ロシア宗教
ロシアの戦争民話（大祖国戦争関連）
戦争にまつわる民話・民間信仰・俗信などもロシアに多く見られる。斎藤(2008)はその中で、大祖国戦争を含む祖国戦争〜チェチェン紛争をめぐる民話を紹介している。ここでは、それらのうち大祖国戦争に関するロシア誌「ЖИВАЯ СТАРИНА」掲載の民話を紹介する（ただし、斎藤(2008)にない記事を含めて、"ЖИВАЯ СТАРИНА"にあたり、日本語訳は別途生成している）。
斎藤君子: "悪魔には2本蝋燭を立てよ -- ロシアの昔話・俗信・都市伝説", 三弥井書店, 2008, pp.246-260
大祖国戦争についてのロシア民話は多くある。Публикация (2005)によれば:
また、Белова (2005)によれば:
アンドムスキー・ポゴスト[ヴォログダ州ヴィテゴルスキー地区にある村]での民間伝承調査 (Ильина, 2007) によれば、「レーシー（森の精霊）、ヴォジャノーイ（水の精霊）、ドモヴォーイ（家の精霊）」の存在を語る住民たちの証言に、「スターリンの姿で独ソ開戦を伝えたレーシー」と「独ソ戦を予告するヴォジャノーイ」があった。
Пушкарев (1995)は、特に大祖国戦争のドイツ関連のロシア民話を紹介している：
ロシア民話における死の予言などに関するДобольская (2006)の報告でも、戦争に絡んだ例が紹介されている：
ロシアの戦争民話（大祖国戦争関連） 
戦争にまつわる民話・民間信仰・俗信などもロシアに多く見られる。斎藤(2008)はその中で、大祖国戦争を含む祖国戦争〜チェチェン紛争をめぐる民話を紹介している。ここでは、それらのうち大祖国戦争に関するロシア誌「ЖИВАЯ СТАРИНА」掲載の民話を紹介する（ただし、斎藤(2008)にない記事を含めて、"ЖИВАЯ СТАРИНА"にあたり、日本語訳は別途生成している）。
斎藤君子: "悪魔には2本蝋燭を立てよ -- ロシアの昔話・俗信・都市伝説", 三弥井書店, 2008, pp.246-260
大祖国戦争についてのロシア民話は多くある。Публикация (2005)によれば:
''Публикация Е.А. САМОДЕЛОВОЙ (Москва) "ФОЛЬКЛОР ВОЕННЫХ ЛЕТ" in "ЖИВАЯ СТАРИНА", 2 '2005, pp.8-13. 2005.учительница математики, г. ТалдомМосковской обл.; запись 2002
E.A.サモデロワ （モスクワ）: "戦時中の民間伝承"
本稿では、1985年から2004年にかけてロシアのヤロスラヴリ州、モスクワ州、リャザン州、カルーガ州、ヴォロネジ州、およびベラルーシで収集された、戦時フォークロアの中でも特に物語性に富んだテキストを紹介する。これらの記録は、さまざまな年齢層の語り手—退役軍人、戦時中の子供、その子や孫で、年長者から戦場のフォークロアを受け継いだ者—の口承によるものが主である。一部のテキストは、戦時の遺物（ノート、戦場アルバムなど）から複写された。
戦時フォークロアの記録は多様なジャンルにわたる。すなわち、前兆や予兆、占い、夢、伝説や回想、ゲームや模倣、歌や短い民謡、「素朴な詩」やパロディなどである。多くの歌は、有名な作者の曲を口承で改変したもので、しばしば原曲の主要な登場人物に対する「応答」として、フォークロアの作者が「対話」を試みたものとなっている。これらの改変された歌には、元の作品と同じタイトルが付けられたり、「応答」という言葉がタイトルや副題に含まれたりすることが一般的である。戦場ノートにこれらの歌を記録する際には、「…の旋律で」という演奏スタイルが記載された。録音機で記録された場合、語り手自身が原曲の旋律を指定していた。多くのフォークロアテキストは、異なる地域で記録された際にほぼ同一の内容を示した。一部の口承テキストは断片的で不完全である。
本稿では、V. ザポロジェツ、E. サモデロワ、O. ロマノワ、A. ベリコフ、E. オスタシュコワ、I. ミハイロワ、N. レトゥノワの資料を活用した。
前兆と予兆
去年、森に行ったけど、蛇を一匹も見なかったの。昔はね、蛇がいないと戦争の兆しだって言われてた。それで、戦争が始まる前って、きのこがすごく多かったのよ。みんな「戦争になる」って言ってたけど、そんなの全部ウソよ [1]。
そう、きのこがたくさんあると、みんな「戦争になる」って言うよね。1940年代、1941年には、きのこがすごく多かったって話よ [2]。戦争が始まる前、収穫作業をしていたの。夜勤だったわ。タリドムの上にすごい光が見えたの。みんな「戦争が始まる」って思った。そしてすぐ戦争が始まったの。私の夫は初日から徴兵された。初日、ペトロフの日—6月21日だった—翌日、彼は連れていかれた。夕方、光が見えたの。早朝じゃなくて、太陽がもう出ていたけど、何か変だった。雨も何もなかった、いい夕方だったのに、全部が赤かったの。それをいつも覚えてる。戦争が始まる直前だったから [3]。
民衆の守護者と英雄に関する伝説
戦争の前、ある二人の巡礼者が歩いていた。彼らは牛を見張っていた。父が彼らに声をかけた。「愛する子らよ、8時に私の声を聞くよ！」と。太陽が輝き、雲があった。見ると、神が出てきて、青いリネンの服を着て、多くの天使がいた。土曜日のことだった。天使たちは言った。「サタンに屈するな。鉄の鳥があなたたちをつつくよ。」これはキエフのドミトロフスキー地区でのこと。キエフ・ペチェルスカヤ修道院に行って、祈祷を頼みなさい。今もその巡礼者は生きていて、とても神聖な人だ。まだこの地上には信仰がある [4]。
戦争中、スターリンが何かしらのイコンを持って、戦線を回ったって話よ。聞いたことない？ スターリンがそのイコンを持って全戦線を回って、勝利したんだって。本当だと思う。どのイコンだったかは知らない。聖母マリアだったのかな、わからないけど [5]。
レニングラード包囲戦中、スモーリヌイ宮殿の屋根にキーロフが立って、兵士たちに指示を出したり、脅したり、街を守っていた。一度、兵士が彼を撃った。怪しい人物が屋根にいると思ったんだって。それで、レニングラードは包囲戦中にイコンを持って飛行機で上空を飛んだって。その後、キーロフは梯子を登って空に消えた。そして1993年、ソビエト連邦が崩壊したとき、キーロフがまたスモーリヌイの屋根に現れた。ソビエト連邦を守れなかったと怒って、拳を振って、それから消えた [6]。
占いと幻視
