霧の雨が降る - シナリオ:素晴らしい世界によろしく

概要

製作:哀咲
プレイ時間:テキストオンセ 4時間ほど
傾向:悲しみの中からせめて伝えたいこと。RPなどを中心に展開される抒情詩。
使用に関して:改変、リプレイ等公開自由。制作者もしくはwikiのURLを明記してください。

シナリオ


<あらすじ>
それはとてつもなく広大で雄大で、絶望的な噺だった。
けれどもきっと、それには綻びがある。

<キャラシについて>
職業などは自由。国籍も無関係。
目星や聞き耳が重要。
博物学、心理学も使いどころがある。

<舞台>
夢の中で、国は関係ない。
夢といってもドリームランドではないので、サプリメントは必要ない。
また、PLには舞台が夢であることを前もって知らせてはならない。

<推奨人数>
一から四人。KPが回せるのであれば多くても大丈夫だが、リアルアイデアが錯綜する恐れはあるかもしれない。

<友好・敵対>
ニャルラトホテプ(方程式からの意識変化)
少しばかり本人様とは違うような動きをするが、本シナリオの設定のためであることをご了承願う。

<その他>
NPCが出てくるが、話すことはなく、ただの情報源である。

<クリア条件>
「これは現実ではなく、夢である」と誰かが看破すること。

<他事項>
PCよりPLの思考が重要になる。
世界は崩壊したという虚構を散々見せられるが、その中に落ちた情報を集めて「これは嘘だ」と推理してもらうためである。
また、サプリメント:マレウス・モンストロルムを所持していると一部詳細が分かると思う。
それと、心理学対抗ルールを採用している。(技能値を5で割った数値で対抗表を参照する)



<導入>
気がつけば、鏡のように透明な水面を立ったまま覗いている。
自分自身が写って、時折やってくる波に揺らされていることに、とてつもなく違和感を覚えてしまうだろう。
<アイデア>成功で、自分の体は動かせるものの、天辺から爪先に至るまで感覚がないことに気付く。(0/1)
辺りを見渡そうとすれば、感覚がないのにもかかわらず身体は言うことを聴くだろう。
背後に大きく深緑に輝いた樹が根付いている。風が吹いているようで、木葉が揺れる音が心を落ちつかせる。
探索者たちがそれぞれ一通りの行動を終えたら、樹とは反対方向から歩いてくる姿が見えてくる。
とても美しく、黒を基調とした整った身なりをした黒髪の男は燕尾を揺らしながら探索者たちの前にやってくると一礼して、
実に面白いものを見るような、そんな素振りで開口一番こう告げる。美しいとは分かるのに、白い仮面で目が見えない。
「こんにちは。亡者よ。あなたたちは死んだのだ」
もし国籍がバラバラだったりしても、聴きなれた母国語に聴こえるだろう。
突然の出来事に戸惑ったり、その事実を確認しようと脈を図ったり心臓の位置に手をやってみる者がいるかもしれない。
確認した者は気付くが、脈はなく、心臓も動いていない。
話すことはできるが、呼吸はしなくても苦しくならないことに気付くだろう。(1/1d3)
「さて、あなたたちは死んでいるが、死ぬ直前のことをまったく覚えていないと思う」
その言葉に死ぬ直前を振りかえれば、確かに記憶がない。
「だから、あの世に行く前にせっかくだし終わりのことを伝えておこうと思ってね」
男が爪先で水面を揺らすと、映り込んだ自分は揺れに消えて、代わりにどこかの樹が写るだろう。
背後にある樹とよく似てはいるが、映っているのはどこかの整えられた芝生に根付いた樹だ。
もし水面に手を突っ込んだり、潜るようなことがっても、何も掴めないし、
水に潜ったところで底は暗くて見えないし、映像はついて回る。水は冷たくはないが、どうしてだか重く感じるだろう。


<文明の唄は>
「さて、まずは世界のことを話そうか。君たちの文明は、崩壊したよ」
まずそう告げられた途端、水面が揺れてどこかも分からぬ……
きっとどこかの大都市だろう場所が映し出されるが、水は尽く枯れ土は焼けたかのように干からび、
緑が生い茂り、コンクリートは激しく損傷、崩れている。
<目星>で、コンクリートはどこか焼かれたかのように焦げていることに気付く。
<聞き耳>で、風が吹き、植物が揺れる音くらいしか聞こえてこないことに気付く。
「世界でも有数の国の大都市がこのありさま」
切り替わるが同じような映像が映し出される。
再びの<目星>で、コンクリートは同じように焼かれているのに気付くが、植物はまったく影響されていないこと、
むしろ土が混ざり込んでいないようなコンクリートからも直に生えていることに気付く。
<アイデア>で、水は枯れていて干からびて痩せ細っている土やコンクリートからここまで豊かな自然は形成されないであろうことに気付く。
<博物学>で、上記の内容と共に、見える植物は決して乾燥に強いわけでも根強いわけでもない植物だと気づくだろう。
「どうだろう。とりあえず崩壊したと言うことは信じてもらえたかな」
では次に、とまた爪先で水面を作るだろう。


