ドラゴンクエスト・バトルロワイアルIII - 人と竜と
聞こえる。


様々な音が。



剣とツメのぶつかり合う音
岩が砕ける音
炎が燃える音
木霊する魔法
竜の雄たけび
人の叫び声
地鳴り
足音



荒野にあまりにも多くの種類の音が奏でられ、端で聞いていても飽きない。
最も、それはコンサートではなく戦いで、演奏者は多人数ではなく、一人と一匹なのだが。


「燃え尽きよ!!」
「マヒャド斬りぃ!!」

まともに当たればオルテガのように黒焦げになる炎は、レックの氷を纏った斬撃によって霧散する。

「小癪な!!」
今度は竜王が両手、10本のツメがレックを串刺しにしようとする。
だが勢いよく地面を蹴って跳び最初の5本をかわし、次の5本にはメラミを打つ。

炎に強い耐性を持っていた竜王には殆ど通用しないが、反動でかわすことは十分だった。
更にレックは空中で新たに呪文の詠唱を始め、着地と共に放つ。

「荒れ狂え、竜巻。バギクロス!!」
「効かぬわ!!」

オルテガが放った時メラゾーマで消された竜巻は、今度は巨大な火球で消されてしまう。


しかし、相手が効かないと分かっているからこそ、フェイントになる。


「流石に、正面からは勝てないね……」
巨大な竜巻と、それによって上がる砂煙を目隠しにして、後ろ側に回りこんだ。

「甘い!!」

だが、竜王は尻尾を回して薙ぎ払う。
レックは姿勢を低くして一度目の尻尾を避け、そのまま地面を殴りつける。
地割れは竜王の巨体を飲み込むことこそ出来ないが、地面の揺れは竜王のバランスを崩す。
狙いが不安定になり、二度目は悪戯に地面に穴を開けるに終わった。


隙が出来たと見るや否や、その尻尾を踏み台にし、高く飛び上がり斬りかかる。

「ドラゴン、斬りぃ!!」
「グッ!!」

背中に竜の形の傷を入れられ、さしもの竜王も呻く。

最も、レックが持っていた剣が店でも買えるほどの質で、なおかつ相手が竜王だったからこそ、この程度で済んだのだが。
もしもそれがかつて竜王を討ったロトの剣か、レックが持っていたラミアスの剣なら、間違いなく決定打になった。


「ふむ…………体術に長けたと思いきや、魔法にも長け、魔法に長けたと思いきや、剣術にも長ける。お主こそ、この地で最強の戦士かもな……」
「お褒めに預かり、恐縮で。」



デスタムーアを倒した勇者にして、次期レイドック王候補、レック。
彼は世界を救った後でも、王になるための勉強をそっちのけて修行を積んでいた。
特に熱心に勤めていたのは、魔法分野。
より強い敵が国に攻めてきた時のため。
それ以上に、失った魔法使いのタマゴに、再び近づけるようになるため。
彼女が持っていた魔法を使えるようになれば、手掛かりの一つぐらいは得られるのではないかと。
彼女に近づければ、ターニアのいる失った世界にも近づけるのではないかと。
最も彼の世界のダーマ神殿はすでに夢として消えてしまったため、独学だが。


彼は、かつて魔王を倒した時より、力をつけていた。


再度互いに正面で向き合う。
まずは、竜王の火球。
それをレックは上手くかわして、同時にスカラで守りを固める。

「また、搦め手か………」
次に自分が攻撃した矢先に、懐に潜りこむか、背後に回り込むかのどちらかだろう。
さて、どこから攻めてくるやら……

「抗え、雷!!ライデイン!!」
「何ィ!?」

死角に入り込んで攻撃を仕掛けると思いきや、いきなり勇者の雷を打ち込んでくるとは。
しかも耐性のある炎や爆発、撃ち落とせる氷や竜巻の魔法と異なり、凌ぐ手段が少ない。

「ならば!!」
「うわっ!!」

雷を気にせず、握り拳を振り回す。
レックもそれは予想外だったようで、慌てて受け流すも、手痛い直撃を受ける。
相手がこの状況から受け流せるレックでなく、なおかつ防御魔法がかかっていなければ、一撃必殺となっていたのだが。

かつてアレフガルドの支配を試み、人々を恐怖に陥れた竜王。
彼は家族の記憶はなく、物心付いた時から魔物達の上に立つ王で、自分より強い者はいなかった。
そして、配下から常に王として、崇められてきた。
竜王を先導してくれる者はいなかったが、崇めてきた者と共に、何をすればいいのかは薄っすらとだが分かっていた。
最初にドムドーラを滅ぼした時、人間など自分の足元にも及ばないと確信した。
人の命、光の玉、ローラ姫。
その後も自分の計画に至って、望む物は全て手に入った。