1943年、ヴォロネジで、うちの家は爆撃で壊れて、親戚の仮住まいに移った。2人の姉妹から6人の子供が一緒に寝てた。父は装甲列車の機関士だった。1943年1月23日、ヴォロネジが解放されたばかりのとき、母は半分夢、半分現実で、廊下から部屋のドアが開くのを見た。ジプシーのような女が入ってきて、たくさんのスカートの擦れる音がした。頭のそばに座ったの。母は「あなた、誰？ この家の主人？」って聞いたら、「主人はみんな戦場にいるよ。占ってあげる。全部知ってるよ。」って。「夫について占って。」って母が言うと、彼女はカードを開いて、「ああ、彼は今ぐっすり寝てる、でも心配しないで、大丈夫よ。」って。夜が明けて、母は服を着て、3キロ先のオトロシュカ駅に糸やブローチを売りに行った。すると機関士の妻が「ニューラ！ あなたのヴァーシャ、生きてる？」「うん、旅行中よ。」「知らないの？ 装甲列車が脱線して、彼の指が切れたのよ。」って。母は壁にもたれて崩れ落ちた。「でも、彼はグリアジの病院にいるよ。」彼は麻酔中で、ジプシーが占ったんだって。グリアジに行ったら、夜に着いて、馬車が止まってた。看護師に「ベリャーエフは生きてる？」って聞いたら、「生きてる。」って。父は看護師に「腕が切れたなんて言わないで、指って言って。」って言ったの。母は幸せだった [7]。
1943年、母は息子が行方不明という通知を受けた。彼は16歳で、両親がいないときに軍に取られた。背が高かったから、近所の人たちが19歳だって言ったの。母は息子をとても愛してて、寝込んでしまった。父は母をベッドに縛り、8歳の娘に母にご飯を食べさせるように言った。娘は母が発作で震えてるから怖くて近づけなかった。糖尿病になったの。みんな「行方不明でも死んだわけじゃない」って慰めた。後で母は占い師に相談しに行った。占い師は「神経は大丈夫？」って聞いて、母は「何でも受け入れる覚悟がある。」って答えた。占い師は鏡を置き、ろうそくを灯し、水の入ったグラスにパンを置いた—母がそう話してた。母が見なさいって。母が見ると、川に血が流れ、「ヴォロネジ」って文字が見えた。文字は川に流れ落ちたけど、読めた。向こう岸に大きな石があって、息子がそこに手をかけ、頭を下げて、3回「ママ」って呼んだ。占い師は「息子は死にました。」って。母は落ち着いた [8]。
父は戦場で行方不明になった。母はいつも父が生きてるか死んでるか占ってた。小さな皿か板を取って、紙をくしゃくしゃにして燃やしたの。燃やした紙の影を壁に映すと、馬が走って、棺を運んでるのが見えた。いつもそうやって占ってた [9]。
夫が行方不明になった。「どこにいるの？ 知りたい。」って。そしたら夢を見た。バラックから出て、戦争中の服、シンプルなジャケットを着てた。見ると、黒い服を着た男が、長い何かと大きな杖を持って立ってた。普通じゃない杖だった。「ここに立ちなさい。」って言うから、立った。待ってて、「どこにいるの？」って聞いたら、「今来るから、待ちなさい。」って。見ると、大きな深い谷があって、夫が軍服でそこから上がってきた。走ってきて、私を抱きしめたけど、言葉はなかった。「どうしてるの？ どこにいるの？」って聞いたら、「あそこにいる人が言わないようにって。」って。そしたらその男が「時間だ。行きなさい。」って。鳥肌が立つ夢だった。待ってたら、夫はまた谷に下りていった。「共同墓地だ。」って思った。レニングラードで死んだんだ [10]。
新年になったけど、戦争中だったからね。聖夜なんてなかった。婚約者たちはみんな記念碑に名前が刻まれてた—1923年生まれ。戦争は5年続いた。戦争から帰ってきた人は何人か怪我してた。で、柵みたいに、偶数か奇数かを数えたの。奇数なら結婚できない、偶数なら結婚できる。いくつ掴んだか覚えてないけど、きっと偶数じゃなかったんだ。誰も私を取らなかったから！ [11]。
ゲームと模倣
ゾーヤ・コスモデミャンスカヤを讃えて、腕に「ゾーヤ」って刺青したの。私もゾーヤだから。みんな私が刑務所にいたと思ったけど、労働戦線で彼女のために泣いたのよ [21]。
赤と白のチームね。リボンをつけて、赤はロシア人で、白はファシストって呼んでた。で、触ったら「やられた」って、死んだってこと。2つのチームで戦うの。隠れたりしない。2チームが見えるように走り回って、戦ってる感じ。数え歌でチームを分けて、例えば10人いたら、5人と5人で赤と白に分ける。数え歌で出なかった人は白。白が勝つこともあったよ。だって、子供によって力の差があるから。数え歌で負けても、強い子は勝つこともあった。勝ったら「勝利だ！ うわー！」って祝ったの [22]。
[1] Школьникова Александра Ильинична, 1915 г.р., г. Талдом Московской обл.; запись 2002 r.
[2] Каракина Анна Васильевна, 73 года, д. Дубровки Талдомского р-на Московской обл.; запись 2000 г.
[3] Лопатина Лидия Дмитриевна, 86 лет, г. Талдом Московской обл.; запись 2002 г.
[4] Илюшкина Екатерина Андреяновна, 83 года, с. Бояновичи Хвастовичского р-на Калужской обл.; запись 1985 г.
[5] Дорожкина Валентина Алексеевна, 86 лет, с. Константиново Рыбновского р-на Рязанской обл.; запись 2000 г.
[6] Сергиенко Владимир Иванович, 1964 г.р., инженер (геолог-буровик), запись 2001 г. (слышал от людей, видел по телевизору и читал в газете «Мегаполис-экспресс»).
[7] Нина Васильевна, 70 лет, родом из г. Воронеж, живет в Москве; запись 2004 г.
[8] Власова Валентина Григорьевна, 70 лет, родом из д. Панцирово Клепиковского р-на, живет в Москве; запись 2004 г.
