ドラゴンクエスト・バトルロワイアル - 誰が為に、竜は鳴く
戦いに乱入してきた男…アレン。
ビアンカは、霞む目でその男を見据え見極めようとしていた。
(魔族に見えるけど、リアちゃんを庇ってくれた。助けてくれるの?)

一方バズズは、楽しみを邪魔されて切れた。
「いきなり出てきやがって、そんなに死にてぇのか!?キキッ!!」
熱り立って、炎の爪を構えアレンに飛び掛るバズズ。
それを、右手の剣で軽く受け流し、露となったお尻に左手の杖で強打を食らわした。

「ギッ!?」
アレンの計算だと、前につんのめる形で派手に転倒する筈だったが、バズズは羽を器用に使い大空へ飛び上がった。
その様は、まるで猿がバク宙をするようだった。

「ほう」
ただの魔物ではないな、と思い空を見上げる。
そこでは、完全に頭に血を昇らせた猿…もといバズズが次の行動に移そうとしていた。

「くそっ、舐めやがって!くらえっ!!」
剣の届かない有利な位置、上空で呪文を唱え始めたのだ。
それに対し、素早くアレンの呪文が放たれた。

「…べギラマ!」
バズズに迫る閃熱呪文。
しかし、余裕の笑みを浮かべ、呪文を完成させたバズズ。
その呪文で、アレンの呪文を掻き消そうという魂胆だ。

「遅ぇ!…イオナズン……!!?」
アレンがニヤリと笑う。
呪文は発動せずに、魔力が消えていく。

(マホトーン?いつの間に!)
焦った。ハッと気付けば、目の前には閃熱呪文。
咄嗟に、炎の爪を振り火球で相殺した。
筈が、威力を集中させた火球では範囲攻撃を目的としたべギラマは、完全には相殺できなかった。
バズズに、ギラ級の炎が降り注ぐ。

「ギギッ!」

ダメージは軽微だったが、体からは煙が上がり、所々毛がチリチリになっていた。
それを見て、嘲笑を浮かべながら語り始めるアレン。

「なんだ、気付かなかったのか?この杖、どうやら呪文を封じる代物らしくてな。
さっき、おぬしを小突いたときに使わせてもらったぞ。」
挑発を混ぜた説明など、バズズには届いていない。
と、言うよりも朝からやられっぱなしで、もう冷静な思考ができなくなっていた。

「虚仮にしやがって!俺は魔物のエリート、バズズだぞ!?」

その時、激昂しきっていたバズズの目にあるものが写った。
これから起こる惨劇のきっかけが……。


(私に、できることは?)
不幸中の幸いと言うべきか、炎の爪の効果で噴出した炎のおかげで傷が塞がり、ほとんど出血はなかった。
それでも、ほとんど致命傷であるが…。
最後の足掻きに祝福の杖を使用しているが、傷の塞がり方が遅い。
もう、自分が駄目だということが分かってきた。

この世界では、回復呪文の効果は1/10。それに対し、回復アイテムや道具は制限されないはずである。
では、何故祝福の杖の効果が薄いのか?

それは、ビアンカの生命力が徐々に無くなっていっているのと、内臓を深く傷つけられたのにある。
回復呪文は、元来魔法の力で生きた細胞をつなぎ合わせ傷を閉じるというもので、死んだ細胞には作用しない。
また、内臓といった複雑な機能を持った細胞は、極めて回復が効きにくい。ましてや再生などしない。
つまり、今やっている行為は無駄とは言わないが、命の長延ばしに過ぎない。
ビアンカは、それを悟ったのである。


(死ぬなら、あの子の為に…。)

―その体で、何ができるの?
 体は満足に動かせず、呪文は使えないのに。

(けど……。何か、できることがあるはず!)

―何か?じゃあ、どうするの?
 どうせ死ぬなら、無理をしなくてもいいじゃない。

(私には、彼女を守らなければならない義務があるの。)

―義務?そんなものあったかしら。
 ただ単に、自分の娘とあの子を重ねて自分を慰めてるだけじゃないの。

(そうかもしれない。でも、私は…リアちゃんを守りたい!!)

