とある森の片隅、僕の手の中には一匹のチュンチュンの雛が居る。
「イキナリナニスユチュン!ヒナチュンヲハナスチュン!」
そして、僕の足元で親チュンチュンが僕の靴を手羽でパタパタと叩いたり、くちばしで突っついたりしている。
雛を助けようとしているつもりなのだろうが、見ていて面白いだけである。
「ピィィ!ハナチテ!ハナチテ!」
僕の手のひらに収まるサイズの雛が必死に抵抗している。
両の手で雛を包み込むようにすると、その中でふわふわ、もこもこの感触が動く。
コロコロ、丸々とした羽毛の塊がモゾモゾ動く、この気持ち良いようなくすぐったいような感触が実に楽しい。
「マーイヨ!タチュケテ!マーピヨ!」
指と指の隙間に手羽を差し込んだり、くちばしを突っ込んで顔を出そうとしたりする雛が実に可愛らしい。
「ヒナチュンガイヤガッテユチュン!ヒドイコトハヤンヤン!」
そう言って僕の靴を突っつき続けるチュンチュン。
チュンチュンの例に漏れず絆が強い親子のようだ。そうでなくてはいけない。
今日からしばらく、このチュンチュンの絆を観察してみたいと思う。
さて、まずはこの雛を観察しよう。
親指と人差し指でリングをつくり、そこで雛の首を挟んで顔を出してみる。
「ピィ…クユシイチュン…ヤメユチュン…」
若干首が締まっていて苦しそうだがこの際構わない。
首の皮の肉が顔側に垂み寄って少しブルドッグみたいになっている。
「ピイィィィ!?ヒナチュンニナニスユチュン!!」
親チュンチュンの抗議を無視して観察を続ける。
うん、今は苦しそうな顔をしているが、いい顔をしているチュンチュンだ。
おめめがくりっとしていて実に可愛らしい、毛並みも良い、森育ちの健康な雛だ。
指の輪を外してやる。
「チュゥ・・・・チュン…エフッエフッ!」
呼吸が自由になってむせている雛もまた可愛らしい。
「ヒナチュン!?ダイジョブチュン!?コレイジョウヒナチュンニヒドイコトシナイデ!!」
これ以上ねえ、まだ始まったばかりもいいところなんだけど。
さらに僕は雛の身体をいろいろと触って観察する。
手羽、おててを触ってみる。つまむと厚手のフェルト生地に羽毛が生えたような感覚だ。
強くつまむと中にはちゃんとコリコリした骨が通っているのがわかる。
「イチャイチュン!!」
あ、ちょっと強すぎたか。
チュンチュンはほとんど飛ぶことができない鳥ではあるが、
なぜか「いつか空に羽ばたく」という願いを本能的に持っているらしい。
さらに、チュンチュンはこのフェルトのような手羽を器用に使って簡単な裁縫をすることができる。
そうして愛する雛に対してリボンやマクラを作って送る。雛はそれらをとても大切にして、次世代の雛を同様に愛する。
まさにチュンチュンの手羽は絆を繋ぐ「愛のおてて」なのだ。
続いて雛の脚を触る。
丸くでっぷりとした体型と比べて枝のように細い脚だ。皮は薄く、身体部分と違ってウロコのような表面になっておりふわふわの感触は無い。
大きい身体を支えているにしてはどう見ても貧弱であり、基本的にチュンチュンは素早く動くことはしない。
よちよちとゆっくり歩くのが殆どだ。
雛の脚をつまみながら僕は思う。
この弱々しい枝のような脚が折れてしまえば、もう二度とこの雛は歩くことができないんだ。
自分の意思ではどこにも行けない、一生誰かに助けてもらわなければいけない。
これまで幸せに生きてきた雛、これからも幸せに生きれたはずの雛、その一生を一瞬で変えてしまう。
その生殺与奪は僕にあるのだと思うとたまらなく笑顔がこみ上げてくる。
「!? ヒナチュンヲハナスチュゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
親チュンチュンが野生の本能なのか、何か不穏な空気を感じ取ったのか、僕の足にしがみついて必死に力を加えようとしている。
僕はその様子を見てにんまりと笑って雛を親チュンチュンに近づける。
「マーピヨ!マーピヨ!」
「チュン…?ヒナチュン!」
雛を返せ返せとずっと言っても無視されていたのに、僕が雛を返す素振りを見せたことから親チュンチュンの気が一瞬緩む。
「ヒナチュンヲカエシテクエユチュン…?」
身体をプルプル震わせながらおそるおそる雛に手羽を伸ばすチュンチュン。
「マーピヨ!マーピヨ!」
雛のほうも手羽を伸ばして親チュンチュンを掴もうとする。
そして、親子の手が触れようとしたその時、
ぶちり
「…?……ピィ…!!?ピギイィィィィィィィィィィィイイィィイィィ!!!?」
「ヒナチュン!?ドウシタノ!?ヒナチュ…チュゥゥゥゥゥン!!?」
むしり取った雛の右脚を親チュンチュンの目の前に落とす。
「ナ…ヒナチュン!?ヒナチュンノアンヨガアァァァァァァ!!」
「ピィィィィィィィィィィィィィ!!!イダイ!イダイ!イダイヂュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
驚愕と恐怖の入り混じった表情で泣き叫ぶ二匹、そして僕はさらに雛の左脚を掴む。
「アァァァァ!!ヤメテ!ヤメテ!オネガイダカヤ!ヤメテ!ヒナチュゥゥゥゥゥン!!」
「マービヨォォォ!!タチュケテェェェェェェェ!!」
えいっ
「ビギィァァァァァァァァァァァァァアアアアアァアアァァァ!!!」
あはは、あんよが無くなっちゃったね。さて、じゃあお願いのとおり雛を返してあげよう。
「ヒナチュン!ヒナチュン!?ソンナ…ヒドイチュゥゥゥゥゥゥゥン!!」
親チュンチュンが雛に駆け寄って解放された雛を抱きかかえる。
「マーピヨ…イダイヂュン…ウゴケナイチュン…アンヨガスゴクイタイチュン…ヒナチュンノアンヨ、ドウシチャッタチュン…?」
「…ヒナチュン…ウゥゥ…ヒドイチュン…アンマリチュン…」
あはは、どうやら痛さのあまり状況が理解できていないらしい。おもしろーい。
「ドウシテコンナヒドイコトスユチュン…?チュンチュンモ、ヒナチュンモ、ナニモワユイコトシテナイノニ…」
「マーピヨ…ヒナチュンノアンヨ…ウゴカナイチュン…」
雛を抱きしめ、涙を流しながら親チュンチュンが言う。
これからこの親子に待っている運命を想像すると心が踊る。
今日はこのへんにしておこう。ただ殺すのはもう沢山やったから、今回はゆっくり、ゆっくり観察するのだ。
脚を失った雛が自然界においてどうなるのか、じっくり観察したら想像以上に面白いものが見れた。
通常、ろくに飛べないチュンチュンの身であそこまで飛べるようになるまで努力できるとは。
脚が無い分軽くなったからだろうか、初めてのケースなのでなんとも言えない。
たまに居るんだよな、こういう、芯が強く物怖じしない、そんなチュンチュンが。
このまま脚を失った雛が成長すれば、きっと困難を乗り越えて幸せになれるんだろうね。
それを台無しにするのって楽しいな。
「ヒナチュン、リボンハコウヤッテツクユチュン」
「ピィ!ヤッテミユチュン!」
どうやら今日は裁縫のやり方を学んでいるらしい。
どこから取ってきたのか、自然の素材だけでリボンのような形のものを作り上げている。
「マーピヨ?コレデイイチュン?」
「ソウチュン!ヒナチュン、トッテモジョウズチュン!」
こうしてチュンチュンの技術は親から子へと伝わっていくのだろう。
