トロイア王プリアモスの美しい娘カサンドラ。兄にヘクトールとパリスを持つ。
彼女に惚れ込んだアポロン神は予言の力を授ける代わりに交際してほしいと申し出る。
カサンドラはそれを受け入れ、手始めに神と自身の愛の行方を覗き視てしまう。
──────うつったのは、カサンドラへの愛が冷め、遠ざかるアポロンの姿。
そのような未来に憤慨し、気高く畏れを知らぬ乙女はすぐさまアポロンとの恋愛を取り止めた。
しかし、神と契約を交わし贈り物を受け取りながら、自身は一切対価を支払わず拒絶するなど、あまりにも身勝手で不遜な行為であった。
神罰は下されて当然である。
『ならば、嘘つきな君の言葉は誰も信じなくなる。』
神を侮る対応に怒ったアポロンからそのような呪いを与えられた彼女は、
パリスがヘレネーを連れてきた時も、
皆がトロイアの木馬を運び込もうとした時も、
幾度も破滅を予言し抗議したが、「気が触れてしまった」と誰も信じず遠ざけられた。
やがてカサンドラの言葉通りに国は滅ぼされ、その最中、乱暴者で知られる敵将小アイアスに見つかった彼女は獣欲のままに処女を散らされた。
挙げ句の果てはアカイアのアガメムノン王の戦利品として連行された先にて、王の妻クリュタイムネストラの手にかかり、悲惨な最期を迎えたという。
余談だが、小アイアスはアテナとポセイドンに、アガメムノンはアポロンとアルテミスに対して、無礼な真似を働き神罰を受けたことで有名だが、カサンドラがこの不遜な二人の物になったのはある種の皮肉かもしれない。
かつては明るく気の強い王女であったが、数々の凄惨な経験から人間不信に陥り、心が軋んで壊れてしまった予言の巫女。
聖杯に縋る願いは……残念ながら精神が不安定な彼女は、
「神に愛されない未来が欲しい」
「せめてあの時あのままアポロンと付き合い、大人しく飽きられた方が良かった」
「トロイア滅亡を回避したい」
「小アイアスとアガメムノンに直接鉄槌を下したい」
「もうこの世から消え去ってしまいたい」
と主張を変え続けるので、本当の願いが何なのかは分からない。