カメラ漫画夜話 - 喝揚丸ユスリ商会
著者藤子不二雄A
掲載誌・掲載時期劇画ゲンダイ'73.6〜12
単行本中公コミックスLite/中公文庫「藤子不二雄Aブラックユーモア短編集(3)」所収

 カメラ絡みの漫画を語る上でも、藤子不二雄氏は欠くべからざる方です。鬼籍に入られた藤本氏は生前甚く写真がお好きだったらしく、奥様や子供さんの写真をよく撮っておられたというエピソードもある上にカメラ技法を語らせるとこれがまた丁寧で面白かったのが今も印象に残ってます。「ドラえもん」の「超リアル! ジオラマ作戦」(小学館コロコロ文庫 スネ夫編収録)をご覧ください。「エスパー魔美」の「未確認飛行物体!?の巻」(小学館コロコロ文庫一巻収録)をご覧ください。前者はプラモデルの写真、後者はUFOのトリック写真の撮り方についての解説があるのですが、前者はスネ夫の従兄、後者は高畑の口を借りて実践しようと思えばできるほど丁寧に、しかも面白くテクニックを解説してあります。オバQにもUFOの写真に現を抜かして、ブレたの光量不足だのと失敗作の言い訳してる大人気ないおっさん(一話限りのゲスト)が登場してましたし、「忍者ハットリくん」でも大型カメラで記念写真を撮る場面で、ストロボの代わりに使うマグネシウム閃光器までが甚く丁寧に描かれていました。
 もちろんそれに止まらず、毎回特殊能力を持つカメラが登場する話をオムニバスで描く「夢カメラ」なる漫画もあって、何回かドラマ化もされています(私は渡辺美奈代ちゃん主演のを見てました)。その詳細はこちらに譲るとして、コンビニコミック化された中でほぼ全編でカメラがバイプレーヤーとして登場する作品なら他にあったから、ということでまず「喝揚丸ユスリ商会」を取り上げさせていただきました。こちらも笑福亭鶴瓶氏の主演でドラマになったものの、その今一つな出来に藤子不二雄A氏は不満そうでいらしたという情報もありましたが詳細は存じません。

 主人公は狸親父の喝揚丸。表向きはうだつが上がらず、人のいいサラリーマンのようで実は金を持っていそうな人の弱みを握って金を強請るのを生業としているとんでもないおっさんだった。その恐喝屋としての顔と人のいい親父としての二つの顔を描いていく、というのが大筋です。で、強請の材料として写真を撮るためにカメラが登場するのですが、これがどうしたことか毎回毎回違ってます。賭け麻雀打って賭け金の受け渡しをしているのを押さえるために使ったヤシカアトロンエレクトロ(ミノックス判なのに何故か「16ミリカメラ」と言われてたのが気になりましたが)は隠し撮りにはその方がいいと理由付けもできましょうが、それ以外ではニコマートFT、ミランダセンソマートRE、ニコンF2フォトミックS、それぞれ一回限りの登場になってます。使ってるレンズは標準〜望遠系で、これで遠くから狙えば相手に気づかれることもまずありますまい。ブレ対策は重要ですけど(そこら辺はもう揚丸が写真の腕に覚えありということでカバーされていますが)。
 初出は'70年の最初ですから(雀荘やラブホの描写にそれが見て取れますが)デジカメなどあろうはずもなく、それが仇になるというオチもあったりするのですがそれは実際に読んでいただくということで。例によって重鎮の先生の漫画ですからキャラ立てもしっかりできてます。揚丸が隠し撮りに関しては一流であってもそれ以外のことではてんで情けないダメ親父として描かれていて、それがために単純に「悪い奴」で片付けられないのはもちろんですが、強請られる相手も最初は強気だけど強請られた途端弱気になったり、逆に簡単に金払ってたまるかと用心棒呼んで痛めつける手合いもいたりします。更に揚丸に強請られた相手がその前に強請りを働き、その相手の女性が実はもう一つの顔を持っていた、というオチもありました。毎回ゲストの個性をこうもシンプルに差別化するというのも簡単なようで結構難しいのではないですか。あ、あとは揚丸のかみさん。売れっ子の若い男性歌手のファンなんですが、その辺りが韓流ブームの頃ヨン様に入れ揚げてたおばはんを思い出させてなんとも。今これをアニメなり実写ドラマに仕立ててテレビで流したらまさにそっち系のタレントが出てくるのではないでしょうか。

 この漫画、入れ替わりの激しいコンビニコミックで売られてましたし、これまでに本作がメインの一版が出た後、「番外社員」も一緒に収録された二版が出た後でその後売られてるのを見ていません。現在は上記の通り中公文庫の「ブラックユーモア短編集」に収録されているのを読めます。表題の通り「笑ゥせぇるすまん」のような大人向けの漫画なのでドラえもんのような内容を期待してはいけません。飽くまで揚丸の強かさや情けなさを楽しむ漫画です。