雛は裁縫を親鳥に褒めてもらえて嬉しいのか、すりよって甘えている。
「マーピヨ♪ダイスキチュン」
「チュンチュンモヒナチュンガダイスキチュン!」
手羽さえ残っていれば何でもできる、そんな自信を付けたのだろう、どうやら立ち直ったようだ。
さて、ここからもう一度心を折るのが楽しみだ。
「…チュン!?」
「マーピヨ?ドウシタノ…ピイィィィ!?」
チュンチュン達が油断しきっていたところを後ろから近づき、あの時のように雛を掴み上げる。
「ピィィィィィィィ!!ピィィィィィィ!!ハナチテ!ヤンヤン!ヤンヤン!!ピイイィィィィィィィィィ!!!」
「ヒナチュゥゥゥゥゥゥゥゥン!!ヒナチュンヲハナスチュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
前回の恐怖が蘇ったのか、親子ともどもいきなり最大限の必死だ。
僕の手の中でバタバタと暴れようとしている雛は以前よりも力強く思えた。
どれ、手羽を触ってみる。
「ヂュン!?サワヤナイデ!!ヒナチュンノタイセツナオテテ、サワヤナイデ!!ピィィィィッ!!」
おお、フェルトのようだった手羽に張りが出ており、鍛えられているのがわかる。
短期間であれだけ飛べるようになったのだ、小さな生き物にしては並々ならぬ努力をしたのだろう。
「ヤンヤン!!ハナチテ!!ヤンヤン!!」
「ヒナチュンヲイジメユナチュゥゥゥゥゥゥン!!!」
親鳥が僕の足に向けて渾身の体当たりを繰り返している。
それで何とかなると思っているのだろうか、だとすれば雛のほうが賢いんじゃないか。
どれ、チュンチュンが体当たりする瞬間を狙って足をどかしてみる。
「チュンッ!?ヂュベッ」
勢い余って転んでしまったようだ、まるでボールのようにゴロンと転がる親鳥、実に間抜けで可愛らしい。
「ヂュゥゥ…」
うふふ、あー楽しみ。
僕はポケットに入れてあった「それ」をゆっくりと取り出した。
ヂョキン、ヂョキン
そして、雛の眼前で刃を開いたり閉じたりして音を鳴らしてみた。
「ピ…ピヤァァァァァァァァァァァァァ!!!」
敏い雛だ、この二枚の金属の刃を交差させる器具に挟まれたものがどうなるのか理解できているのだろう。
「イヤチュン…ヤメチュン!!ピイイイイイイイイィィィイィィィ!!!ピィィイィィイィイイィィィィ!!!!」
抵抗を続ける雛。
「ヒナチュンヲハナチテ!!ヒナチュンヲハナチテ!!!」
僕と戦ってるつもりの親鳥。
僕は両者をニヤニヤと見た後、雛の手羽に向けて刃を開いた。
「ピイヤアァァァァァァアァァァァァアアアァァァァァアアアッッ!!!」
恐怖のあまり、雛がこれまでにないほどの絶望の形相で叫ぶ。
「ヤメチュン!オネガイチュン!!ヒナチュンノオテテハトッテモタイセツナオテテチュン!!アンヨノカワリノタイセツナオテテチュン!!」
親鳥も土と涙で顔面がぐちゃぐちゃになっているが、なりふりかまわず僕の足を叩いたり体当たりしたりを続けている。
「ヒナチュンハアンヨヲトラエテモアキラメナイデガンバッタチュン!!トッテモトッテモガンバッタチュン!!ガンバッテヤットトベユヨウニナッタチュン!!」
何としてでも僕を止めたいのだろう、とにかく思ったことを叫んでいるようだ。
「タベモノモトエユヨウニナッタチュン!!リボンモツクエユヨウニナッタチュン!!タイセツナタイセツナオテテチュン!!オテテマデナクナッタヤヒナチュンイキテイケナイチュン!!!ダカヤ!!!ヤメテ!!!オネガァイ!!!!」
まあ、なんだろう。
知ってる。
ヂョキン!ヂョキン!ヂョキン!
