ラブライブ!派生キャラ チュン(・8・)チュンのまとめwikiです。

8月某日。日本中が太平洋高気圧に覆われ、連日猛暑に見舞われていました。
「アーヅーイーヂューン」
「ヅヤイヂーン…」
「アービヨ…」
チュンチュン達が暮らす深山の森も例外ではなく、ほっそり差し込む木漏れ日でさえも殺人光線と化し生物たちを炙ります。それでもチュンチュン達は巣を離れ、ゆるやかな山の斜面を下りていました。
「ママチン…ヒナチンモウアユケナイチン…ヒカヤビユチン…」
「ガンバユチュン…モウスコシデオミユガアユハズチュン…」
チュンチュン達には無謀な遠征を試みざるをえない深刻な事情がありました。ここ数日晴天が続いたせいで巣のそばを流れる沢が干上がってしまい、水が飲めなくなってしまったのです。
それでチュンチュン達は水を求め、近くの小川へと向かっていたのでした。

巣を出て30分ほどのデスマーチを経たところで、チュンチュン達の耳に微かな水音が聞こえてきました。
干からびかけたチュンチュン達の心身に潤いが戻ります。意気揚々と草叢を掻き分けていくと緩やかな斜面に突き当たり、それをを下りていくと突如植生が途絶え、広々とした玉石の河原が広がっていました。
河原の奥には、太陽の明かりをキラキラと反射させ、ささやかな小川が流れています。
チュンチュン達は我先に河原へと飛び出し、水際を目指します。これまでは樹木により遮られていた太陽の熱線が直にチュンチュン達を照らしますが、小川沿いに上流から吹いてくる冷風のおかげで、体感温度は森の中よりも涼しいくらいでした。

「ゴッキュンゴッキュン…プワー!!」
「オミユオイシイチーン!!」
「ピィャァァ〜〜」
思う存分喉を潤したチュンチュン達は、日陰にある手頃な石に並んで腰掛け、涼風を全身で味わいました。
「サイコウノナツチューン…」
暑い夜が続いていたせいでしょうか、チュンチュンはいつの間にか眠りに落ちていきました。
「ママチン?オヒユネシテユチン?マダカエヤナイチン?」
「アーピヨ!アーピヨ!」
「ピヨチンモイッショニオミユアソビスユチン!!」
一方雛達は酷暑から解放され、久々に元来の遊び意欲を取り戻したようです。手を取り合って小川へと飛び込んでいきました。
「キモチイチーン!!」
「ピヨッピヨッピィィー!!!」
日射により川の水は適温に温まっており、全身を濡らしても心地よいくらいです。
たった1メートルの川幅、数センチの水深しかない枯れかけの小川でしたが、小さなヒナチュン達にとって河原の玉石は巨石のように大きく、天然のアスレチックでした。

思い思いにバカンス気分を満喫するチュンチュン達。
目の前の幸せに浸りすぎたあまり、山頂付近に立ち込める黒雲と、遠くで低く轟いている雷鳴に、気づくことはありませんでした。

「山の天気は変わりやすい」とよく言われますが、特に山奥は急に強い雨が降り出すことが多くあります。
急峻な山肌には植生が少なく、雨を吸い込む土も僅かしかありません。降った雨は斜面を素早く駆け抜け、近くの小川へと流れ込みます。
その結果、山間の小川は急な増水を起こすのです。
今日もチュンチュン達が遊んでいる小川の上流で強雨が降り、大量の雨水が流れ込んでいました。
そして、上流の増水が下流へと伝播するには、少し時間がかかります。
「ピヨチ-ン?ソエー!」
「ピィィヨ!!」
「プワーオ……ヒナチュン…?ピヨチュン…?オミユアソビシテユチュン?」
雛達の歓声でチュンチュンが目を覚ましたのは、下流側の増水が始まりつつある頃合いでした。


「ソロソロクラクナユチューン!ヘビチュンガデテクユマエニカエユチューン!」
「ハーイチン!」「ピーヨ!」
チュンチュンは両翼を嘴に当て、対岸で休憩している雛達を呼びました。
親鳥の声に応え、雛達が岸から川面へと下りていきます。
「サッキヨリツメタイチーン!キモチイチーン!!」
「ピィィ!」
水の冷たさに再度テンションが上がる雛達。冷たい雨水が流入したことに加え、流れが速くなったせいで体感温度が下がっていることに気づくわけもなく、上機嫌で小川を渡っていきます。

