人形劇三国志に一言 - 第8回 帝を救え!

あらすじ

洛陽を焼いて長安に逃げる董卓一行を即追撃するか否か、連合軍は決めかねてゐる。業を煮やした曹操は単独で董卓追討に向かふ。曹操の真意は、董卓討伐ではなく帝の奪回または殺害にあると見抜いた玄徳は曹操のあとを追ふ。董卓・曹操・玄徳の思惑の絡み合つた結果、帝は董卓の手のうちに残る。そのころ、孫堅は洛陽の焼け跡から玉璽を見つけ出し、長沙に戻ることにする。その他の諸侯も三々五々帰国の途につき、連合軍は空中分解。玄徳は、公孫瓚の依頼で荊州の刺史・劉表の援軍に向かふ。

一言

演義でいふところの第六回。最後までは行かない。その割に物語は動いてゐるやうに見える。趙雲、夏侯淵、程普と、登場人物が増えるからかのう。程普は、この後それほど活躍はしないが、でも赤壁の戦ひが近づくとまた出てくるしね。

どちらが三国志のことをよく知つてゐるかで口論する紳助竜介からはじまる。
VTRは現在の西安(長安)。紳助が竜介に、漢の最初の都はどこかと訊ねると、竜介は洛陽と答へる。正解は長安なのだが、ここで紳助は竜介を罵倒したりしない。シナリオとほりに話してゐるといふことか。
高祖本紀を読むと、劉邦は最初洛陽に都したかつたらしいけどね。劉敬や張良の献策を容れてやめた、と書いてある。
董卓は、長安を都とするつもり、といふところでVTR終了。

朝。洛陽の焼け跡に立つ玄徳、関羽、張飛とそれぞれの馬たち
玄徳が董卓の仕業に憤ると、関羽がここ二三百里のあひだ鶏一羽犬一匹ゐない、と、どういふ状況かをそのセリフで表現する。一方張飛は、美芳の心配をする。三人三様。いいのう。

洛陽郊外、公孫瓚の陣営。
天幕の外に立つ公孫瓚。荒涼とした地にひとり立つロングショットがなかなかいい。
公孫瓚は、洛陽焼討ちの凄惨さを憂ふ。
そこに「公孫瓚閣下」とさはやかな聲。「やあ、趙雲」といふ公孫瓚のセリフで、趙雲のものとわかる。
カメラ切り替はつて、馬から降り立つ若武者。これが趙雲、字は子龍。
趙雲は、袁紹の軍が到着したことを公孫瓚に知らせる。そして、袁紹は兵を休めてから洛陽に入城するつもりだ、と、伝へる。兵を休めるといふことに愕然とする公孫瓚。
そこに馬の蹄の音がして、玄徳一行の登場。公孫瓚に、洛陽が「死の都」であると告げる。ブリュージュか、洛陽は。
玄徳の報告に、「そうか」と答へる公孫瓚の沈痛な面持ちがたまらんのう。人形劇の公孫瓚は基本的には玄徳の兄貴分の「いい人」つて感じだものなあ。
そこで、公孫瓚は玄徳と趙雲とに、互ひに互ひを紹介する。
先に玄徳を紹介するのは、玄徳は身内、といふ意識なのだらうか。位としては趙雲の方がえらいのかな。さうかなさうかも。玄徳は盧植先生のもとで学んだ弟弟子、と、紹介する。
玄徳は、「よろしくお見知りおきを」と挨拶する。つづいて「玄徳殿の弟、関羽雲長」つて、なぜ「殿」をつけるのか、関羽よ。ビジネスマナーの先生に怒られちやふぞ。頭は下げない張飛の方がまだましかもしれないぞ。
さうか、この時点では趙雲は袁紹旗下の旗本といふ扱ひなのか。だから公孫瓚は先に趙雲に玄徳を紹介したのかな。そんなとこにこだはるなよつてか。すまん。
それにしても、趙雲、いちいさはやかだわー。見惚れるわー。ちよつとここまでに出てきたことのないタイプだよな。
しかも、ちやんと虎牢関で呂布相手に玄徳たち(といふか、主に関羽と張飛と)が戦つたことも知つてゐるし。そつないタイプか、趙子龍。
最後まで礼儀正しい好青年だぜ、趙子龍。
玄徳も、「趙雲子龍。礼儀正しいみごとな若武者だ」と云つてゐる。まさにそのとほりぢやよ。でもそこで「張飛、おぬしも少しは見習つたらどうだ」はちよつと余分かな。張飛はあの傍らに人の無きが若しなところがいいんぢやよ。ね。関羽も笑つてるけどさ。
云はれて悔しい張飛は、口は達者でも肝心の武勇はどうかな、とか云ふてゐる。そのうちわかるよ。
公孫瓚は、玄徳に、袁紹が到着したことを告げ、ゆつくり兵を休ませるやうに伝へる。玄徳の反応は、もちろん「とんでもない」だ。すぐに全軍で董卓を追撃すべきだ、そしてその先鋒となるべきである、と、公孫瓚に訴へる。関羽もまた、早く追はないと函谷関といふ難所があると、助言する。
公孫瓚は、自分もそのとほりだと思ふと云ひ、袁紹にかけあつてくる、と云ふ。