「ヂュギイィィィィィィィィィィィィィ!!!ビイィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!イギャアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「ヒナチュン!?ヒナチュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
100円ショップで買ったハサミが、雛の一生を支えるはずだった大切なおててを簡単に断ち切った。
やっすいなぁ、チュンチュンのおてて。
ヂョキン!ブツ!ヂョキン!
「ギュギィィィィィィィィ!?ヂュィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」
あはは、骨なんかこれ、樹の枝みたいにポッキリ切り落とせるなあ。
「ヂギィィィィィィィィィィィィイイィィィィィイィィィィイィィィィ!!!!」
ぐちゃり、トサッ
「ピィィッ!?ヒナチュンノオテテガアァァァ!!!」
何を驚いているんだい、まだ片方残っているじゃあないか。
ヂョキン!ヂョキン!ヂョキン!
「ヂュ…ビギ…アガガ…ガ…マー…ピヨ…」
おや、気絶したか。
目覚めた時にはダルマさんだね、あはは、どんな気分なんだろう。
「イヤアァァァァァ!!ヒナチュンガァァァァァァァ!!!ヒナチュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!」
雛の泣き叫ぶ声が止まったので、親鳥は雛が死んだと思ったのだろうか。
大丈夫だよ、生きてる。死なないように切っている。
実験の賜物だよ。
ぐちっ トサッ
「ヒナ…チュン…」
はい、雛のダルマの完成だ、ある種これも可愛いと思わないかい?
「ヒナチュン…ドウシテ…コンナ…ヒドイ…ヒドスギユチュン…ナンデ…」
さて、これで雛は両手両足を失った。
今度こそ親が支えないと生きていけないだろう。
「チュン…チュン…」
親鳥のすすり泣く声を聞きながら、満面の笑みで僕はその場を後にした。
またしばらく観察を続けることにしよう。
マニアside2 終
「イキナリナニスユチュン!ヒナチュンヲハナスチュン!」
そして、僕の足元で親チュンチュンが僕の靴を手羽でパタパタと叩いたり、くちばしで突っついたりしている。
雛を助けようとしているつもりなのだろうが、見ていて面白いだけである。
「ピィィ!ハナチテ!ハナチテ!」
僕の手のひらに収まるサイズの雛が必死に抵抗している。
両の手で雛を包み込むようにすると、その中でふわふわ、もこもこの感触が動く。
コロコロ、丸々とした羽毛の塊がモゾモゾ動く、この気持ち良いようなくすぐったいような感触が実に楽しい。
「マーイヨ!タチュケテ!マーピヨ!」
指と指の隙間に手羽を差し込んだり、くちばしを突っ込んで顔を出そうとしたりする雛が実に可愛らしい。
「ヒナチュンガイヤガッテユチュン!ヒドイコトハヤンヤン!」
そう言って僕の靴を突っつき続けるチュンチュン。
チュンチュンの例に漏れず絆が強い親子のようだ。そうでなくてはいけない。
今日からしばらく、このチュンチュンの絆を観察してみたいと思う。
さて、まずはこの雛を観察しよう。
親指と人差し指でリングをつくり、そこで雛の首を挟んで顔を出してみる。
「ピィ…クユシイチュン…ヤメユチュン…」
若干首が締まっていて苦しそうだがこの際構わない。
首の皮の肉が顔側に垂み寄って少しブルドッグみたいになっている。
「ピイィィィ!?ヒナチュンニナニスユチュン!!」
親チュンチュンの抗議を無視して観察を続ける。
うん、今は苦しそうな顔をしているが、いい顔をしているチュンチュンだ。
おめめがくりっとしていて実に可愛らしい、毛並みも良い、森育ちの健康な雛だ。