[9] Вахромеева Людмила Николаевна, 1937 г.р., родом из д. Лучкино Николовского р-на, живет в д. Максимовское Рыбинского р-на Ярославской обл.; запись 1998 г.
[10] Акимова Татьяна Александровна, 1922 г.р., родом из д. Сотское Дмитровского р-на, живет в пос. Юбилейный Талдомского р-на Московской обл.; запись 2002 г.
[11] Прасковья Васильевна, 1923 г.р., д. Дубровки Талдомского р-на Московской обл.; запись 2002 г.
[21] Никитина Зоя Васильевна, 1925 г.р., г. Талдом Московской обл.; запись 2003 г.
[22] Сизова Алевтина Фёдоровна, 1937 г.р.,
また、Белова (2005)によれば:
Публикация и комментарии, О.В. БЕЛОВОЙ (Москва): "Фольклорные записи 1945 года из Брянской области". in "ЖИВАЯ СТАРИНА", 2 '1995, pp.13-15. 2005.
O.V.ベロヴァ（モスクワ）による出版物とコメント：「1945年のブリャンスク地方の民俗記録」(2005)
1945年8月から9月にかけて、ソ連邦科学アカデミー〈Академия наук СССР〉民族学研究所〈Институт этнографии〉による民俗学的調査遠征隊がブリャンスク州にて活動を行った。当該遠征で収集された資料は、歌謡、チャストゥーシカ、民間説話、儀礼民俗（年中行事歌――トロイツァ祭〈троицкие〉、ドゥホーフ日〈духовские〉――および婚礼歌、「ククニーカ〈кукуника〉」「コロトカ〈колодка〉」「至聖なる生神女の髭〈бородка пресвятой Богородице〉」、ナーヴィイの見送り〈Навьи проводы〉等）などを含み、五巻に及ぶ大部な記録群となった。これらの資料は現在、ロシア科学アカデミーN.N.ミクルーホ＝マクラーヤ記念民族学・人類学研究所〈Институт этнологии и антропологии им. Н.Н. Миклухо-Маклая РАН〉（モスクワ）附属文書館に所蔵されている。既存の記録資料のうち、とりわけ興味深いのは、戦争の開戦および終結を予言する伝承、占領下の生活に関する話柄、ならびにそれらに類する「レジェンダ」および「ビリーチカ（怪異譚）」である。本稿では、それらの資料の一部を公刊する。
戦前〈ПЕРЕД ВОЙНОЙ〉
これは1940年（戦前）のことである。ある運転手が車を走らせており、橋に差しかかった。ところが車は全く動かず、どうしても先へ進まない。すると橋の下から女が現れた。女は裸同然で、下穿き〈рейтузы〉一枚だけを身につけており、彼にこう言った。
『わたしに服を買ってください』
\運転手は言った。
『自分にはできません。どうやってあなたに服を買えるというのですか？』
すると女は彼に言った。
『服を買いなさい。さもなければ、わたしの手のあいだから決して通り抜けることはできないでしょう。』
運転手は信じなかった。彼はそのまま進もうとした。橋に近づくと再び車は停止した。彼はあれこれと努力したが、どうにもならなかった。女が再び現れて言った。
『さあ、服を買ってくれましたか、それとも買っていませんか？』
運転手は答えた。
『買っていません。』
女は言った。
『では、わたしの片手ともう片手を開きなさい。』
彼がその手を開くと、一方の手には穂――すなわち穀物、もう一方の手には肉があった。そして女はこう言った。
『これがわたしたちに起こることです。この肉は、激しい流血があることを示し、この穂は、わたしたちには多くのパンがあるが、それを食べる者がいなくなることを意味します。』
これはベジツァ〈Бежица〉でのことである。警察官〈милиционер〉を呼んできたが、車は動かなかった＜…＞。その運転手は戦争に行くのを恐れ、こう言っていたという――「どうして自分はあの女に服を買わなかったのか」と。この運転手についての話は、ベジツァの工場に勤める労働者たちの間で語られていた。
[記録：V・Yu・クルピャンスカヤ〈В.Ю. Крупянская〉、1945年9月9日、ジュコフカ〈Жуковка〉からブリャンスク〈Брянск〉への列車内にて。,(АИЗА, Ф. 4, д. 1365, л. 144-145)]
この語りは、第二次世界大戦における一種の「漂泊モチーフ」である。同種の、女が運転手に現れて予言をなすという話柄は、戦時中の事情に引き寄せて語られることも可能であり、戦乱の惨禍を象徴する恐ろしい比喩として機能する。
たとえば次のような話がある。あるロシア人の運転手がブリャンスクで捕虜となっていたとき、一つの橋に近づいた。その橋は「黒い橋〈Черный мост〉」と呼ばれていた。
そこに女が駆け込んできた。彼女は全裸であり、車を止めると、バケツ一杯の血と生肉の塊を彼に差し出した。
運転手が尋ねた。
『――これはどういう意味なのか。なぜ裸なのか？』
女は答えた。
『お前が今仕えている者は、わたしたちからすべてを奪った。』
『では、この血の入ったバケツは何を意味するのか？』
『お前が仕えている者を通じて、今まさに血が流されているということだ。』
『では、この肉は何を意味するのか？（この答えは伝承者の記憶には残っていない）』
『血はどれほど長く流れ続けるのか？（これは1943年のことだった）』
『44日経てば、この黒い橋は白くなり、そのときにはお前はわたしに再会する。そのとき、わたしは裸ではなく、本来の衣装をまとっているだろう。』
この運転手は精神に異常を来した。
