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2020.7NEW …最新の論文によって芽殖孤虫の症例数と致死率を変更
 最新論文の「Human proliferative sparganosis update」(菊地泰生・丸山治彦)において、菊地らは過去115年分の論文を調査し、
またDNA検査をするなどによって、今まで他の裂頭条虫類だとされていた5つの症例(1981韓国・1982中国・2000/2001/2015タイ)は芽殖孤虫であったと結論づけ、
逆に今まで芽殖孤虫だとされていた3例(1956日本・1976アメリカ・1978台湾)は、芽殖孤虫ではないとしました。
結果、芽殖孤虫の症例は18例となります。(当サイトでは最新論文では言及されていない1966日本と1983カナダの症例も疑い例として含めています)
 さらにこの論文では、先に紹介していた2014年ドイツの症例と新規症例の2000年タイの症例を芽殖孤虫生存例としています。
よって今まで致死率100%と紹介していた芽殖孤虫ですが、今後当サイトでは致死率89%(2/18)とします。
(※実際には18例中、予後不明が6例あります)
 また、この論文では芽殖孤虫をその感染様態から「皮膚型」と「内部型」の2タイプに区分しています。


【蟲】芽殖孤虫〜人体を蝕む謎の寄生虫

 1915年9月15日の夜、熊本県天草郡牛深町に住む18歳の女性は友人の家から帰宅した時に悪寒と強い頭痛を感じていた。
翌日になると食欲を失い、4日後には赤く痛みのある腫れが左大腿部の内側にできはじめる。
痛みは日に日に酷くなり夜も眠れない程になったので、近所の医者へ行き腫れを切開してもらうと、大量の膿が流れ出てきた。
切開はその後2回程おこなったが、腫れは引かないまま2年が経過。その頃には腫れは左下肢・右大腿・下腹部にまで拡がっていた。
その腫れを引っ掻くと皮膚が破れ、膿や血に混じって動く白い虫が出てくるようになる。虫の数は5,6匹あまり、時には2,30匹にもおよんだ。
症状は悪化するばかりだが治療法は見つからず、ついに1921年4月4日、九州大学病院へ入院することとなった。
 入院後は肥大した下腹部と両大腿部の成形手術等を数回受けるが症状は好転せず、逆に身体の数箇所に腫れが拡がっていく。
やがて肺炎の兆候が現れ全身状態が悪化していき、1922年4月23日、女性は24歳という若さで死亡してしまった。
 死亡後女性を解剖すると、胸・腹・大腿部の皮膚、脳の表面・肺・小腸・腎臓・膀胱などから無数の白い虫体が検出された。
まさに全身虫だらけという恐ろしい状態だったのである。
 この虫は芽殖孤虫。芽殖孤虫は成虫(親)が判明しておらずその生活史が不明で、感染するとほぼ確実に死に至る恐ろしい寄生虫である。。
(『頭にくる虫のはなし』 西村謙一 技報堂出版 参照)


 芽殖孤虫(Sparganum proliferum:スパルガヌム プロリフェルム)とは、
人間に芽殖孤虫症を引き起こす条虫網擬葉目裂頭条虫科に属する寄生虫の幼虫である。
世界で18症例(※他疑い例+2)が報告され、そのうち最大の6例(疑い例+1)が最初に報告された日本で発生している。
芽殖孤虫は薄い嚢に包まれており、大きさは数ミリから1センチ程度で皺だらけである。
形状は様々でワサビやショウガの根のような形をしているものが多いが、
中には蝶の羽様に拡がった虫体も確認されている。
 体内に侵入すると無秩序に発芽した芽が嚢を破って他の部位に到達し、
そこで成長しながら新たな嚢に包まれて分裂する。それを繰り返し体内で無数に増殖していき、
やがて皮下組織・筋肉や内臓に脳、骨などあらゆる組織器官に虫体が蔓延、全身が虫だらけになる。
その量だが、国内2例目の患者では筋肉片約3平方センチメートル内に20〜25個もの蟲嚢があったという。
芽殖孤虫がはびこる様は、国内2例目の東大病院での部検所見において
「無数ノ大小種々ナル条虫及ビ嚢虫ノ湧キ出ルヲ認メ、一見慄然タラシムルモノアリ」
「全身至ルトコロニ居リテ、肺ノ如キハ最モ著シ」
「斯ノ如ク多クノ蟲ニ寄生セラレテハ蟲ヲ殺スヨリ人間ヲ殺ス方早シ」と記されている。
 症状は2パターンある。
「皮膚型」ではまず局所皮膚に瘡様小結節ができ、やがてそれが全身に広がる。
その結節ないし突起は痛みや痒みを伴い、掻き潰すと白い虫体が出てくる。
その後の経過は症例により異なるが、主に下半身の皮下組織が腫れて肥大していき、
細菌感染なども生じ、場合により皮膚が象皮病様になることもある。
内臓へ侵入した場合は出血を伴い、肺では喀血を起こす。
脳に侵入した場合では言語障害・運動障害といった脳症状を引き起こしていく。
(体内を寄生虫の幼虫が動き回ることで引き起こされる症状を幼虫移行症という)
 もうひとつの「内部型」では皮膚症状は見られず、内臓や骨への感染が主となる。
 ※一方の「皮膚型」では骨部への感染は見られない
 
