これは、私が小さいときに、村の羽乃毛(はのけ)というおばあさんからきいた、むねのむかむかするお話です。
昔々、音之木という土地から少し離れた山の中に、ゴン(・8・)チュンという一匹のチュンチュンが住んでいました。
ゴン(・8・)チュンは、ひとりぼっちのチュンチュンで、昼夜問わずあたりの村に出てきては、悪さばかりしました。
「今度は小泉んとこの畑が荒らされたってな。実った作物だけじゃ飽き足らず、苗まで掘り返して食われてたんだと」
「神田明神さまの、のんたぬ地蔵のお供え物を食べ散らかして、あげく地蔵には糞尿がぶっかけてあったそうや」
「しくしく、りんが三晩かけて仕込んだ拉麺の蕎麦汁鍋もひっくり返されちゃってたにゃあ」
「チュウウン♪ ココハタベモノニコマヤナクテイイトコチュン」
「ニンゲンハバカダカヤ カシコクテカアイイチュンチュンハ ゼッタイニチュカマヤナイチュン」
或る秋のことでした。
「ピュワピュワ〜ラビュラビュ〜」
三日にわたって降り注いだ雨があがり、ゴン(*^8^*)チュンが陽気に歌いながら
村の小川の方へ行くと、川の中に人がいて、何かやっています。
「アッ! アエハヌケサクノ ヒョウヂュウチュン」
貧乏百姓の兵十は、ぼろぼろの黒い着物をまくしあげ、腰まで水にひたりながら、魚をとる“はりきり”という網をゆすぶっていました。
やがて、兵十はその中身をびくにぶちこむと、また網を川に入れました。
そして、びくを土手におくと、何かを探して川上の方へ行ってしまいました。
「チュンチュン ナニガハイッテユカミテミユチュン」
「「「「ギョギョギョッ」」」」
「チュン♪ オモッタトオイ オサカナチュンネ」
「ピヒヒッ…マタイタヂュヤシテヤユチュン」
「ヨキニハカヤエミナノシュー!!」
五里の彼方まで届くようなきんきん声で叫びながら、ゴン(,,^8^,,)チュンはびくの中の魚をつかみ出しては、
はりきり網のかかっているより下手のほう目がけて、ぽんぽん投げ込みました。
どぼん どぼん
「チューン! オモシヨイチュン! ドンドンナゲチュン」
どぼんどぼんどぼん!
とうとう最後の一匹を残すのみとなったびくに手羽を突っ込んで、
「チュン? ヌユヌユシテテトエナイチュン。コウナッタヤ…」
じれったくなったゴン(`8´)チュンはびくの中に頭をつっこんで、魚の頭をくわえようとしました。
するとびくの中にいたうなぎが、ゴン(・8・)チュンの首にきゅっと巻き付きました。
「ヂュッ!? キモチワユイチューン!! ハナチュン! ハナスチューン!! ヤン!ヤン!」
「ニョローン」
「ピィィ! オマエナニサマチュン!? アイテガダエダカワカッテユチュン? チュンチュンノイウコトガキケナイノナヤ オマエヒドイメニアワセユチュン! ソエガイヤナヤハナスチュン!」
何とも身勝手なゴン(#゚`8´゚)チュンが、うなぎにもてあそばれながら四苦八苦していると
「うわア!なにをするだぁーっ盗っ鳥めえ!」
棒切れを手にした兵十が鬼の形相でかけてくるのが見えました。
「ビィィィ!!! マヂュイチュン! ヌケサクガモドッテキタチュン! ハヤクニゲユチュン!!」
仰天したゴンΣ(;゜8゜)チュンはうなぎをふりすてようとし、結局できないまま、ほとんど転がるように一生けんめいに逃げ出しました。
巣の近くまで来てうしろをふりかえると、兵十は追いかけてきてはいませんでした。うなぎはいつの間にか外れていました。
「ピィヒィ…ヒドイメニアッタチュン。マッタク アンナモノヲイエユナンテ ヒョウヂュウハヒドイヤッチュン。プン!プン!」
それから十日ほどして、その日も昼下がりまで眠りこけていたゴン(,,-8-,,)チュンは、何なら慌ただしい村の様子に目を覚ましました。
「プワ〜オ。イッタイナンノサワギチュン? ウユサクテネムエナイチュン。シズカニシテホシイチュン」
村におりてみると、いちじくの木のかげで、矢澤の家内がおはぐろを付けていました。
「…ナニカアユチュンネ」
さらに先へ進むと、大勢の村人がみな同じ方へと足を運んでいました。
「チュン♪ キットオマチュイノキセチュチュン。チュンチュンモオマチュイイクチュン」
村人たちのあとをひっそりとついていくゴン(*^8^*)チュン。そしてついた先は
「チュッ? ココハヒョウヂュウノオウチチュン。コンヤセマイトコデナニスユチュン?」
家の中をのぞいてみると、盛り上がったふとんの脇で、うなだれている兵十の姿が目にとまりました。
いつもは、赤いさつま芋いもみたいな元気のいい顔が、きょうは何だかしおれていました。
「…ワカッチュン。コエハオソウシキチュン」
「兵十のお母さまは残念だったわね。見なさい兵十を、この世の終わりみたいな顔してるチカ」
