ドラゴンクエスト・バトルロワイアル - アリス爆発!
森の中でハーゴンのしもべたるベリアルたちと勇者アリスは対峙していた。

「フン、覚悟しろだと? そんな棒切れでワシらを倒そうというのか?」

ベリアルの言葉にアリスはハッとして自分の手にある武器を見る。
(そうでした……私の武器はひのきのぼうだったのです……)
悪の存在にカッとなり何も考えずに飛び出してきてしまったがこれは不味かったかもしれない。
(呪文と体術だけで彼らを倒せるでしょうか……)
見れば金色の悪魔―ベリアルは黒い長槍を携えている。見るからに危険な能力を秘めていそうだ。
そう、アリスの勘は正しかった。それこそ必殺の能力を持つデーモンスピア。
アリスはバズズとアトラスにも視線を送る。
バズズは右手に炎の装飾を赤い施された手甲爪と氷のように冷たい妖気を放つ短剣を持っている。
それは炎の魔力を内在した炎の爪と氷の魔力を内在した氷の刃だった。
そしてアトラス。その巨体に相応しい重厚なハンマーを構えていた。
それは全てを打ち砕くメガトンハンマー。喰らえばおそらく一撃でアリスは肉塊となるだろう。
それに加え彼ら三大悪魔自身が放つ妖気に押され、アリスは動けないでいた。
(うう、父さん。偉大なる勇者オルテガ……こんな時どうすればいいのですか?
 戦わなくちゃいけないのに……足が竦んで動けないのです……)
圧倒的な戦力差にアリスは弱音を吐く。父ならばどうしただだろう……。
そう思ったとき、脳裏で父の声が聞こえた……気がした。

――なに、敵に囲まれて動けない? ハハ、それは弱い考えを持っているからだよ。
 逆に考えるんだ。悪を一網打尽にするチャンスだと考えるんだ――

アリスは天啓を受けた。

(そうです! 敵に囲まれているのではない、敵を殲滅するチャンスなのです!
 ありがとう父さん! アリスは吹っ切れました!)

アリスはひのきのぼうをベリアル達に向かってビシッと指す。
「あなたたちなどこれで充分! さぁかかってきなさい!!」
「キィ、ふざけやがって! 俺様が身の程って奴を教えてやらぁ!!」

アリスの挑発にバズズが乗り、炎の爪を振って火球を放った!
(メラミ!)
アリスは炎の性質を瞬時に見切り、前へ飛び出てかわす。
メラミが着弾した爆風を背に受け、一気に加速してまずはアトラスへと迫った。
「ア、アトラス……て、敵は殺す!」
アトラスはメガトンハンマーを振りかぶり、アリス目掛けて振り下ろす。
アリスはそれを転がり込んで回避すると、アトラスに手を翳した。
「メラ!」
小さな火の玉はアトラスの顔面に炸裂し、その顔を焼く。
しかしアトラスは意にも介さず再びハンマーを振り上げた。
「キキキキ、我らにそんな小技が通用するか!」
その隙にバズズが襲い掛かってきた。
「そうでしょうね」
アリスは否定せずに、涼しい顔でバズズの攻撃をかわす。
「でも目晦ましにはなるでしょう?」
そう言うとバランスを崩したバズズに蹴りを食らわせ、ある地点へと飛ばす。
「キ、この程度で!」
バズズは一瞬倒れたものの、すぐに起き上がりアリスを睨む。
言うとおりダメージはない。しかし……。

ドゴォンッ!

その直後、アトラスのハンマーがバズズを直撃した。
「ぎゃばらばらばあぁ!」
「あ、ああ、バ、バズズゥ!?」
メラの炎によって一時的に視界を失ったアトラスは闇雲にハンマーを振るったが
アリスはそのハンマーの軌道上にバズズを誘導させたのだ。
「よしっ」
作戦の成功に小さくガッツポーズを取ったアリスの背筋を悪寒が走る。
咄嗟にその場に倒れ付すと、先刻まで自分の頭があった場所をデーモンスピアの穂先が
高速で通り過ぎた。
ベリアルはかわされたと知るとすぐさま地面のアリスを蹴飛ばす。

「きゃあ!」
すぐに身体を浮かせて防御し、威力の何割かは殺したものの骨がきしむほどの衝撃を受ける。
「イオラ!」
アリスは追撃に移ろうとしていたベリアルの手前で爆発がおこし、足止めする。
その隙にアリスは体勢を立て直し、再び三悪魔と対峙した。