―そう、なら私は、何も言わない。

ビアンカは、近くに転がっているザックに手を伸ばし手繰り寄せる。
「ガハッ!」
無理に動いた為、口から血が出た。
「ハァハァ…。あき…らめない。最後の火が消えるまで!」
もはや力の入らない手で希望を込め、ザックから一本の杖を引き抜いた。

この時ビアンカは気付かなかったが、トルネコが動かない体を引き摺りながら近づいていた。
遠目でも分かる重傷を負った、彼女を助ける為である。
トルネコが目覚めたときその目に写ったのは、杖と剣を持った魔族風の男がバズズと戦っている姿。
それを見た彼もまた、ビアンカと同じように自分にできることを考えた。
あの魔族は恐らく味方。しかし、この状態で戦いに参加しても足で纏いになることは必至。
女の子は、あの男が庇っている。
では、なにをすべきか。
ならば、何もできないかもしれないが、彼女を助けようと思ったのだ。


バズズは、無謀にも空から特攻を仕掛けた。
不気味な笑みを浮かべながら。
技量の差がある相手に対し、特攻は不自然である。
アレンは、不信に思った。

(この程度の魔物だったのか?)
頭に血を昇らせた猿ならばやってこなくもない行動だが、用心するに越したことはあるまい。
この時、アレンは近距離戦に持ち込むのではなく、呪文で迎撃することを選んだ。
それは、後ろにいる存在。
自分が助けると誓った者を、危険に晒さない為の配慮である。
そして、呪文を詠唱し、突進してくるバズズ目掛けて、放った。
大気を熱しながら、べギラマの炎がバズズに迫る。
しかし、バズズは避けようともせずに炎に突っ込んで行った。
アレンからは、炎でそれが見えなかったため、バズズの不信な行動は分からなかった。
だが、おかしいとは思った。

炎を回避したのなら、横にバズズが見えるはずだ。
また、直撃して絶命したのなら失速し、地面に落ちるはずなのだ。
ならば……。
揺らめく炎、その中に影が見えた。バズズのものだ。
恐ろしいことに奴は、炎の中を突破してきたのである。

「信じ…られん!」
直ちに剣を構えるアレン。
炎の爪を振り上げ、襲い来るバズズ。
その目にアレンは恐怖した。
狂気の目。
窮鼠ネコを噛むと言うやつだろう
バズズは、もう勝てればどうでも良かった。
自分の命さえも。

そして、一閃。

アレンは、不自然に突き出されたバズズの右腕を切り飛ばした。これで、奴に武器はない。
だが、バズズは止まらなかった。腕から鮮血を撒き散らしながら、アレンの右側をすり抜けて行く。
「しまった!」
目標はアレンの命ではなく……リア。
直ぐに後ろを振り向いたアレンだが、もうすでにリアの首はバズズの手の中だった。

「ううっ…」
意識のないリアは、呻き声を上げ苦しそうにしている。
バズズは残った左腕でリアの首を持ち、吊り上げた。

「ぐっむぅぅぅ。わしに、人質など通じぬぞ!」
「(ニタァ〜)キキキ…。その顔が見たかったゼェ!」
狼狽するアレンを見て、バズズが笑う。
彼の最高の笑顔で。
あまりの嬉しさのせいか、腕の痛みも感じていないようだ。

「それとな、人質とはちょっと違う。」
腕に力を篭め、そして……

「メラ…ミ!」
――ゴキャッ!―― 

「ギギッ!?」
首の骨が…折れた。そして、バズズの顔が燃え上がり、足元に杖が落ちた。
驚いて、バズズは手放した。腹を焼かれ、首の骨が折れた無残な死体を。
それは、リアではなくビアンカだった。
アレンは目の前で何が起きたのか分からず一瞬呆然としたが、この隙を逃さなかった。
剣を構え直し、袈裟斬り。

彼女の直ぐ傍まで来たトルネコは、見ていた。
目の前の彼女が手に魔力を集中し、“場所替えの杖”を使うのを。
そして、入れ代わりに女の子が現れた。
驚いてバズズの方を見ると、ビアンカが呪文を放ち、首が折られる瞬間だった。
「ネネ…」
違うと分かっていても、無意識の内にそう呟いた。