ひそひそと、参列した村人の話し声が聞こえてきました。
「ヤッパイソウチュン。チュンチュンハカシコイチュン♪」
「長いこと病気してたんだっけ?」
「プワ〜オ ネムチュン…チュマヤナイシカエユチュン」
「オヒユネ」の時間になったせいで、ゴン(,,-8・,,)チュンは眠たい目をこすりながら、きびすをかえそうとしますが
「兵十もくやしいでしょうね。あの糞鳥のせいで」
「ヂュン!? チュンチュンハクソドイジャナイチュン!!」
「床に伏せてたお母さまが、うなぎが食べたいと言ったから、兵十はうなぎをとりに行ったの」
「でもあのいたずら好きの害鳥が、うなぎを盗んじゃって」
「チュッ…?」
「お母さまは、ああうなぎが食べたい、死ぬ前にうなぎが食べたかったなあと言って死んでったそうよ。本当、やりきれないでしょうね」
「……」
その夜、ゴン(;-8-)チュンは巣で村から盗ってきた女物の着物にくるまって考えました。
「チュン…ヒョウヂュウノママチュンニハ チョットワユイコトヲシチャッタチュン」
「チュンチュンモ ママチュンニハヤサシクシテモヤッタチュン…」
「…アンナイタヂュラ シナキャヨカッタチュン」
「チュン…チュン…」
数日後、兵十が井戸のところで麦をといでいました。
ゴン(・8・)チュンは物置のかげから、その様子をじっと見つめていました。
「ヒョウヂュウモ チュンチュントオナジ ヒトイボッチュン」
「ふう、今日もたくさんとれましたね」
「チュン?」
お隣の園田の奥さんが、魚をのせた車を引きながら戻ってきました。
旦那と一緒に猟をしながら暮らしている園田は、魚をいれるかごをとりに、家の中に入っていきました。
「チューン!」
このすきに、ゴン(・8・)チュンは、車から五、六ぴきの魚をつかみとると、
兵十の家の裏口から中へ放り込み、そのまま巣に向かってかけもどりました。
「コエデチュグナイニヒトチュ イイコトシタチュン♪」
次の日、ゴン(・8・)チュンが兵十の家に行くと、何やら園田と兵十がもめているようでした。
「あなたは最低です!」
ゴン(・8・)チュンは、とめてあった園田の車からまた魚を何匹かつかみだすと、家の裏口に向かいました。
「イッタイナニヲケンカシテユチュン。アヤソイハヨクナイチュン」
「おれじゃない、だれかべつのやつがやったんだ」
そう言って隣人に弁解する兵十のほっぺたには、ぶたれたあとがありました。
ゴン(・8・ii)チュンはしまったと思いました。兵十は盗っ人と間違われたばかりか、あんな傷までつけられてしまったのです。
「アシタカヤハ ベツノモノヲモッテクユチュン」
そう考えて魚をもち帰ろうとしましたが、重かったので数匹はその場においていきました。
ゴン(・8・)チュンがいなくなった後で、兵十はまたぶたれました。
つぎの日、ゴン(・8・)チュンは山であつめたどっさりの木の実をおいていきました。
次の日も、また次の日も、木の実をひろっては、兵十の家にもっていきました。
さらに次の日には、木の実ばかりでなく、手作りの布きれなどもおいていくようになりました。
(チュンチュン♪ ヒョウヂュウノヤチュキットヨヨコンデユチュン)
ある月のいい晩のこと。ゴン(,,^8^,,)チュンは、ぶらぶらあそびに出かけました。
南さまのお城の下を通ってすこしいくと、細い道の向うから、だれか来るようです。話声が聞えます。
ゴン(・8・)チュンは、道の片がわにかくれて、じっとしていました。話声はだんだん近くなりました。
それは、兵十と園田の旦那でした。
「そうそう、聞いてくれ」と、兵十がいいました。
「おれあ、このごろ、とてもふしぎなことがあるんだ」
「何でしょうか」
「おっ母が死んでからは、だれだか知らんが、おれに木の実やきのこやなんかを、まいにちまいにちくれるんだよ」
「ほう、どなたが?」
「それがわからんのだよ。おれの知らんうちに、おいていくんだ」
「それは…たしかにふしぎですね」
(ピヒヒッ…チュンチュンノコトウワサシテユチュン)
思わず忍び笑いが漏れそうになるほど、ゴン(*^8^*)チュンは得意げな心もちで二人の話に聞き耳をたてました。
「今の話は、きっと、それは、神さまのしわざではないでしょうか」
「チュン!?」
「えっ?」と同じようにびっくりして、兵十は園田の顔を見ました。
「考えてみたのですが、どうも、それは、人間じゃありません」
「神さまです、神さまが、あなたがたった一人になったのをあわれに思って、いろんなものをめぐんで下さるのです」
これを聞いて、ゴン(#`8´)チュンは憤慨しました。
(チュンチュンガキノミヲモッテイッテアゲテユノニ チュンチュンニオエイヲイワヤイナンテマチガッテユチュン! フコウヘイチュン! ヤン!ヤン!)