 経過は慢性的で数年から十数年もの長期にわたり、未治療のままでは最終的には死に至る。
治療法は感染初期の分裂・増殖前に外科手術による虫体の全摘出が有効だが、増殖が進んだ段階では困難である。
ゆえに長らく致死率100%と恐れられていたが、現在では生存例が2例ほど存在している。
生存例のうちドイツの患者は診察時、分裂前の虫体1体のみだった為、摘出によって治療することができた。
またもうひとつの生存例の2000年タイの例では、駆虫薬プラジカンテルにて治療することができた。(資21)
いずれも初期の増殖前の段階で芽殖孤虫と診断がおりたことが功を奏したといえる。
 論文発表時には治療中であったり、治療途中で退院した症例もある。
それらは予後不明としているが、本病の性質から生存は難しいものと思われる。
 
 芽殖孤虫の「孤虫」とは成虫が同定されていないことを表す。
人間が最終宿主では無い為人体で成虫にならず、成虫の同定が出来ていない。
犬や猫、猿への感染実験でも最終宿主であるとは確認されなかった。
人間への感染経路は不明で、終宿主や中間宿主といった生活史は一切判明していない。
ゆえに予防する方法も分からないままである。
人間以外への感染例は日本で牛と犬(1982年 福岡(資18/19))への感染と、アメリカで猫への感染が報告されている。
 1982年にベネズエラで発見・摘出された虫体が現在もマウスの体内で継代中で、日本国内でも研究に使われている。
マンソン裂頭条虫の変異体との説もあったが、後に遺伝子検査によりマンソン裂頭条虫とは異なる種と判明した。
CO1遺伝子の塩基配列に基づいた系統樹においては大複殖門条虫および日本海裂頭条虫に近い位置にあり、
ND3およびIp遺伝子に基づく系統樹ではマンソン裂頭条虫と近縁にあるとの結果が出ている。
遺伝的な距離でいうと海産裂頭条虫とは距離が遠く、芽殖孤虫は淡水域を起源とする裂頭条虫に近いと思われる。
またこの遺伝子検査で、日本とベネズエラの芽殖孤虫は同じ遺伝子を持っていることが分かった。
 DNAの解析が進んだことで、過去他の寄生虫(マンソン裂頭条虫等)とされていた症例が、実は芽殖孤虫だったと判明する事例が出てきている。
 感染経路についてだが、遺伝子検査で近縁とされたマンソン裂頭条虫はヘビやカエルを摂取することや、
幼虫に感染したミジンコに汚染された水を飲む事で感染する。
日本での直近感染例(日本/茨城)では患者が井戸水を使用していたことが分かっており、
ミジンコに汚染された生水から感染した可能性も考えられる。
フランス領レユニオン島での感染例では、患者が20数年前から蛇食を行っていたことが分かっている。