場面変はつて長安を目指す董卓一行。
董卓は、一般人の足が遅いので殿軍の呂布に云つて急がせろ、と、李儒に命ずる。李儒は、都の住民には足弱が多いので、と目を伏せるが、董卓は、遅れるものは叩き斬れ、と、云ひ捨てる。赤壁の戦ひに敗れて落ち延びる曹操もそんなこと云ふよね。まあ、あのときつれてゐるのは市井の人々ではなく自分の兵隊たちだけど。とはいへ、その兵隊たちもももともとは訓練されたものばかりではなくて、戦のために徴用された人々なのかもしれない、か。
董卓は、追手が追ひつくまでに函谷関を越えておきたい、といふ。先ほどの関羽のセリフと呼応してゐる。
よろよろと董卓について歩く人々。大きい荷物を背負つたり、大八車(と、中国でも云ふのかね)を押したり引いたり大変さうだ。
その中に、やはり大荷物をかついだ紳々竜々。ボヤイてゐるところに、屋台を引いた美芳と出会ふ。
荷物が重たいとボヤく紳々竜々に、欲張るからだと云ふ美芳。ところが紳々龍々は自分たちの荷物を持つてゐるわけではなかつた。宮中の宝物を運ぶやう命ぜられてゐたのである。
そこへ、赤兎に乗つた呂布があらはれ、さつさと歩くやう紳々竜々を怒鳴りつける。
美芳に水をくれるやう頼む疲れ切つたやうすの人があらはれる。呂布はもう歩けぬといふその人物を斬り捨てる。
呂布が本気であることを知つて、紳々竜々、そして美芳は先を急ぐ。

一方、洛陽郊外の袁紹の本営。
帳幕の中に、公孫瓚が入つてきて、曹操と孫堅とをみとめる。
ゆつくりするやうに伝へたはずなのになにをしに来た、と、云ふ袁紹に、全軍を挙げて董卓を追撃し以て帝をお助けすべし、と、公孫瓚は訴へる。「そのとほりだ」と曹操が立ち上がる。早速大将らを集めて軍議を開き、董卓を追撃すべきだ、と話してゐたところだ、と云ふ。
孫堅は袁紹の意見に組してゐる。兵は疲れてゐるし、いまさら追つたところで、得るところは少ない、と、曹操に反論する。
あー、これつてもしかして、あれね、船頭多くして舟山に登る、とか、小田原評定とかいふアレね。
孫堅の反論に曹操は、あくまでも即追撃を主張する。
公孫瓚が、「あの玄徳もさやうに申してをりました」と云ふ。この一言がどうやら袁紹のカンにさはつたのらしい。虎牢関でちよつと活躍したからつていい気になつて全軍の動向にまで口を出すとは、と、おかんむりだ。それは総大将たる自分の決めること、と、袁紹は息巻く。
孫堅は、いま必要なのは洛陽の都を元どほりにすること、さうすることで人心を安んじることができる、と主張する。
曹操はこれにも反対で、帝のゐるところが都なのだ、と云ふ。うむ、曹操の云ふことに一理あるな。帝のゐない洛陽など「そこいらの田舎町と変はらぬ」つて、いいこと云ふなあ、曹操。
袁紹は、曹操の云ふことももつともだが、兵が疲れてゐると云ふ。
対して曹操は、董卓の兵はもつと疲れてゐる、と主張する。ますますいいぞ、曹操。
しかし袁紹は聞き入れない。董卓の行方は長安とわかつてゐるのだから、兵を休ませぢつくり策を練つて董卓を倒さうではないか、と云ふ。
孫堅もそれに同意する。ほかの諸侯もさう云ふてゐる、とも云ふ。
「あきれはてた言い草だ」と、曹操は吐き捨てる。臆病ものたちと話しあつてゐても埒があかんと云つて、その場を立ち去る。

