを試すべき。
・過去何人が帰ったか。ゼロだ。だから「試すべき」としか助言できない。
・いい加減「この空間」における「正答者」を出さないとヒトの知性にすら関わる忌々しき問題。
・左の部屋は、図書室らしい。数式を解くための資料やら、どうでもいい本やら、なんやら出てくる。
・「解答」するときは真ん中の部屋の机の紙に書きなさい。
・部屋の黒は「我々の血」。なら白い塗料は我々の水分だろうかね。

探索者が満足し、部屋から出て行くと、甲高い声が響き渡る。どうやらソレが、過去の人の狂気の声らしい。

「ほら、騒がしい。耳が痛いな」
「我々もいつかこうなるのさ。はは……」
「その前にせめて、我々の知の器が欲しいものだね」
「期待してるんだ、僕たちは」
「……お前が生きて帰ること、それが、ヒトの、俺らの正しさの証明」
「愚者を越えて行きなさい。それがこの空間の製作者への当て付けになり……ヒトの血は癒える」
「はっ、なにポエム晒してんだあんた」
「五月蠅い」
「ともかく、頑張ってね」

等とまだまだ文字が連なってもはや書くところはなくなっていく。
そうすると文字は沈黙し、この部屋には狂気の叫びがこだまするだけになる。それもすぐに収まる。(1/1d2)



<興奮材料>
左の部屋を潜った探索者。その目の前にはぎっしりと本の詰まった大量の本棚がある。
ここの蝋燭は他の部屋よりも多く用意され、随分と明るい。
人によっては天国にも地獄にも見えるそこだが、なんだっていい、手立てにつながるものがあるのならば。

<目星>:探索者の母国語以外の本も多数混じっている。論文などもあるらしい。
<歴史>:よく見ると、本ではなく巻物や、竹、石板すら混じっているようだ。
<図書館>:なんとか読めそうな本を見つける。それは随分と端が擦り切れていて、多くの人が触れたことがわかる。
<クトゥルフ神話>、<他言語>:適当な魔導書を発見させるが、それは劣化版であるようにする。SANチェックは支障のないようにまでにすること。(1d3/1d8)など。

〇<図書館>で発見した本
数学書に分類されるだろう一冊。あの紙の「方程式」に似ているものが多く、これに当てはめればある程度はあっさりいけるのでは、と思う。
これを見た人は確かに……解けると思って、舞い上がっても仕方がない。
本の中に、紙をちぎったかのような切れ端が挟まっている。
『途中式もないと駄目だ。適当でもいけない、ぎりぎりま』
右の部屋に先に行っていると、メモの内容に<アイデア>できる。
成功すると、「手」から逃げながらどうにか書いたのではないだろうかと悟る。(0/1)
逆に左の部屋からメモを持ち込めば、右の部屋の中の誰かが、「ああ、それ書いたの俺」と言ってのけるだろう。
問えば、上記のアイデア成功時の通り、逃げながら書いてたと答えるだろう。
正しくは『ぎりぎりまで正確に』と書こうとしていた。
この本がなくても正答を導き出す意志があれば問題なくできる。

この本に<目星>:作者名や出版社などの記載がされていない。(わざと解かせる為に用意した非人工物)


<解答>
椅子に座り、ペンを手に取り、慣れないかもしれないインクを使って紙に書くことになるのは明白である。
座ってメモを確認すると、「解かなくては」という焦燥に襲われるが、右の部屋の助言を得ているはずの探索者はそれをどうにか堪えることができるだろう。

誤答するか正答するかは、PL及び、探索者の意向次第である。
途中式において明らかに間違えた、ふざけたようなものを書けば、すぐさま前方の扉ががたがたと揺れ、真黒な手が探索者を掴むことになる。

途中式をある程度正確に書いていくたび、焦燥が強くなっていくのを感じる。(1/1d3)
また一つ。
また一つ。
また、
また、
また、
解かないと、解かないといけないんだ。そう、焦りが汗となって頬を伝う。
まるで操られているようで、助言を得て、理性が介在したまま、
どうにか正気のまま向かい合う探索者には、言いようもない寒気が背を走った。(1d3/1d6)※