[クレートニャ〈Ст. Клетня〉。報告者：ニナ・ウジコワ〈Нина Узикова〉、オクーリチ〈Окуличи〉第33七年制学校の教師, (АИЭА, Ф. 4, д. 1365, л. 152-153)]
教会にはパンが積み上げられていた。ある番人がそこに立っており、毎晩何やら物音を聞いた。そこで彼は頼んだ。
『開けてください。そこでは何が起こっているのですか？』
そして扉は開かれた。そこには三つの棺があった。ひとつの棺には血が一面に満たされ、もうひとつの棺には蛇が煮えたぎっていた（人びとが互いを食い合う、という意味である）、そして三つ目の棺には花が入っていた。これが意味するところは、やがて人々は花のように咲く、ということである。
これは疎開中に聞いた話である。
[記録：V・Yu・クルピャンスカヤ、1945年9月9日、ジュコフカからブリャンスクへの列車内にて, (АИЭА, Ф. 4, д. 1365, л. 145)]
戦時〈ВОЕННЫЕ ГОДЫ〉
ある女――姓はメレーホワ〈Мелехова〉・イリーナ〈Ирина〉という――は、次のようにして自分の牛を守り抜いた。
彼ら（ドイツ兵たち）が彼女のもとにやって来て、牛乳をよこせと求めた。彼女は「うちの牛は結核にかかっている」と誓って言った。だが彼らはその意味を理解しなかった。すでに彼女の家には三人ほどのドイツ兵がいた。彼女はあらかじめ鶏を一羽しめて、その血を小瓶に集めておき、牛を搾乳するふりをして少量の牛乳にその血を注ぎ、それを彼らに差し出した。
『ほら見てください、この牛は病気なのです、と彼女が言うと、彼らは立ち去り、牛を連れて行かなかった。』
さらに洗濯物を持ってきて彼女に洗わせようとしたが、彼女が「コホ、コホ、私は結核なんです」と言うと、彼らはそのまま洗濯物を置いて行き、彼女を働かせることもなかった。
[クレートニャ〈Ст. Клетня〉。報告者：ニナ・ウジコワ〈Нина Узикова〉、オクーリチ〈Окуличи〉第33七年制学校の教師, (АИЗА, Ф. 4, д. 1365, л. 154)]
わたしたちの村の道は、もっぱら銃殺に連行するために使われていた。まさしく「恐怖の道」であった。その道で、復活祭前の清めの木曜日（Чистый четверг）、1942年（3月初め）に、ユダヤ人たちが一団ごとに連れて行かれていた（ユダヤ人たちはすでに収容所に入れられていた）。老女たちは歩くこともできず、馬車に乗せられ、二人の老いたユダヤ人は歩きながら祈っていた。また、ひとりの少年はパンを美味しそうに食べながら歩いていた。さらに、ある女が乳飲み子を抱えていたが、その子が手から落ちてしまった。すると彼女はその子を大切に拾い上げ、手を伸ばして抱き直した。
[クレートニャ。報告者：ニナ・ウジコワ、オクーリチ第33七年制学校の教師, (АИЭА, Ф. 4, д. 1365, л. 154)]
戦争終結の予言〈ПРЕДСКАЗАНИЯ ИСХОДА ВОЙНЫ〉
パンの分配について
ある修道院（どこの修道院かは言えない）からパンがクレートニャ〈Клетня〉に運ばれてきた。人々は教会に集まり、「パンを分けている」という声を聞いた。わたしの娘は聖歌隊の一員であり、このパンを家に持ち帰ってきた。教会では司祭が次のように告げた――ジェリャティノ地区〈Жерятинский район〉の農民たちがパンを届けた、と。我々は主に祈り、このパンを口にし、新しいパンを焼いて、それを次の地区へ送らねばならない、と。司祭はこのパンをプロスフォラ（奉納パン）のようにごく小さな断片にして配った。その小片の一つから新たに三つのパンが焼かれ、別の地区へ送られた。このパンは前線にまで届かねばならず、そうすれば戦争は終結すると言われた。
これは1943年の春のことである。
まもなくドイツ軍は住民の追い立てを開始した（聖霊降臨祭〈Духов день〉のころ）、住民をポーランドや自国へと連行した。彼らは村々を焼き払い、住民をクレートニャに追いやった。
[クレートニャ。報告者：ニナ・ウジコワ〈Нина Узикова〉、オクーリチ第33七年制学校の教師, (АИЭА, Ф. 4, д. 1365, л. 152)]
伝統的な農民生活においては、こうしたパンあるいは発酵種を分かち合い、それを隣の村々へと広める行為は、自然災害、疫病、家畜の病死などに立ち向かう効験ある方法と見なされていた。
いわゆる「聖なる手紙」と呼ばれる文書を筆写して回すという習慣についても、同様の信仰が存在する。すなわち、「聖なる手紙」が前線に到達したとき、戦争は終わるのだという。
ある村では、各戸を回って少しずつライ麦粉を集めた。村人全員が村の中央に集まり、モレーベン（祈祷礼拝）を行った。その翌日、寡婦たちが三つのパンを焼き、それを小片にしてすべての家々に分配し、さらに二つのパンを他の村へと運んでいった。そこでも同じことが行われた。パンが前線に届きさえすれば戦争は終わる、というのは人々が心から神に祈ったからだ――といわれていた。
[報告者：A.F.プリホジコ〈А.Ф. Приходько〉、98歳、ノヴォズィブコフ地区〈Новозыбковский р-н〉ハルヴィチ〈Халвичи〉村。記録者：B. ゲルシコヴィチ〈Б. Гершкович〉, (АИЗА, Ф. 4, д. 1366, л. 86)]
三つの小さなパンを運んだのだ。
そのパンはキエフ〈Киев〉から来た。まあ、このパンは効き目があったのだ。ほどなくして、わたしたちの軍勢は町々を次々に奪還し始めた。
[記録：V・Yu・クルピャンスカヤ、クレートニャ地区〈Клетнянский р-н〉カメネツ〈Каменец〉村、語り手：ニナ・バラノワ〈Нина Баранова〉, (АИЭА, Ф. 4, д. 1365, л. 146)]
ヒトラーについて
ヒトラー〈Гитлер〉がロシア人の占い女〈гадалка〉のもとへ赴いた。ロシアの占い女は彼にこう言った――「お前は急いで出かけることになるが、その道すがら、お前自身の労働者たちによって殺されるであろう」と。
[記録者：V・Yu・クルピャンスカヤ、ジュコフカ〈Жуковка〉村のある娘より, (АИЭА, Ф. 4, д. 1366, л. 75)]