それ故、彼は愚かだった。
いかに勇者と言えど、人間なら誘いに乗せれば、簡単に騙せると。
たとえそれを断っても、人間ごときに負けるはずがないという慢心があった。

かつては竜の王としての、誇りが足りなかった。
今の彼には、そういった驕りの感情がない。
たとえ人間への踏み台の役に出るとしても、決して手を抜くつもりはなかった。

彼は、かつて勇者に敗れた時より、強い心を身に付けていた。



レックが吹き飛ばされて、二人の距離が広がる。
距離が広がったということは、次は遠距離攻撃か。


「疾風突き!!」
手にした剣と共に一閃。だが、距離が遠いため、当たるのには聊か時間がかかる。
「馬鹿め!!判断を誤ったな!!」
この距離からなら、当たる前に炎を吐けばよい。

「!?」
竜王が息を吸おうとしたところ、その顎に勢いのついた何かが当たった。
レックが剣を投げたのか?
「良い物が、足元に転がっていたんでね!!」

それは剣ではなかった。
先程竜王が変身する前に捨てたガナンのおうしゃくを、レックが竜王の顔にめがけて蹴とばしたのだ。
続いてレックは竜王の脚に追加攻撃。
だが、スピードに特化した攻撃は、力が足りず、竜王の脚の鱗を薄く剝ぐに終わる。
だが、それだけで終わらない。
斬撃の勢いをつけて後ろに回り込む。
尻尾の攻撃も、助走をつけたジャンプで飛び越える。


また背面からの攻撃かと思いきや、レックはそのまま竜王を通り過ぎる。
「どうした?ここで怖気づいたのか?」
竜王の炎をかわし、ひときわ大きい岩山を駆け上る。


「この場所ならどうだ?いくつか、聞きたいことがあるんだ。」
「!?」

確かに、互いの顔の高さが近い方が話はしやすい。
だが、肝心なのはそんなことではない。



「どういうつもりだ。まさかここで急に話し合いで解決しようなどと思ったか!?」
「別にそういうつもりじゃないんだ。ただ、ここへ来るまでにある人から、頼まれてね。
クロウズ、もしくはシンイという竜の人間を、知らないかって聞いてくれって。」
「知らぬな。」
竜王はすぐに答える。

「竜といえばあらゆる世界に数多く存在する。いくらワシが竜の王といえど、知らない竜もいる。」
「そうか、分かった。」
これはアンルシアにとっては悪いが、レックにとっては本当はどうでもよいことだった。
「お主は、先ほど「いくつか」聞きたいことがあると言ったな。まだあるのか?」


人間の話に乗ってやること自体、ワシにはあまりないことだ。
だがこのレックという男、何かの話をネタにワシを陥れようというつもりはないはずだ。
あるのなら戦いが始まる前に話を持ち掛けようとするし、そんなことをしなくてもこの男は強い。
話の一つくらいは、聞いてやっても悪くはない。



「お前は、何故戦っているんだ?」

意外な質問に、さしもの竜王も驚く。
「そんなことが気になるのか?
簡単なことだ。ワシは竜の王だからな。あんな小物に命令されるのは癪だが、人間などに協力しようなどとは、王としての誇りが許さん。」

「じゃあ、お前は俺と同類だな。」
「何だと?」

意外な言葉に、竜王も驚く。
「俺は昔、勇者としての義務で大事な人を犠牲にして、魔王を倒した。
 俺もお前も、並外れた力を持っていた。そしてその力と、義務にがんじがらめにされているんだ。」
「だまれぇ!!誇りを持たぬ者は、何一つ手に入れることが出来ぬのだ!!」
激昂する竜王が、灼熱の炎を吐く。
だが、レックのフバーハによって遮られる。

レックは続ける。
「誇りでもなんでも、一つの物に固執していては、出来ないことも、手に入れられない物もあるよ。
 一度でも、考え直すことはなかったのかい。」

始めてオルテガから竜王の話を聞いた時は、奇妙だと思っていた。
最初にオルテガを殺さず逃がし、伝説のロトの剣を渡すことや、ミーティアを人質に取ったのにその人質を戦いに使わないこと。
そして目の当たりにした時、その感じが確信へと変わった。

魔力が異なる。

発するエネルギーこそ凄まじいが、彼からはデスタムーアやエビルプリーストに見られた、邪悪な魔族特有の絡み付くような妖気がなかった。

だからレックは興味を持っていた。

「構わん。誇りのために何かを犠牲にするその覚悟はできている。
 キサマも、それだけ喋ればさぞかし口が疲れただろう。すぐに楽にしてくれる!!」


「キサマの搦め手にも飽きたわ。波動よ、全てを無に帰せ!!」
竜王の両手から、凍てつく波動が流れる。
ダメージこそはないが、レックにかかっているスカラとフバーハを打ち消した。


「やるしかないのか………」
再び戦いが始まる。
一度止まった人と竜の協奏曲は、フィナーレに向けてさらに勢いを増す。
先に演奏を止めるのは、どちらだろうか。



【D-7南/荒野/1日目 午後】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/2 MP5/8
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式、確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王を倒す。ターニアを探す。
[備考]:竜王に好奇心を抱いています。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/5 背中に傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0~1個
[思考]:悪を演じ、誇り高き竜として討たれる。



※二人の付近にガナンのおうしゃく@DQ9が落ちています。








Back←
111
→Next
時系列順
112:Only lonely boy
投下順
竜王
120:誤った進化
レック