「アレク・ヤーランはカプセラの持つユニークな能力を別の方法で用いることを善しとしており、
破壊的な主流派とは一線を画している。」
- アレク・ヤーラン・プロジェクト、使命記述書
YC113年/AD2011年7月上旬、カルダリ・ザイノウ社の大物研究者ハイレン・トゥコス(Hilen Tukoss)がミンマター・エイフィル社へ亡命しました。亡命の理由はザイノウ社の経営方針への不満だとされていますが、真相は不明です。
ハイレンは亡命先でアレク・ヤーラン・プロジェクトの始動を宣言しました。従来のアノイキスに対するアプローチは経済的・軍事的なものでしたが、アレク・ヤーランはアノイキスの学術的な研究を目的としたものでした。このプロジェクトはカプセラの支持を受け、エラム星系に研究拠点「アンティクース」が建設されました。アンティクースではアノイキスを中心に、何らかの関連があると思われる事象が広く研究されています。ハイレンはプロジェクトが軌道に乗った頃、突如として行方不明になりましたが、アンティクースは現在でも稼働中です。
同時期に、奇妙な事件が起きました。
https://zkillboard.com/kill/19187359/
あるアノイキスで1機のヘリオスが発見され、それは行方不明のリアンダが乗っていた機体らしいというのです。発見したカプセラは敵対勢力の機体だと誤認して撃墜してしまいましたが、発見時の機体は無傷で、誰も搭乗しておらず、ジョヴ技術の関連を仄めかすデータだけが残されていました。ハイレンはこの事件に大きな関心を寄せましたが、そこには学術的なもの以上の理由があったかもしれません。
リアンダとハイレンは過去に何らかの接点があったようです。
アンティクースが稼働して以降、幾つもの細分化されたプロジェクトが進行し、アノイキスとスリーパーの正体について相当の事実が判明しました。
まず、アノイキスはニューエデン南東方向1250光年から1350光年の位置に存在しているということです。クレオドロン社の調査で別の銀河系であろうとの予測は立てられていましたが、具体的な位置は判明していませんでした。
そしてタロカン文明との関係です。タロカン文明はニューエデンの暗黒時代(EVEゲート崩壊から四大国成立までの期間)に隆盛を誇った古代文明で、その遺跡はカルダリ宙域に確認されています。アノイキス内で確認されるスリーパー構造物とタロカン文明の遺跡には共通性があり、何らかの関係を有しているようです。
アノイキスとニューエデンの共通性も明らかになりました。アノイキスの惑星地表から採取されたサンプルの構造は、ニューエデンのそれと極めて類似しており、起源は同一のものだと判断せざるをえませんでした。僅かな差異についても研究され、分岐点はニューエデンの暗黒時代と同時期だと判明しました。
後に事実だと証明されましたが、ワームホールの出現よりもずっと前からスリーパーとニューエデンが関連を持っていた可能性も浮上しました。アレク・ヤーラン・プロジェクトに従事していたカプセラが、ミンマター、メトロポリス・リージョン、アニ星群で極めて古びたスリーパーの残骸らしきものを発見したのです。同星群には超光速通信が発明される以前に通信手段として用いられていた、謎めいた反響現象も存在しています。
その他、ローグドローンとスリーパーの関連性や、ヤン・ユング、タカマヒルといった古代文明などを対象に全17個のプロジェクトが進められ、現時点で判明した事実を総合した、いわば中間発表的な論文が作成されました。
暗黒時代に興ったタロカン文明はEVEゲート崩壊で失われた技術を復活させ、それを進化させることにすら成功しました。
そこで生まれたのがカプセラです。正確にはカプセラの原型にして、カプセラより優れたものと言うべきでしょうか。現在のカプセラは自分自身が艦船に搭乗する必要がありますが、タロカン文明ではカプセラは肉体を構造物に安置し、半自律的なスリーパーを遠隔操作することが可能だったのです。
しかし、タロカン文明においても今日同様、カプセラと非カプセラの対立という問題が発生しました。スリーパーのサルベージ品は不自然なまでに損傷しており、自爆装置の存在が推測され、この対立関係という仮説を補強する材料になっています。
この仮説が正しければ、タロカン文明はある時点で壮絶な内戦を起こし、スリーパーだけを残してタロカン人は衰退したということになります。内戦がカプセラの有利に進んだことは間違いないでしょうが、非カプセラも座して敗北を待ったわけではないようです。アノイキスには検疫・隔離施設が散見され、アレク・ヤーラン・プロジェクトでは非カプセラが何らかのウィルス(生物的、あるいは電子的な)を用いたのではないかと推測しています。
要約してしまえば、「アノイキスは(そこに到達した方法は不明ながら)タロカン文明の勢力圏で、スリーパーはタロカン文明におけるカプセラが用いた高度なドローン」ということになります。