公孫瓚の陣。
玄徳一行が、なにをしてゐるのか、野外に立ち尽くしてゐる。もしかして、公孫瓚が戻つたらすぐにでも出陣するつもりだつたのだらうか。
そこに公孫瓚が帰つてくる。
出撃する気満々の三人に、「追撃は、見合はせることになつた」といふ公孫瓚の苦悩に満ちたセリフがぐつとくるなあ。
公孫瓚のことばに玄徳たちは驚く。
一瞬うつむく公孫瓚だが、総大将の袁紹の決めたことだから従ふほかない、と、これはわざとかな、聲を張つて答へる。
なんとなく公孫瓚の立場を察したやうすの玄徳。
そこへ、つかつかと曹操があらはれる。背後にひとり兵を従へてゐる。この時点ではわからないが、これすなはち夏侯淵。
曹操は、公孫瓚に、董卓を追撃すべしといふ意思に変はりはないか、と問ふ。公孫瓚は、然りと答へつつも、総大将が意を異にするのでは如何ともしがたいと答へる。
曹操は、自分ひとりでも董卓を追撃するつもりだ、と、述べる。
公孫瓚は、曹操の手勢は一万ていど、単独で董卓を追撃するなど無謀だ、と、云ふ。
曹操は、そこで公孫瓚にも協力してもらへないか、と云ふ。公孫瓚には玄徳ら剛の者もゐることだし、と。顔を見合はせてうなづきあふ関羽と張飛とが、もう、やる気満々なやうす。
我慢できないのだらう張飛は、公孫瓚に行かう、と訴へる。自分たちだけで董卓の首をねぢ斬つて、臆病者たちに目にものを見せてやらう、と。
だが、公孫瓚は曹操の申し出を断る。
そんな公孫瓚に、「え、それはないでせう」といつたやうすの関羽とさう口に出す張飛。
公孫瓚は、玄徳ら三人に、とくに張飛に向かつて、口を出すなと云ふ。自分は曹操と話してゐるのだ、と。
曹操がなぜと問ふと、公孫瓚は、自分の意見は意見として軍議の結果には従はねばならぬ、と答へる。
なに言つてんだよこいつ、といつたやうすの曹操。
あくまでも連合軍の一員たらうとする公孫瓚に業を煮やした曹操は、自分ひとりでも董卓を追撃する、と云ひ捨てて、その場を去る。
連合軍の弱さを露呈してゐるよなー、このあたり。会議は踊るされど進まず、みたやうな、さ。
玄徳は、公孫瓚に、このまま曹操ひとりを行かせていいのか、と迫る。公孫瓚は、仕方がない、と答へる。曹操の好きにさせるしかない、と。公孫瓚自身は、連合軍の結束を乱すやうなことはしたくないのだ、と。
そんな、大層な連合軍かねえ、とは思ふがね。