(コウナッタヤ チュンチュンニシカツクエナイ”トッテオキ”ヲモッテイッテ オドヨカシテヤユチュン! クビヲアヤッテマッテユチュン!)
怒りにぷりぷりと身をふくらませ、草花を蹴っとばしながら、ゴン(*`8´*)チュンは巣に帰っていきました。
それから何日も何日もかけて、巣にこもりながら、ゴン(・8・;)チュンはせっせとあるものを作り続けました。
「フーッ…デキタチュン! カンセイチューン!」
どのくらいたったでしょうか、額の汗をぬぐいながら、ゴン(,,^8^,,)チュンは歓喜の声を上げました。
「チュンチュントクセイ ワンダフユヤチュン!! ピヒヒ…ワエナガヤイイデキチュン! チュンチュンハカアイイカヤ ナンデモデキユチュン」
「ワンダフユヤッチュン」は、チュンチュンたちがとってきた人間の着物から作る枕で、本来卵をかえした親鳥が雛におくるものです。
雛のいないゴン(・8・)チュンには無用の長物でしたが、だから作れないという道理はありません。
たしかに、その見かけによらず器用な手羽を使って編まれた、チュンチュンサイズの安眠枕というのは、
チュンチュンにしか作ることのできない「トッテオキ」でした。
特に、ここ二、三日は熱が入り、餌を探すのも忘れ、大好きな「オヒユネ」の時間を削ってまで、枕作りに没頭していました。
苦労のかいあって、自分でも惚れ惚れするようなおくりものの出来栄えに、ゴン(,,´8`,,) チュンは誇らしい気持ちでいっぱいでした。
「ヒョウヂュウガ ドンナカオヲスユノカタノシミチュン。サッソクワタシニイクチュン」
「スキスキ〜プワプワ♪」
上機嫌でお歌を歌いながら、ゴン(*^8^*)チュンは山を下りていきました。
兵十の家につくと、彼は物置で縄をなっていました。
いつも通り、ゴン(・8・)チュンはしのび足で、家の裏口から、こっそり中に入りました。
「ワンヤフユヤッチュン」を目立つところにおいて帰ろうとしたとき、ふといい匂いがするのに気づきました。
「チューン! コエハムシタクイノニオイチュン! …チュンチュンオナカヘッチュン」
そういえば、今朝もまだ何も食べていません。
土間においてあったおいしそうな栗の山を見ていると、ゴン(*´8`*)チュンはもう、しんぼうたまらなくなりました。
「チュンチュンハイチュモゴチソウヲアゲテユカヤ チョットクヤイゴチソウヲモヤッテモ バチハアタヤナイチュン」
そう考えて、さっそく栗をぱくつき始めました。
「チューン! アマクテオイシイチュン♪ ヨクカンデタベユチュン」
(シアワセチュン。キットヒゴヨノオコヤイガイイカヤ コエハチュンチュンヘノゴホウビチュン)
そんなことを思いながら、夢中になって栗をほうばるゴン(*^;8^*)チュンのうしろ姿を、裏口の影から見つめている者がいました。
「やはりお前だったのか…ゴン(・8・)チュン!」
そう、兵十です。
栗に満足し、今度は米だわらに嘴を突っこみ始めたゴン(*^;8^)チュンのでっぷりとした尻が左右にゆれるのを
歯がみして見守りながら、兵十は園田の旦那と会った晩のことを思い出していました。
「それは、きっと、神さまのしわざですよ」
「そんなわきあるかい!」
憤慨して、兵十は言いました。
