- うきは市(旧浮羽郡)
むかし、むかし。
ある里山に、心のやさしいおばあさんが住んでいました。
おばあさんは働き者で、村でもたいへんな評判でした。
晴れた日は、朝早くから夜遅くまで畑仕事、雨の日は、家でせっせとはたを織る……
とにかく、よく働くおばあさんでした。だけどおばあさんは、いつも貧乏でした。
ところが、ある日のことです。
庭さきに、一羽の小雀が腰をおって、悲しそうにないておりました。
「まあ、かわいそか……今すぐ薬ばつけてやるけんな」
と言いながら、おばあさんは、その小雀をだいて家の中に入れてやり、暖かく介抱をしてやりました。
一日、二日、三日……六日、七日とたつうちに、小雀はすっかり元気になりました。
そして、おばあさんの手をはなれて、裏のやぶの方へと飛んでいきました。
おばあさんは、「無事に、スズメの宿まで帰っただろうか」と、心配していましたが、その次の日の朝のことです。
雀が一羽、おばあさんの家の軒先に来て、面白い声でさえずっていました。
不思議に思ったおばあさんが、雨戸を開けてみますと……昨日の小雀でした。
そして、口にくわえた瓢(ひさご)の種を一粒、おばあさんの前にポトリと落とすと、また裏のやぶの方へと、飛んでいってしまいました。
おばあさんは、瓢の種をめずらしく思い、さっそく畑にまいて、毎日水をやり、大事に育てました。
まもなく小さな芽が出、やがて花をつけ、そして秋口になると、大きなヒョウタンがたくさんなりました。
おばあさんはさっそく、そのヒョウタンを軒端に吊るしておきました。
十日、二十日とたつうちに、軒に吊るしたヒョウタンは青い色からキツネ色に変わり、その上たいへんやつやが出てきました。
おばあさんは喜んで、一つ手にとってみたくなり、吊るしたヒョウタンの一つを下ろそうとしました。
ところが手にかけたヒョウタンは、とても重いものでした。
「こりゃ、どげんしたこつの。中には、なんにも入っとらんはずばってんが」
独り言を言いながら、やっとの思いで下ろしたヒョウタンを、逆さまにしてみました。
すると中から、真っ白な米がサラサラと出てくるではありませんか。
「おお……米、米……こりゃ不思議……わしゃ確かに、米は入れておらんやったつに……」
と言って、一粒とって口に入れて噛んでみましたが、やっぱり本当の米です。
残りのヒョウタンからもみんな、真っ白い米がサラサラ……。
ところが、米は次から次へといつまでたっても、無くなるということがありません。
おばあさんは、その米を近所の人々に配って回りましたが、やはり米は、いっこうに無くなりません。
このことを耳にした隣村のあるおばあさんが、
――ほんなこつ、うちもあげな真似ばしてくさ、いっちょ、あげな大金持ちになってみたか――
とある日、竹林の中で、一羽の小雀をつかまえ、わざと腰を折って、家に連れて帰り、鳥かごの中に入れては、
知らぬ顔をきめこんでおりました。
雀は、ひもじさで今にも死ぬような思いをし、その上折られた腰の痛みに、泣くにも泣けない思いをして、
七日の間もがき苦しみ続けました。
「もうよかろう……そろそろ瓢の種ば持って来るころじゃ」
そう思ったおばあさんは、雀をかごの中からつかみ出し、プイと空中にほうり投げました。
雀はフラフラとしましたが、それでもやっと、裏のやぶの方へ飛んで行きました。
欲のはったおばあさんは、
「雀は明日どげん土産ば、持って来るじゃろうかのう」
と楽しみにしていました。
さて、次の日のことです。
軒端で雀がやかましくさえずっています。欲張りのばあさんは、「しめたぞ」とばかり、戸を開けてみますと、思ったとおり、
昨日の雀が口に瓢の種を一粒くわえてきて、おばあさんの前にポトリと落とすと、逃げて行きました。
おばあさんは、さっそく種をまきました。瓢もたくさんとれました。よろこんだおばあさんは
「はよう出れ出れ、米よ出れ」
と軒先に吊るした瓢を見ながら、毎日、仕事もせずに独り言を言っていましたが、真っ白い米の出てくる様子もありません。
おばあさんは、とうとう腹を立て、瓢をみんな引き摺り下ろして、打ち壊してしまいました。
すると、どうでしょう。
瓢の中から出てきたムカデやハチやヘビが、欲深いおばあさんを目掛けて襲い掛かったということです。
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