夜。玄徳たち三人の帳幕。
沈思黙考する玄徳に、刀を磨く関羽。張飛は関羽にこのままでは曹操ひとりの手柄にされてしまふぞ、とボヤく。関羽は、曹操ひとりの手柄にはなるまい、なぜなら曹操の手勢は少ないから、と悠然と答へる。
ここの場面、暗いなか三人が灯を取り囲んでゐる感じがなんともいい絵になつてゐる。
なほもなにかしら考へてゐるやうすの玄徳は、曹操のことだからなにか目算があるのにちがひない、と、呟くやうに云ふ。
あれこれ考へてゐるなら行動しやうぜ、と息巻く張飛に、関羽は、自分たちは公孫瓚の配下にゐるのだから好き勝手はできん、と、切り捨てる。
すると、突然「読めたぞ」と大きな聲を出す玄徳。
玄徳の見立てでは、曹操の目指すのは董卓の首ではなく、帝の奪還とのこと。
関羽は、あの董卓がむざむざ帝を渡すだらうか、渡すくらゐなら帝を殺すのでは、と問ふ。関羽の物言ひは玄徳と同等のやうな感じ。この後かういふやうすはだんだん影を潜めるやうになる。
玄徳は、曹操はそれも計算に入れてゐる、と云ふ。帝がゐなくなれば群雄割拠の世の中になり、曹操が帝を僭称しても誰も文句は云へなくなる、と。もちろん、帝を救ひ出せればそれはそれでよくて、袁紹に代はつて連合軍の総大将にもなれるし、董卓の代はりに丞相の地位につくことも可能だ、と。
玄徳の説明を受けて、曹操の策を考へる関羽のやうすがいいぞ。

朝。
曹操は、董卓追撃を命令する。

夕暮れ。黄河のほとり。
美芳が屋台の手入れをしてゐるところに、淑玲があらはれる。
「まあ淑玲さん、帝はお元気?」つて、美芳よ、畏れおほいよ。
淑玲は、美芳が商売もできないのに屋台の手入れを怠らないことを褒めるが、実は美芳は、手入れをするふりをして屋台が水に浮くかどうか試してゐた、といふ。水に浮くやうなら、屋台につかまつて河をくだつていけば、逃げられるのではないか、といふのだ。そして、どうやらうまくいきさうだ、と云ふ。
美芳は一緒に逃げないかと淑玲を誘ふが、淑玲は、帝がゐるからそれはできないと答へる。

夜。帳幕の外に立つ紳々竜々。
昼間は荷物をかつがされ、夜は見張りに立たされてでは、休めないとボヤいてゐる。
主人に逆らふと斬ると脅されるし、しかもその主人は落ち目だときてゐる、いつそのこと逃げ出すか、と、相談して、しかしただ逃げるではおもしろくない、いつそ宝物を持つて逃げるか、と、相談はまとまる。
ただ、宝物は重た過ぎる、だから、昼間のあひだに美芳の屋台に隠しておき、夜になつたら取り出して逃げやう、と、紳々は云ふ。
そこへ、また赤兎に乗つた呂布があらはれる。喋つてないでちやんと見張りをしろ、と、紳々竜々に命じる。異状がないと知るとそのまま去る。
紳々竜々も、ひとまはりしてこやう、と、その場をはなれる。
そこへあらはれる玄徳。
帳幕の中に入り、帝の無事なやうすを確認するが、そこへ別の兵隊たちがあらはれる。玄徳を身を隠す。
あらはれたのは、先ほど公孫瓚の陣を訪れた曹操についてゐた兵(夏侯淵)とその部下。兵は帳幕のなかを覘き、帝をみとめる。そこへ紳々竜々が戻つてきたので、部下とともに身を隠す。
戻つてきたはいいが、昼間の疲れからか、紳々竜々はその場で眠りこんでしまふ。

別の帳幕の外。川のほとりにひとり立つ淑玲。
すると、「淑玲、淑玲」と呼ぶ聲がする。
淑玲は、こんなところで玄徳の聲がするわけがない、きつと空耳、と、自分に云ひ聞かせる。
水面にうつる淑玲の影、その背後から、玄徳があらはれる。
こんなところにゐてはあぶない、と、淑玲は玄徳を招き入れる。

