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arucard_72 2014年09月15日(月) 17:09:26履歴
光に瞼の裏を擽られ、私は目を開ける。
クリーム色の……きっと昔は白かった壁で揺れる薄いカーテンの隙間から差し込む光は、この日照権なんて欠片もないアパートからですら分るほどに明るい。
畳敷きの和室には若干不似合いな、メイド服。ウサギの形のブラウン管テレビ。壁に立てたかけただけの、ちょっとくすんだ、ピンクの縁取りの姿見。そこに映ったデジタルの数字は、02:11……
いつも通りの、朝の、自分の部屋。私はひとつ大きなあくびをしてから、背中に感じる温もりを求めて、体をまるめ……
「……!!」
飛び起きた。日が高いのだ。改めて直接時計に視線をやれば、11:50だった。私は温もりの正体、隣で眠る男の体を揺らす。
明るい時分に見る彼の裸は、まだ少し恥ずかしさを感じてしまう。けれども、躊躇ってはいられない。
「プロデューサーさん、起きてください! 遅刻しちゃいます、準備、準備しないと!」
この安部菜々がプロデューサーから今の事務所にスカウトされ、アイドルとしてデビューしてから、ようやく勝ち取ったレギュラー番組。収録時間まで、あまり余裕はなかった。
私に体を激しく揺さぶられ、彼……つまり、私のプロデューサーは、寝惚け眼を擦って見せた。そして、デジタル時計を見やると、腕を上げた。その指先が指しているのは、日付の部分。
「……あ」
そうか、今日はオフの日だ。だから、昨日の夜は二人で飲み交わして、その後……
気の抜けた私の体を、彼の上げた腕が掻き抱く。抵抗するまもなくシーツの中に引き込まれ、男の匂いに包まれた。
今は夏だ。お互い火照った身体は寝汗にじっとりと湿っているけども、こうして触れ合わせていても、彼の逞しさを感じる肌は不快じゃなかった。
「けど、いいんですか? 菜々は空いてますけど、他の娘も見てあげたほうがいいんじゃ……」
彼が答え、私は思わず、
「……クサッ」
いや、だって。今日は君だけを見ていたいって。それは嬉しいですけど。恥ずかし紛れですけど。
「童貞こじらせちゃったってやつですかねぇ……」
照れを悟られないように、どこかで聞いたスラング混じりにからかうと、似たようなものじゃないかと、悪びれもせずに彼は小さく笑った。
私も笑い返して、彼の胸元に顔を埋めた。こうやって軽口を叩き合える相手だというのが、何よりも有り難かった。
「そういえば朝ごはん、どうします? もう、お昼ですけど」
菜々が作りましょうかと聞いたが、彼は答えずに、額にキスをしてきた。私の、身長に比べるとやや大きめな胸に手を這わせながら。
分かりやすい人だ。優しい胸への愛撫を感じつつ、私は少しだけ起こした体の重みを彼に預け、唇に求めた。
そういえば、髪を下ろしたところは見せたことがなかったなと、後ろ頭を撫でられながら気がついた。そもそも化粧だってしてないままだ。
裸体をさらしているのに今更、とは思うけども、急に気恥ずかしさに襲われたけど、掻き抱くように回された腕からは、逃れられない。
逃れようとも思えない。差し込まれた彼の舌に、僅かばかり残ったアルコールの香りだって気にならないのだから、きっと彼だって似たようなものだろう。
頭を撫でていた掌が、首筋へ、背中へと、ゆっくりと降りて、私は小さく身体を震わせた。この感覚が、性感と呼ぶきものかどうかはまだ分らない。
こうして肌を合わせるようになって、まだそう多くの回数を重ねた訳ではないのだ。ただ、この安心感のような心地よさは本物だった。
口腔を撫で回す舌の感触と、身体をまさぐる手の感触を味わいながら、彼のその部分に手を伸ばした。屹立したそれは熱く硬く張り詰め、先走ったものでぬめっていた。
そのぬめりを頼りに、先端を撫で回すと、口付けを交わしたままの彼の口から呻き声が漏れた。
刺激が強すぎるみたいで、あまりここばかり弄っていると、嫌がられてしまう。普段強気な彼が悶える姿を見るのはちょっと楽しいのだけども、仕方ない。
手を滑らせて、竿の部分をそっと握った。唇を離して一息ついた彼は、お返しとばかりに私の胸に吸い付いた。
「あ……」
敏感な先端に感じる、柔らかい唇の温もり。甘い痺れのような感覚が、胸からにじむ様に全身に広がる。
乱暴さはないとはいえ唇と舌で断続的に続く刺激は、ゆっくりと確実に、私の官能を高ぶらせてゆく。
「っ……んっ……」
だんだん声が抑えられなくなってくる。ほとんど彼の身体に覆いかぶさるように体重を預け、愛撫に身を委ねる。
無意識のうちに彼を求め、足を絡め、秘部を擦り付けていた。触れ合った部分に感じたしっとりしたものは、互いの汗……だけではないのだろう。
「えっと……プロデューサーさん、そろそろ……」
