アゲ↑アゲ↑ウェーーイ！

殺し合い。最後の一人。それ以外は死。
最初に浮かんだ感想はうわぁだった。
そして、次に浮かんだ感想は最後まで生き残るとかもう絶対無理、自殺しよだった。
ムーンブルクの王女――ルーナは表情を変えず、決意する。
多種多様な人種を混じえ、権謀術数が絡まった闇の舞台、とてもではないが、ルーナが生き残る確率が高いとは思えない。
その過程で散々な拷問といった嬲られを受けることも考えると、やってられなかった。
今なら、楽に死ねる。支給されたものに武器が入っていたら即座に首筋へと向けてしまおう。
下手に抗う必要もなく、そそくさと舞台から退場することこそが賢い選択だ。
そう思い、ルーナは自分へと支給された袋を開けるも――。

「…………鬱だ、死ねない」

あぶないみずぎ。レースのビスチェ。あぶないビスチェ。
率直に感想を述べるとキレそうだった。
ルーナの鬱ゲージは最高潮を超えて、限界突破だ。
一周回ってハイテンションになってもいい。
相変わらず表情は変わらないけれど、内心ぷんすこぷんだ。
エビルプリーストは女の子への配慮がマイナス百万点である。
死にたいけれど、死ねない。あまりにも不運で、ルーナは顔を覆いたくなってきた。

「ッシャオラァ！！！カワイコちゃん発見でマジテンションマックスなんですけどぉ！」

耳も覆いたくなってきた。
正面から無駄にかっこつけた歩き方でやってくる緑髪の青年を見て、ルーナのゲッソリ度は二倍マシだ。
できるならば、お近づきになりたくないランキング上位であるこの男から背を向けてダッシュしたい。

「ヘイヘイヘーーーイ、せっかくの美少女なんだからぁ、そんな冷たい目をしちゃダ・メ・ダ・ゾ☆」
「すいません気持ち悪いですほんと無理ですそのまま帰って下さい」
「つれないなぁ。ガード固すぎっつーか、はぐメタ級じゃん？せめて、メタスラぐらいに下げちゃってこーぜ！」

しかし悲しいことに、ルーナは体力がない。
主に魔法主体で戦闘を行う彼女にとって身体を動かすというのは門外漢である。
今此処で逃げても追いつかれて、更にウザい目に合う可能性が高い。
諦める時だ、もう。

　　　　
「貴方と出会ったことで、私の気分は最低最悪にまで下がったわ、責任とって死んで頂戴」
「あ、そういやマイネームを美少女ちゃんに刻んでなかったしぃ、自己アピしちゃう？」
「しなくていいわ、それよりもとっとと消えてほしいわ」
「チィ～～～～～～～ッス、ユーリルでーーーっす！！何か勇者的な奴っていうかぁ、世界救っちゃったりしてまぁす！？」
「人の話を聞きなさいな……！はぁ、こんなのに救われる世界に絶望したわ、もう無理死にたい」

ユーリルと名乗った青年に対して最初に浮かんだ感想は、やはりうわぁだった。
そして、次に浮かんだ感想は会話とかもう絶対無理、自殺しよだった。
心なしか、ルーナの表情の翳りが更に重みを増してどんよりとしている。
支給品はクソッタレだし、最初に出会う人間も自称勇者のチャラ男だった。
本当に運がなさすぎて、泣けてくる。

「それよりもぉ、マジ殺し合いやべぇっていうか、もう超デンジャーってやつ？」
「仲間同士で殺し合いって時点でデンジャー通り越してると思うけれど」
「そうそう、それよー！俺もめっちゃ思ってるんだわー！これでも、俺ってばマブダチをめっちゃリスペクトしててぇ、ガチなバトルってのはご遠慮したいっつーか」
「どうでもいいわ、それよりもさっさとここから立ち去ってちょうだい」
「それで、俺ってば仲間を探してる訳でぇ、その最初の仲間として、美少女ちゃんゲーッッツしたいんだけど、どうよ！」
「人の話を聞いてる？それとお断りよ」
「ショボボボーン」

ころころと変わる表情に軽い言動。
ルーナからすると腹立たしい以外の感情が湧き出ない。
そもそも、今行われていることに理解が及んでいるのだろうか。
無警戒で近づいてきて、自分が殺意を持った人間だと考えないのだろうか。

　　　　　　
「とりま、そんな顔してないでピースピーススマーイルッ……てへぺろ～☆ ストップストップその冷たい目はストップ」
「何？」
「さすがの俺も呪文のダイレクトアタックはマジヤバだから、クールな君も可愛いけど、やっぱり笑顔な君の方が素敵だと思うし～」
「バギ」
「うひゃーーーーっ！！ウェイウェイウェイ！！！！」