「神さまのしわざってんなら、どうしてちまちました木の実なんかよこすんでい」
「それだけならまだしも、おれがうちを留守にしてるすきに、木の実をおいてかれることがある」
「そうすると、時々、ゆうげの材料や、とってきた野沢菜がかじられてるんだ。この前なんか、冬の蓄えにまで手を出されてらあ」
「なんと…」と、園田は開いた口がふさがらないようすでした。
「犯人はわかっちょる」
憤ったまま、兵十が続けます。
「家の中に、灰かぶりみたく真っ黒な羽や毛が落ちてることがある。雨の日には、土間に泥のついた鳥の足あとがあった」
「ゴン(・8・)チュンだ、ぜんぶあいつがやったんだ。おっ母のうなぎのうらみ、おれは忘れない」
「まさか、うちの魚を盗んで、あなたの家においたのも」
「ああ、やつのしわざにちげえねえ」
「ゆるせませんね」
奇しくもこの時、ゴン(・8・)チュンと同じく怒りにふるえる兵十は、ゴン(・8・)チュンへの復しゅうを誓ったのでした。
まず、兵十は、村一番の長者である西木野さまに頼み込んで借金をし、町へ行くための路銀にあてました。
生まれて初めて村から出て、数日かけて町についた兵十は、金貸しのところでまたお金を借りました。
そうして、また数日かけて、何やら手荷物をかかえて、村にもどってきました。
そして今、裏口の影で、兵十は火縄銃に、柔っこくぶにぶにした弾をつめはじめました。
この弾は町で手に入れてきたもので、しくみは分かりませんが、当たった相手を傷つけずに、むちのように痛めつけることができるそうなのです。
「ゴン(・8・)チュンめ…みておれ」
兵十が借金をして、町で買ってきたものは、いずれもゴン(・8・)チュンに生き地獄を味わわせるためのものでした。
わざと刃をなまくらにした舌きりばさみ。
嘴を引っこ抜くための、専用の形をした工具。
股裂き機や手羽折り機という、精巧に作られたからくりの品々。
高価なろうそくを一本まるまる奮発し、血をとめるぬりぐすりや、痛みをいっとき忘れさせるという漢方も買いこみました。
町にはそういったものを商う店があって、そこの主人と丸一日話しこんで、チュンチュンの痛めつけ方を教わりました。
さっきまで縄をなっていたのも、ゴン(・8・)チュンをしばりつけるためでした。
「プピィー! ポンチュンイッパイチュン」
「ヂュッ…ポンチュンクユシイチュン。ウンチュンデソウチュン…ガマンデキヤイチュン」
「はあ、はあ…ようし」
土間にうずくまり、ぷるぷる小刻みに体をゆらしながら排便をはじめたゴン(,,´8`,,)チュンめがけ、
ふるえる手で狙いをつけた兵十は、そっと、引き金にゆびをかけ
ばぁん!
・
・
・
――ュン! おいゴン(・8・)チュン!
(チュン? ヒョウヂュウガナンカイッテユチュン…デモヨクキコエナイチュン…メガミエナイチュン)
(ソエニナンダカポンチュンイタイチュン チガデテユチュン…)
――死ぬな!こんなところで死ぬんじゃねえ!
(ソウカ チュンチュンハ ウタエタチュンネ…マッタク オンジンヲウツナンテ ヤッパイヒドイヤッチュン)
(チカヤガハイヤナイチュン…シニタクナイチュン……デモ チュミホヨボシガデキテ ヨカッタチュン)
――起きろ!おい聞こえてるか? おおい!
