ラブライブ!派生キャラ チュン(・8・)チュンのまとめwikiです。

客は夕方の散歩から帰って、わたしの書斎でわたしのそばに腰かけていた。
昼間の明るさは消えうせようとしていた。
窓の外には、色あせた湖が、丘の多き岸に鋭く縁取られて、遠くかなたまで広がっていた。
ちょうど、わたしの末の男の子が、おやすみを言ったところだったので、
わたしたちは幼い日の思い出について話し合った。
「子供ができてから、自分の幼年時代のいろいろの習慣や楽しみごとが、またよみがえってきたよ。
それどころか、一年前から、僕はまた、チュンチュン集めをやっているよ。お目にかけようか。」と、わたしは言った。
彼が見せてほしいと言ったので、わたしは、収集の入っている軽い厚紙の箱を取りに行った。


最初の箱を開けてみて、初めて、もうすっかり暗くなっているのに気づき、わたしは、ランプを取ってマッチをすった。
すると、たちまち外の景色はやみに沈んでしまい、窓全体が不透明な青い夜の色に閉ざされてしまった。
わたしのチュンチュンは、明るいランプの光を受けて、箱の中から口々に「ヂュッ…イタイチュウウン…」「シンジャウチュン…タシュケチュン」「オネガイヤカラ、コエヲヌイテホシイチュン…」と苦しそうに哀願してきた。
わたしたちは、その上に体をかがめて、均整のとれた形や、毛づくろいされた見事な灰色を眺め、チュンチュンの説明をした。

「これは、裏山でとったやつを、食事制限や去勢で観賞用に仕上げたものだ。けっこう手間がかかったんだよ。」と、わたしは言った。
友人は、一匹のチュンチュンを、ピンの刺さったまま箱の中から用心深く取り出し、手羽の内側を見た。
「妙なものだ。チュンチュンを見るくらい、幼年時代の思い出を強くそそられるものはない。僕は、小さい少年ころ、熱情的な収集家だったものだ。」
そして、「ヤンヤン、オネガァイ」と懇願するチュンチュンをまた元の場所に刺し、箱のふたを閉じて、「もう、結構。」と言った。
その思い出が不愉快ででもあるかのように、彼は口早にそう言った。
その直後、わたしが箱をしまって戻ってくると、彼は微笑して、巻きたばこをわたしに求めた。
「悪く思わないでくれたまえ。君の大切な標チュンを握りつぶしたくはなかった」と、彼は言った。
「君の収集をよく見なかったけれど。僕も子供のとき、むろん収集していたのだが、残念ながら自分でその思い出をけがしてしまった。
実際、話すのも恥ずかしいことだが、ひとつ聞いてもらおう。」


初めは特別熱心でもなく、ただ、はやりだったのでやっていたまでだった。
ところが、十歳ぐらいになった二度目の夏には、僕は全くこの遊戯のとりこになり、ひどく心を打ちこんでしまい、
そのため、ほかのことはすっかりすっぽかしてしまったので、みんなは何度も、僕にそれをやめさせなければなるまい、と考えたほどだった。

チュンチュンをとりに出かけると、学校の時間だろうが、お昼御飯だろうが、もう、塔の時計が鳴るのなんか、耳に入らなかった。
休憩になると、パンを一切れ胴乱に入れて、朝早くから夜まで、食事になんか帰らないで、駆け歩くことがたびたびあった。
今でも、チュンチュンを見ると、おりおり、あの感情が身にしみて感じられる。
そういう場合、僕はしばしの間、チュンチュン愛好家だけが感じることのできる、あのなんともいえない、むさぼるような、うっとりとした感じに襲われる。
少年のころ、初めてチュンチュンの親子にしのび寄った、あのとき味わった気持ちだ。

チュンチュンを見つけると、どんなに汚れてたってかまわない、人間の女性用下着をかき集めた巣のなかで、
指揮棒代わりの短い手羽を激しく動かしながら、雛たちと一緒に「オウタ」の稽古に勤しんでいる、
そのぽっこりと膨らんだ樽腹が息つぎの呼吸と共にぷるぷる上下するのを見ると、とらえる喜びに息もつまりそうになり、
次第にしのび寄って、かえって間もない雛鳥の白く繊細な産毛の一本一本、
ところどころ手入れのゆきとどいていない、親鳥の灰色にそまった体毛の一本一本が見えてくると、
自らではどうしようもない強大な力にとらえられ、無力にも手の内で「ヤン!ヤン!」と暴れまわる柔らかでふさふさとした感触を思い、その緊張と歓喜ときたらなかった。

そうした微妙な喜びと、激しい欲望との入り混じった気持ちは、これ以外のことでは、そうたびたび感じたことはなかった。


僕の両親は、立派な道具なんかくれなかったから、僕は、自分の収集を、古いつぶれたボール紙の箱にしまっておかなければならなかった。
瓶の栓から切り抜いた、丸いコルクを底にはり付け、ピンをそれに留めた。
こうした箱のつぶれた縁の間に、僕は、自分のタカラモノズをしまっていた。