<こころの泡沫>
浮かんだのはどこか広い研究室だ。大勢の白衣を着た人々がああじゃないこうじゃないと叫び狂っている。
その表情は必死で絶望で、焦りで、恐怖で、彩られている。(0/1)
「ここは国の集まりで形成された科学研究の部屋だね。皆必死になって、死にたくはなかったんだろう?
非現実な案でさえとりあえず実験をしているようなありさまだった」
水面の向こうに、<目星>すれば人々の中に一人だけいやに冷静なのがいることに気付く。
<心理学>をすれば、人々は誰もが「死にたくない」と思っていることが分かるだろう。(0/1)
しばらくすると異変が起きる。部屋にアラームが鳴り響くのだ。
そのアラームに弾かれたかのように人々は逃げて行ったり、神に祈り始めたり、何事かを叫んでいたりするだろう。
その中でも一人だけが、ただひたすら紙にペンを走らせている。望みを持っているようにも思えるかもしれない。
「この茶髪の彼も学者で、収集された一人だったわけだ」
水面は彼を大きく映し出す。冷や汗を流しながらも、ぽつりぽつりと何事か呟きながら、ひたすら何かを解いているように見えるだろう。
「彼は人間が持つべきではない知識にも通じていてね?集めた本から何か手はないかと、
必死になって読み漁っていたりもしていたが、最後の望みを託したのはとある数式だった」
彼の手元の紙が映し出されるだろう。だが、INT18以外の探索者が見てもそもそも何が何だか分からないようなものだろう。
彼が必死になって解いているのは「クルーシュチャ方程式(マレウス・モンストロルムp204)」である。
彼はINT18、EDUを21持っているため方程式を理解し、解式を試みることが出来るのだ。
それを探索者が知っていようが知らなかろうが問題はない。
「彼は、この方程式が何を引き起こすか知っている。知っている上でこうして必死になって解いていた」
研究所に再びアラームが鳴る。その音に誰もが恐怖感を煽られる。水面に写った人々は逃げまどう。
だが彼はそれを意に介せず、ただペンを走らせる。
「神の力を知っていた彼は、それを防いできた立場にあったが……最期の最期にこうして神にすがった」
やがてアラームも静まった広い研究室にペンの音が響く。
「流石にこのままでは彼は死んでしまうね。何故って、灼熱の炎がすぐそこまで迫っているアラームが鳴ったのだから」
それでも彼はペンを走らせている。
<心理学>、<精神分析>をすれば、彼はほぼ心身喪失にも近い状態であることに気が付くだろう。
何が彼を駆り立てるのか。首を捻っていれば、<目星>などで紙を抑えつける左手の薬指に
リングが嵌められていること、そして彼が泣いていることにも気付くだろう。
彼は本心では、『間に合わない』と悟っているのだ。
「彼は頭がよかった。間に合わないだろうということも、もし間に合ってこの式の正答に辿りつけたとしても……解いてしまえば、自分は自分で居られないことにも」
これに関して探索者が質問を投げかけたとしたら、「そういう方程式なんだ。神の悪戯でできた、ね」と答えるようにすること。
泣きながらもペンを走らせる彼に<聞き耳>をすると、何か人の名前らしき単語を呟いているように聞こえるだろう。
<目星>に成功していて、リングに気付けていたなら、きっとその名は最愛の人の物だということにも思い至る。
「彼は恵まれた人だった。生まれた家は裕福で、授かった頭脳で人々には持て囃され、素晴らしい教育を受けて、友人や仲間、果ては愛おしい人。
平凡かつ人という脆弱な生き物にとっては最高にも近い幸せを手に入れていたよ。
けど、世界がこんなになって、友人や仲間たちは彼を守って次々と身代わりのように死んでいった」
彼の呟きはだんだんと激しさを増す。普段大声を出すことがなかったのだろう、声はすぐに枯れるも、その言葉は綺麗な英語である。
もし<英語>技能を20%前後持っていれば、訛りのないクイーンズイングリッシュであることに思い至る。
<英語>技能がなくても彼が何と言っているのかは不思議と理解が及ぶ。
『どうして、どうして、何で、何で、何のために私のこの頭は、何でどうして……ッ!』
『―――……守るために……こんなのにまで手を出したっていうのに……せめて、夢であったなら……』
『私は、私は、何のために、皆に守られて、何で、何で私だけ、私だけ生きて、何で何で……何で私を……私は』
そんな悲壮な声を上げていながらも、手は止まっていない。
研究室に残った信仰深い研究者たちもゆっくりと倒れ始めた。熱に焼かれた機材たちは焦げてしまったり、溶けてしまっている。
目を見開くのを最期に、彼もゆっくりと倒れて行く。
そして水面が揺れた。(1/1d3)


