ラブライブ!派生キャラ チュン(・8・)チュンのまとめwikiです。

「プワーオ…ココハドコチューン…?ゴシュジンサマ?ドコニイユチュン?」
つい先ほどまで移動用ケージの中ですやすやと眠っていたのだが、器材準備の音で目を覚ましてしまったようだ。
飼い主の姿を探し、あたりを不安げに見回している。

「オニイサンハ…ドチヤサマ…チュン?チュンチュンノゴシュジンサマ…シヤナイチュン?」
ただでさえ舌足らずな声が、寝起きのためにさらに気だるい響きを伴っている。
「おはようチュンチュン。今日はあなたの飼い主さんに頼まれて、あなたを『おめかし』することになったんだ。よろしくね」

私はチュンチュン専門の彫り師――チュンチュンに刺青を入れることを生業にしている。

チュンチュンがペット化されて以降、その人気は衰えることなく、絶え間ない研究によりますます飼いやすい方向へと品種改良が進んでいるところである。
しかし、現代生命科学を以てしても、いまだに「外見の個体差がほぼ無い」という、愛玩動物として深刻なネックは解消されていない。
そのため、チュンチュンに個性を求める飼い主たちは、外見のバリエーションの乏しさを補うために、衣装や染色、そして刺青といった、チュンチュンを加工する技術へと食指を伸ばすこととなった。
今となってはチュンチュン産業とでも呼ぶべき特異な業界が確立し、独自の発展を遂げている。

作業にとりかかる前に、改めて手元のチュンチュンを観察する。
体長20センチメートル弱の、きちんとチュンチュン鳴くことができるようになり「ヒナチュン」と呼ばれる段階を卒業したばかりの、若い成鳥だ。
この子が今日のお客さんであり、キャンバスである。

「オメカチ!?チュンチュンヲカワイクシテクエユチュン!?チュンチューン!!」
「おめかし」という単語がよほど気に入ったのか、不安も眠気も吹き飛んだようで、満面の笑みを浮かべながらケージの中を所狭しと跳ねまわっている。
本来の快活さを取り戻したところで、まずはチュンチュンを洗面台に連れていく。
傷口から雑菌が入って化膿してしまうと、せっかくの刺青が台無しになってしまう。施術にとりかかる前に、チュンチュンを清潔にしておかなければならない。

「オフヨチュ--ン!!」
ぬるめに張った湯船にチュンチュンを浸し、専用のシャンプーを泡立てて、指で全身をほぐしてやる。
施術前に羽毛と地肌をほぐしておかないと、変な傷ができて見栄えが悪くなってしまうおそれがある。下準備とはいえ細心の注意を払わねばならない。
「プワーー……」
チュンチュンの嘴が緩やかに開かれ、そこから嘆息が漏れ出ている。
チュンチュンは女の子であり、「オフヨ」は食事睡眠と並ぶ至高のひとときである。見知らぬ場所、見知らぬ人間の目の前であっても、それは変わらない。
入浴により寛がせるという手法は、他のチュンチュン産業――特に苦痛を伴うもので一般的に採られている手法である。

入浴の後はすぐにタオルで水気を大方吸い取ってから、ドライヤーで羽毛を乾かしつつ、櫛で梳きすかす。
羽毛の向きを揃えておかないと、バリカンの刃に羽毛が絡まって、要らない傷を作ってしまうからである。
まず前面から取り掛かる。顔から下腹部までまんべんなく温風を浴びせて、水気が無くなったら櫛で上下に羽毛を梳いてやる。
「ダエーデモ♪カワイークナレユー♪キットナーレユヨー♪」
櫛を数往復したところでチュンチュンが歌い出した。目を細め両翼を口元に添えて、身体を左右に揺らして陽気なリズムを刻みながら、自分の世界に没頭している。
安心しきったチュンチュンによく見られる、一種の恍惚状態である。

続いて背面。チュンチュンを左手に載せうつ伏せに寝かせ、親指と人差し指で首元を、残りの三指で脇腹を掴み、身体を固定する。
同じように羽毛を乾かし梳かしてから、櫛をバリカンに持ち替え、電源を入れる。
「オンナノコニハ-♪プインセスノーヒーガークーユー♪」
一度でも羽毛を刈り取られたことのあるチュンチュンならば、ヴイーンというモーター音を聞いただけでパニックに陥るのだが、どうやらこの子は経験が無いようだ。
無機質で機械的なモーター音をバックに、上機嫌なお歌を口ずさんでいる。

