エロゲの紹介と心に残った作品の感想をダラダラ書いています。





あらすじ
個別に入ってからの大雑把な流れは全てのルートで変わらない。夏帆ルートも他ルートと同様、ロケット部の全国大会へ出場し、4部門中どれか1部門でも優勝しなければ主人公たちが所属するロケット部ビャッコが廃部になってしまう危機を主人公とヒロインの共同作業で乗り越える話である。中でも夏帆ルートでは4部門のうちの一つである電装部門に出場しRLGのジャイロ等、誘導制御系を設計する話となっている。



キャラクターパーソナル
誕生日:8月24日 身長:146センチ スリーサイズ:72(A)/53/77
趣味:音楽鑑賞 特技:天気予報 好きなもの:花の香り 嫌いなもの:不正 

意思表示に乏しく、遠慮がち。それでいて素直で優しい性格。
口数は少ないが、ロケットのこととなると饒舌になる一面もある。
他人に頼ることは滅多にないが、主人公には比較的なついているように見える。
ある事情により目が悪く、数センチの距離まで顔を近づけないと教科書の字を読めないほど。
しかし、なぜか作業中以外はあまりメガネをかけていない。



雑感
夏帆ルート以前にプレイした那津奈ルートとほのかルートでは、ロケットに関する話は面白いのにエロゲの根幹とも言える『恋愛』がもの凄くビミョーだったせいで、「もう恋愛なんてしないほうが良いんじゃないか?」と、西野カナあたりに共感して貰えそうな恋愛不信思考に陥っていましたが、その認識が本ルートで一気に覆りました。いや他のルートの恋愛部分に関してはホント「舐めてんのか?」って何回言ったのか分からないようなデキだったんです。まじで。
当たり前だけど好きな人を謎に譲ろうとせずきちんと告白して、その告白が「恋人になってくれ」という意味で通り誤解なく進んだ時点で、元々の夏帆の可愛さも相まって勝ちを確信したんですが、それだけじゃなく公園で一緒に逆上がりの練習をしたり、一つのブランコに一緒に乗ったり、アイスを食べさせたり、学生時代にしかきっとしないであろう初々しい触れ合いを重ねる恋愛をしていたのがとても素晴らしかった。こういう王道恋愛と青春部活はやはり親和性が高い。読んでいて、ともすれば僕にだってそんな青春が来たかもしれないと思わせてくれる。・・・いやまぁ、来なかったんですけどね。


さて、無駄に悔しくなったところで本題。恋愛ゲームにおける恋愛のポイントは『相手を知り、どれだけ受け入れられるか』であると思っている。仮に選択肢が沢山あったとしても、ヒロインごとのエンディングの数は『Bad』『Good』の2つのみが基本(もちろん例外はいくらでもある)であるため、最終的な結末は我々プレイヤーの意思や選択に関わらずとも一定のフラグを成立させることが出来るか出来ないか次第で、どちらかの一点に向かって収束してしまう。如何に多くの選択の中で我々プレイヤーが相手を知り受け入れたつもりになったとしても、『相手を知る』選択が取れず『相手を受け入れる』選択も取れなければ、その選択の中にある複雑な過程や思惑に関わらずバッドエンドへ一直線である。これら一連の流れに我々の意思はほとんど介在していない。要は文章の定められたノベルであるために、ゲームとしての自由度の低さをどうしても強いられてしまうのである。故に我々の意思に関わらずとも、主人公は『相手を知る』場合もあるし『相手を受け入れる』場合もある。よって重要なのは、我々『プレイヤー』が相手を知り受け入れたということではなく、『主人公』が相手を知り受け入れるプロセスに、どれだけ共感することが出来るか?にあるという考え方だ。


夏帆ルートではこのプロセスを非常に綺麗に見せていた。その一例をあげるならば、

夏帆の母親は宇宙飛行士で、父親はロケットエンジンの開発者だった。まだ幼かったある日、父の開発したロケットエンジンを搭載した月へ向かう有人ロケットに母親が搭乗した。結果は失敗。ロケットエンジンに起因するトラブルで墜落し母親は死亡、父は転職して、夏帆は両目に傷を負った。しかし開発責任者であった父親にトラブルの原因調査の詳細は知らされておらず、まるで不都合を隠すように責任だけをなすりつけて事態は曖昧なまま終わった。そうした背景から、彼女は失敗すれば失明する成功率の低い手術よりも、目の見えるうちにロケットに詳しくなって両親の無念を晴らすという『夢』を見続けることにした。