<存在する大地>
「さて次は何が良いかな?」
水面には再び探索者たちと背後の樹が写っている。男は写っていない。
もし情報が欲しいと言うことでリプレイを要求する探索者がいれば上記のをリプレイすること。
何故研究者個人など見せたのかと訊かれた場合、「一番の大馬鹿ものだったからだよ」と答える。
声は少し震えていたような気がすると描写する。<心理学>を振られた場合、80%で対抗する。
対抗に負けた場合、『後悔に溢れている』と教えること。
「ううん……じゃあこれにしようか」
そうしてまた水面を揺らす。
映り出すのは空から見下ろしたどこか、のようだ。
「ここにはかつて、町があった。流石に最初の大都市ほどじゃないけれど」
町があったとは信じられないだろう。大量の植物、木々に覆われてそもそも地面が見えないからだ。
ただ、木々が生えずにぽっかりと空いた場所があるだろう。<目星>すれば、そこはすこし窪んでいて、晒されている土は焼かれてひび割れていることに気付く。
<博物学>、<地質学>でかつてここは水があって、豊かな湖だったのだろうことが伺える。魚などもいそうなものだが、骨すら残っていない。
<アイデア>を振ってもいいだろう。
成功で、「世界は滅びたとして、その原因は焼けただの灼熱だのから察するに太陽の膨張かなにか。
水は枯れて土も焼かれて、コンクリートも焼かれたというのにどうしてこんなに植物が蔓延っていている?そもそもなんで大地は存在している?」と思い至る。
男は美しい緑を愛でるように見下ろしながら、こう呟く。
「こんな世界が生まれるなら、滅びも悪くはないかもしれない。そう思うかい」
それは問いかけのようであり、自問のようであり、ただの呟きのようでもある。
この呟きの後、<目星>をしたなら水面ではなく「水面に映った世界」自体が揺らいだように見える。


<水面の鏡である意味>
再び映し出されたのはどこか室内のようだ。
(学者の家のリビング。広めで綺麗。ありそうなものはだいたいある。)
誰もいないらしい室内に響く時計の音。<目星>に成功すると壁に掛けられたカレンダーに目が行くだろう。目星に失敗しても少し遠周りで見つけるようにする。
そのカレンダーは「2015年」のものである。
また、<目星>に成功した探索者には<聞き耳>を。成功すると水が激しく落ちる音……滝のような音と共に、
水面に映っている映像が激しく揺れてぷつん、と途切れる。「そのまま、答えて」という囁きが混じって。失敗した探索者には突然途切れたように見えただろう。
一度映像が途切れたらもう映像は見えない。
※探索者の記憶はシナリオ開催日。カレンダーの月はその一か月前。学者が方程式に向かっていたのはカレンダーの月の最終日。
首を捻るようならこちらから「困惑しているようだね?」と話しかけて質問させてこれらの情報を与えること。


<悪夢ならきっと>
もしどこかで「おかしい」ということを言った探索者がいれば、男は水面を踏みしめて、では、という前置きと共にこう言う。
「何がおかしい?では君たちが見ていたものはなんだ?この空間は?」
この問いかけに答えられないのなら、男は大笑いして、続ける。
「分からないのなら"おかしい"だなんて言うもんじゃないよ。答えに辿り着かなければ、全ては今見えているものだけなのだから」
と、再び水面を揺すだろう。

―――答えられた場合。
答えは「現実ではない」「悪い夢だ」の二点。「現実」ではないこと、「悪夢」であることのどちらかを示唆する。
ただ、「現実ではない」という答えの場合、男が「現実ではない、とは?」と詳細を訊きに来る。
ここで「悪夢」であると返答できない場合は上記へと流れてしまう。