帳幕の中。
玄徳は、淑玲をねぎらひ、帝を救ひに来たと告げる。そこで淑玲の力を借りたい、と、淑玲の耳元になにごとか囁く。

帝の帳幕の外。
淑玲は、玄徳を外に待たせて中に入る。

帳幕の中。
淑玲は、帝を起こし、逃げる算段を告げる。
淑玲は、帝を、宝物を入れた大きなつづらの中に隠さうといふのだ。

黄河。
そのほとりに立つ曹操の後ろ姿。背後にはひとりたれか控へてゐる。
河には舟が浮かんでゐる。
そこへ、先ほど帝の帳幕の中を窺つてゐた兵が戻つてくる。
その兵の「殿」といふ呼び聲に、曹操は「夏侯淵か」と答へる。ここではじめてこの兵が夏侯淵字は妙才であることが判明する。
曹操は、火矢をはなつて混乱に乗じて帝を奪へ、と、命ずる。

帝の帳幕の前。
紳々竜々は眠りこけてゐる。
そこへ火矢がはなたれ、帳幕が燃えはじめる。
ふたりはこのどさくさに宝物のつづらを持つて逃げやうとする。

帝の帳幕の中。
曹操が夏侯淵をつれてあらはれる。
しかし、帝はゐない。
淑玲も入つてくる。
そこへ、呂布があらはれる。幕をめくつて、ぎろりと目を動かすあたりが、不敵でいい。
呂布は曹操に斬りかかる。夏侯淵がこれを防ぎ、曹操を逃がす。淑玲は、帳幕の奥で身を潜める。
やがて呂布は曹操を追ひ、夏侯淵とともに帳幕の外に出る。
淑玲ひとりになつたところへ玄徳があらはれ、帝を早く、と云ふが、淑玲は泣き崩れる。
さきほど紳々竜々が運んで行つたつづらのなかに、帝を隠してゐたからだ。

川のほとりを逃げる紳々と竜々。
つづらを降ろして、めぼしいものだけ持つて逃げやうとする。
すると、そこから出てきたのは、帝だつた。
BGMがなんだか愉快だぞ。
そこへ馬上の董卓と李儒とがあらはれる。
「たしかに帝です。曹操に連れ去られたと思つたが、よかつた、よかつた」とつぶやく李儒のセリフが実感こもつてゐていい。
李儒の勘違ひで、紳々竜々は、機転を利かせて帝を救ひ出したことになつてしまふ。
褒美はもらへることになつたものの、逃げ損ねた、と、紳々竜々。
董卓は、李儒に、呂布はどうしたと問ふ。李儒は、呂布は曹操を追つたといひ、曹操の逃げる先には伏兵を配してある、と、答へる。このあたり、また「おぬしも悪よのう」「丞相閣下こそ」みたやうな雰囲気でいつぱいだ。

馬で逃げる曹操と夏侯淵。
突然馬を止めて、曹操は笑ひ出す。
不審に思つたのだらう、夏侯淵がなにを笑ふのか、と問ふと、董卓もあまりよい軍師にめぐまれてゐないのだと思つてな、と、曹操は答へる。自分が董卓なら、このあたりに兵を伏せておくのに、と、大笑する。
これも、後々赤壁の戦ひに敗れたあとでおんなじことするんだよね、曹操は。
すると、曹操の笑ひ聲にかぶせて、別人の笑ひ聲がする。
曹操が誰何すると、董卓の兵・徐栄である、と、答へがある。
愕然とする曹操。
矢のあたつた曹操は馬から落とされるが、夏侯淵が助ける。
曹操は、董卓を甘くみてゐた、無念、とうめき、夏侯淵に自分を置いていくやうに云ふ。自分はここで死ぬから、と。
演義では、ここで曹操を救ふのは曹洪なのだが、まあ、そこはそれ。
夏侯淵は、曹操に自分の馬に乗るやうに云ふが、曹操は、呂布が追つてくるぞ、と、きかない。
夏侯淵は、曹操には天下を取つてもらはねばならない、と、訴へる。
さう云はれて、曹操は、ゆつくりと夏侯淵をふりあふぐ。ここでぐつときたね、曹操。
夏侯淵に抱へられて馬に乗り、曹操は、「わしが生き延びることがあれば、皆そなたが力。忘れぬぞ」と叫ぶやうに云ふ。
ひとりその場に残る夏侯淵。そこに赤兎に乗つた呂布があらはれる。
夏侯淵は、呂布に槍をつきだすが、呂布はなんなくその場を走り去る。
曹操の危機に、夏侯淵はあとを追ふ。