初めのうち、僕は、自分の収集を喜んでたびたび仲間に見せたが、ほかの者は、ガラスのふたのある木箱や、ほの印の下着を敷き詰めた飼育箱や、
そのほかぜいたくなものをもっていたので、自分の幼稚な設備を自慢することなんてできなかった。
それどころか、重大で、評判になるような発見物や獲物があっても、ないしょにし、自分の妹たちにだけ見せる習慣になった。
ある日、僕は紫色のリボンをしたチュンチュンの雛を捕まえた。このあたりじゃ珍しい色だったし、なによりそのリボンは美しかった。
それを標チュンにしたとき、得意のあまり、せめて隣の子供にだけは見せよう、という気になった。

それは、中庭の向こうに住んでいる先生の息子だった。
この少年は、非の打ちどころがないという悪徳をもっていた。それは子供としては二倍も悪い性質だった。
彼の収集は小さく貧弱だったが、こぎれいなのと、手入れの正確な点で、生まれつき汚いチュンチュンがまるで一つの宝石のようなものになっていた。
彼は、そのうえ、傷んだり壊れたりしたチュンチュンの手足や嘴を、にかわでつぎ合わすという、非常に難しい、珍しい技術を心得ていた。
とにかく、あらゆる点で模範少年だった。そのため、僕はねたみ、嘆賞しながら彼をにくんでいた。
この少年に、コムヤサキチュンを見せた。
彼は、専門家らしくそれを鑑定し、その珍しいことを認め、二十銭ぐらいの現金の値打ちはある、と値踏みした。

しかし、それから、彼は難癖をつけ始め、体にピンを刺す位置が悪いとか、サイドテールの毛並みが揃ってないとか、
前髪がストレスで抜けているとか言い、そのうえ、足の指が二本欠けているという、もっともな欠陥を発見した。
僕は、その欠点をたいしたものとは考えなかったが、こっぴどい批評家のため、自分の獲物に対する喜びはかなり傷つけられた。

それで、僕は、二度と彼に獲物を見せなかった。

二年たって、僕たちは、もう大きな少年になっていたが、僕の熱情はまだ絶頂にあった。
そのころ、あのエーミールがクヤクヤマユチュンを卵からかえして成鳥まで育て上げたといううわさが広まった。

僕たちの仲間でクヤクヤマユチュンをとらえた者はまだなかった。
僕は、自分のもっていた古いチュンチュンの本の挿絵で見たことがあるだけだった。
名前を知っていながら自分の箱にまだないチュンチュンの中で、クヤクヤマユチュンほど僕が熱烈に欲しがっていたものはなかった。
幾度となく、僕は、本の中のその挿絵を眺めた。
「クヤクヤマユチュンが、木の幹や岩の上にいるところを、鳥やほかの敵が攻撃しようとすると、
このチュンチュンは、手羽を鳥の羽ばたきのように大きく動かすことで、その内側に隠れている奇怪な斑点を見せ威嚇するのだが、
これがかえって外敵を刺激し、食べられてしまう」と。

エーミールがこの稀少なチュンチュンをもっているということを聞くと、僕は、すっかり興奮してしまって、それが見られるときの来るのが待ちきれなくなった。
食後、外出ができるようになると、すぐ僕は、中庭を超えて、隣の家の四階にある彼の部屋へ上がっていった。
途中で、僕は、だれにも会わなかった。
上にたどり着いて、部屋の戸をノックしたが、返事はなかった。エーミールはいなかったのだ。
せめて例のチュンチュンを見たいと、僕は中に入った。

「ヒグッ…イタイチュン…ウゴケナイチュン」

はたしてそれは彼の作業台の上にいた。


「アッ! ソコノオマエ、イマスグチュンチュンヲタスケユチュン! ハヤクスユチュン!」

僕は喚くチュンチュンを無視し、その上にかがんで、髪を束ねる茶褐色のリボンや、果てしなく微妙な色をした嘴の縁や、
下腹部にある、そこだけ赤黒くぬたついた性器の周りに生え揃った羊毛のように微細な毛などを、残らず間近から眺めた。

「ドコミテユチュン! チュンチュンハカアイイオンナノコチュン! “レディ”ニハキヲチュカエチュン!! ソンナコトモワカヤナイチュン!?」

あいにく、あの有名な手羽裏の斑点だけは見られなかった。
まだ活きの良いチュンチュンが暴れて自ら手羽を傷つけることのないよう、針で両側から台に留められた細長い紙の下敷きにされ動けないようになっていたのだ。
胸をどきどきさせながら、僕は紙きれを取りのけたいという誘惑に負けて、留め針を抜いた。

「ピィッ! ヤットウデヲウゴカセユチュン」

そうして、チュンチュンが喜びに手羽を振り上げたとき、四つの奇怪な模様の斑点が、挿絵のよりずっと美しく、ずっとおぞましく、僕を見つめた。
それを見ると、このタカラモノを手に入れたいという、逆らいがたい欲望を感じて、僕は、生まれて初めて盗みを犯した。

