ATRI -My Dear Moments-　備忘録 - 退廃的文明開化

1．はじめに

まずは決して誤解されることがないように最初に明言しておきたいことは、個人的にこの作品はかなり好きな部類で、ノベルゲームとしての完成度も高い素晴らしい作品だと思っているということ。

基本的には褒めることしか思いつかないくらいの良作だが、若干許容しきれない箇所があったため備忘録としてここに記す。

本テキストはプレイ済みの方向けでネタバレを含みます。

2．問題点

許容しきれない問題点を一言でいえば、なぜ水菜萌をアトリがいなくなったあと主人公を支える存在に据えたのか？に尽きる。このスタートが歪だったが故にその後の展開もろもろが空寒く感じてしまった。
　

不満点①

作中主人公は好意に気づきながらもそれを放置していたし水菜萌も言えないことを良しとしていた。

水菜萌は伝えられないことにある程度の後悔はしていたものの、それらも引っくるめアトリと主人公を応援していた
この状況を見るに、おそらくアトリから発破をかけられなければ水菜萌は一生主人公に対して本気でアプローチを掛けることはなかっただろう。作中での水菜萌を見ているとアカデミーに行けば終わる関係程度の薄さにしか感じられない。そんな彼女を「同じく主人公に恋したから」という理由で支える存在に据えるのは無責任な枷ではないだろうか。気持ちは移ろい、永遠に変わらない思いはこの世に少なく、儚い。メモリーの欠如により誰よりもそのことを体感しているはずのアトリに、その責を負わせる役割を与えたことには違和感しかなかった。

不満点②

水菜萌とその後結婚している

頼まれたから結婚したのか？？？？？最後のテキストを見るに主人公の心には常にアトリがいたようだが、いくら尽くしても二番手の自分に疑問を抱かなかったのだろうか。
しかしながら、これが仮に18禁作品でアトリとセックスをしていたのであれば、おそらく倫理的に水菜萌とくっつかなかっただろう。それだけ純愛作品における性行為は特別視されるものだと思っている。…まぁもしかするとアスタ氏であればそれでもくっつけてたかもしれないが。

そのくせ、水菜萌とは子孫を残している。当然次世代へ想いを繋ぐことについて異論はない。アトリには子孫繁栄のための機能は備わっていないだろうということも分かる。だが、彼が家庭を顧みず研究に没頭していたことは死に目ですらも息子（娘？）や孫が現れず、水菜萌とヒューマノイドしかいない病室をみれば明らかではないだろうか。
確かに主人公は父親の偉大な背中を見て大きな使命を追う勇気を経た。子供や孫がいないのは主人公も自分の父親のように、そのような背中を見せたが故なのかもしれない。
ただし忘れてはいけないのは、少なくとも主人公の母親は父親が家庭を顧みないことに誇りを覚えながらも寂しさも感じていたことである。それに気付ける立場である主人公が同じ思いを水菜萌にさせていたであろうことには疑問しかない。

まとめると、主人公の心には常に別の女がいて、そのために研究に没頭し家庭を顧みない男を水菜萌は一生支えたわけである。こいつはヒューマノイドか？あまりにも慈愛に満ちすぎていて気味が悪い。当然、描写されていない箇所で愛されたがために水菜萌は納得し満足しているのかもしれない。そこまでは否定できないが、描写されていない以上気味の悪さが払拭されることもなかった。

不満点③

最後の「これは、心を宿したロボットの少女と、少女を愛した一人の少年の物語。」という締め方。

いや水菜萌は？？？？？？？
それで締めくくりたいなら、ますます別の女と結婚して、研究に没頭しながらもそれなりに幸せに暮らした的描写いらないでしょう。主人公の物語がそうして終わるのなら、水菜萌の人生とは一体何だったのか。主人公からすればアトリと再開するまでのいわば繋ぎとでもいうべきサイドストーリーでも、水菜萌からすれば好きな男と歩んだ日々こそがメインストーリーであるべきだろう。この悲しいまでの温度差を理解したうえで納得することは僕にはできなかった。

3．さいごに

いろいろ書いたが、アトリが可愛かったことは間違いなく作中にあった心温まるエピソードの数々は、アンドロイドが心を獲得し、恋愛をする作品として秀逸だったと思っている。僕もエンディングが流れた時点くらいまでは神ゲーを確信していた。要するにこれは備忘録と言いながらも「Trueがちょっとね…。」といいたいだけの愚痴である。

さて、せっかくなのでオタクらしく（？）愚痴と恥を塗り重ねるが、水菜萌にするくらいならアカデミーまで追いかけてくる凛々花に頑張ってほしかったな…。まぁこれはもし個別ルートがあったときそのほうがシナリオが面白そうというだけなのだが。そしてエンディングには『さくらとことり』が流れそうだ。...いや知らんけど。