黄河。
曹操がそのほとりを馬で行く。
そこに呂布が追ひついてくる。
矢傷を負つた曹操を、「嬲り殺しにしてくれるわ」と嘯く呂布。
死を悟る曹操。
と、そこに矢がはなたれる。
はなつたのは玄徳。
虎牢関での決着をつけてやるぞ、と玄徳。
関羽は「関羽様が相手だ」、と云ひ、張飛は張飛で、その首は張飛がもらつた、と、戦へるのがうれしくて仕方がないといつたやうす。
呂布はなにも云はずに馬を返す。時間の都合、かのう。
張飛はそのあとを追はうとするが、玄徳がとどめる。赤兎にはかなはぬから、と。
関羽は、曹操に安否を問ふ。曹操は、「なあに、かすり傷だ」とやせ我慢。
どうしてここへ、と問ふ曹操に、ずつと曹操のあとをつけてゐた、と、玄徳は答へる。
自分を心配してか、と、重ねて問ふ曹操に、帝の命を守るため、と、答へる玄徳。
「なに」と、玄徳をにらむやうな曹操の表情が実にいい。
玄徳は、董卓は曹操の思惑をすつかり読んでゐたのだらう、と云ふ。
だが、曹操は、「さうかな。すつかり読み切つてゐたのは、玄徳殿、おぬしだけかもしれん」と答へる。
うーん、これは、どうなのだらうか。
李儒は、曹操が帝を奪回しにくるだらう、と、見てはゐたのだらう。だから伏兵をひそませておくなどといふ手も打てたわけだ。
したがつて、玄徳の「董卓は曹操の思惑を読んでゐた」といふのは正しからうと思ふ。
曹操の、これは、負け惜しみなのかのう。
なにかもの云ひたげな玄徳。
その場の空気を読んだのか、関羽は、早く逃げやうと、提案する。
うなづきつつも、「ことは九分通りうまく運んだのに」と悔しげな曹操。

井戸を覗き込む雑兵たち。最初は三人。そのうち一人増える。
ところは、洛陽の宮中のやけあと。
なにか五色に輝くものが井戸の底にあるのらしい。
そこへ、兵(ここでは名前は出てこないが、程普)につれられて、孫堅があらはれる。
孫堅は、馬から降り、井戸を覗き込む。
なんと、井戸の底に兵を入れて探らせてゐるといふ兵(程普)。
引き上げると、宮中に仕へる女の遺体。首にさげてゐた錦の袋のなかには、印が入つてゐる。文字が刻んであるので、兵(程普)に読んでみよ、と云ふ孫堅。
ここで字幕が出て、兵が程普字は徳謀であることがわかる。
程普によつて、それが玉璽であるとわかる。
「しかし、どえらいものを見つけ出したものだな」とうめく孫堅。うむ、ほんにそのとほりぢやよ。
程普は、孫堅こそが天子のくらゐにつくべきといふ天の知らせかも、と、云ひ、玉璽を得たからには江東に帰つて天下取りの体勢をととのへては如何と献策する。
程普のことばに満足した孫堅は、病気と偽つて引き上げることにしやう、と答へる。

紳助竜介の説明は玉璽。
玉璽とは実印のこと、と云ふ。
背後の絵がなんだか不明だぞ。

翌朝。
袁紹の天幕を孫堅が訪れる。案内は趙雲。
最近身体の具合がどうもよくないので長沙に帰る、と、云ふ孫堅は、焼け跡のほこりを吸い過ぎたのか、息が苦しくて、と、空咳をする。背後からいたはる程普。
それを見て、袁紹は笑ひ出す。
なぜか、袁紹は、孫堅が玉璽を見つけたことを知つてゐた。兵士らの噂を調査して知つたのらしい。なんだ、結構やるぢやん、袁紹。
袁紹は、玉璽を自分にあづけるやうに云ふが、孫堅はあくまでも、自分は玉璽など持つてゐない、といふ。