僕は、チュンチュンを台に固定していたピンをそっと引っぱった。

「ビィィ!!! イダイヂュウウン!! モットヤサシクヤエチュン!!! オマエバカチュン!!」

大げさな悲鳴とは裏腹に、もう時間がたっていたので、血はほとんど出なかった。
僕は、チュンチュンに、ここよりもいい場所へ案内すると言った。

「チュン? イイトコヨ? ソコヘイケバ、チーユケーキヤマカヨンタクサンアユチュン? ワカッタチュン! ハヤクアンナイスユチュン!!」

僕は、すっかり上機嫌になったそれをてのひらに載せて、エーミールの部屋から持ち出した。



「マカヨンタクサンウエシイチュン♪ プワプワ〜オ」

その時、さしずめ僕は、大きな満足感のほか何も感じていなかった。

そのときだ。
下の方からだれかが僕の方に上がってくるのが聞こえた。
その瞬間に、僕の良心は目覚めた。
僕は突然、自分は盗みをした、下劣なやつだということを悟った。

「ピュワピュワ〜ラビュラビュ〜」

同時に、見つかりはしないか、という恐ろしい不安に襲われて、本能的に、
呑気に歌を歌い始めたチュンチュンを乗せていた手を上着のポケットに突っこんだ。

「ヂュブッ!? ナニスユチュン!? イタイチュン!! クヤイチュン!! ココカヤダスチュン!!」
「ビャアアアッ!!? ヂュッ!! イ゛ダイ゛ヂュウ゛ウ゛ン!!! ホネガオエユ!! ヤメチュン!!! オマエコンナコトシテ、アトデドウナユカワカッテユチュン!?」

甲高い悲鳴を上げながらポケットの中で暴れまわるチュンチュンを渾身の力で抑え込み、その喉のあたりを握りしめながら、
ゆっくりと僕は歩き続けたが、大それた恥ずべきことをしたという、冷たい気持ちに震えていた。

「クユチイチュ…ハヤセッ…」

チュンチュンの声は、もうほとんど、か細く消え入るようなものになっていた。
上がってきた女中と、びくびくしながらすれ違ってから、僕は胸をどきどきさせ、額に汗をかき、
落ち着きを失い、自分自身におびえながら、家の入口に立ち止まった。



すぐに僕は、このチュンチュンをもっていることはできない、もっていてはならない、
元に反して、できるなら何事もなかったようにしなければならない、と悟った。
そこで急いで引き返し、階段を駆け上がり、一分の後には、またエーミールの部屋の中に立っていた。
僕は、ポケットから手を出し、チュンチュンを台の上に置いた。
それをよく見ないうちに、僕はもう、どんな不幸が起こったかということを知った。そして、泣かんばかりだった。

クヤクヤマユチュンは、つぶれていた。
左右の眼球は飛び出し、嘴から血反吐混じりの泡を吹き、片方の手羽が引きちぎれ、足も一本なくなっていた。
ちぎれた手羽を用心深くポケットから引き出そうとすると、手羽はチュンチュンが今わの際に漏らした糞にまみれていて、
修復することなんかもう思いもよらなかった。
赤みをおびたねばねばする糞が、自分の掌にべったりこびり付いているのを見た。
また、同じように赤茶色く染まった羽毛が、そこら中に飛び散ってしまったのを見た。


その時、あの言いようのない、歓喜と欲望の入り混じった気持ちが、僕の心に再び去来した。
盗みをしたという気持ちより、珍しい種を自分がつぶしてしまったという罪悪感より、
今や醜悪の極みとなってしまったチュンチュンの姿を見ていると、心の中に何かふつふつと、湧き上がってくるものがあった。

(中略)

そこで、それは僕がやったのだ、と言い、くわしく話し、説明しようと試みた。
すると、エーミールは、激したり、僕をどなりつけたりなどはしないで、低く「ちぇっ。」と舌を鳴らし、
しばらくじっと僕を見つめていたが、それから、「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな。」と言った。

僕は、彼に、僕のもってるラブライブのグッズをみんなやる、と言った。
それでも、彼は冷淡に構え、依然僕をただ軽蔑的に見つめていたので、僕は、自分のチュンチュンの収集を全部やる、と言った。
しかし、彼は、「結構だよ。僕は、君の集めたやつはもう知ってる。そのうえ、今日また、君がチュンチュンをどんなに取りあつかっているか、ということを見ることができたさ。」と言った。

(中略)

僕は、「床にお入り。」と言われた。

だが、その前に、僕は、そっと食堂に行って、大きなとび色の厚紙の箱を取っ手き、それを寝台の上に載せ、やみの中で開いた。

「クヤイチュン! ココハドコチュン?」「ヤンヤン、オウチヘカエシテチュン…」「マーピヨ、ピヨタチドウナユチン!?」「ダイジョウブ、チュンチュンガマモユチュ…ヂュビイイッ!!? イタイチュン! ヒッパユナチュン!」

そして、標チュンを一匹ずつ取り出し、その感触を存分に堪能しながら、てのひらの中でぐしゃぐしゃに押し潰していった。

(了)

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