この境遇から夏帆は友達はおろか、その理由は明かされていないもののあまり家に帰ってこない父親にすら、自分が寂しく、わがままを言って、甘えたいことを隠し通してきた。迷惑をかけるのはいけないことだ、それはズルイことだと自分を蔑ろにしながらも相手を思いやる。加えて、能動的に動くことが出来ない自分を彼女は『臆病』だと自嘲的に分析した。




このように境遇の近似と気持ちを理解した上で掛ける、夏帆の性格を踏まえた、半ば反論のような体裁をとった主人公の不器用すぎる優しさは、臆病な夏帆の背中を押すものであったのだろう。それが証拠に、この日を境に次第に、主人公に対してのみ、笑ってしまうような小さなことだがわがままを言うようになる。その他にも遠慮も無くなり、たどたどしくもボケに対してツッコミを入れてみたり、自分からボケてみたりするようになる。(だいたいテンポやタイミングが悪く上手く機能していないのもまた可愛らしい。)

このように相手を知ることで、相手を受け入れ、夏帆もまた、主人公の内面に共感し主人公を受け入れていく過程を丁寧に描いていた。


このまま順当に行けば全国大会も優勝してハッピーエンドで万々歳だが、そうは問屋が卸さないのがエロゲであり、当然もうひと波乱ある。
次第に夏帆の目が見えなくなってきたのだ。初めは半年に一度、視界がなくなるだけだった。次は三ヶ月に一度。次は一ヶ月に一度。今ではロケット開発で目を酷使し続けたため一日も持たなくなったことを主人公に告白する。彼女はビャッコのためにも危険な現場に立つことを諦めた。






ここで主人公には2つの大きな選択を迫られることになる。
自分の気持ちを語らない夏帆が出した結論は夏帆の本心から望んだものなのか、そうではないのか。夏帆は理性的で強い。そして他人思いで優しい。その夏帆がロケットの開発を諦めたのだから自分たちが出来るのは優勝トロフィーを持っていき、夏帆を安心させることだ――仲間たちは口々にそう言う。振り返れば確かに、夏帆はみんなの前ではいつだってそう振る舞っていた。そう思わせる笑顔を主人公にも見せていた。一度は納得しかけるが、彼女のその性格はあくまでも過去に起きた事件によって形成された『対外的』なものであり、彼女の本心とは真逆に位置していることを、公園で語らい距離を縮め、身体を重ねて、思いの丈の一端を聞かされた恋人である主人公だけが知っている。ウソを嫌い、不正を嫌い、誠実であろうとする夏帆は、誰よりも自分自身に嘘をついて『理性的で強く、他人思いで優しい手のかからない夏帆』を演じ続けていた。そのことを相手を知り受け入れた主人公だけが知っているのだ。






このようにヒロインが被ったペルソナを自分の力では外せなくなる展開は王道であり、先述したように恋愛を『相手を知り、どれだけ受け入れられるか』と定義するならば正道だ。仲間が語る夏帆の美点を、主人公は明確に「気を使うは意地っ張り、しっかりしてるは言いたいことが言えない、優しいは臆病、理性的で強いは感情を押し殺して強がってばかり」と否定した。これらだけ見ればネガティブな要素の羅列でしかないが、他者を思いやる優しさと他者への甘えを許されなかった境遇という魅せ方と重ねることで美しく映える。夏帆というパーソナリティを形成するに至った過程を細かく描写されていただけでなく、ペルソナを強引に引き剥がすかのような力強さと、恋人である相手のことを理解しようとした、まさしく物語の主人公にしか出来ない夏帆の本質を引き出すような選択は『恋愛』の底力をあらためて思い知らされるような秀逸さだった。共通でも個別でも仲間たちの絆を丁寧に描く一方で、相手の本質を許し、取り繕う必要がない唯一の関係性として『恋愛』を引き立たせたのは芸術的な展開である。王道で正道であると言ったものの、それが十分に出来る作品が少ない中で(里伽子抄はこれよりも内面も立場も複雑化しているが、流れとしてはかなり近しいものを感じられる)、主人公が『ヒロインを知り受け入れていく』過程を卒なく、我々プレイヤーが共感できる形で描ききった点を評価したい。






こうして考えれば考えるほど黎明夏帆というヒロインは可愛い(KAWAII)。
奇跡とも言うべきキャラクター造形に立ち会えたことの幸福を噛みしめながら、筆を置きたい。

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