どれくらい時間を使っただろう、どれくらい頭を使ってるのだろう、もはや前が霞む、式だけが浮かぶ、手が震える、楽になりたい。
そんな思いに包まれながらも、手は勝手な意志を持つように動いていく。
証明するためにか、何のためにか。※
右の部屋から奇声が聞こえてくる。耳鳴りがする、眩暈がする。
そんな中、多くの公式を重ね、数字を重ね、探索者は「解答」を目指していく。※

※の箇所で一度確認や静止すること。



<応えたか、堪えたか>
〇誤答した場合
調子のいい途中式から一転、上手く、上手く間違いを重ねて、探索者は遂に「解答」した。
それは、『誤答』であった。
前方から、かたりと僅かな音がしたと思ったが、違ったようで、前の扉は何の動きもない。
ふと、後ろからの温度に魅かれ、背後を振り向けば、迫るような白い塗料は消えて、また白い扉ができていた。
ふらりふらりと、疲弊した探索者はその扉に手をかける。鍵はかかっていないようだ。
音も何も感じられない扉の向こうに、足踏みしていれば、声が響く。
あの狂人の声だが、それは実に嬉しそうだった。
『できた!できた!かえりみち!かった!にんげんはかったのさ!』
それに続くように、俯きがちな探索者に合わせて、床にそっと赤い塗料が這い、文字を描く。
「おめでとう。ヒトとしての正答者。どうか我々の愚考の血を、知を持つ器となってくれ」
その文字を踏み越えて、探索者は扉を押し開いた。
途端、意識がぷつん、と映像か何かのように途切れた。だが、どこからか嗤い声は続いている。
聞き取れないが、明らかにこちらを馬鹿にしているような、そんな雰囲気だった。
けれども、貴方はそれをふっと笑い飛ばせることだろう。

やがて、貴方はゆっくりといつもの通りに目を覚ました。居眠りをしていた、らしい。
そういう状況下だろうと推測された。けれども知っている。彼の空間において、「誤答者」であったことを。
ヒトとしての正答を選んだことを、間違ったことを誇りに思うことなど、そうはないだろう。
けれども不思議と、悪い気分ではないはずだ。
そうして貴方は日常へと回帰する。あの「方程式」に次に出逢っても、また間違えられるだろう。そんな自覚と冷えた理性を持ち帰って。


〇正答した場合
調子のいいまま、焦燥に囁かれながら、貴方は、意図して間違えるということを、良しとしなかった。
「解答」とされる場所に書かれた、終わりの記号は、この方程式の『正答』であった。
自分の頭脳へのプライドが、間違えることを許さなかったのか。
それとも、それほどまでに知識者であることに意義を感じていたのか。どちらにせよ、解答はなされた、『正答』により。
前の扉ががたん!と大きな音を立て揺れ、次の瞬間にはばきりというような金具を吹き飛ばす音と共に、
……何も見えない、真黒な本当に真黒な深淵の中から、巨大な鉤爪のような人の手の形をしたものが出てきた。
それは、手探りで床を叩き、机を払い壊し、何かを探している。
そう、きっと「正答者」を。
貴方を迎えに来たのだ。深淵が、手を伸ばして。
それから逃げ惑っても、狭い空間のなか、やがて視界は黒一色に染まり、爪先から一気に冷えていく感覚がする。
こんなことなら間違えればよかったと後悔するだろうか。
いや、しないだろう。
それを是とするだろう、貴方は。
茹で上がるほどの熱気を持った理性は、貴方の帰る道を燃やしてしまった、それだけのことなのだから。


〇途中式を書かずに解答
反応がない。それが正答でも誤答でも、解答として認識されない為だ。


〇途中式を適当(式としてなってないよう)にした場合
灰色の扉ががたがたっと怒るように揺らぐだろう。(1/1d3)
それを数度繰り返し、正さなければ黒い手が扉を開け放ち、襲い掛かることだろう。



<理性の温度>
ED分岐、詳細の項である。

TE 冷えた生きるもの :解答の際、誤答した場合。

生還:1d10
器を得た「彼ら」の知:好きな知識系技能に+1d6


BE 茹で上がりの生粋者

ロスト。