(ネムチュン……オヤスミチュン)
「やった、やりました! ゴン(・8・)チュンをしとめましたよ!」
火縄銃を手にした園田の旦那が、喜び勇んで向かいからかけてきました。
村きっての火縄の名手である園田は、隣の家の中から狙いをつけていたのです。
これまでさんざん村の作物や山の幸を食い荒らして、ぶくぶくに肥え太っていたゴン(・ 8(・)チュンでしたが、
鉄砲の弾はいともたやすくおなかを突きぬけ、そのショックでゴン(-8-)チュンは死んでしまいました。
その亡がらをかかえながら、兵十はおいおいと涙を流しました。
「一体ぜんたいどうしたというのです。にくいゴン(・8・)チュンは死んだのですよ」
「あんたみてえな高潔なお人には分かんねえ!おっ母のかたき!食べ物のうらみ!こんなすぐに殺すべきじゃなかった!もう二度とかたきをとることができねえ!」
そう言って、わんわん兵十は泣き続けました。
ばたりと、園田は火縄銃をとり落しました。青い煙が、まだ筒口から細く出ていました。
おしまい
昔々、音之木という土地から少し離れた山の中に、ゴン(・8・)チュンという一匹のチュンチュンが住んでいました。
ゴン(・8・)チュンは、ひとりぼっちのチュンチュンで、昼夜問わずあたりの村に出てきては、悪さばかりしました。
「今度は小泉んとこの畑が荒らされたってな。実った作物だけじゃ飽き足らず、苗まで掘り返して食われてたんだと」
「神田明神さまの、のんたぬ地蔵のお供え物を食べ散らかして、あげく地蔵には糞尿がぶっかけてあったそうや」
「しくしく、りんが三晩かけて仕込んだ拉麺の蕎麦汁鍋もひっくり返されちゃってたにゃあ」
「チュウウン♪ ココハタベモノニコマヤナクテイイトコチュン」
「ニンゲンハバカダカヤ カシコクテカアイイチュンチュンハ ゼッタイニチュカマヤナイチュン」
或る秋のことでした。
「ピュワピュワ〜ラビュラビュ〜」
三日にわたって降り注いだ雨があがり、ゴン(*^8^*)チュンが陽気に歌いながら
村の小川の方へ行くと、川の中に人がいて、何かやっています。
「アッ! アエハヌケサクノ ヒョウヂュウチュン」
貧乏百姓の兵十は、ぼろぼろの黒い着物をまくしあげ、腰まで水にひたりながら、魚をとる“はりきり”という網をゆすぶっていました。
やがて、兵十はその中身をびくにぶちこむと、また網を川に入れました。
そして、びくを土手におくと、何かを探して川上の方へ行ってしまいました。
「チュンチュン ナニガハイッテユカミテミユチュン」
「「「「ギョギョギョッ」」」」
「チュン♪ オモッタトオイ オサカナチュンネ」
「ピヒヒッ…マタイタヂュヤシテヤユチュン」
「ヨキニハカヤエミナノシュー!!」
五里の彼方まで届くようなきんきん声で叫びながら、ゴン(,,^8^,,)チュンはびくの中の魚をつかみ出しては、
はりきり網のかかっているより下手のほう目がけて、ぽんぽん投げ込みました。
どぼん どぼん
「チューン! オモシヨイチュン! ドンドンナゲチュン」
どぼんどぼんどぼん!
とうとう最後の一匹を残すのみとなったびくに手羽を突っ込んで、
「チュン? ヌユヌユシテテトエナイチュン。コウナッタヤ…」
じれったくなったゴン(`8´)チュンはびくの中に頭をつっこんで、魚の頭をくわえようとしました。
するとびくの中にいたうなぎが、ゴン(・8・)チュンの首にきゅっと巻き付きました。
「ヂュッ!? キモチワユイチューン!! ハナチュン! ハナスチューン!! ヤン!ヤン!」
「ニョローン」
「ピィィ! オマエナニサマチュン!? アイテガダエダカワカッテユチュン? チュンチュンノイウコトガキケナイノナヤ オマエヒドイメニアワセユチュン! ソエガイヤナヤハナスチュン!」
何とも身勝手なゴン(#゚`8´゚)チュンが、うなぎにもてあそばれながら四苦八苦していると
「うわア!なにをするだぁーっ盗っ鳥めえ!」
棒切れを手にした兵十が鬼の形相でかけてくるのが見えました。
「ビィィィ!!! マヂュイチュン! ヌケサクガモドッテキタチュン! ハヤクニゲユチュン!!」
仰天したゴンΣ(;゜8゜)チュンはうなぎをふりすてようとし、結局できないまま、ほとんど転がるように一生けんめいに逃げ出しました。
巣の近くまで来てうしろをふりかえると、兵十は追いかけてきてはいませんでした。うなぎはいつの間にか外れていました。
「ピィヒィ…ヒドイメニアッタチュン。マッタク アンナモノヲイエユナンテ ヒョウヂュウハヒドイヤッチュン。プン!プン!」
それから十日ほどして、その日も昼下がりまで眠りこけていたゴン(,,-8-,,)チュンは、何なら慌ただしい村の様子に目を覚ましました。
「プワ〜オ。イッタイナンノサワギチュン? ウユサクテネムエナイチュン。シズカニシテホシイチュン」
村におりてみると、いちじくの木のかげで、矢澤の家内がおはぐろを付けていました。
「…ナニカアユチュンネ」
さらに先へ進むと、大勢の村人がみな同じ方へと足を運んでいました。
「チュン♪ キットオマチュイノキセチュチュン。チュンチュンモオマチュイイクチュン」
村人たちのあとをひっそりとついていくゴン(*^8^*)チュン。そしてついた先は