【症例】 日本では6例 世界全体でも日本含め18例(他疑い例2例、除外例3例)
 ★資料により症例の年・発生地等に相違があり不確定・推定部分あり。
No地域性別年齢予後経過期間備考
11904日本東京女性33死亡5年皮膚
21907アメリカフロリダ男性48死亡23年皮膚
31907日本東京男性36死亡7年皮膚
41911日本京都男性55死亡(推定)12-13年皮膚途中退院※1914年6月までは生存確認
51920日本京都男性62死亡12年皮膚
61921日本熊本(天草)女性24死亡6年皮膚
71977パラグアイ男性24死亡不明内部
81981ベネズエラカラカス男性35死亡7年皮膚
91981韓国男性35不明不明内部NEW
101982台湾台中女性26不明4年内部
111982中国広東男性11死亡不明内部NEW
121984台湾花蓮女性43不明6か月内部
131987日本茨城男性48死亡10か月内部
142000タイ男性32生存4−5年内部駆虫薬プラジカンテルで治療NEW
152001タイ男性51不明2年内部NEW
162010フランス領レユニオン島男性45不明4年内部HIV陽性
172014ドイツフライブルク男性61生存3週間皮膚虫体摘出で治療 南米ボリビア/ブラジル/パラグアイのいずれかで感染
182015タイムクダハン男性63不明5か月内部NEW
※予後不明について…論文発表時に生存している場合も不明としています

◎症例別症状 ※【上記症例No.】
【1】全身(除く頭部・頚部、上肢)に結節、両下肢著しい膨張、掻痒感。
【3】頚部〜全身へ結節、嘔吐、人事不省、言語・運動障害、右半身麻痺、てんかん発作、喀血、嘔吐、直腸・膀胱障害、掻痒感、精神錯乱。全身に虫体。
【4】結節、掻痒感、言語障害、右大腿の膨張・象皮病様。
【5】皮膚白斑、結節、掻痒感、栄養不良、腹部肥満、大網・左肺・両腎臓・腹膜から虫体。
【6】悪寒戦慄、頭痛、左大腿部痛痒ある膨張、膨張の発赤・拡大、四肢の運動・知覚麻痺・象皮病様、体温上昇、嘔吐、肺炎。骨を除くほとんど全ての組織器官から虫体。
【13】右腰・右大腿の痛み、腫れ、肺にX陰影、呼吸困難。内臓・筋肉・腰骨から虫体。

◎疑い例…(資22)未掲載症例
No地域性別年齢予後経過期間備考
a1966日本東京男性不明不明不明不明論文未発表(資5)
b1983カナダ男性不明不明不明不明フィリピン人(資6)

※以前本サイトでも芽殖孤虫症例として紹介していた、
・1956 日本/熊本 
・1976 アメリカ/ペンシルベニア
・1978 台湾
の3例は(資22)で芽殖孤虫ではないと判断されたので除外しました。

※国立科学博物館で開催された「大地のハンター展」(2021)において芽殖孤虫の標本が展示された。
そこでは芽殖孤虫は“18例中少なくとも10例が死亡例”と説明されていた。

■芽殖孤虫画像(写真・画)

◎5例目・天草の女性感染者画像(資13)


◎同女性の大腿部皮膚に寄生している芽殖孤虫の虫嚢画像(資13)


◎同女性から摘出された虫体画像(資13)


◎アメリカ/フロリダ感染者の写真と摘出された虫体画像(資13)


◎1例目の感染者から摘出された芽殖孤虫の画像(絵)


◎目黒寄生虫館の標本画像


◎国立科学博物館「大地のハンター展」(2021)で展示された芽殖孤虫の標本


◎京都感染者の画像(「熱帯病学」高崎佐太郎)


◎ベネズエラ感染者の皮膚画像


◎ドイツ感染者の画像と虫体


◎資料22より


※下の画像が芽殖孤虫としてネットで紹介されているが、どちらも芽殖孤虫とは関係ない画像である




◎参考資料
(資0)「On a New Cestode Larva Parasitic in Man (Plerocercoides prolifer) 」(飯島魁 1905)※英文 ★新種発見論文
(資1)「幼裂頭条虫症.マンソン裂頭条虫並びに芽殖孤虫の感染」(最新医学44巻4号1989 影井昇)
(資2)『図説人体寄生虫学 第9版』吉田幸雄/有薗直樹 南山堂

