シナリオ：残滓の涙 - 霧の雨が降る

概要

制作：哀咲
協力監修：のらとこ様
PL：一人
PC：階梯問わず。経歴・機関推奨なし。
　シナリオとしては継続、PLも経験者の方がよいだろう。
リミット：6
使用に関して：改変、リプレイ等公開自由。制作者もしくはwikiのURLを明記してください。

シナリオ

＜あらすじ＞
そこに在った。まだ、頭のすみの引き出しの一番奥底に。
覚えている。君のこと。
名前も声もどういう在り方をしていたか、忘れてしまっても。
どうしようもなく、優しく在ろうとしたことは覚えている。

以下、GM情報

＜舞台＞
時代：指定なし
座標：指定なし
シーン表：使用しない（シーン固定）
世界法則：魔素濃密、因果不変、活性・星

果てのない、けれど太陽が温かに照らす森。居心地が良く、どの樹木から溢れているのかはわからないが、よい香りがしている。
気を抜けば眠ってしまいそうなほど。
ただ、あまりに優しい居所として在ろうとする「森」は、どうしようもない「箱庭」としての無機物質さを持つ。

何か特別思入れのあるアンカーなどが存在していたとすれば、
このシナリオ上の「シナリオアンカー」と入れ替え「森」という箱庭を別の物に仕立て上げてもよい。

＜シナリオアンカー＞
「××××」
運命利用時の願いの傾向：PCの平穏、心の救済、自身の消滅
魔法使いだった。きみの、何かであった。
思い出せないということは、そういうことだけれど。もう逢えないはずなんだけど。
どうしてだか、きみの気配をこの箱庭から感じている。

シナリオ終了後にアンカー欄から削除する。

＜禁書＞
『木漏れ日と残滓の涙』
貴方の心に引っかかっている、へばりついた泥、傷口の血。それを溢れさせて涙で洗い流すための業。
優しい嘘も吐く。酷い罵りも必要ならば吐く。その心を救うための手段を選びはしない。
人を救うのが、生きる理由であったから。そう在れと生まれたのなら、そう在るしか術がない。
殺しはしない。死なせはしない。吾が目の黒いうちは。吾のふところのうちは。

災厄：業欲災厄　憑依深度：設定なし
攻撃3　防御3　根源3　魔力20
領域：星　特技：森、花、涙
魔法：妖花、火花、乙女召喚、魔棘、書影、送別、追伸

＜断章＞
主題
『残滓』　ランク3
憑依対象：シナリオアンカー
どれだけ絞りつくしてもなくならない。まだあると思ってしまえば。そこに残り続ける。
何かと繋がりがある限りは。忘れられるよりも先に、根付いた場所が新しいなにかを求めて。
居場所は、夢に残り続ける。そういう設計図のもと、造られたのだ。

攻撃3　防御3　根源3　魔力8
領域：獣　特技：花
魔法：妖花、火花<花>、乙女召喚<花>

副題
『籠れ日』　ランク3
憑依対象：箱庭（封土認定）
木の葉が影をつくる。樹の枝がささくれていて、指に刺さった。
まるで殻にこもるように共にあろうと棘でしがみ付くさまは、こどものようでもあった。

攻撃3　防御3　根源3　魔力5
領域：星　特技：森
魔法：魔棘、書影

『涙』　ランク3
憑依対象：（PC本人の）心、苦しさ
瞳を持つものに共通するもの、それが涙。水と成分の塊に、どうしてひとが意味を見出したのか。
それは心から起因する、感情の秤。如何なる生物であれ、大小はあれどその秤は確かにある。
例えば、天が生み出した設計図通りの創造生命でも。

攻撃3　防御3　根源3　魔力7
領域：歌　特技：涙
魔法：送別、追伸

※禁書・断章の基礎データはPCの階梯に合わせ±n、魔力値±1～3とし、ランク調整を入れることを推奨する。
例：第四階梯PC→断章ステータス全てに+1し、ランクを4とする。魔力値は変動なし。

＜シナリオチャート＞
「導入」→HOの回収→「××××」の発見、断章『残滓』との魔法戦
　　　　　∟断章『籠れ日』との魔法戦→断章『涙』の発露、HO公開、魔法戦

＜導入＞
何かを焦っていた。たぶん、回収すべきものを見つけられないとか、勝ち目がない相手へどうかかればいいのかという不安。
そういった類の、相談する相手を思い悩む、自分の日常の一部のこと。
それでも表の毎日に手を抜くこともできず、ふと思い出しては頭を抱えそうになる。

そうさな、言葉にするなら「苦しい」。

そんな思いが胸に詰まり切り、気が付いたら何か、温かいものが頬を伝って行った。
それが涙だと悟るにそう時間は必要ない。
ただ床に落ちたそれが、目の前の光景を導き出したことが嫌に自分に刺さるような気さえする。
ああ、ここは、良い場所だ。分かる。ここは、―――思い出せないけれど、忘れてしまったのだけれど。
きっと、「君」の在り方はまだ、ここに残ってしまっている。
絞っても絞っても、濡れ布巾から水が滴るのと同じように。まだ零れると思えば零れる通りに。
解ってる。そんなことは現実にあってはならない。故にここは、禁書の眠る地。
不思議なことに、禁書の呪によってだろうか、この場所に入れる者は今は、貴方一人だ。
何をもってこの呪の内に受け入れられたのか、何をもって拒絶されるのかすらわかっていない未開の場だ。
それでも、貴方は命ぜられた。その世界を、この箱庭を彩り司る禁書を回収しろと。
その為に出来ること、その為にこんな気持ちは手放して、――――。

