- 川崎町
川崎町のほぼ中央を流れる中元寺川の上流に鮎返(あゆがえ)という所があります。
ここは平たい大きな岩が何枚も重なっているところから、別名を千畳岩とも呼ばれますが、
この千畳岩について面白い話が伝わっています。
むかし、鮎返一帯では肥えた水田が広がり、川端には美しい大きな松が生い茂っていました。
このあたりの土地は、村でも一、二番の分限者といわれる庄兵衛さんのものでした。
ある日、庄兵衛さんは、まだ誰もオノを入れたことのない鮎返の松の枝落としに出かけました。
庄兵衛さんは次々と枝を落としていましたが、ちょっとしたはずみで大切にしていたオノを
下の淵に落としてしまいました。
鮎返淵は、どんな干ばつでも底を見せたことのないほど深く、とてもオノを拾えそうにありません。
欲深い庄兵衛さんは、落としたオノが惜しくて、鮎返淵に飛び込みどんどん潜って行きました。
すると、急に目の前が明るくなり、立派な御殿の前に立っていました。
びっくりしている庄兵衛さんの前に美しい乙姫が現れ、丁重に御殿に招き入れました。
くる日もくる日もご馳走が出され、大変なもてなしを受け、庄兵衛さんは夢のような日々を送っていましたが
だんだん家のことが心配になってきて、「オノを返してくれ、家に帰りたい」と乙姫に申し出ました。
乙姫は別れを惜しみながら、「家に帰られても、この御殿のことは決して人に話さないでください」
と頼みました。
乙姫と約束した庄兵衛さんが、家に帰りつくと、家では丁度、庄兵衛さんの一周忌の法事が
行われていました。
ところが、ひょっこり庄兵衛さんが帰って来たので、家の者はびっくりするやら喜ぶやらで
大騒ぎとなりました。
そのうち家の者たちが「一年間もいったいどこにいたのか」と尋ねました。
庄兵衛さんは乙姫との約束をうっかり忘れて、鮎返淵の御殿のことを話してしまいました。
すると、どうしたことか、にわかにかき曇り天地も裂けるほどの雷鳴がとどろき、
大雨や大風が三日二晩あれ狂い、庄兵衛さんの田は、みるみるうちに大きな岩だらけに
なってしまったということです。
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