だが、本稿ではその伝説は真実だったのだと定める。
尤も、師匠としたのは宮本武蔵は宮本武蔵でも、並行世界を渡り歩くストレンジャー――女武蔵の方であったが。
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巷説によれば、甚内が武蔵の弟子になったのは齢11の頃だったとされる。
武蔵がなぜ甚内を弟子にしたのかは分からない。案外、美少年だったから心惹かれた、という程度の些末な理由だったのかもしれない。
だが、甚内には天禀があったのか、十年の修行の末に二天一流の奥義を修めるまでに至ったという。
無論、女武蔵の放浪――並行世界を渡り歩く旅路に同道は叶わない以上、手ほどきを受けた後は一人で修行を重ねたのだろうが。
皮肉にも、その剣才が甚内を剣の魔道に引き込む事となる。
十年後の世界に再び現れた女武蔵は、彼を破門した。
破門としながらも殺めるまでには至らなかったのは、剣の魔道に堕ちたかつての弟子への哀れみの故か。
それとも自らの剣者としての位階を高める相手となりうると思っていたからか。