雄鶏の闘い〈Петушиный бой〉
わたしたちの地域のシュチョトキノ〈Щеткино〉村（ここから約30キロ）に、95歳ほどになる男がいた。彼はいつも「ラズームシ＝神がかった者・悟った者〈разумши〉」として歩き回り、決して靴を履かなかった。ドイツ兵が彼のもとにやって来た。彼については、「よくものを語る人物で、聖なる人――“悟った者”として歩いている」との噂が流れていた。
ドイツ兵たちは尋ねた。
『勝利するのはどちらか、そして戦争はまもなく終わるのか？』
男は何も言わず、二羽の雄鶏――一羽は白、もう一羽は赤――を部屋に持ち込んだ。雄鶏たちは闘い始めた。男は黙っていたが、突如として赤い雄鶏が白い雄鶏を打ち負かした。
『さあ、これで誰が勝つかわかっただろう。勝利は赤い側のものだ。』
彼はクレートニャに連行され、長く寒さの中で苦しめられた。そして、なおも沈黙を貫いたため、釈放された。ドイツ兵たちはこう言った――『彼は年老いている、でたらめを言っているだけだ』と。
これはおよそ1942年のことである。
[クレートニャ。報告者：ニナ・ウジコワ、オクーリチ第33七年制学校の教師, (АИЭА, Ф. 4, д. 1365, л. 153)]
多くの語りにおいて、ひとつの同一の予言形式が登場する。すなわち、戦争の帰趨は赤い雄鶏と白い雄鶏の闘争の結果によって決まるというものであり、ここで「赤」とは「わたしたち側」「ロシア人」「ソヴィエト側」、「白」とは「よそ者」「敵」「ドイツ側」を意味する。同様の「政治的」象徴性を含み、終末論的モチーフも見られる語りを以下に挙げることができる（以下引用）：
ペーシャおじの終末予言：わしたちのところにはカルゴポリ〈Каргополь〉の向こう側にコニョーヴォ〈Конёво〉って呼ばれる場所がある。そこには大きな石があるんだ。そのコニョーヴォの石の上で、七サージェン（約15メートル）もある丸太の上に、すべての力が集まることになる。それ以外にはもう誰も残らん。『おやまあ、ペーシャおじさん、あんた何を言うのかね？戦争はいつ終わるんだい？』とわしが言うと、彼はこう言った。『戦争はすぐに終わるさ。だが勝利するのは星（赤星）じゃ』。あの人は…おお、あの人は古儀式派〈старовер〉であったからな…だからああいう目に遭っていたのだ。当時はなにも――何ひとつ言うことも、何をすることも許されていなかった……すべてが禁じられていたのだ」
[カルゴポリ〈Каргополь〉文書庫、ロシア国立人文大学〈РГГУ〉、��7361。アルハンゲリスク州カルゴポリ地区リャーゴヴォ＝ラザレフスカヤ〈Рягово-Лазаревская〉、1998年、記録：A.A.トロフィモフ〈А.А. Трофимов〉、A.B.モロズ〈А.Б. Мороз〉]
別の「雄鶏占い」譚ドイツ軍はティトフカ〈Титовка〉にやって来て、そこで占いをする老人のもとへ赴いた。
『お前、じいさん、占いができるのか？』と彼らは言った。
『できる』と老人は答えた。
『占ってみろ、戦争はすぐ終わるのか、勝つのはどちらか？』
そこで老人は彼らにこう言った。
『赤い雄鶏と白い雄鶏を捕まえて来い。』
ドイツ兵たちは駆け出し、二羽の雄鶏を連れて戻った。老人は何事かをその雄鶏たちにささやき、床に放った。すると雄鶏たちは激しく闘い始めた。最初は白が赤に襲いかかり、赤は膨れ上がるように羽を膨らませて脇に座り込んだ。しばらくして赤は突然白に飛びかかり、白を突き殺した。これを見て老人はドイツ兵たちにこう言った。
『さあ、見ただろう、どちらが勝つか。』
ドイツ兵たちは老人を「ナーツフンガー（нацухингер）」（首吊り刑）に処した。
[報告者：ゾーヤ・リトゥチナ〈Зоя Литучина〉、1928年生、カメネツ〈Каменец〉村出身。記録：V・Yu・クルピャンスカヤ, (АИЭА, Ф. 4, д. 1365, л. 146)]
……ある女がドイツ兵に無理やり占いをさせられた。勝利はどちらにあるのか、と。女占い師は赤い雄鶏と白い雄鶏を取り出し、円を描いてその中に放した。白は赤を打ちつけ、赤は頭を垂れた。やがて少ししてから立ち直り、白に反撃し、これを打ち倒した。――これが勝利する側だ、つまり赤が勝つのだ、と彼女は言った。すると彼らはその場で彼女を射殺した。
[記録：V・Yu・クルピャンスカヤ、ジュコフカ村のある娘より, (АИЭА, Ф. 4, д. 1366, л. 75)]
赤と白の雄鶏の闘争によって戦争の帰趨を占うという予言は、聖女マトローナ〈Матрона〉にも帰されている（彼女はスターリン〈Сталин〉との対話において、まさにそのように勝利を予言したとされる）。以下に見るようにである――「福者マトローナは彼（スターリン）を迎え入れると、その肩を軽く叩いて言った。『赤い雄鶏が勝つ。勝利はあなたの側にある。民は勝利する。あなたは指導者としてモスクワを離れぬだろう』」
（『福者マトローナ老女〈блаженная старица Матрона〉の生涯と奇跡』Z.V.ジュダーノワ〈З.В. Жданова〉編、聖 благоверный князьアレクサンドル・ネフスキーの名による同胞団刊、1998年、p.60）
狼との遭遇〈Встреча с волком〉
ホティムスク〈Хотимск〉近くで、女たちが市場へ向かって歩いていた。するとホティムスクの手前の道で狼が彼女たちに出くわした。狼は言った。
『どこへ行く？』
『市場へ。』
『そこで何を買うのだ？わたしのために赤いスカーフ、赤い頭巾を買ってきなさい。』
彼女たちはこのことを民兵（ミリツィア）に訴え出た。そこで民兵は赤い布切れを探し出し、それを持って女たちは帰途についた。再び例の場所に来ると、狼がまた姿を現した。
『さて、赤いスカーフは持ってきたのか？』と狼は言った。
『持ってきました』と彼女たちは言った。
『では、わたしの上にかけなさい』と狼は言ったが、女たちは互いに『あんたがかけなさい』『いや、あんたが』と押しつけ合い、ついに一人が狼に向かってそれを投げかけた。しかし頭には当たらず、尾にかかった。
すると狼はこう言った。
『まあ、尾に落ちたのだからよかった。もうすぐ戦争は終わるだろう。もし頭にかかっていたなら、さらに五年は戦争が続いただろうに。』