嗚呼、息が詰まる。

以上を導入マスターシーンとして完了後、HO1、2を公開し、サイクルを開始する。

＜マスターシーン＞
MS1：断章『籠れ日』との魔法戦に勝利し、回収成功となった次サイクル冒頭に発生
〇木漏れ日の最中
一つ。この地に絡んでいた蔦を取り払うように、それを手にした。
純粋な魔素の塊とも言えるそれを握りしめ、次は何処にいるのかを思案する。
正直手がかりはないに等しい。何となく、魔素の気配を辿っていくだけ。あと時間がどれだけあるかはわからない。
この土地が現実においてどの点に座標を持つのかもあやふやだったが、それは大法典が如何様にもするのだろう。あまり、待ってはくれない。
別に、ここが大規模な封印に至っても構わないじゃあないか。むしろ、そうすべきじゃないのか。
自分だけが受け入れられる場所に、愚者が入って来れるとも思えない。
じゃあ何故、自分はこんなにも焦りを覚え、在るわけもないものを望んで、心を呑み込んでくる苦しさや悲しさに涙を流すんだろう。
―――最初は、ただ疲れているだけとか、そんな風に思っていたけれど。禁書の力を削った今、理解が及んだ。
どうしてだか、何故だか、いつ？細かいことはわからない。けれど、この胸を貫く情動の全てが、其れだ。

このマスターシーン以降、断章『涙』に魔法戦を仕掛けることができるようになる。

MS2：すべての断章回収完了後、もしくは全サイクル終了後
〇お別れを君に
もうわかった。此処がどういうことなのか。完全な死までのカウントダウン。
本当なら静かに世界から霧散して、何もなかったことになるだけの仕組みに抗うようなこの書が、
君を、此処を、その途方もないそういう在り方から来る優しさを錨にして現実の海に漂っていること。
別に、君が悪いわけじゃないんだ。君の静かな死に割り込んだこの禁書が悪いんだ。
けれど、そこに君の意思があるような気がして、悲しくなっていたのは自分の身勝手だ。
その君の温もりのかけらを、骸を住処にする悪を。
自分が選ばれた意味を。
そう、残滓を殺して、最後の別れを済まそう。

さあ、名乗りを上げろ。

クライマックスシーンに突入し、禁書『木漏れ日と残滓の涙』と対峙する。

＜シナリオ内HO＞
HO1　「箱庭」
優しい魔力が漂う。頬を撫でる風はどこからやってきている？こんなところに命はないはずなのに、
覆い隠された向こうの空から、鳥の啼き声が木霊する。
日差しは刺すほど鋭いものではなく、瞼を下ろさせようとする程度の温みで包み込んでくる。

【秘密】

探りを入れていくうちに何かの気配を感じる。あってはほしくない気配。
足元からぽつ、ぽつと雨粒のように生まれる魔素に食らいつくものの気配。それは悪だ。
貴方が探している禁書のかけらだろう。
なのに、どうしてか。何処か曖昧に笑って、動作不良を誤魔化しているような姿が思い浮かぶ―――。
この【秘密】が公開された場合、断章『籠れ日』に魔法戦を仕掛けることができるようになる。

HO2　「君の影」
何処となく、木漏れ日が作り出す黒が、君の影に似ていた。
穏やかな世界に君は姦しいぐらいにおしゃべりで、とても、なんというか。上っ面は能天気に繕っていた。
その内は、たくさんの木漏れ日のように取り留めもなく、存在感すら薄く、手が届かないような気がしている。
ねぇ、今は、何処にいるんだい。

【秘密】

沢山の影。それらに埋もれるようにして、眠るようにそれはいた。
かすかに覚えのある魔法で生み出した蔓のベッドに寝転んで、
すう、と寝息すら聞こえてきそうな形の黒は、それをもはや人の形に見せてくれなかった。
「××××」、君の名前も魔素に包まれて、掻き消されてしまうね。
この【秘密】が公開された場合、HO「××××の錨」を公開する。

HO3　「××××の錨」
君がここにいていいわけがなかった。何故か？君の名前がこうして「××××」
―――隠れてしまうということ。魔法使いなら誰だってわかってる。そうだろう？

【秘密】

「××××」は死んだ。どれだけ手繰り寄せても、顔も声も思い出せはしない。もうすぐ完全に消えるのだろう。
その「完全な死」へのカウントダウンの中、その存在は錨となったのだろう。禁書によって。
それはその死を愚弄しているのだ。それが―――どれだけ優しい名前の禁書でも。
君の心の在り方が故にそう定義されているとしても。君は、魔法使い「だった」。だから、それは愚弄なのだ。
この【秘密】が公開された場合、断章『残滓』に魔法戦を仕掛けることができるようになる。

＜エンディング＞
禁書『木漏れ日と残滓の涙』を回収すれば、錨の役目を負わされていた「君」はやがて眠るのだ。
君の象徴だった箱庭とともに。何処でもない、夢のような天の向こうへ。
いずれ、その存在を忘れて、残滓がなくなってしまうまで、涙を流すぐらいは許してくれるだろう。

―――これは、もしも。貴方という人の中に取り残された、苦しい残滓を流しきるためだけの、道筋だった。

それが最後のやさしさだったのか、それとも本当の偶然だったのかを決めるのは、貴方だ。
じゃあね、また、いつか、来世があれば。

指定されたリミットまでに断章及び禁書の回収がなされていない場合は、
大法典による大規模な封印などの魔法使いに定められた「法則」がやって来るだけで、特別な終末はない。
だが、そうやって殺されたかけらは、貴方の中に残留する。取り除かれない。痛い。

―――苦しい。