中国の女流作家残雪の小説。
登場人物たちの会話が一切かみ合わないまま進む小説。
小説内に登場する問いかけに対して明確な答えが得られることは一度もなく、読者も登場人物も状況を全く把握することなく話が進んでいく。
読破にはかなりの体力を使うが、それに見合う読書体験を提供してくれるだろう。
地獄的な黄泥街の描写そのものも魅力。
その雨降りの日、老郁はずっと、委員会から来る人を待っていた。きじるしの楊三が老郁にたずねた。「委員会というのはいったいどんな機構なんだ?」「委員会?」老郁は測りしれない表情を浮かべ、もう一度くり返した。「委員会だって? いいか、あんたの出したこの問題は、きわめて重大な問題だ。その関係する面たるや不可思議になほどに広い。まあ、ひとつ喩えを出して、大まかに理解できるようにしてやろう。昔、この通りに張というものがおってな、あるとき一匹のきちがい犬がやって来て、豚を一頭と鶏を何羽か噛み殺したんだが、その犬が通りで暴れまわっている折も折、張がいきなり戸をあけ、ばたりと道に倒れて頓死してしまった。その日、空はしらじらとして、カラスは天地をおおって飛んできて……実際のところ、黄泥街にはまだ未解決の案件が山とあるんだが、あんたは自己改造を強化することについて、どう思っとるんだ? ええっ?」