[記録：V・Yu・クルピャンスカヤ、クレートニャ地区カメネツ村、語り手：ニナ・バラノワ, (АИЭА, Ф. 4, д. 1365, л. 147)]
片側には川が流れ、反対側には茂みがあります。すると突然、茂みの中から狼が現れました。狼は毛皮のコートを着ておらず、ただの裸でした。狼は女に言いました。
『そして帰るときには、このドレスも持ってこい。でないと大変なことになるぞ。』
女は夜を過ごすために事務所に立ち寄り、赤いぼろ布を見つけました。彼女は笑いながら、何か縫い物をしたいと思い、ぼろ布を受け取りました。家に帰り、少し歩くと、道の真ん中で再び狼に出会いました。狼は言いました。
『それで、私にドレスを買ってくれたか？』
女は答えました。
『いいえ。』
『もし買ってくれなかったら、私に何か投げろ。』
女はそれを渡すのが怖くて、ハンカチを彼に投げました。
狼は言いました。
『もしこのハンカチが地面に落ちていたら、戦争はあと4年続いただろう。しかし、このままだと数ヶ月で終わるだろう。』
[ (АИЭА, Ф. 4, д. 1365, л. 148)]
ある時、一人の女性がホティヌィへ市（いち）に出かけた。道を歩いていくと、一方には川があり、もう一方には茂みがあった。川辺に近づいた彼女は、水を飲みたいと思った。そのとき、茂みの陰から一匹の灰色の巨大な狼が飛び出してきた。そして、その狼はまるで人間の声のような声でこう言ったのである。「おばあさんよ、市から戻るときに私のために服を買って持ってきなさい。さもなければ、ひどいことになるぞ」。
こうして彼女は市場に着き、必要な物をすべて買い揃え、さらに赤い布地も買った。しかし、その布を狼に渡すのは惜しく、自分のブラウスに使うつもりであったため、狼に出会わずに済むよう別の道を通って帰ることにした。彼女がその道を進んでいると、そこには狼が立っており、彼女を待ち構えていた。狼は女に問いかけた。「さて、私の服は持ってきたのか」。女は言った。「いや、持ってこなかったよ」。すると狼は全身の毛を逆立て、恐ろしく凶暴な様相を呈した。そして言った。「では、何か私に向かって投げよ」。
女は恐怖のあまり、その赤布を狼に向かって投げつけた。すると狼はこう言った。「もしその布が私の頭に当たっていたならば、戦争は永遠に終わらなかったであろう。背に当たっていたならば、さらに数か月は続いただろう。しかしお前は布を私の尾に投げつけた。ゆえにこれから数日のうちに戦争は終わるのだ」。
実際、その出来事の後まもなく戦争は終結した。
[記録: L・スタルツェワ、クレートニャ地区、語り手: モイセーエンコヴァ・クセーニヤ・グリゴリエヴナ, (АИЭА, Ф. 4, д. 1376, л. 112)]
アンドムスキー・ポゴスト[ヴォログダ州ヴィテゴルスキー地区にある村]での民間伝承調査 (Ильина, 2007) によれば、「レーシー（森の精霊）、ヴォジャノーイ（水の精霊）、ドモヴォーイ（家の精霊）」の存在を語る住民たちの証言に、「スターリンの姿で独ソ開戦を伝えたレーシー」と「独ソ戦を予告するヴォジャノーイ」があった。
Т.С. ИЛЬИНА, аспирантка Российского гос. гуманитарного университета (Москва): "Фольклорные материалы из Андомского погоста -- Явление лешего, водяного, дворового" in "ЖИВАЯ СТАРИНА", 2 '2007, pp.44-46. 2007.
T.S.イリイナ、ロシア国立人文科学大学大学院生（モスクワ）: "フォークロア研究：アンドムスキー・ポゴストの民間伝承資料 --レーシー、ヴォジャノーイ、ドモヴォーイの現象" (2007)
レーシー（森の精霊）、ヴォジャノーイ（水の精霊）、ドモヴォーイ（家の精霊）といったさまざまな場所の「主」への信仰は、今なお関連性を保っている。アンドムスキー・ポゴストでは、森にはレーシー、水にはヴォジャノーイ、家にはドモヴォーイ、沼には悪魔（チェルティ）が住むとされている。「そう言われている、悪魔は…主に沼に関連している。レーシーは森の主、ヴォジャノーイは水の主。湖や川にいる」（ミトロヴォ村、A.A.ポリアコヴァ、1985年生、記録者：S.Yu.クコル）。
多くの人々が、レーシーやヴォジャノーイ、その他の妖怪的な存在との遭遇について語っている。これらの遭遇は、特定の禁忌を破ったために起こることがある。例えば、深夜を過ぎて庭に出たことでドモヴォーイを驚かせ、老人姿のドモヴォーイを見たという女性の話がある。「人生で一度だけそんなことがあった。私はまだ…独身時代で、夫と一緒に過ごしていた。彼がダンスに来ると約束していたのに来なかった。私は家に帰って寝た。昔、村では台所と部屋が一緒で、居間のような感じだった。夏だったので、母はいつもドアを開けてくれた。でも、母が『もうドアを開けるのに疲れたよ。庭から入りなさい』と言った。庭には牛がいて、柵の棒を外して家に入った。その夜、彼が来なかったので、帰宅してひどい恐怖に襲われた。棒を外して急いで家に入った。誰かに捕まる気がして。母が『どうしたの、こんなに急いで？』と聞いたが、私は何も言わず寝た。寝る時、顔を窓に向けて、背中を部屋側にしていた。5分ほどして部屋の方に寝返りを打つと、母は寝室で寝ていたが、大きな部屋にいた私の前に、背の高い男が立っていた。長い髭に赤い帯、霧の中にいるようだった。驚いて叫ぶと、母が『どうしたの？』と。『お母さん、ベッドのそばに背の高い老人、白い髭に赤い帯がいる』と伝えた。彼は霧のようになくなり、村の女性たちは『12時過ぎに庭に出てはいけない』と言った。その後、外出する時は鍵をかけた…（笑）母が『鍵をかけると私が出られないし、誰も入れないよ』と言った。そんな出来事だった。[それは誰だった？] ドモヴォーイだと言う。全く眠れなかった。本当に怖かった。家の階段は12段で、誰かに捕まりそうな気がして急いで登った」（マリノ村、M.V.ペレペリツィナ、1941年生、記録者：A.L.トポルコフ、T.S.イリナ）。