とりあえず、めんどくさいからバギを撃っといた。
これ以上好きに喋らせるとキリがない。
こういう輩は無理やり黙らせるに限る。

「……オーケーオケオケオッケー」
「本当に大丈夫なの？」
「当然っしょ、問題なんてありませーっんっ！」
「そのだらしないにやけた顔からはとてもそうだとは思えないのよ」

足速にその場を離れようとはするが、ユーリルはめげずに後を付いてくる。
どうやらバキを撃った所では彼のしつこさを根絶やしにはできないらしい。
それならば、もっと強力な呪文を放てばいいとも考えはしたが、魔力の無駄だ。
はたまた、考えたくはないが、もしもユーリルが自分よりも強ければ――返り討ちにでもして楽に殺してくれるだろうか。

「……くだらない」

傑作だ。ここまで甘ったるい妄想を考えるまで、自分は疲れているらしい。
表情一つ変えることなく、涙の一滴さえも流すことなく。
ルーナの中にある時間は進むこと無く止まっている。
破壊神を破壊しようが、どれだけ人を救おうが、自分の国は二度と元通りにならない。

（一番くだらないのは、私よ。闇を裂いた先に、光が待っている訳ないのに）

ユーリルの軽口を全て無表情で受け流しているルーナだが、好きで無表情を貫いているのではない。
あの日、あの時。ムーンブルクが滅ぼされてることを知ってから。
改めて、ムーンブルクの惨状を王子達と見てから。
ルーナは一度も笑えていない。
いや、表情を変えることができないのだ。
祖国を完膚なきまでに滅ぼされ、帰る場所がないことを想った瞬間、自分の中にある想いが全て――閉ざされてしまった。
自分の手から全てが零れ落ち、やり直せないことに気づき、ルーナというムーンブルクの王女は終わってしまったのだ。

　　　　　
（賢しいこの頭が憎い。そうでなければ、エビルプリーストの思惑にも乗れたのに）

望みを叶えるという甘言を信じることができたらどれだけよかったことか。
殺し合いの為に、これだけの人数を集めたあのあくどい魔物がわざわざ願いを叶えるとは思えない。
どうせ、最後の一人は何かの儀式の生け贄にされるといった所がオチであろう。

「ねぇ、ユーリル」
「おっと、バイブス上げる気になったの？俺とランデブゥーっちゃう？？？？」
「しないわ。それよりも、いつまで付いてくる気？こんな無愛想な女の子なんて放っておけばいいのに」
「そーれーはー、ダーメっ☆ だってぇ、美少女との出会いはカーニバル！」
「意味がわからないわ。ちゃんと、私に通じる言語で喋ってちょうだい」
「っべー、ガードマジかってぇなァ、美少女ちゃんったら照れちゃってぇ～」

そうなると、取る手段は何とかこの世界から脱出ということだが、やはりルーナにはそこまでして生きる気力はない。
それなら座して殺してくれる参加者を待つのが一番だが、もしも女の子を甚振る加虐趣味の参加者に出会ってしまえば目も当てられない。
楽に死ねるならそれでいいが、苦しんで死ぬのは嫌だ。
動くしかない。不本意ではあるが、このふざけたチャラ男と一緒に適当にこの世界を回ることで何らかの手がかりを探そう。
その過程で楽に死ねる手段が見つかったら実行したらいい。

「つぅーか、美少女ちゃん」
「……ルーナよ。いつまでも美少女ちゃん呼ばわりは恥ずかしいの」
「じゃあルゥーナちゃん、これでいいっしょ？ところでさぁ、早速なんだけど」
「その発音がすごくムカつくけど、何かしら？要件は一秒以内に発音して」
「ウィウィウィーーっ。とりま、俺とエキサイティンなことしよーぜ？？」
「死んでもお断りよ。はぁ……憂鬱だわ」

このふざけたチャラ男と会話をしていると知能指数が落ちていく気もするが、気のせいだろう。
結局、この数分で手に入ったのは疲労感だけだった。

彼女は自分に似ていると思った。
身の上話は聞いていないから何となくとしか言いようがないが、ユーリルの直感はそう告げている。
全てを失い、両の瞳で茫洋とモノクロの世界を見ている姿が、自分と被ってしまう。
かつての旅を経て、自分の手にはなにも残らなかった時と同じく、彼女もきっと。

勇者とは世界を救う者である。

それは、ユーリルがまだ『勇者』であった頃。
山奥の村という狭い世界しか知らない人形だった時、何度も聞かされた言葉だ。
そして、彼らは自分に対して、生きる術をいろいろと教えてくれた。
剣術、呪文、言葉。一人旅がそつなくこなせる基準にまで、ずっと。