(資3)『頭にくる虫のはなし』 西村謙一 技報堂出版

(資4)『特集アスペクト48 蟲実話』アスペクト

(資5)「病理レポート5 芽殖孤虫症」(診断と治療79巻5号 中村卓郎)
(資6)『寄生虫病の話』 小島莊明 中央公論新社中公新書

(資7)「芽殖孤虫の1例」(熊本医学会雑誌32(補5) 岡村一郎/松下文雄)
(資8)「Plerocercoides prolifer Iijima に就いて」(動物学雑誌244号 吉田貞雄)
(資9) 「PIE症候群,肺塞栓症を合併した芽殖孤虫症の1例」 (日本胸部疾患学会雑誌27号 中村卓郎 他)
(資10)「分殖性幼条虫症」(医学中央雑誌 1909年7巻 碓井龍太)
(資11)「プレロチェルコイデス プロリフェル 患者供覧」(京都医学雑誌 1911年8巻 井上五郎)
(資12)「Plerocercoids prolifer Ijimaに因する象皮病の1例患者及び標本供覧」(福岡医科大学雑誌 1920年13号 田代規矩雄)
(資13)「目で見るページ 芽殖孤虫症」(臨牀と研究38巻3号 宮崎一郎)
(資14)「日本から報告された稀有な人体寄生条虫類」(目黒寄生虫館 森下薫)
(資15)『熱帯病学』高崎佐太郎 東京大学出版会
(資16)『世界の奇病大全』宝島社

(資17)「DNA配列による芽殖孤虫の系統分類学的研究」(小風暁)
(資18)「犬の芽殖孤虫症と思われる1例」(寄生虫学雑誌32巻1号 1983.2 藤幸治)
(資19)『図説人畜共通寄生虫症』九州大学出版会
(資20)「Disseminated infection caused by Sparganum proliferum in an AIDS patient」 2010.4 R.Maric他
(資21)「Travel-acquired subcutaneous Sparganum proliferum infection diagnosed by molecular methods」Schauer F他
(資22)「Human proliferative sparganosis update」(Parasitology International vol.75 2020. 菊地泰生・丸山治彦)

◎参考サイトリンク
(資A)謎の寄生虫  http://www.nichidokyo.or.jp/animal-doc/warm-5.html (リンク切れ)
(資B)芽殖孤虫wikipedia  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%BD%E6%AE%96%E5...

◎1987年事例の新聞報道
関東地区の農村で寄生虫死 64年ぶり芽殖孤虫を確認/広島大医学部
1988.06.01 読売新聞 東京朝刊より引用

 関東地区の農村部に住む男性(48)が、芽殖孤虫(がしょくこちゅう)という
極めて珍しい寄生虫で死亡していることが、三十一日明らかになった。
この寄生虫は人間の体内に入ると、植物が芽を出すように増殖して臓器を食い荒らす。
今回の症例は、一九二四年(大正十三年)の熊本県以来、六十四年ぶりという珍しいもの。
これまで世界で計十一の報告例しかない。
男性は昨年九月二十九日、入院中の東京都港区の虎の門病院で呼吸困難のため死亡しているが、
採取した筋肉組織の標本を辻守康広島大医学部教授(寄生虫学)が分析した結果、
今年四月、芽殖孤虫であることが分かった。

※他に1988.07.13 朝日新聞 東京夕刊でも報道されている

【3大ヤバい寄生虫】
・芽殖孤虫:全身虫だらけになって死ぬ。致死率89%
・ハリセファロブス・ジンジバリス:脳が虫だらけになって錯乱して死ぬ。致死率100%
・フォーラー・ネグレリア:脳が溶けて死ぬ。致死率95%
全部日本にいる。


◎オススメ寄生虫小説
『孤虫症』 真梨幸子 講談社文庫
 〜「週に三度、他の男とセックスすることを習慣にして」いる主婦・麻美。
  彼女の不倫相手が次々と身体全体に瘤のようなものを作って原因不明の死を遂げる。。

『天使の囀り』 貴志祐介 角川ホラー文庫 
 〜アマゾン調査隊に参加したメンバーが次々に自殺していく。アマゾンで一体何があったのか? 

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