チュンチュンの背中にそっと刃を当て、ゆっくり丁寧に、羽毛をそり落とす。
羽毛はお湯に浸けたおかげで柔らかくなっており、刃が触れた途端に根元からはたりはたりと千切れ、落ちていく。
厳密にいえば、針を入れる箇所以外は剃り落す必要は無いのだが、チュンチュンの羽毛は毛根さえ残しておけば再び生えてくる。
作業の効率と仕上がりの美しさを考えると、全部剃り落すほうが都合がよい。
チュンチュンの刺青は毛根を除去して、代わりに色墨を入れるようなもので、刺青を入れた部分だけ灰色ではなく墨の色が浮かび上がる。
「ウマエーカワヨーコレカヤモット-♪」
チュンチュンの地肌は「汚いサトイモ」などと揶揄されることもあるが、入浴直後で血色が良いときは色づきつつある桃のような淡いピンク色である。
このピンクのキャンバスに、マゼンダの血文字を刻印するのだ。外でもない私の手で!

「ラビィー♪ラベェー♪……チュン…!?セナチュンデナニシテユチュン??」
…おっと、つい手に力が入ってしまったのか、チュンチュンが異変を察してしまったようだ。
毛根も地肌も傷ついておらず痛みは無いはずであるが、急に寒く軽くなった背中に違和感を覚えたのだろう。
体をねじって背中を見ようとするのだが、私の左手で腹部を押さえつけられてるために、それは叶わない。
「チュ-ンッ!チュ-ンッ!ピィ-ッ!ピィ-ッ!」
事態の異常性――自分が固く拘束されて身体の自由が奪われていることにようやく気付いたのか、急にチュンチュンの抵抗が強まる。
しかし私の左手の五指は既にチュンチュンの腹肉に深々と沈み込んでおり、いくら身体を震わせたって、尻尾を振って抵抗したって、逃れようがない。
せわしなく羽搏く手羽が掌を打つが、その触感がたまらなくこそばゆい。
「ハナスチュンッ!!チュンチュンハカワイイオンナノコチュンッ!!ヤンボウハヤンヤン!!」
つい先程まで憩いのオウタを歌っていたとは思えないほどの、切迫した金切り声が響く。

「ピィッ!!ピィィーッ!!ハナチテ!!ハナチテ!!」
剃毛が終わったら、刺青施術専用の台にチュンチュンを移す。
チュンチュンをうつ伏せに寝かせ、台に備え付けられたベルトを、首元と両脚の付け根、そして腹側へと倒した尻尾の上に回し、しっかりと台に固定する。
「チュゥゥッン!!チュゥーッン!!ピィャァァーッ!!ピィャァァーッ!!」
残った羽毛を総じて逆立たせ、全身に全力を込めてベルトの拘束から逃げようとするが、ベルトはぴくりとも動かない。
それでも恐怖が勝るのだろう、チュンチュンはベルトに対して無謀な挑戦を続ける。
「ピィーッ!…ピィーッ…チュゥッ…チュゥッ…」
チュンチュンはか弱い女の子である。全力を出しても歯が立たないと分かれば、力なく泣き伏してしまう。
打ち伏せられたままさめざめと涙を流すチュンチュン。何度見ても胸が締め付けられる光景だが、施術中に抵抗されると致命傷をつくりかねない。
安全な施術のため、ここで大人しくなってもらうしかないのだ。

小さくひくつくチュンチュンの背中に、とうとう針を入れる時が来た。
「チュピィッ!?」
肌に針をあてがった瞬間、チュンチュンの全身がびくつく。緊張と恐怖に加え、普段は羽毛に守られている敏感な地肌を直接刺激しているのだ。
針先を肌に突き刺し、脂肪層へと沈み込ませていく。弾力のある脂肪の下から血が少しずつ湧き出てきて、チュンチュンの身体のように丸い血の斑点を形作る。
「ヂュビャァアァァーーッ!!」
チュンチュンの悲鳴に濁音が混ざる。激しく全身をくねらせ抵抗を試みるのだが、やはりベルトをわずかすら動かすことも叶わずに、ただ悲鳴だけが轟く。
チュンチュンの肌は薄く、肌を彫るだけでは刺青に必要な溝深さを確保できない。そのため、わずかではあるが脂肪を掻き出さねばならない。
「ヂュゥゥッ!!ビィィッ!!イダイ!!ヤメヂュン!!ヤ゙ン゙ヤ゙ン゙!!」
チュンチュンは私が針を進めるたびに新たな悲鳴を発し、全身をびくつかせる。
桃の果実が熟していくかのように、チュンチュンの白桃色の背中が、血によって少しずつ紅く色づいていく。

