鈴木輝wiki、千原英ki。

ワキ・ワキツレ「秋風の、音にたぐへて西川や、雲も行くなり、大江山
ワキ「さてもこの度丹波乃國、大江山の鬼神乃事、占方の言葉に任せつヽ、頼光保昌に仰せつけらる
ワキツレ「頼光保昌申すやう、たとひ多勢ありとても、人倫ならぬ化生の者。何處を境に攻むべきぞ
ワキ「山伏の姿に出で立ちて
ワキ「まだ夜の内に有明乃
ワキ・ワキツレ「月乃都を立ち出でて、月の都を立ち出でて、ただ分け行けや足引乃、大江の山に着きにけり、大江の山に着きにけり
シテ「童子と呼ぶは如何なる者ぞ
ワキ「これは筑紫彦山の客僧にて候が、今宵のお宿何より以って、祝着申し候。さて御名を酒呑童子と申し候は、何と申したる、謂はれにて候ぞ
シテ「我が名を酒呑童子と云ふ事は、明暮酒を、好きたるにより。眷属どもに酒呑童子と呼ばれ候。酒ほど面白きものは、なく候。
地（古謡）「一稚児二山王と立て給ふは神を避くる由ぞかし。
地「「陸奥の、安達が原乃塚にこそ、鬼籠れりと聞きしものを、真なり真なり此處は名を得し大江山。生野の道はなほ遠し。天乃橋立與謝の海。大山の天狗も、我に親しき友ぞと知ろし召されよ。いざいざ酒を飲まうよ。頃しも秋の山草桔梗刈萱われもかう、紫苑と云ふは何やらん。鬼乃醜草とは誰が附けし名なるぞ
地「丹後丹波の境なる、鬼が城も程近し、頼もし頼もしや。赤きは酒の科ぞ。鬼とな思しそよ。なほなほ廻る盃の、度重なれば有明の、天も花に酔へりや。足もとはよろよろと、ただよふかいざよふか。雲折り敷きてそのまヽ、夜の臥處に入りにけり
−−−中入−−−
後ワキ「既にこの夜も更方乃、空なほ暗き鬼が城。鐵の扉を押し開き、見れば
地「そのたけ二丈ばかりなる、そのたけ二丈ばかりなる、鬼神のよそほひ、邊を拂ふ氣色かな。かねて期したる事なれば、とても命は君の為。又は神國氏社。南無や八幡山王権現我等に力を添へ給へと、頼光保昌獨武者。心を一つにして、睡み臥したる鬼乃上に剱を飛ばする光の影。稲妻震動、おびたヽし
後シテ「情なしとよ客僧達、偽りあらじと言ひつるに、鬼神に横道、なきものを
獨武者「鬼神に、横道なしとや
後シテ「なかなか乃事
獨武者　「あら虚言や、などさらば、王地に住んで、人を取り、世の妨げとは、なりけるぞ。我をば音にも、聞きつらん。保昌が館に、獨武者、鬼神なりとも、遁すまじ。ましてやこれは、勅なれば、土も木も、我が大君の國なれば、何處か鬼乃、宿りなるらん
地「餘すな洩らすな攻めよや攻めよ。人々とて、切先を揃へて切ってかヽる。山河草木震動して、山河草木震動して、光満ち来る鬼乃眼。ただ日月の、天つ星、照り輝きて、さながらに、面を向くべき様ぞなき
ワキ「頼光保昌、もとよりも
地「頼光保昌もとよりも、鬼神なりともさすが頼光が手なみにいかで、洩らすべきと、走りかヽってはったと打つ手に、むずと組んで、えいやえいやと組むとぞ見えしが、刺し通し刺し通し刀を力にえいやとかへし、いかれる鬼の怒れる首、打ち落し、大江の山を、また踏み分けて、都へとてこそ、歸りけれ