指の輪を外してやる。
「チュゥ・・・・チュン…エフッエフッ!」
呼吸が自由になってむせている雛もまた可愛らしい。
「ヒナチュン!?ダイジョブチュン!?コレイジョウヒナチュンニヒドイコトシナイデ!!」
これ以上ねえ、まだ始まったばかりもいいところなんだけど。
さらに僕は雛の身体をいろいろと触って観察する。
手羽、おててを触ってみる。つまむと厚手のフェルト生地に羽毛が生えたような感覚だ。
強くつまむと中にはちゃんとコリコリした骨が通っているのがわかる。
「イチャイチュン!!」
あ、ちょっと強すぎたか。
チュンチュンはほとんど飛ぶことができない鳥ではあるが、
なぜか「いつか空に羽ばたく」という願いを本能的に持っているらしい。
さらに、チュンチュンはこのフェルトのような手羽を器用に使って簡単な裁縫をすることができる。
そうして愛する雛に対してリボンやマクラを作って送る。雛はそれらをとても大切にして、次世代の雛を同様に愛する。
まさにチュンチュンの手羽は絆を繋ぐ「愛のおてて」なのだ。
続いて雛の脚を触る。
丸くでっぷりとした体型と比べて枝のように細い脚だ。皮は薄く、身体部分と違ってウロコのような表面になっておりふわふわの感触は無い。
大きい身体を支えているにしてはどう見ても貧弱であり、基本的にチュンチュンは素早く動くことはしない。
よちよちとゆっくり歩くのが殆どだ。
雛の脚をつまみながら僕は思う。
この弱々しい枝のような脚が折れてしまえば、もう二度とこの雛は歩くことができないんだ。
自分の意思ではどこにも行けない、一生誰かに助けてもらわなければいけない。
これまで幸せに生きてきた雛、これからも幸せに生きれたはずの雛、その一生を一瞬で変えてしまう。
その生殺与奪は僕にあるのだと思うとたまらなく笑顔がこみ上げてくる。
「!? ヒナチュンヲハナスチュゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
親チュンチュンが野生の本能なのか、何か不穏な空気を感じ取ったのか、僕の足にしがみついて必死に力を加えようとしている。
僕はその様子を見てにんまりと笑って雛を親チュンチュンに近づける。
「マーピヨ!マーピヨ!」
「チュン…?ヒナチュン!」
雛を返せ返せとずっと言っても無視されていたのに、僕が雛を返す素振りを見せたことから親チュンチュンの気が一瞬緩む。
「ヒナチュンヲカエシテクエユチュン…?」
身体をプルプル震わせながらおそるおそる雛に手羽を伸ばすチュンチュン。
「マーピヨ!マーピヨ!」
雛のほうも手羽を伸ばして親チュンチュンを掴もうとする。
そして、親子の手が触れようとしたその時、
ぶちり
「…?……ピィ…!!?ピギイィィィィィィィィィィィイイィィイィィ!!!?」
「ヒナチュン!?ドウシタノ!?ヒナチュ…チュゥゥゥゥゥン!!?」
むしり取った雛の右脚を親チュンチュンの目の前に落とす。
「ナ…ヒナチュン!?ヒナチュンノアンヨガアァァァァァァ!!」
「ピィィィィィィィィィィィィィ!!!イダイ!イダイ!イダイヂュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
驚愕と恐怖の入り混じった表情で泣き叫ぶ二匹、そして僕はさらに雛の左脚を掴む。
「アァァァァ!!ヤメテ!ヤメテ!オネガイダカヤ!ヤメテ!ヒナチュゥゥゥゥゥン!!」
「マービヨォォォ!!タチュケテェェェェェェェ!!」
えいっ
「ビギィァァァァァァァァァァァァァアアアアアァアアァァァ!!!」
あはは、あんよが無くなっちゃったね。さて、じゃあお願いのとおり雛を返してあげよう。
「ヒナチュン!ヒナチュン!?ソンナ…ヒドイチュゥゥゥゥゥゥゥン!!」
親チュンチュンが雛に駆け寄って解放された雛を抱きかかえる。