(つ、強い。あのバズズやアトラスという魔物は普通に強いという印象ですが
 あのベリアルという輩は頭一つ抜きん出ている。……バラモスに匹敵するかも知れません……)
戦慄を覚えアリスは汗を拭う。
その時、ようやくバズズが起き上がるところだった。
畳み掛けたいがベリアルがアリスの動きを牽制し、それもままならない。
「バズズ、大丈夫か」
「バ、バズズ、ごめぇん」
ベリアル、アトラスの呼びかけにバズズは答えず、ゆっくりと立ち上がりアリスを見据える。
「殺す……キキキ……殺す、ぶっ殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す……ぶっ殺す!」
バズズは吼えた。
今にも飛び出しそうなバズズを制し、ベリアルは宣する。
「あのアリスとかいう者、只者ではないぞ。
 アトラス! バズズ! 奴にゼット・スクリーム・アタックを掛けるぞ」
それを聞いてバズズは激昂する。
「ああ? あんな奴に三人がかりで行くってのか!? バカバカしい!
 俺は一人でやるぞ! あのメス餓鬼に思い知らせてやる!」
食って掛かるバズズをベリアルはギロリ、と睨む。
「バズズ、俺の言うことが聞けんのか」
その眼光にバズズの意気は瞬時に萎み、バズズは声を震わせた。
「す、すまねぇ……つい調子に乗っちまって……」
「フン、行くぞ」
そしてアトラスを先頭に三体は縦列に並ぶ。

「なに、あの隊形は? 何か……来る!」
アリスは迎え撃つべく猫足立ちの姿勢をとり、ひのきのぼうを下段に構えた。
ゼットとは人間の使う文字の一番最後の文字。文字通り、終焉を表す。

「さぁ、人生の最後に相応しい恐怖の悲鳴を上げて貰おうか……キキキ」
「行くぞ、ゼットスクリームアタック!!」
アトラスを先頭にして三体はアリスに向かい駆け出した。
「イオナズン!」
まずバズズが仕掛けた。
先程とは比べ物にならない爆発がアリスを襲う!
「イオラ!」
その攻撃を予測していたアリスはイオラを唱え、爆発力を相殺する。
しかし、爆風を殺しきれずにアリスは吹っ飛ばされた。
「きゃっ!」
爆圧でダメージを喰らいながらも空中で体勢を立て直し着地するとそこにアトラスが迫っている。
「く、喰らえ!」
アトラスがハンマーを振り下ろす。

バキィ、ドゴォン

アリスはひのきのぼうで受け流すが、ひのきのぼうは半ばから砕け散った。
追撃が来るかとアリスは身構えるが、アトラスはそのままアリスの側を通り過ぎた。
そしてアトラスの影からバズズが迫り来る。
「!?」
完全に意表を突かれたアリスはその攻撃に対応できずに硬直する。
「しまった!」
「殺ったァッ!!」
氷の刃がアリスの心臓目がけて疾る。その時――

「姐さ〜〜〜〜ん!!」

ゴォッ

叫び声と共に火線が走り、バズズの攻撃を遮る。
「なにぃ!?」
火線はそのまま弧を描き、バズズの背後にいたベリアルを襲った。

「うおおお!?」
ベリアルはバックステップで炎を回避するがコンビネーションを崩してしまった為
アリスの追撃に移れない。
その隙にアリスは包囲網を抜け出していた。
「はぁ、はぁ、今のは炎のブーメラン? 一体誰が!?」
ブーメランが戻っていく場所をアリスもベリアルも注視する。

シュルル……バシッ

ブーメランはある岩陰へと走り、影にいた人物によって受け止められた。
「おのれ、あと一息のところを邪魔をしおって! 何者だ!」
ベリアルの誰何の声に影はゆっくりと岩陰から姿を現す。
それは覆面マントにパンツ一丁。筋骨隆々の大男。

「正義の勇者アリスの一の子分。またの名を盗賊王カンダタ!
 盗賊団の頭まではったこのカンダタが、今じゃ落ちぶれて何の因果か勇者の手先。
 笑いたけりゃ笑うがいいさ。だがなぁー…姐さんに手出ししようなんざ……」