「チュッ? ココハヒョウヂュウノオウチチュン。コンヤセマイトコデナニスユチュン?」
家の中をのぞいてみると、盛り上がったふとんの脇で、うなだれている兵十の姿が目にとまりました。
いつもは、赤いさつま芋いもみたいな元気のいい顔が、きょうは何だかしおれていました。
「…ワカッチュン。コエハオソウシキチュン」
「兵十のお母さまは残念だったわね。見なさい兵十を、この世の終わりみたいな顔してるチカ」
ひそひそと、参列した村人の話し声が聞こえてきました。
「ヤッパイソウチュン。チュンチュンハカシコイチュン♪」
「長いこと病気してたんだっけ?」
「プワ〜オ ネムチュン…チュマヤナイシカエユチュン」
「オヒユネ」の時間になったせいで、ゴン(,,-8・,,)チュンは眠たい目をこすりながら、きびすをかえそうとしますが
「兵十もくやしいでしょうね。あの糞鳥のせいで」
「ヂュン!? チュンチュンハクソドイジャナイチュン!!」
「床に伏せてたお母さまが、うなぎが食べたいと言ったから、兵十はうなぎをとりに行ったの」
「でもあのいたずら好きの害鳥が、うなぎを盗んじゃって」
「チュッ…?」
「お母さまは、ああうなぎが食べたい、死ぬ前にうなぎが食べたかったなあと言って死んでったそうよ。本当、やりきれないでしょうね」
「……」
その夜、ゴン(;-8-)チュンは巣で村から盗ってきた女物の着物にくるまって考えました。
「チュン…ヒョウヂュウノママチュンニハ チョットワユイコトヲシチャッタチュン」
「チュンチュンモ ママチュンニハヤサシクシテモヤッタチュン…」
「…アンナイタヂュラ シナキャヨカッタチュン」
「チュン…チュン…」
数日後、兵十が井戸のところで麦をといでいました。
ゴン(・8・)チュンは物置のかげから、その様子をじっと見つめていました。
「ヒョウヂュウモ チュンチュントオナジ ヒトイボッチュン」
「ふう、今日もたくさんとれましたね」
「チュン?」
お隣の園田の奥さんが、魚をのせた車を引きながら戻ってきました。
旦那と一緒に猟をしながら暮らしている園田は、魚をいれるかごをとりに、家の中に入っていきました。
「チューン!」
このすきに、ゴン(・8・)チュンは、車から五、六ぴきの魚をつかみとると、
兵十の家の裏口から中へ放り込み、そのまま巣に向かってかけもどりました。
「コエデチュグナイニヒトチュ イイコトシタチュン♪」
次の日、ゴン(・8・)チュンが兵十の家に行くと、何やら園田と兵十がもめているようでした。
「あなたは最低です!」
ゴン(・8・)チュンは、とめてあった園田の車からまた魚を何匹かつかみだすと、家の裏口に向かいました。
「イッタイナニヲケンカシテユチュン。アヤソイハヨクナイチュン」
「おれじゃない、だれかべつのやつがやったんだ」
そう言って隣人に弁解する兵十のほっぺたには、ぶたれたあとがありました。
ゴン(・8・ii)チュンはしまったと思いました。兵十は盗っ人と間違われたばかりか、あんな傷までつけられてしまったのです。
「アシタカヤハ ベツノモノヲモッテクユチュン」
そう考えて魚をもち帰ろうとしましたが、重かったので数匹はその場においていきました。
ゴン(・8・)チュンがいなくなった後で、兵十はまたぶたれました。
つぎの日、ゴン(・8・)チュンは山であつめたどっさりの木の実をおいていきました。
次の日も、また次の日も、木の実をひろっては、兵十の家にもっていきました。
さらに次の日には、木の実ばかりでなく、手作りの布きれなどもおいていくようになりました。
(チュンチュン♪ ヒョウヂュウノヤチュキットヨヨコンデユチュン)
ある月のいい晩のこと。ゴン(,,^8^,,)チュンは、ぶらぶらあそびに出かけました。
南さまのお城の下を通ってすこしいくと、細い道の向うから、だれか来るようです。話声が聞えます。
ゴン(・8・)チュンは、道の片がわにかくれて、じっとしていました。話声はだんだん近くなりました。
それは、兵十と園田の旦那でした。
「そうそう、聞いてくれ」と、兵十がいいました。
「おれあ、このごろ、とてもふしぎなことがあるんだ」
「何でしょうか」
「おっ母が死んでからは、だれだか知らんが、おれに木の実やきのこやなんかを、まいにちまいにちくれるんだよ」
「ほう、どなたが?」
「それがわからんのだよ。おれの知らんうちに、おいていくんだ」
「それは…たしかにふしぎですね」
(ピヒヒッ…チュンチュンノコトウワサシテユチュン)
思わず忍び笑いが漏れそうになるほど、ゴン(*^8^*)チュンは得意げな心もちで二人の話に聞き耳をたてました。
「今の話は、きっと、それは、神さまのしわざではないでしょうか」
「チュン!?」
「えっ?」と同じようにびっくりして、兵十は園田の顔を見ました。
「考えてみたのですが、どうも、それは、人間じゃありません」
「神さまです、神さまが、あなたがたった一人になったのをあわれに思って、いろんなものをめぐんで下さるのです」
これを聞いて、ゴン(#`8´)チュンは憤慨しました。
(チュンチュンガキノミヲモッテイッテアゲテユノニ チュンチュンニオエイヲイワヤイナンテマチガッテユチュン! フコウヘイチュン! ヤン!ヤン!)