場面変はつて、玄徳と曹操、夏侯淵。
曹操は連合軍をはなれていつたん地元に引き上げることにした、それを玄徳は惜しむ。
「玉璽などいくら由緒があるとはいつてもただの石ころだ」つて、曹操のセリフがいいなあ。

また場面変はつて、袁紹の帳幕の中。
袁紹は、「帝より玉璽だ」と云ひはなつ。玉璽を持つたものが天下を取れるのだ、と。
袁紹は、趙雲に命じて、荊州の刺史劉表に手紙を書いて孫堅から玉璽を奪ふやうに云へ、と云ふ。
命を受けた趙雲が去ると、入れ替はりに兵が入つてきて、劉岱と張邈とが帰国することを告げる。
連合軍、崩壊だな。
袁紹もまた陣を引き払ふことにする。

長安城壁の上。
董卓と献帝、呂布がゐる。
董卓は、高祖が都をおいた長安もあらためて帝を迎へてよろこんでゐる、と帝に云ふ。
だが、帝は、光武帝以来十二代もつづいた洛陽の都を恋しがる。
すると、呂布が、そんなに洛陽に帰りたいのであれば、自分が袁紹ども逆賊を倒して洛陽を取り戻してご覧に入れます、と云ふ。あら、呂布にもそんな忠誠心があつたのか。心にもないことをうまく口に出せる御仁とも思へぬし、衷心からのこと、かなあ。
そこへ、李儒があらはれ、洛陽からよい知らせがきた、と董卓に告げる。
よい知らせと聞き、呂布は、もつたいぶらずに早く云へ、と、李儒をせかす。
せかされても李儒はあくまでもゆつたりと、連合軍が分裂しつつあることを伝へる。
連合軍が分裂しつつあると聞き、長安で力を蓄へあらためて天下に号令してやる、と、董卓はご機嫌だ。

夕暮れの荒野。
馬上の玄徳一行。
玉璽を手に入れた孫堅、これを奪はうとする袁紹、董卓を討ち天下を横取りしやうとする曹操、と、役者はそろってゐる、といふ張飛に、「もうひとり、忘れてゐるのではないか、張飛」といふ関羽が、ああ、いいなあいいなあ。
でも張飛は血の巡りが悪いんだらうなあ。しばし考へて、公孫瓚か、と、答へる。
「なぁにを云ふのだ」と云ひつつ、楽しげだなあ、関羽。
「ここにゐる兄者、玄徳さまさ」つて云はれないとわからないか、張飛よ。まあ、そこが張飛のいいところだ。忘れてゐたわけぢやないんだ、とか笑つてごまかすところも可愛いぞ。
持ち上げられて、よせ、と云ふ玄徳。自分は曹操たちとは違ふ、自分が天下をとるやうな道をはづれたことはしたくない、と。
そこへ、「おーいおーい」と聲がする。
「けっ、あの折り目正しい気障な野郎か」つて云ふ張飛の気持ちもちよつとわかる、趙雲の聲だ。
玄徳のセリフから、いつのまにか趙雲が袁紹のもとを去り公孫瓚についたことが知れる。
えー、さつきまで袁紹のところで孫堅の取り次ぎとかやつてたのにー、とは、云はない約束だらうか。
趙雲は、公孫瓚の使ひで来た、と云ふ。孫堅は荊州とことを構へやうとしてゐて、荊州の劉表は公孫瓚に援軍を頼んだ。それで玄徳に劉表を助けに行くやうに、といふのが公孫瓚の言だ、といふのだ。
公孫瓚の云ふことならきかないわけにはいかぬ、と、玄徳一行は荊州を目指す。
次回、ムダな玄徳一行の活躍ともいへぬ活躍があるわけだが、それはまた別の話。

ここで紳助竜介の荊州の場所の説明。
で、幕。

脚本

田波靖男

初回登録日

2013/09/08