カンダタはパンツから何かを取り出す。

「てめぇらっ許せねぇっっ」

カシャ

カンダタが取り出し、ベリアルたちへと翳したそれは――。

「「「ロ、ロトのしるし!!」」」

「聖なる守り? なんでカンダタが」
それこそは精霊ルビスが勇者に与えた聖なる守りだった。
悪魔たちが怯んだその一瞬でカンダタは叫ぶ!
「ファルシオ〜〜ン、カムヒア!」

なんとカンダタのザックの中から一頭の雄雄しい白馬が飛び出てきた!
カンダタはファルシオンの背に飛び乗るとアリスに向かって駆け出す。
そして一瞬早く正気に戻ったベリアルはバズズらに向かって号令をかけた。
「奴が来る前にもう一度ゼットスクリームアタックをかける!
 ブーメランによる援護は解っていれば対処できる。行くぞ!」
「お、おお!」
もう一度縦列に並ぶベリアルたち。
しかし今度はアリスは待ち構えていなかった。
「ベギラマ!」
焦熱波が先頭のアトラスに直撃する。
「き、効かん!」
アトラスはそれをあっさりと吹き散らすが、その間にアリスは飛び込んできていた。
「う、うあ?」
思わずアトラスはハンマーを振り下ろすが、アリスはそれをスライディングで回避して
アトラスの股下を通り過ぎた!
思わぬ場所から現れたアリスに今度は逆にバズズが硬直する。
アリスは勢いを利用して立ち上がるとそのままバズズの肩に足を掛け、飛び上がった!
「お、俺を踏み台にしたアッ!?」
ベリアルの槍も届かないほどに飛び上がり、アリスは呪文を唱えた。

「ライ、デイ〜〜ン!!」

ビシャァンッ!!

「ギャバババババッ」
稲妻はバズズを直撃し黒焦げにする。
「バ、バズズ!?」
「まず一匹!」
バズズを屠ったことを確信し、アリスはベリアルの遥か後方に着地する。

パカラッ、パカラッ

そしてその更に後方からカンダタがやってきた。
心強い味方も加わり、意気揚々のアリスは号令をかけようとする。
「さぁカンダタ! 畳み掛けま……きゃあ!」
なんとアリスは馬上のカンダタに掬い上げられ、肩に担がれてしまう。
さも山賊に攫われる町娘のように。(ある意味でその通りなのだが)
そしてそのまま方向転換し、ベリアルたちを避けて南西の方角へ駆ける!
「きゃあ〜〜、何するんですかカンダタ!?」
「あ、姐さん、暴れないでくだせぇ!」
アリスはジタバタと暴れながら抗議する。
「やっと一匹倒したのに! 畳み掛ければ後の二体も倒せるところだったのにぃ!!」
「奴らの話を聞いたっていったでしょう? 奴ら瀕死ダメージも回復するど卑怯アイテムを持ってるんですよ!
 倒した奴もすぐに回復しやす! 姐さんとあっしだけじゃぁこっちが畳み掛けられて終わりっすよ!
 だから今は仲間を集めやしょう、ね?」
「う〜〜」
アリスはまだ納得がいかないようであったが何とか怒りを収めた。
「ま、あれで奴らもその薬を一つ使うでしょうから、それでよしとしましょ。ね?」


「べ、ベリアル……や、奴ら逃げた……」
「放っておけ。それよりもバズズだ」
ベリアルは黒焦げになって倒れているバズズに近付くと容態を確かめた。
「……キ……キキ……」
「よし、生きてるな」
ベリアルはザックから一つの丸薬を取り出し、バズズの口へと押し込んだ。
そしてペットボトルの水で流し込む。
「ガ、ガボ……ゴクン」
「これでいい」
あらゆる薬草や癒し草を掻き集め、錬金術によって幾度も合成した先に完成するという幻の秘薬。
それがこの超万能薬である。その効果を証明するようにバズズの身体はみるみるうちに再生していく。
完全に回復したバズズはバチっと目を見開くとガバッと跳ね起きた。
「ッキャア! あのメス餓鬼〜〜舐めくさりやがってぇ!
 アトラスッ、奴らはどっちへ行った!?」