別の話では、場所の主（ヴォジャノーイ）を邪魔したために命を落とした例がある。「川に渡し船があった。あるおじいさんが鎌で自分の首を切ってしまった。渡し船で草刈りに行く途中、20人ほどの集団で、鎌や熊手を持っていた。彼は鎌を持って船の端に立っていた。すると、川にカワカマスが見えた。彼は鎌でその魚を狙おうとしたが、誤って自分の首を切ってしまった。すると、老婆が『それはヴォジャノーイだったんだよ』と言った（笑）」（マリノ村、I.F.アフォニン、1921年生、記録者：A.L.トポルコフ、T.S.イリナ）。
ロシア北部では、森のすべての小道はレーシーのものだという言い伝えがある。小道を占拠した人は森の主と遭遇する可能性がある。「私の娘の話だ。彼女の義母が近くに住んでいる。彼らはイレクサで草刈りに行った。息子のイーゴリがいた。今は結婚しているが、当時はまだ小さかった。草刈りに行って、休憩するために小道に座った。父親が『イーゴリ、小道には座ったり寝たりしないんだよ』と言った。でも、彼は気にせず寝転がった。すると、小柄な男がやってきて、イーゴリをまたぎ、高い草の中へ消えた。父親が追いかけたが、跡形もなく消えていた。皆、怖がって（笑）。父親が『ここに残れ』と言ったが、イーゴリもマリナも『一人じゃ残らない』と言い、皆で一緒に帰った。そんな出来事だった。小柄な老人だった。レーシー、つまり森の主。黙って彼をまたぎ、草の中へ消えた。[イーゴリに何か悪いことが起きたか？] いいえ、何もなかった」（トロシギノ村、A.Ya.コヴァレヴァ、1936年生、記録者：A.L.トポルコフ、D.N.シャイケノヴァ）。
アンドムスキー・ポゴストでは、邪悪な力の出現が災厄を予兆するという言い伝えが広まっている。第二次世界大戦前に、2人の少女がスターリンの姿をしたレーシーを見た。目を離さず見つめていたが、瞬きした瞬間にその姿が消えた。足跡もなく、レーシーだと分かり、帰宅すると戦争が始まったと知らされた。「もう一人の女の子と、5年生に進級したばかりだった。20キロ歩かなければならず、道を歩いていると、スターリンとその妻が歩いてきた。コートを着たスターリンそのものだった。じっと見つめ続けまが、瞬きした瞬間に消えた。5メートルほど先にいて、話している声も聞こえた。『スターリンはどこへ行った？』と探したが、砂の道に足跡はなかった。家に帰ると、『戦争が始まった』と言われた。それはレーシーがスターリンの姿で現れたのだった」（ミハレヴォ村、K.A.ゼニナ、1926年生、記録者：T.S.イリナ）。
別の女性は、戦争前にヴォジャノーイを見た。「ヴォジャノーイもいる。戦争前に、湖の岸で木を切っていた老婆が、岩に座って櫛で頭をとかす男を見た。『年々悪くなる』と言いながらとかしていた。怖くなって家に帰ったが、彼は岩に座ったままだった。『年々悪くなる』と。その後、戦争が始まった。彼は戦争を予告していた」（ノヴァヤ・デレヴニャ村、A.M.ハリン、1932年生、記録者：S.Yu.クコル）。
レーシーやヴォジャノーイが国全体の災厄を予告する一方、ドモヴォーイは特定の家族に関する不幸、例えば病気を予告する。「夜、寝室から出ようとドアを開けると、彼がドアの前に立っていた。私は動じず、『ご主人、何のために？』と聞いた。彼は『悪いことが起こる前に』と言った。その後、手足が痛み始めた」（ノヴァヤ・デレヴニャ村、A.M.ハリン、1932年生、記録者：S.Yu.クコル）。
Пушкарев (1995)は、特に大祖国戦争のドイツ関連のロシア民話を紹介している：
Л.Н. ПУШКАРЕВ: "Л.Н. Пушкарев. Сказка и война Сказка и война (Из наблюдений фольклориста-фронтовика)" in "ЖИВАЯ СТАРИНА", 2 '1995, p.3, 1995 2007
戦時下の民話：前線民俗学者の観察より
戦場における民話は、独特の文化的表現として、兵士たちの日常生活や精神世界に深く根ざしていた。本稿では、第二次世界大戦中のソビエト前線における民話の語られ方とその特徴を、筆者の前線での観察をもとに分析する。特に、軍事的現実が伝統的な民話の枠組みにどのように組み込まれ、現代的な文脈で再解釈されたかに焦点を当てる。
戦場では、ある特定の語り手が注目を集めた。たとえば、イリヤという兵士は、会話に積極的に参加し、「こんな話もあった…」や「こんな物語を…」と前置きして、ユーモアたっぷりの逸話を披露した。彼の語る民話やそのタイトルには、しばしば口語的で時に不適切な表現が含まれ、兵士たちに親しまれた。兵士たちは彼をからかい、「イリヤ、何か面白い話をしてくれ！」とせがむと、彼は即座に応じた。このような語りは、戦場の過酷な環境の中で、兵士たちの心を軽くする役割を果たした。
戦場で語られた民話は多岐にわたり、特にヒトラーや他のファシスト指導者を風刺した短い民話や逸話が人気を博した。ヒトラーは民話や歌の中で「斜視の男」として定型化され、嘲笑の対象となった。これらの民話は、検問所での長い待ち時間、部隊の移動中の貨物列車内、または夜間の厨房勤務の際に語られ、兵士たちの退屈を紛らわせた。時には、語り手がその魅力的な語り口ゆえに、勤務から解放されることさえあった。
特に人気だったのは、兵士や軍務をテーマにした民話である。戦時中の民話では、兵士が主要な登場人物として確固たる地位を占めていた。物語の主人公は、軍務に就き、迅速に昇進して将軍（少なくとも大佐）にまで上り詰めることが多かった。一方で、逆の展開も見られた。主人公が兵士として不出来で、周囲から嘲笑され、罰せられるが、無実の罪で中傷された妻が現れ、主人公を救うという筋書きである。いずれの場合も、軍務の描写には軍隊生活の細部、軍の階級制度、戦場での行動規範が詳細に織り込まれていた。
たとえば、M.P.ミナエフ（長期間、補給部隊で勤務した人物）が語った「庭師の物語」では、師団司令官が連隊司令官に宛てた手紙が登場する。「連隊番号〇〇の司令官へ。私の私邸に庭を造るため、貴連隊から庭師を派遣願いたい。」庭師が将軍のもとに到着すると、将軍はまず「食事を厳格に管理するよう部下に命じた」。庭師が将軍の娘に恋をすると、将軍は「自分の名誉と地位を守るため、庭師のサーシャを明日にも連隊に送り返し、彼はこれまで通りただの兵士だ！」と宣言する。このように、軍務の詳細な描写は多くの民話に共通する特徴であった。
