宮沢賢治の詩に作曲。
谷の昧爽に関する童話風の構想
草穂の影も黒く落ち
おほばこのスペイドも並んで映る
この清澄な月の昧爽ちかく
楢の木立の白いゴシツク回廊や
あゝ降るやうな虫のジロフオン
北いつぱいの星ぞらに
ぎざぎざの黒い嶺線が
手にとるやうに浮いてゐて
幾すじ白いパラフヰンを
つぎからつぎと噴いてゐる
そこにもくもく月光を吸ふ
蒼くくすんだ海綿体
四方の天もいちめんの星
東銀河の聯邦の
ダイアモンドのトラストが
かくして置いた寶石を
みんないちどにあの鋼青の銀河の水に
ぶちまけたとでもいつたふう
とほり天から降ろされた
點々白い伐株と
このきららかに降る蜘蛛の絲
橙いろと緑との
花粉ぐらゐの小さな星や
ぼんやり白い星けむり
それもろもろの佛界に
無量無邊のかたちあり
あるひは圓きあるは扁
あるは花臺のかたちなり
世界のしかく住ずるや
あるは覺者の意志により
あるは衆生の業により
また因縁にしたがへり
一つの星が
黒い露岩の向ふに沈み
山はつぎつぎそのでこぼこの嶺線から
パラフヰンの紐をとばしたり
突然銀の挨拶を
上流の仲間に抛げかけたり
Astilbe argentium
Astilbe platinicum
椈の脚から火星がのぞき
ひらめく萱や
日はいたやの梢にくだけ
木影の網を
わくらばのやうに飛ぶ蛾もある
農民劇団
そのときわたくしは嫁いだ妹に云ふ
十三もある昴の星を
汗に眼を蝕まれ 風にこゝろを労らしためか
わづか五つと七つとに見る
この国の老へた野原の人たちのために
……水音とホップのかほり
青ぐらい峡の月光……
おまへのいまだに頑是なく
赤い毛糸のはっぴを着せた童子をば
舞台の雪の照明のなかに借せ
……谷の窪みのそのほのじろい並列は
達曾部川の鉄橋の脚……
そこではしづかにこの国の
古い和讃の海が鳴り
孝子は誨へられたるやうに
無心に両手を合すであらう
……菩薩威霊を借したまへ
ぎざぎざの黒いきりぎしから
雪融の泉が崩れ落ち
種山あたり雲の蛍光
雪か風かの変質が その高原のしづかな頂部で行はれる
……まなこつぶらな童子をば
しばらくわれに貸せといふ……
いまシグナルの暗い青燈
原体剣舞連
dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
こんや異装のげん月のした
鶏の黒尾を頭巾にかざり
片刃の太刀をひらめかす
原体村の舞手たちよ
鴾いろのはるの樹液を
アルペン農の辛酸に投げ
生しののめの草いろの火を
高原の風とひかりにさゝげ
菩提樹皮と縄とをまとふ
気圏の戦士わが朋たちよ
青らみわたる気をふかみ
楢と椈とのうれひをあつめ
蛇紋山地に篝をかかげ
ひのきの髪をうちゆすり
まるめろの匂のそらに
あたらしい星雲を燃せ
dah-dah-sko-dah-dah
肌膚を腐植と土にけづらせ
筋骨はつめたい炭酸に粗び
月月に日光と風とを焦慮し
敬虔に年を累ねた師父たちよ
こんや銀河と森とのまつり
准平原の天末線に
さらにも強く鼓を鳴らし
うす月の雲をどよませ
Ho! Ho! Ho!
むかし達谷の悪路王
まつくらくらの二里の洞
わたるは夢と黒夜神
首は刻まれ漬けられ
アンドロメダもかゞりにゆすれ
青い仮面このこけおどし
太刀を浴びてはいつぷかぷ
夜風の底の蜘蛛をどり
胃袋はいてぎつたぎた
dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
さらにただしく刃を合はせ
霹靂の青火をくだし
四方の夜の鬼神をまねき
樹液もふるふこの夜さひとよ
赤ひたたれを地にひるがへし
雹雲と風とをまつれ
dah-dah-dah-dahh
夜風とどろきひのきはみだれ
月は射そそぐ銀の矢並
打つも果てるも火花のいのち
太刀の軋りの消えぬひま
dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
太刀は稲妻萱穂のさやぎ
獅子の星座に散る火の雨の
消えてあとない天のがはら
打つも果てるもひとつのいのち
dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
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