私がそう囁くと、彼はようやく唇から胸を解放してくれた。執拗なくらいの胸への愛撫と、はしたなくも自ら刺激してしまった秘部からの悦楽は、もう歯止めの利かないところまで昂りつつあった。
彼は枕元に手を伸ばす。ちょっと間の抜けたような間隔ができた。菜々は、コンドームなしでも良いんだけど……と、以前に告げたことがあった。喜ぶかな、と思っていたけども、彼は逆にひどく怒ってしまった。
今、俺達は夢を叶えられるところにいる、それを壊すようなことはしないで欲しいし、したくない、と。
じゃあ口で? と、漫画で読んだことを言ってみたが、やはり喉への影響を考えればやって欲しくない、と答えるのが彼だった。
なら、こうして逢っているのも問題なんじゃないですか?と冗談半分で尋ねたら、酷く悲しそうな顔を見せたので、そこでこの話はお仕舞いになった。
……手先の不器用なひとではないと思うけども、どうにもあれの装着には手間取るらしい。身体を持て余した私は、彼に気付かれないよう、そっと自分のそこに手を伸ばした。
一人でしていた時には考えられないほどに濡れている。そして、感じてしまう。
私はいやらしい女だったのかと、そんな考えが一瞬頭を過ぎる。けど、違うのだろう。これは愛を受けた証。そしてまた受け入れるための。
力強い腕が、私を誘う。準備を終えた彼が、私を組み伏せたような姿勢になる。
例え愛されていると分かっていても、やはり頭ひとつ分以上大きな男に組み伏せられるのには、ほんの一抹の恐怖を覚えてしまうし、何より行為の最中に顔が見えないのは寂しかった。だから、
「プロデューサーさん、えっと……今度は、私が……その」
繋がるため、逸物に手を添えた彼の動きが止まる。一呼吸。
「……う、上に」
彼が驚いたのが分かる。これまで行為を重ねる間に、やはり感じていた恐怖は察していたのだろう。私が彼とつながる事に、どこかしら抵抗を覚えていると思っていたに違いない。
「違うんですよ、えっと、菜々がそうしたいからって、そう思って、えっと……その……」
少し身体をずらして合わせてくれた彼の視線が気恥ずかしい。うまく伝えたい言葉がまとまらずに、結局私は、
「駄目……ですか?」
ほとんどすがるような声を絞り出すことしか出来なかった。彼は苦笑しながらも首肯して、布団に身を横たえた。
「それじゃ、失礼しますね……っと」
布団に膝をつき、彼の腰にまたがる。やっぱり恥ずかしい。折角彼の顔がそこに有るのに、直視していられない。けれども、逡巡していても仕方がない。私はゆっくりと、待ち構える彼の上に腰を下ろして……
「……あれ?」
初めて自分から挿入を試みたからだろうか、中々思うようにはいかないものだった。陰唇をくすぐり、時折クリトリスを弾くその感触も、それはそれで心地好いものではあったけども。
あまり時間を掛けては、彼も萎えてしまうかもしれない。そう思ったときだ。
「え? ……ひゃっ」
彼が私の腰を掴んだかと思うと、一息に突き込んできたのだ。急な衝撃に、足の力が抜けて、深い所まで迎えこむ。崩れそうな上体を、彼の分あ厚い胸に腕をついて、何とか支えた。
「……っはぁ……あ……重く……ない、ですか?」
彼は首を振って答えた。私は安心して、腰を動かし始めた。上下させてみたり、腰を前後させてみたり。胎内の異物感が、じんわりと快感へと変わってゆく。
「っ……あはっ、プロデューサーさん、面白い顔してますよ……んっ」
いつもは私のずっと高いところに有る顔が、今は低いところにあって、そして私の奉仕で気持ちよさそうな表情を見せている。
そんな何とも言えない感覚が、性交の快楽と織り交ざって、より法悦の深い部分へと導いてゆく。
段々と、腰の動きが止められなくなっている。湿った水音と、肌のぶつかる音がいやらしい。
身体を支えていた両の腕は崩れ、その度に挿入が深くなり、快感もどんどん強くなる。
もう堪えられない。
「……っさん……さ、ん……っ」
掠れた声で彼の名を呼びながら、私はただただ快楽を求め腰を振る。
「……あ、はっ、だめ……いく……っ」
一際強い波が私の身体を支配して、同時に、身体の奥で強い脈動を感じ、そして、果てた。
日の陰った古びた部屋に、蝉の声が染み渡る。
あれから私達はもう二度、肌を重ね、そして今、同じ部屋でまどろんでいる。
私は彼の温もりに包まれながら、以前彼に問いかけた言葉を思い出していた。
こうして逢っているのは問題じゃないか? という問いに、彼は答えることは出来なかった。だがそれが結局、答えでもあった。
胸に掠める不安を誤魔化すように、寝息を立てる彼の唇にまたキスをして、すがる様に眠りについた。
遠くに、蝉の声を聞きながら。
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