悪夢であるとはっきり明言した場合、強い風が吹いて男の仮面があっさりと外れてしまう。
樹の木葉が激しく音を立てる。仮面は水に沈んでいく。
最初こそ風に耐えるように男は俯いている。よく見れば黒髪が少しずつ明るい茶色に染まっていくのに気付くだろう。
その姿は、研究所でペンを走らせていた彼とそっくりだ。その表情はどこまでも悲しみに満ち、深緑の目には光がない。
「そうだね。悪い夢だ。君たちにとってこれは、ただのいつかは終わる悪い夢だよ」
彼が一歩踏み出すと、水を蹴散らして黒い触手のような、霧のような何かが大量に湧き出てくる。(1/1d6)
「ただの悪夢ならいいんだ。現実にならなければ。けれど神というのは気紛れでね」
<心理学>を使用する場合、抵抗が発生するが、男の技能値は60にまで低下する。
成功した場合、「少しずつ読み取れる感情が消されている」ということに至る。(0/1)
「その気紛れが現実になってしまったのが私の世界だ。君たちの世界はこうならないといいね」
そうして黒い触手に絡め捕られていくのを見守るかどうかは探索者しだいだ。


<手を伸ばすことも時には>
―――戦闘に入るような行動を起こした場合。
例えば触手に戦闘技能。
もしダメージが入ってしまうと、触手は花が綻ぶように先から崩れるが、中にいたはずの男の姿はないどころか、
黒い霧に覆われているのは……方程式により呼び出された這い寄る深淵、ニャルラトホテプだ。(1d10/1d100)

―――見守る場合。
触手は天辺まで彼を包み込むと再び水へと沈んでいく。
木葉がひらりと追いかけるように一枚、水面に浮かんだ……と思えば、何かに引っ張られるような感覚がするだろう。
足元を見たなら、樹の根本から水面が割れて、聖書のモーセのように、
滝のように真っ暗で何も見えない先に水が落ちて行くのを見る。(0/1)
逃げようとしても音もなく割れる水面はすぐに探索者たちの身体を浮かせて、その身を暗闇に叩き落とすだろう。
真っ逆さまに落ちて行く感覚は想像に耐えがたく、風が身を切っていく。
「素晴らしい世界によろしく」
そんな一言を耳にした……と思えば暗闇に引かれるように意識を失うだろう。
この時に<聞き耳>を使用すれば、一言の後にそれはもう人間の物ではない、
狂ったとしか言いようのない笑い声が尾を引くのを耳にするだろう。(1/1d3)


<素晴らしい世界>
意識を取り戻せば、なんてことはない。日常の最中に放り出されている。
例えば、通勤電車の中で居眠りしていたとか。例えば授業中に居眠りしてしまっていたとか。
例えば、料理をしていて鍋が噴き零れる直前だとか。そんな日常の中に。
あなたたちに何かを見ていたという認識はないが、
「素晴らしい世界によろしく」という誰が言ったのだか分からない一言は耳に焼き付いて離れてくれない。
鏡などを見れば、何故か頭に一枚の木葉が付いていることに気付くだろう。
その木葉はどこから飛んできたのか……とても美しい緑に少しの雫を乗せていた。




<生還に関して>
生還:1d8
男の質問に正答した探索者:1d3
尾を引く笑い声を耳にした:クトゥルフ神話+5%


<ロスト条件>
男の質問に三回間違えると、男は「期待はずれだった」と口にして、水面から触手を召喚。
<幸運>、<回避>に失敗すると胸を貫かれて塵となってしまう。
また、化身の姿が崩れると本体の姿になるためもちろんSANチェックである。


<その他>
ニャルラトホテプについて
クルーシュチャ方程式を解いた学者。本来は茶髪緑目のイギリス人。
外なる神になる前にせめてと探索者たちを呼び寄せてしまった。
それを面白がった神の意識はあえて意識を彼に戻している。
穏やかに接しているが、言葉の端々に隠しきれないものがある上、
三回も間違えられたら神はもう「詰まらない」と判断してしまうのだろう。

樹:学者が生前愛していたもの。根元に寝転がって考え事をしていたそうな。
水面に映るもの:真実と学者の願望。学者がいた世界は太陽に呑まれて亡くなっている。
PCたちの世界は存続している。学者がいた世界はPCたちから見たパラレルワールドだ。
学者:茶髪緑目のイギリス人。地質学教授だった。INT18EDU21SIZ10。
友人や仲間に次々目の前で先立たれ、水面に映っている時にはすでにSAN0である。

あまり悩んでしまうようなら、<アイデア>でさくさくヒントを出してしまおう。