まるで、そうなることを予測していたかのように。

とある日、魔族の進行によって村はユーリルを残して滅びていった。
誰も彼もが燃え滾る炎に沈み、いなくなった。
ユーリルは涙を流し、咆哮を上げた。
この全ての絶望を詰め込んだかのような表情で、ひたすらに。
無情にも全てを奪い去った魔物達を憎み、必ずや魔物の親玉を打ち砕くと誓った。

きっと、復讐すらも予測の範疇だったのかもしれない。

　　　　　　　
冒険をするにつれて、ユーリルは時より考えるようになる。
他の仲間達が話す故郷を聞くにつれて、自分の故郷があまりにも歪であったことに。
剣術の先生、魔法専門の先生といった各分野で有能な者達が都合よく山奥の村に住んでいることが、疑問に思えてくる。
彼らは何処かの王宮で召し抱えられてもおかしくはないというのに、何故。
一度頭に過ぎってしまえば、後はもう止まらなかった。
何度も、何度も。心の奥底に仕舞いこんでも、滲み出てくる真実に気づきたくなかった。
だから、ユーリルは真実を知りたかった。魔族の王であるピサロへと問いたかった。
あの日、あの時、彼から見てこの村はどうであったか。
長い年月、隠れ続けた村があんなにもあっけなく見つかるものだったのか。
半ば答えは出ているけれど、最後の一線を決める証拠はまだ浮かび上がっていない。
彼の村が、勇者を育成する為だけに準備された偽りの故郷であるなんて、思いたくなかった。
そうであったら、今まで自分が受けてきたものは全て勇者だからという理由で、其処に愛情なんて存在しない。
そんな真実は、見たくないし聞きたくない。
自分が抱いた怒りでさえ、彼らの予想通りであるなんて嘘だと叫びたい。

『考えてみれば……長年隠れていた割には、すんなりと入れたな。
　まるで、迎え入れる準備が整ったかのようだった』

けれど、ピサロの答えは、ユーリルの予測通り最後の決定的証拠を打ち出していた。
天空の勇者を生み出す為だけの故郷。魔族を滅ぼさんとする憎悪は、仕組まれたものだった。
ユーリルという存在は、勇者という符号でしか価値の無い――――操り人形だ。
エビルプリーストを討伐し、全てが終わった時――ユーリルの掌には何も残っていなかった。
今まで魔物を倒すことだけを念頭に置いた自分の人生は酷く薄っぺらい。
そのことを自覚した瞬間、何もかもが馬鹿らしくなって涙と笑い声が止めどなく溢れ出してきた。
滑稽で悲しくて、ユーリルのしてきたことは全部彼らが望んだことで、其処に――『自分らしく』なんてものは何処にもなかった。
もはや泣いているのか笑っているのかさえわからない表情で、ユーリルは初めて自分の意志で、声を張り上げて泣き喚く。
みっともなく、強さなんて放り捨てて、後生大事に持っていたシンシアの羽根帽子をぐちゃぐちゃに踏みつけて、叫んだ。
声にならない叫びで、何を口走っているかは自分でもわからなかった。
ただ感情の奔流に流されるがままに、ユーリルという存在を世界に刻みつけた。
そして、使命も、憎悪も、勇者も、蓄積された想い《枷》を壊し、自由へとなる第一歩として、彼はあることを決めた。

　　　　　

心の赴くままに――――ハジけよう。

それはもう、適当かつフリーダム。
これまで振る舞った勇者としての真面目さなんておさらばだ。
ありのままのユーリルとして生きていく為に、それは必ず必要なことである。
居酒屋の酔っ払いみたいに、チャラチャラと。
城下町でナンパを繰り返すイケメン野郎のように、へらへらと。
そんな、何処にでもいる青年へとユーリルは生まれ変わるのだ。
方向性が盛大に間違っている気がしてならないのはきっと、気のせいである。
一度は倒したエビルプリーストが何を考えて殺し合いを開いたのかなんて、ユーリルの知ったことではない。
自分はもう勇者ではない。巨悪を倒す為に、正義を為すなんて――やめたのだから。

【H-7/1日目朝】
【ルーナ（ムーンブルク王女）＠DQ2】
　[状態]：健康、表情遺失
　[装備]：なし
　[道具]：基本支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ　　　　　
　[思考]：楽に死にたいが、そうはさせてくれないこの世界にげんなり
　[備考]：喜怒哀楽を表情で表せません。

【ユーリル（男勇者）＠DQ4】
［状態］：健康
［装備］：なし
［道具］：基本支給品、不明支給品（1～3）
［思考］：ウェーイ！俺のバイブスがアゲ↑アゲ↑フー☆フー☆
［備考］：六章クリア、真ED後。