バズズは、左肩から切り込まれ、自分と台地を真っ赤に染めていた。
いや、台地は血に染まってはいない。真っ赤な夕日のせいだ。

「キ…キ…」
バズズはもう、虫の息だった。
それを、アレンが見下ろしている。
その表情からは、何も察することはできない。
バズズは口を開いた。不気味な言葉とともに。

「とどめを刺さなくて…いいのかよ?
もう…マホトーンは切れてるぜっ!!!」
アレンは目を、見開いた。


トルネコは見た。
バズズから光の柱が上がるのを。
「あわぁ!あの光は!?」
その光には、見覚えがあった。
ばくだん岩が使うソレ。
そう、術者と近くに居る者を巻き込む自爆呪文メガンテ。
あの呪文の威力は知っている。今自分の居る所も吹き飛ぶだろう。
トルネコは、近くにいる女の子を背負って森へ逃げ込もうとした。
しかし、疲労とダメージでうまく動けずに、前のめりに転んでしまった。
だが、幸運にもそこには、ビアンカのザックがあった。
そして、トルネコの良く知る杖が顔を覗かせている。

(よし、これならば!)
彼を知る者は、トルネコを評価している。「機転」がきくと。
それは、過大評価ではない。
トルネコは、直ぐに自分と女の子、魔族の男を助ける方法を思いついた。



女の子を背負い直し、飛びつきの杖で森の奥へ。
移動中、木の枝がトルネコの体に刺さる。だが、そんなことを気にしている状況ではない。
そして、木に激突。だが、そんなことを気にしている状況ではない。
背負っている女の子の無事を確認しつつ、光に飲まれもはや影しか見えない魔族めがけて今度は、引き寄せの杖を振るった。
杖の効果を確認できない内に、絶望の光が当たりを包んでいく。
最悪なことに、トルネコ達が逃げた先もまだ呪文の範囲内だった。
トルネコは目を瞑り、女の子を庇う体勢をとる。

どのくらいの時間が過ぎただろうか。一秒時間が刻まれるのが、永遠に感じられた。
光が過ぎ去り、トルネコがそっと瞼を開けると、目の前には、大きなドラゴンが立っていた。
トルネコは驚き、死を覚悟したが、よく見るとドラゴンは傷つき、盾となる体勢をとっている。
それに、その手に持つ杖と剣。そして、自分の知っている呪文で“ドラゴラム”というものがある。

「ああ、あの魔族の方ですか」
動揺しながらも敵ではないと悟り、軽く話しかけた。
そのトルネコを見据え、竜は笑いだす。

「フッフッフ、アノ女ガイナケレバ、ソノ娘ハ死ンデイタナ。
約束ガ守レヌトハ、王ト名乗ッテイタノガハズカシイ。」
竜はどこか悲しげだった。
そして、竜は静かに咆哮する。


【D-2/森林と茂みの境/夕方(放送直前)】

【トルネコ】
 [状態]:HP1/15 軽い火傷 打撲 擦り傷 疲労困憊 
 [装備]:氷の刃 ※無線インカム
 [道具]:まほうのカガミ 引き寄せの杖(4) 飛びつきの杖(4) 
     他1つ 支給品一式×3ワイヤー(焦げて強度は弱くなっている)
 [思考]:休む/アリアハンへ向かう
      /アリスや他の参加者に危機を伝える

【アレン(竜王)@DQ1りゅうおう】
 [状態]:HP1/5 竜化
 [装備]:竜神王の剣 まふうじの杖
 [道具]:プラチナソード ロトの盾 ラーの鏡
 [思考]:傷を癒す/この儀式を阻止する/アレンの遺志を継ぐ

【リア@DQ2サマルトリア王女】
[状態]:首に多少のダメージ 気絶
[装備]:なし
[道具]:風のマント 支給品一式(不明の品が1〜0個)
[思考]:?

【バズズ@DQ2】
【ビアンカ@DQ5】
死亡
【残り26人】

※ビアンカの荷物はトルネコが回収
 バズズ、ビアンカ並びに彼女らの装備は消失、祝福の杖も同じく(もしかしたら、あるかもね)
 D-2に半径50m程のクレーターができました

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