「あ、あっち」
アトラスが指差した方向へ一も二もなくバズズは飛び出していく。
「おい待て、バズズ! お前はレーベ方面の担当だったはずだぞ!」
「うるせぇ! 今度こそは俺の好きにさせてもらうぜ!」
ベリアルの制止も今度は聞かずにバズズはまさに獣の如き速度で南西へと駆けていく。
あっという間にバズズは視界から消え去り、ベリアルは舌打ちした。
「ち、勝手な真似を」
「ど、どうする、ベ、ベリアル」
「仕方ない。レーベにはワシが行く。お前は予定通りいざないの洞窟へと向かえ」
「バ、バズズを助けなくて、い、いいのか? あ、あの女、つ、強い」
「奴も馬鹿じゃない。それくらいはなんとかするだろうさ。
 できなくとも奴には切り札がある。誇りに賭けてただでは死なんさ」
そう言うとベリアルはインカムのボタンを押した。
「おい、バズズ」
『キ? なんだ、今悠長に話してる場合じゃねぇんだよ!』
「お前の代わりにレーベにはワシが行く。
 その代わりあの女どもを殺したらお前はアリアハンへ向かえ。そこがお前の戦場だ」
『キキ、わかった。用件はそれだけか?』
「ワシを押しのけて行くのだ。そうするからには必ず殺せ。
 お前の『あの呪文』を使ってでもな。以上だ」

ブツッ

「ではアトラス。ワシらも行くとするか」
「ぐ、ぐふ」
無線を切り、ベリアルもまた己の戦場へと進み始める。
彼の見るその先は小さな村……レーベ。
そこに死を振りまく為に彼は黒い槍を携え、歩く。さながら戦神のように。


ようやくカンダタの肩から降りたアリスは突然大声を上げた。
「あ〜〜〜、思い出した! 聖なる守り!!」
「あ、はい。お返ししやす」
カンダタはロトのしるしをアリスへと渡そうとする。

バキッ

殴られた。

「あなた何バチあたりなことしてれるんですか! ルビス様から頂いたものをよりによって……
 あんな不浄な場所へ……」

ワナワナと震え、アリスはカンダタの頭をわし掴む。

「ギャアアアアアァ姐さんストップストップ! 手綱をミスっちゃいますって!」
「それに炎のブーメランも! あんないい武器あるんなら最初に渡してください!」
「姐さんより弱いあっしが更に弱くなってどうするんですか!
 それに姐さん何も聞かないですぐに飛び出しちゃったし……ぎゃぁああああ!」
「言い訳しない!」

ミシミシと200kgを超える握力でカンダタの頭蓋骨が軋む。

「聖なる守りはアリアハンに着いたらしっかり洗って返してください。
 あと炎のブーメランは没収します!」
「トホホ……盗賊より盗賊らしいやこの人……」
「何か言いましたか?」
「いいえ! なんにって…グアァアアアア! 姐さんギブギブ!!」

白馬の上で騒々しく暴れながら彼らはアリアハンへと向かう。
傍から見ればそれが世界を救った勇者とは誰も信じないに違いない。



【C-2/森林/朝〜午前】
【アリス@DQ3女勇者】
 [状態]:HP3/5 MP2/3
 [装備]:ひのきのぼう(半ばで折れている) 炎のブーメラン
 [道具]:支給品一式
 [思考]:アリアハンへ向かう/悪を倒す
【カンダタ@DQ3】
 [状態]:健康
 [装備]:白馬ファルシオン ロトのしるし(聖なる守り)
 [道具]:支給品一式
 [思考]:アリアハンへ向かう/姐さんについていく

【バズズ@DQ2】
 [状態]:健康 興奮状態
 [装備]:氷の刃 炎の爪 ※無線インカム
 [道具]:支給品一式
 [思考]:アリス達を追う/ゲームを成功させる

【C-3/森林/朝〜午前】
【ベリアル@DQ2】
 [状態]:健康
 [装備]:デーモンスピア ※無線インカム
 [道具]:超万能ぐすり (不明アイテム一つ)支給品一式
 [思考]:レーベの村へ向かう/ゲームを成功させる
【アトラス@DQ2】
 [状態]:健康
 [装備]:メガトンハンマー ※無線インカム
 [道具]:超万能ぐすり (不明アイテム一つ)支給品一式
 [思考]:いざないの洞窟方面に向かう/ゲームを成功させる

※無線インカムの電波は島全域をカバーしています。
 三大魔人はインカムで互いの情報を共有しています。

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026:執念
時系列順
017:溶けたこころ
027:想いを背負い生者は歩む
投下順
029:人の誇り 竜の誇り
009:Alice in Dangerland
アリス
037:二度あることは三度ある?
カンダタ
バズズ
ベリアル
030:紅き戦い
アトラス
049:泣いた赤鬼