- 鞍手郡
むかし、鞍手郡のある村に、仲むつまじい三人の親子が暮らしていました。
男は大工の忠兵衛、妻の名はさと、まだ幼い息子は忠助といいました。忠助はハトが大好きで、毎日お宮へ
出かけていっては日が暮れるまでハトと遊び、母につくってもらったべんとうも分け合って食べるほどでした。
忠助が七つのときのことです。母親のさとが突然病気で死んでしまいました。忠助はすっかり元気をなくし、
日がな一日家でぼんやりと過ごすことが多くなりました。お宮のハトたちはそんな忠助をなぐさめるかのように
忠助の家の回りに集まり、クルル、クルルと鳴いていました。
それから一年たって忠兵衛が後妻をもらうことになりました。宮大工で、仕事のため何日も家をあけることの多い
忠兵衛は、忠助のためにもそうするのがいちばんだと考えたのです。しばらくして、はまという人が勘八という
男の子をつれて忠兵衛のもとに嫁いできました。二歳下の勘八は忠助を慕って「兄ちゃん、兄ちゃん」といつも
そばにくっついていましたが、はまは忠助さえいなければ勘八を家の跡取りにできると思うと忠助がにくくて
たまりません。その思いは日に日に強くなり、とうとう忠助をなきものにしようとまで思うようになったのです。
忠兵衛が仕事で京都へ行った留守のことです。はまは忠助に山奥へ山菜を取りに行くよう命じると、こっそり
あとをつけ、谷底につき落としてしまいました。息も絶え絶えの忠助を見つけたのは、なんとお宮のハトでした。
毎日遊びに来ていた忠助が姿を見せなくなったので、八方に分かれて探していたのです。
忠助はハトにむかって、
「たぶんおれはここで死んでしまうだろう。このことを京都にいる父に何とか知らせてほしい」とたのみました。
ハトはくちばしで自分の足を傷つけると、流れる血で落葉に「ちゅうすけ」と書き、それをくわえて京都へ
飛んでいきました。
驚いたのは京都の忠兵衛です。
「きっと忠助の身に何か恐ろしいことが起きたに違いない」
と大急ぎで家に帰りました。ハトに導かれ、谷底の忠助を見つけた忠兵衛はホッと胸をなでおろしました。
忠助はハトたちが運んでくれた食べ物で、何とか命をつないでいたのです。
忠助を助け出した忠兵衛が、役人に訴えたため、はまは断罪されました。その後、忠兵衛、忠助、勘八の三人は
仲よく幸せに暮らしたということです。
トップページ
コメントをかく