一方で、実際の戦闘場面の描写は皆無であり、戦闘は伝統的な民話の枠組みに収まらなかった。現代の戦闘は、民話の幻想的な状況に適合しないため、語られることはなかったと考えられる。
軍隊生活の要素は、特に英雄的な戦いを描く伝統的な「魔法の民話」に強く影響を与えた。エルスラン・ラザレヴィチやボーヴァ・コロレヴィチを主人公とする民話がその例である。エルスランに関する民話では、ワフラメイ王が「王国の半分をやる」と言うと、エルスランは「半分の王国はいらない。君の娘と結婚したい」と軍務報告のような口調で答える。また、エルスランが戦士の軍勢と出会う場面では、「打ちのめされた軍勢に遭遇した。スターリングラードほどではないが、かなりの数だった」と、戦場の現実が織り込まれる。エルスランは軍事教練の規則に従い、「馬に乗れ！」と命じ、広々とした野原や緑の牧草地へと進軍する。
民話には、現代の戦争の現実を反映した鮮やかな表現も見られた。たとえば、「カルタウソフ王国への不侵略協定を結ぼう。まるで我々とドイツが結んだような協定だ」と語られ、ダニイル王が「ヒトラーのように協定を破り、カルタウソフ王を捕らえた」と続く。エルスランが町に到着すると、「家は一軒も無傷ではなかった。まるでグジャツクやヴャジマのようだ」と、戦禍を受けた実在の都市が引き合いに出される（この記録は、これらの都市にソビエト軍が入った直後に作成された）。さらに、「ダニイル王はエルスランの母エピスティミヤを殺した。まさにファシストだ！」と、敵がファシストになぞらえられる。戦闘の描写では、「偵察なしで突撃した。戦闘は壮絶だった…」と、戦場の混乱が描かれる。
他の民話でも同様の傾向が見られた。ポルトペイに「自ら斬る剣」が与えられると、語り手は「この戦争でこんな剣があったらなあ」とつぶやく。王が軍を動員し、「その王は全国家を占領した」と語られ、負傷した主人公は王によって衛生部隊に送られる。『アリ・ババ』の物語では、シム・シムが洞窟に隠され、盗賊の首領が「我々に従え、進め！」と命じる。盗賊を捕まえられなかった報告は、「現在の我々の大祖国戦争で情報局が報告するように、彼らも報告した」と表現される。主人公が遠征に出る際には、「乾パンとして食料が支給された」とある。動物たちも軍事的な言葉を話し、キツネがウサギに「衛兵を遠くに誘い出し、一気に水を取りに行け、わかったな！」と指示する。敵役はしばしばヒトラー、ゲッベルス、ムッソリーニ、または単に「ファシスト」と比較された。
戦場の日常は、語り手と聴衆にのみ通じる細部まで民話に浸透した。たとえば、ポルトペイ少尉に馬が連れてこられると、「彼は馬を肩に引き寄せたが、馬は動こうとしなかった。まるで我々の大隊の馬マシカのようだ！」と語られる。
戦場での民話は、伝統的な物語の枠組みに現代の軍事現実を巧みに取り込み、戦時下の兵士たちの経験や感情を反映した。語り手は、現実と民話を結びつけ、戦争の文脈に物語を適応させることで、民話を現代化し、戦場での生活に密接に結びつけた。この現象は、戦時民話が単なる娯楽を超え、兵士たちの精神的支えとして機能したことを示している。
注
プシュカレフ、L.N.「前線兵の創作に関する観察（レパートリーとその実態）」『ソビエト連邦科学アカデミー紀要：文学と言語部門』1952年、XI巻、6号、529-531頁；同「前線民俗学者の回想」『大祖国戦争のロシア民俗』モスクワ-レニングラード、1964年、325-344頁。
パリロフ、I.G.「大祖国戦争の民俗への影響」『シベリアの灯』1946年、1号；クルピャンスカヤ、V.Yu.、ミンツ、S.I.『大祖国戦争の歌の歴史に関する資料』モスクワ、1953年；ノヴィコワ、A.M.「大祖国戦争中のトゥーラ州の民衆創作」『トゥーラ教育大学紀要』第1巻、トゥーラ、1948年。
ポメランツェワ、E.V.「ロシア伝統民話の現代的運命について」『ロシア民俗』第6巻、モスクワ-レニングラード、1961年、110-124頁。
ロシア民話における死の予言などに関するДобольская (2006)の報告でも、戦争に絡んだ例が紹介されている：
В.Е. ДОБРОВОЛЬСКАЯ: «УМЕРЕТЬ СЕГОДНЯ - СТРАШНО, А КОГДА-НИБУДЬ — НИЧЕГО...» in "ЖИВАЯ СТАРИНА", 2 '2006, pp.30-33. 2006.
V.E.ドブロヴォルスカヤ：「今日死ぬのは怖いが、午後になったら何もない…」
植物もまた、死を予言することがある。これは主に、ある人物の誕生後に植えられた木（「名木」）や、同じ家族が何世代も暮らした家の庭に生えた木（「家系図」）に関連する。「名木」は、様々な方法で、その人物の死を予言する。たいていの場合、木は理由もなく枯れたり倒れたりしてする。
うちではそうやってたんです。家に生まれた子が誰であれ、父が木を植えました。白樺だったり、カエデだったり。男の子でも女の子でも。だから母は葬儀の知らせがなくても、すべてを知っていたんです。
ほら、兄弟のうち7人が戦地へ行ったんです。それで母はカエデの木をずっと見ていたんです。朝になると外に出てきて、見ていました。何も問題ないんです。
ある日、母が外に出てみると、父が妹のために植えた白樺の木が完全に枯れてしまっていました。ほとんど一晩で枯れてしまったんです。母は泣き出しましたが、どうすることもできませんでした。妹は元気そうで明るい様子でしたから。朝、畑へ出かけたのですが、夕方にはいなくなっていました。それから誰かが来て、妹が何かの拍子につまずいて、石にこめかみをぶつけて死んでしまったと言いました。白樺の木も、妹も枯れてしまいました。
でも、カエデの木は全部生き残りました。ただ一本だけ落雷に遭い、てっぺんが焦げて、曲がっていましたが、まだ青々としていました。それで私たちの兄弟、これは彼のカエデですが、戦車で燃えました、だから彼のカエデも燃えたのです。
>[вский р-н, Московская обл. 7. В.К. Грачева, 1921 г.р., д. Карпово, Судогодский р-н, Владимирская]
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