「マーピヨ…イダイヂュン…ウゴケナイチュン…アンヨガスゴクイタイチュン…ヒナチュンノアンヨ、ドウシチャッタチュン…?」
「…ヒナチュン…ウゥゥ…ヒドイチュン…アンマリチュン…」
あはは、どうやら痛さのあまり状況が理解できていないらしい。おもしろーい。
「ドウシテコンナヒドイコトスユチュン…?チュンチュンモ、ヒナチュンモ、ナニモワユイコトシテナイノニ…」
「マーピヨ…ヒナチュンノアンヨ…ウゴカナイチュン…」
雛を抱きしめ、涙を流しながら親チュンチュンが言う。
これからこの親子に待っている運命を想像すると心が踊る。
今日はこのへんにしておこう。ただ殺すのはもう沢山やったから、今回はゆっくり、ゆっくり観察するのだ。
脚を失った雛が自然界においてどうなるのか、じっくり観察したら想像以上に面白いものが見れた。
通常、ろくに飛べないチュンチュンの身であそこまで飛べるようになるまで努力できるとは。
脚が無い分軽くなったからだろうか、初めてのケースなのでなんとも言えない。
たまに居るんだよな、こういう、芯が強く物怖じしない、そんなチュンチュンが。
このまま脚を失った雛が成長すれば、きっと困難を乗り越えて幸せになれるんだろうね。
それを台無しにするのって楽しいな。
「ヒナチュン、リボンハコウヤッテツクユチュン」
「ピィ!ヤッテミユチュン!」
どうやら今日は裁縫のやり方を学んでいるらしい。
どこから取ってきたのか、自然の素材だけでリボンのような形のものを作り上げている。
「マーピヨ?コレデイイチュン?」
「ソウチュン!ヒナチュン、トッテモジョウズチュン!」
こうしてチュンチュンの技術は親から子へと伝わっていくのだろう。
雛は裁縫を親鳥に褒めてもらえて嬉しいのか、すりよって甘えている。
「マーピヨ♪ダイスキチュン」
「チュンチュンモヒナチュンガダイスキチュン!」
手羽さえ残っていれば何でもできる、そんな自信を付けたのだろう、どうやら立ち直ったようだ。
さて、ここからもう一度心を折るのが楽しみだ。
「…チュン!?」
「マーピヨ?ドウシタノ…ピイィィィ!?」
チュンチュン達が油断しきっていたところを後ろから近づき、あの時のように雛を掴み上げる。
「ピィィィィィィィ!!ピィィィィィィ!!ハナチテ!ヤンヤン!ヤンヤン!!ピイイィィィィィィィィィ!!!」
「ヒナチュゥゥゥゥゥゥゥゥン!!ヒナチュンヲハナスチュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
前回の恐怖が蘇ったのか、親子ともどもいきなり最大限の必死だ。
僕の手の中でバタバタと暴れようとしている雛は以前よりも力強く思えた。
どれ、手羽を触ってみる。
「ヂュン!?サワヤナイデ!!ヒナチュンノタイセツナオテテ、サワヤナイデ!!ピィィィィッ!!」
おお、フェルトのようだった手羽に張りが出ており、鍛えられているのがわかる。
短期間であれだけ飛べるようになったのだ、小さな生き物にしては並々ならぬ努力をしたのだろう。
「ヤンヤン!!ハナチテ!!ヤンヤン!!」
「ヒナチュンヲイジメユナチュゥゥゥゥゥゥン!!!」
親鳥が僕の足に向けて渾身の体当たりを繰り返している。
それで何とかなると思っているのだろうか、だとすれば雛のほうが賢いんじゃないか。
どれ、チュンチュンが体当たりする瞬間を狙って足をどかしてみる。
「チュンッ!?ヂュベッ」
勢い余って転んでしまったようだ、まるでボールのようにゴロンと転がる親鳥、実に間抜けで可愛らしい。
「ヂュゥゥ…」
うふふ、あー楽しみ。
僕はポケットに入れてあった「それ」をゆっくりと取り出した。
ヂョキン、ヂョキン
そして、雛の眼前で刃を開いたり閉じたりして音を鳴らしてみた。
「ピ…ピヤァァァァァァァァァァァァァ!!!」