飼いチュンチュンが生涯経験する苦痛で最も甚だしいのが、去勢手術の痛みであると言われている。
刺青の施術は、痛み自体は去勢手術ほどではないのだが、一瞬で終わる去勢手術とは異なり、最低でも1時間はかかる。
麻酔という選択肢は最初から用意されていない。分量調整が難しく、下手をすれば二度と目覚めないからだ。
「ヂュンッ!…ゥゥゥッ!……ヴゥッ…ヴゥッ…」
半分ほど進んだところでチュンチュンの悲鳴が止む。体力の限界なのか、諦めてしまったのか、理由はわからない。
それでも身体は針を入れるたびに反射的にびくつき、口からは悲鳴にすらならない空気音が漏れ出てくる。

針作業は予定通り1時間で終了したが、最後に仕上げの一作業が残っている。
洗面台に再度お湯を張り、チュンチュンを優しく持ち上げて、湯船へと案内する。
「ヂュンッ……ヂュゥゥンッ……ヂュ…オブヨ゙……?」
チュンチュンが顔を上げ、立ち昇る湯気のほうに視線を向ける。
針施術が終わってからずっと顔を両手羽で覆いすすり泣いていたため、顔を見るのは術後初めてになるが、血と涙と、その他いろいろな液体でべとべとに汚れている。
出血と心労のために青白く冷え切っていたチュンチュンの頬に、ほのかに赤みが差される。大好きなオフヨを目の前にして、いくらか気力を取り戻したようだ。

チュンチュンの両脇腹を持ち、ゆっくりと湯船へと沈めていく。
「チュゥ…ビィィィ!!!アヅイ!!アヅイヂュンッ!!」
一瞬だけ表情が和らいだが、すぐに目尻を吊り上げ眉間に皺を寄せ、激しく全身をばたつかせる。
厳密にいえばこれは入浴ではなく、刺青を肌に定着させるための最後の仕上げ工程である。
そのため、お湯の温度はチュンチュンにとっての適温よりも高めであり、お湯自体も薬効のある温泉を使っている。
「イダイイダイイダイ!!ビィャァァァ!!!」
熱いだけでなくお湯が刺青に染みるようで、針施術中に劣らない悲鳴を上げ抵抗するのだが、私は心を鬼にしてチュンチュンを湯船に抑えつける。
刺青を美しく発色させるために、ここでしっかり浸かってもらわなければならない。全てはチュンチュンのため、チュンチュンがあんなに期待していたオメカチのためなのだ。

「ゥゥ……ァァゥ……」
湯船から上がる頃には鳴く気力も体力も残っておらず、両方の黒目は焦点が合っていない。
ドライヤーで羽毛を乾かしている最中も、櫛で羽毛を梳いてやる間も、ずっと虚空を見つめたまま、半開きの嘴から呪詛めいた濁音を垂れ流すだけ。
我ここに在らずといった状態で、私にされるがままになっていた。

「ゥゥゥ……ゥゥ……チュン……チュンッ…チュンッ…」
チュンチュンを元居たケージに戻すと、ふらふらと愛用の毛布のほうへ倒れこみ、しばらくそのまま静止していたが、じきにさめざめと鳴き始めた。
チュンチュンという哀しげな囀りに合わせて、背中に刻み込まれた文字――「愛」の一文字が小刻みに揺れていた。

チュンチュンの背中に爛々と光る「愛」の文字を眺めながら、私はふと考えた。
もしこのチュンチュンが「愛」という文字の意味を理解したら、一体何を思うのだろう?
チュンチュンにとっては地獄のような1時間が、飼い主の愛ゆえにもたらされたと、このチュンチュンが知ったら、いったいどんな反応をするのだろう?
そして自分と親鳥、自分とまだ見ぬ雛鳥たちとをつなぐ「命のバトン」が、まさに愛――地獄の1時間の原因であり、成果であることを知ったら、どんな反応をするのだろう?
チュンチュンの知能では抽象的な概念は理解できないだろうが、きっと愛の両義性に――愛は幸福の源泉であると同時に、苦悩の原因でもあることに――思い悩むことであろう。
チュンチュンが小さな手羽で頭を抱え悩み苦しむ様子を想像して、私は一瞬だけ心が躍ったが、すぐに思い直した。
それではチュンチュンの良さ――直情性が損なわれてしまうような気がする。

チュンチュンと他の動物を分かつのは、何よりも人間じみた感情――喜怒哀楽を備えている点であり、この点がペットとしてのチュンチュンの醍醐味であると思う。
一方で、飼い主が見ることができるのはせいぜい喜と楽だけであり、これではチュンチュンの魅力を味わい尽くしているとは言えないだろう。非常にもったいない。
チュンチュン産業従事者の端くれとして、私はチュンチュンの魅力――直情的な喜怒哀楽、そしてそれらを放出し尽した後の無感情状態を、もっとみんなに味わってほしい。
そんなことを考えてしまうのは、職業病というよりは、もっと深刻な「脳トロ」の病に罹ってしまったせいなのだろうか……?【終】

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