「チンッ…チンッ…」
「ピィィ…ピィィ…」
半分ほど進んだところで、雛達はようやく異変に気付き始めました。
頑張って歩いているはずなのに、体が重い。体が思い通りに動かない。
往路に要した時間はとうに経過しているのに、岸にたどり着けない……
「ハヤクカエユチューン!ファイトチューン!」
チュンチュンは雛達の動揺に気づくことなく、雛達を岸から応援します。
「ママチンガマッテユチン……ハヤクワタユチン……ピヨチンモガンバユチン……」
「ピィ…ピィ…」
小川の水位が少しずつ上昇しつつありましたが、それでもピヨチュンの胸ほどまでしかなく、呼吸に支障はありません。
しかし、雛達の体に加わる水圧は、着実に強まっていきます。
チュンチュンの足は短く不器用で、石の上を歩くことは元々不得手です。だからこそ先程まではアスレチックとしての楽しみがあったわけですが、今は楽しむ余裕などあるはずもなく、ただ恐れと不安と焦りだけが積もっていきます。
「ピヨォッ!?」
水圧によろめいたピヨチュンがついに足を滑らせ、顔を水に浸けてしまいました。
後頭部を石にぶつけたこと、羽毛が水を吸って頭部が重くなりバランスが崩れたこと、さっきまでとは段違いの水の冷たさに驚いたこと……様々な要因が重なり、ピヨチュンの体が水流に囚われました。
「ビヨヨヨ!!マーービヨヨオオオーーーー!!!」
「ピヨチュン!?イマタスケニイクチュン!!!」
水面上に辛うじて顔を出し鳴き叫ぶピヨチュンを目指し、チュンチュンが小川へ飛び込みました。
「ピィ--!!ツメタイチュン!!!」
雨水の割合がさらに高まり冷えきった水が羽毛に浸み込み、寒さのためにぎこちなく歩き出すチュンチュン。
懸命に下流へと駆けていきますが、なお加速を続ける流速に追いつけるはずもなく、ピヨチュンとの距離がどんどん開いていきます。
「マービヨ!!ゴブゥッ…マ゙ー!マ゙ー!マービヨォォォーーー!!!」
川底を転がるように流されていくピヨチュン。突き出た石に次々と体をぶつけ、川面に赤い染みを残しながら、姿が見えなくなってしまいました。

最愛の娘との突然の別れ。あっけなさすぎる最期。
チュンチュンは川下を見つめ、小川の中で呆然と立ち止まります。
「ピヨチューーン!!ピヨチューーン!!ピヨチュン……ソンナ…」
「マ゙ーマ゙ーヂーーン!!」
感傷に浸っている暇はありません。背後から今度はヒナチュンの金切り声が聞こえてきました。
「ヒナチュン!?」
振り返ると、高く突き出た石にしがみつき、必死に流れに抗っているヒナチュンがいました。
「マッテユチュン!タスケニ…」
すぐヒナチュンのところへ、つまり小川のさらに中心へと向かおうとしますが、チュンチュンの体は硬直して動きません。
水温がさらに低下し体力を奪われていたことに加え、先程なすすべもなく流されていったピヨチュンを目の当たりにして、水への恐怖心が芽生えていたのです。
ヒナチュンの周りは水の色が濃く、川底が窪んで深みになっているように見えます。
ヒナチュンを助けに行けば、自分も溺れて流されてしまうかもしれない……
ヒナチュンのもとへたどり着けたとしても、帰りはヒナチュンを抱えて再度窪みを渡らなければならない……
ふと反対側に視線を向けると、先程まで自分が座っていた、安全な川岸が目に入ります。
ヒナチュンを見捨てて今すぐ川岸に戻れば、自分は確実に助かる……
水嵩が増し、冷たい水がチュンチュンの胸元まで迫っていました。
この浅瀬ですら胸元まで水が来ているのだから、きっとヒナチュンの周りは自分の背丈よりも深い……
チュンチュンは迷いました。

「ヒナチュン…ゴメンナサイチュンッ!!」
チュンチュンは体を捻り、川岸に向かって歩み始めました。
「マ゙ーマ゙ーヂーーン!!マ゙ーマ゙ーヂーーン!!」
背後からヒナチュンの声が断続的に響いてきますが、振り返らずに川岸を目指し猛進します。
水面はチュンチュンの顎よりも下にありましたが、チュンチュンの顔面は涙でぐしょぐしょに濡れていました。

このチュンチュンの判断は一見冷酷であるようですが、多産多死であるチュンチュンという種にとって、雛鳥は安い存在です。
いくらでも代わりの効くヒナチュンをわざわざ命を賭して助けに行くより、このヒナチュンのことはさっさと忘れ次の雛を身ごもるほうが、種の繁栄のために圧倒的に合理的です。
従ってこのチュンチュンの行動は、本能的にインプットされた行動と言っても過言ではないでしょう。
尤も、今まさに切り捨てられようとしているヒナチュンには、まったく関係のない事情ですが……