敏い雛だ、この二枚の金属の刃を交差させる器具に挟まれたものがどうなるのか理解できているのだろう。
「イヤチュン…ヤメチュン!!ピイイイイイイイイィィィイィィィ!!!ピィィイィィイィイイィィィィ!!!!」
抵抗を続ける雛。
「ヒナチュンヲハナチテ!!ヒナチュンヲハナチテ!!!」
僕と戦ってるつもりの親鳥。
僕は両者をニヤニヤと見た後、雛の手羽に向けて刃を開いた。
「ピイヤアァァァァァァアァァァァァアアアァァァァァアアアッッ!!!」
恐怖のあまり、雛がこれまでにないほどの絶望の形相で叫ぶ。
「ヤメチュン!オネガイチュン!!ヒナチュンノオテテハトッテモタイセツナオテテチュン!!アンヨノカワリノタイセツナオテテチュン!!」
親鳥も土と涙で顔面がぐちゃぐちゃになっているが、なりふりかまわず僕の足を叩いたり体当たりしたりを続けている。
「ヒナチュンハアンヨヲトラエテモアキラメナイデガンバッタチュン!!トッテモトッテモガンバッタチュン!!ガンバッテヤットトベユヨウニナッタチュン!!」
何としてでも僕を止めたいのだろう、とにかく思ったことを叫んでいるようだ。
「タベモノモトエユヨウニナッタチュン!!リボンモツクエユヨウニナッタチュン!!タイセツナタイセツナオテテチュン!!オテテマデナクナッタヤヒナチュンイキテイケナイチュン!!!ダカヤ!!!ヤメテ!!!オネガァイ!!!!」
まあ、なんだろう。
知ってる。
ヂョキン!ヂョキン!ヂョキン!
「ヂュギイィィィィィィィィィィィィィ!!!ビイィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!イギャアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「ヒナチュン!?ヒナチュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
100円ショップで買ったハサミが、雛の一生を支えるはずだった大切なおててを簡単に断ち切った。
やっすいなぁ、チュンチュンのおてて。
ヂョキン!ブツ!ヂョキン!
「ギュギィィィィィィィィ!?ヂュィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」
あはは、骨なんかこれ、樹の枝みたいにポッキリ切り落とせるなあ。
「ヂギィィィィィィィィィィィィイイィィィィィイィィィィイィィィィ!!!!」
ぐちゃり、トサッ
「ピィィッ!?ヒナチュンノオテテガアァァァ!!!」
何を驚いているんだい、まだ片方残っているじゃあないか。
ヂョキン!ヂョキン!ヂョキン!
「ヂュ…ビギ…アガガ…ガ…マー…ピヨ…」
おや、気絶したか。
目覚めた時にはダルマさんだね、あはは、どんな気分なんだろう。
「イヤアァァァァァ!!ヒナチュンガァァァァァァァ!!!ヒナチュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!」
雛の泣き叫ぶ声が止まったので、親鳥は雛が死んだと思ったのだろうか。
大丈夫だよ、生きてる。死なないように切っている。
実験の賜物だよ。
ぐちっ トサッ
「ヒナ…チュン…」
はい、雛のダルマの完成だ、ある種これも可愛いと思わないかい?
「ヒナチュン…ドウシテ…コンナ…ヒドイ…ヒドスギユチュン…ナンデ…」
さて、これで雛は両手両足を失った。
今度こそ親が支えないと生きていけないだろう。
「チュン…チュン…」
親鳥のすすり泣く声を聞きながら、満面の笑みで僕はその場を後にした。
またしばらく観察を続けることにしよう。
マニアside2 終
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