(コウナッタヤ チュンチュンニシカツクエナイ”トッテオキ”ヲモッテイッテ オドヨカシテヤユチュン! クビヲアヤッテマッテユチュン!)
怒りにぷりぷりと身をふくらませ、草花を蹴っとばしながら、ゴン(*`8´*)チュンは巣に帰っていきました。
それから何日も何日もかけて、巣にこもりながら、ゴン(・8・;)チュンはせっせとあるものを作り続けました。
「フーッ…デキタチュン! カンセイチューン!」
どのくらいたったでしょうか、額の汗をぬぐいながら、ゴン(,,^8^,,)チュンは歓喜の声を上げました。
「チュンチュントクセイ ワンダフユヤチュン!! ピヒヒ…ワエナガヤイイデキチュン! チュンチュンハカアイイカヤ ナンデモデキユチュン」
「ワンダフユヤッチュン」は、チュンチュンたちがとってきた人間の着物から作る枕で、本来卵をかえした親鳥が雛におくるものです。
雛のいないゴン(・8・)チュンには無用の長物でしたが、だから作れないという道理はありません。
たしかに、その見かけによらず器用な手羽を使って編まれた、チュンチュンサイズの安眠枕というのは、
チュンチュンにしか作ることのできない「トッテオキ」でした。
特に、ここ二、三日は熱が入り、餌を探すのも忘れ、大好きな「オヒユネ」の時間を削ってまで、枕作りに没頭していました。
苦労のかいあって、自分でも惚れ惚れするようなおくりものの出来栄えに、ゴン(,,´8`,,) チュンは誇らしい気持ちでいっぱいでした。
「ヒョウヂュウガ ドンナカオヲスユノカタノシミチュン。サッソクワタシニイクチュン」
「スキスキ〜プワプワ♪」
上機嫌でお歌を歌いながら、ゴン(*^8^*)チュンは山を下りていきました。
兵十の家につくと、彼は物置で縄をなっていました。
いつも通り、ゴン(・8・)チュンはしのび足で、家の裏口から、こっそり中に入りました。
「ワンヤフユヤッチュン」を目立つところにおいて帰ろうとしたとき、ふといい匂いがするのに気づきました。
「チューン! コエハムシタクイノニオイチュン! …チュンチュンオナカヘッチュン」
そういえば、今朝もまだ何も食べていません。
土間においてあったおいしそうな栗の山を見ていると、ゴン(*´8`*)チュンはもう、しんぼうたまらなくなりました。
「チュンチュンハイチュモゴチソウヲアゲテユカヤ チョットクヤイゴチソウヲモヤッテモ バチハアタヤナイチュン」
そう考えて、さっそく栗をぱくつき始めました。
「チューン! アマクテオイシイチュン♪ ヨクカンデタベユチュン」
(シアワセチュン。キットヒゴヨノオコヤイガイイカヤ コエハチュンチュンヘノゴホウビチュン)
そんなことを思いながら、夢中になって栗をほうばるゴン(*^;8^*)チュンのうしろ姿を、裏口の影から見つめている者がいました。
「やはりお前だったのか…ゴン(・8・)チュン!」
そう、兵十です。
栗に満足し、今度は米だわらに嘴を突っこみ始めたゴン(*^;8^)チュンのでっぷりとした尻が左右にゆれるのを
歯がみして見守りながら、兵十は園田の旦那と会った晩のことを思い出していました。
「それは、きっと、神さまのしわざですよ」
「そんなわきあるかい!」
憤慨して、兵十は言いました。
「神さまのしわざってんなら、どうしてちまちました木の実なんかよこすんでい」
「それだけならまだしも、おれがうちを留守にしてるすきに、木の実をおいてかれることがある」
「そうすると、時々、ゆうげの材料や、とってきた野沢菜がかじられてるんだ。この前なんか、冬の蓄えにまで手を出されてらあ」
「なんと…」と、園田は開いた口がふさがらないようすでした。
「犯人はわかっちょる」
憤ったまま、兵十が続けます。
「家の中に、灰かぶりみたく真っ黒な羽や毛が落ちてることがある。雨の日には、土間に泥のついた鳥の足あとがあった」