「マ゙マ゙ヂン!!ダヅケヂン!!マ゙マ゙ヂン!!マ゙マ゙ヂン!!」
少しずつ離れていくチュンチュンの背中を見つめたまま、ヒナチュンは叫び続けます。
「マ゙マ゙ヂン!!マ゙マ゙ヂ!!グゥッッブ…マ゙、マ゙ヂン…」
水嵩がますます上昇し、ヒナチュンがしがみついている石も水を被るようになりました。
「マ゙、マ゙…ダヅ…マ゙マ゙ヂン……」
望まぬ水を大量に飲みこんだヒナチュンは息も絶え絶えに、懸命に助けを求め続けましたが、チュンチュンは川岸で背を向けたまま、振り返ることすらありません。
(ヒナチンハ…ミステヤエタチン……?)
ヒナチュンはようやく、チュンチュンの真意を理解しました。
同時にヒナチュンの体から力が抜け、石から手羽が離れ……流れに沈み姿が見えなくなりました。

「ヒナチュンッ…ピヨチュンッ…チュンチュンノタカヤモノズガ……」
ヒナチュンの命乞いを背中で拒絶しながらも、チュンチュンはずっと、さめざめと泣いていました。
やがて山頂付近を覆っていた雲が下りてきて、チュンチュンの頭上からも雨粒が落ちてきました。それでもさんざん泣き続け、さっき飲んだ小川の水がすべて涙として流れ出てしまった頃、どうしようもなかったのだと自分を慰め、手羽で涙を拭きました。
「ヒナチュントピヨチュンノコト、オトモチュンニオシエユチュンッ……オガワハアブナイチュンッ……モウダレモキヅツケタクヤイチュン!」
雛達の犠牲を無駄にはするまいと決意を新たに巣に戻ろうとした、そのとき。チュンチュンはようやく周囲の異変に気づきました。
上流で小川が二手に分かれ、今チュンチュンがいるあたりだけが中州として取り残されていたのです。
普段小川に近寄らないチュンチュンが知るはずもありませんが、植生がなく玉石だけが転がっている河原は、増水時には水の底に沈んでしまうものです。そもそも植物が生えても水に流されるために、植生として定着しないのです。
つまり、チュンチュン達がくつろいでいた河原は、連日の好天により水位が下がったために現れた陸地であり、いつ水流が押し寄せてくるかわからない、非常に危険な場所だったのです。
「ダレカ!!ダレカタスケユチューン!!チュンチュンハココニイユチューン!!ピンチチューン!!!」
ありったけの気力と体力を振り絞り、森に向かって助けを呼びますが、反応はありません。
チュンチュンの悲鳴は、小川のそばに住んでいる別のチュンチュン達の耳に確かに届いていましたが、小川の恐ろしさを知っているこのチュンチュン達は助けに行っても無駄だと確信していました。
「オトモチューン!?キコエユチューン!?コノママダトチュンチュンオボエユチューン!!タスケユチューン!!オネガァイチューン!!」
水音も雨音も引き裂くほどの悲痛な絶叫が森へと響きますが、先にこのチュンチュンが下したのと同じ、本能的かつ合理的な判断により、助けに行く者はいません。
間もなく玉石の河原全体が水に浸かり、水位はチュンチュンの尻尾あたりまで上昇してきました。
「ソンナ……ソンナソンナソンナ!!チュンチュンハココデシヌワケニハイカヤイチュン!!ヒナチュントピヨチュンノブンモイキテ、モットヒナチュントピヨチュンヲフヤシテ……チュンッ!?」
目を血走らせ顎が外れるほどに嘴を大きく開いて叫び狂うチュンチュンの視界に、巨大な流木が突如現れました。
成鳥チュンチュン30羽分はあろうかという巨大な流木です。急な水位上昇により、上流の川辺に生えていたものが折れて流されてきたのでしょう。
「ピィィィィ!!コヤイデ!!コヤイデチューン!!!」
必死に逃れようと下流へ走りますが、スピードの差は歴然、徐々に迫ってくる流木の茶色に視界が覆われていくために、どう逃げ惑おうとも決して避けられないことを嫌でも悟らずにはいられません。
「チュンチュンハカワイイオンナノコチュン…ヒヨインチュン…ゼッタイタスカユチュヂュボォゥゥッ」
懇願も空しく、流木はチュンチュンの顔面を正確に捉えました。薄皮を引き裂かれ血と中身が散乱し、川の水が一瞬赤く染まりましたが、すぐ薄まって見えなくなってしまいました。

前述のとおりチュンチュンは多産多死の生物であり、大自然にとって一羽一羽は軽く、いくらでも代えの効く、安価な量産品にすぎません。
しかし、人間じみた感情と知性を備えているために、見る者にとって彼女らの命は、唯一無二のドラマになりうるのです。【完】

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

管理人/副管理人のみ編集できます