宮沢賢治の詩によるもの。「
イーハトーヴ組曲」の続編。
あまの川
あまのがは
岸の小砂利も見ぃへるぞ。
底のすなごも見ぃへるぞ。
いつまで見ても、
見えないものは、水ばかり。
キックキックトントンキックキックトントン
「凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のまんじゅうはポッポッポ。
酔ってひょろひょろ太右衛門が、
去年、三十八、たべた。
凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のおそばはホッホッホ。
酔ってひょろひょろ清作が、
去年十三ばいたべた。」
「狐こんこん狐の子、去年狐のこん兵衛が、ひだりの足をわなに入れ、こんこんばたばたこんこんこん。」
「狐こんこん狐の子、去年狐のこん助が、焼いた魚を取ろとしておしりに火がつききゃんきゃんきゃん。」
堅雪かんこ、凍み雪しんこ、鹿しかの子ぁ嫁ぃほしいほしい。
北風ぴいぴい風三郎、西風どうどう又三郎
キックキックトントン、キックキックトントン。
「ひるはカンカン日のひかり
よるはツンツン月あかり、
たとえからだを、さかれても
狐の生徒はうそ云うな。」
キック、キックトントン、キックキックトントン。
「ひるはカンカン日のひかり
よるはツンツン月あかり
たとえこごえて倒れても
狐の生徒はぬすまない。」
キックキックトントン、キックキックトントン。
「ひるはカンカン日のひかり
よるはツンツン月あかり
たとえからだがちぎれても
狐の生徒はそねまない。」
キックキックトントン、キックキックトントン。
「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
でんしんばしらのぐんたいは
はやさせかいにたぐいなし
ドッテテドッテテ、ドッテテド
でんしんばしらのぐんたいは
きりつせかいにならびなし。」
「ドッテテドッテテ、ドッテテド
二本うで木の工兵隊
六本うで木の竜騎兵
ドッテテドッテテ、ドッテテド
いちれつ一万五千人
はりがねかたくむすびたり」
「ドッテテドッテテ、ドッテテド
やりをかざれるとたん帽
すねははしらのごとくなり。
ドッテテドッテテ、ドッテテド
肩にかけたるエボレット
重きつとめをしめすなり。」
「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
寒さはだえをつんざくも
などて腕木をおろすべき
ドッテテドッテテ、ドッテテド
暑さ硫黄をとかすとも
いかでおとさんエボレット。」
「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
右とひだりのサアベルは
たぐいもあらぬ細身なり。」
「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
タールを塗れるなが靴の
歩はばは三百六十尺。」
「ドッテテドッテテ、ドッテテド
でんしんばしらのぐんたいの
その名せかいにとどろけり。」
「こよいあなたは ときいろの
むかしのきもの つけなさる
かしわばやしの このよいは
なつのおどりの だいさんや
やがてあなたは みずいろの
きょうのきものを つけなさる
かしわばやしの よろこびは
あなたのそらに かかるまま。」
「からすかんざえもんは
くろいあたまをくうらりくらり、
とんびとうざえもんは
あぶら一升でとうろりとろり、
そのくらやみはふくろうの
いさみにいさむもののふが
みみずをつかむときなるぞ
ねとりを襲うときなるぞ。」
「のろづきおほん、
おほん、おほん、
ごぎのごぎおほん、
おほん、おほん。」
「フィーガロ、フィガロト、フィガロット。
ペンネンネンネンネン・ネネム裁判長
その威オキレの金角とならび
まひるクラレの花の丘に立ち
遠い青びかりのサンムトリに命令する。
青びかりの三角のサンムトリが
たちまち火柱を空にささげる。
風が来てクラレの花がひかり
ペンネンネンネンネン・ネネムは高く笑う。
ブラボオ。ペンネンネンネンネン・ネネム
ブラボオ、ペンペンペンペンペン・ペネム。」
「フィーガロ、フィガロト、フィガロット。
風が青ぞらを吼えて行けば
そのなごりが地面に下って
クラレの花がさんさんと光り
おれたちの袍はひるがえる。
さっきかけて行った風が
いまサンムトリに届いたのだ。
そのまっ黒なけむりの柱が
向うの方に倒れて行く。
フィーガロ、フィガロト、フィガロット。
ブラボオ、ペンネンネンネンネン・ネネム
ブラボオ、ペンペンペンペンペン・ペネム。
おれたちの叫び声は地面をゆすり
その波は一分に二十五ノット
サンムトリの熱い岩漿にとどいて
とうとうも一度爆発をやった。
フィーガロ、フィガロト、フィガロット。
フィーガロ、フィガロト、フィガロット。」
「サンタ、マグノリア、
枝にいっぱいひかるはなんぞ。」
「天に飛びたつ銀の鳩。」
「セント、マグノリア、
枝にいっぱいひかるはなんぞ。」
「天からおりた天の鳩。」
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