「ゴン(・8・)チュンだ、ぜんぶあいつがやったんだ。おっ母のうなぎのうらみ、おれは忘れない」
「まさか、うちの魚を盗んで、あなたの家においたのも」
「ああ、やつのしわざにちげえねえ」
「ゆるせませんね」
奇しくもこの時、ゴン(・8・)チュンと同じく怒りにふるえる兵十は、ゴン(・8・)チュンへの復しゅうを誓ったのでした。
まず、兵十は、村一番の長者である西木野さまに頼み込んで借金をし、町へ行くための路銀にあてました。
生まれて初めて村から出て、数日かけて町についた兵十は、金貸しのところでまたお金を借りました。
そうして、また数日かけて、何やら手荷物をかかえて、村にもどってきました。
そして今、裏口の影で、兵十は火縄銃に、柔っこくぶにぶにした弾をつめはじめました。
この弾は町で手に入れてきたもので、しくみは分かりませんが、当たった相手を傷つけずに、むちのように痛めつけることができるそうなのです。
「ゴン(・8・)チュンめ…みておれ」
兵十が借金をして、町で買ってきたものは、いずれもゴン(・8・)チュンに生き地獄を味わわせるためのものでした。
わざと刃をなまくらにした舌きりばさみ。
嘴を引っこ抜くための、専用の形をした工具。
股裂き機や手羽折り機という、精巧に作られたからくりの品々。
高価なろうそくを一本まるまる奮発し、血をとめるぬりぐすりや、痛みをいっとき忘れさせるという漢方も買いこみました。
町にはそういったものを商う店があって、そこの主人と丸一日話しこんで、チュンチュンの痛めつけ方を教わりました。
さっきまで縄をなっていたのも、ゴン(・8・)チュンをしばりつけるためでした。
「プピィー! ポンチュンイッパイチュン」
「ヂュッ…ポンチュンクユシイチュン。ウンチュンデソウチュン…ガマンデキヤイチュン」
「はあ、はあ…ようし」
土間にうずくまり、ぷるぷる小刻みに体をゆらしながら排便をはじめたゴン(,,´8`,,)チュンめがけ、
ふるえる手で狙いをつけた兵十は、そっと、引き金にゆびをかけ
ばぁん!
・
・
・
――ュン! おいゴン(・8・)チュン!
(チュン? ヒョウヂュウガナンカイッテユチュン…デモヨクキコエナイチュン…メガミエナイチュン)
(ソエニナンダカポンチュンイタイチュン チガデテユチュン…)
――死ぬな!こんなところで死ぬんじゃねえ!
(ソウカ チュンチュンハ ウタエタチュンネ…マッタク オンジンヲウツナンテ ヤッパイヒドイヤッチュン)
(チカヤガハイヤナイチュン…シニタクナイチュン……デモ チュミホヨボシガデキテ ヨカッタチュン)
――起きろ!おい聞こえてるか? おおい!
(ネムチュン……オヤスミチュン)
「やった、やりました! ゴン(・8・)チュンをしとめましたよ!」
火縄銃を手にした園田の旦那が、喜び勇んで向かいからかけてきました。
村きっての火縄の名手である園田は、隣の家の中から狙いをつけていたのです。
これまでさんざん村の作物や山の幸を食い荒らして、ぶくぶくに肥え太っていたゴン(・ 8(・)チュンでしたが、
鉄砲の弾はいともたやすくおなかを突きぬけ、そのショックでゴン(-8-)チュンは死んでしまいました。
その亡がらをかかえながら、兵十はおいおいと涙を流しました。
「一体ぜんたいどうしたというのです。にくいゴン(・8・)チュンは死んだのですよ」
「あんたみてえな高潔なお人には分かんねえ!おっ母のかたき!食べ物のうらみ!こんなすぐに殺すべきじゃなかった!もう二度とかたきをとることができねえ!」
そう言って、わんわん兵十は泣き続けました。
ばたりと、園田は火縄銃をとり落しました。青い煙が、まだ筒口から細く出ていました。
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おしまい
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