最終更新: centaurus20041122 2014年03月24日(月) 16:37:48履歴
宴会の開始時間が近づき、続々と人が集まってきた。40人中、連絡がついたのが35人。2人は海外留学中で来れないとのことだ。そして、もう25人が会場に到着していた。
そこに貴樹が到着した。
「お、遠野だ」
「遠野くん、かっこいい〜」
女性陣から声があがる。小学校のころから実は貴樹は秘かな人気があったが、あまりにも明里と一緒にいたため具体的なアクションを受けることはなかった。そのため、本人にもその認識がまったくない。
キョロキョロしていた貴樹だが、空いている適当なスペースを見つけて座った。
「あれ、遠野くん、篠原さんは? 一緒に来るってはがきに書いてあったけど」
寄ってきた水谷が聞く。
「ああ、明里は仕事がちょっと押してて、15分くらい遅れるって」
「遠野、篠原とつきあってるの?」
挨拶も抜きで稲垣がさっそく突っ込んでいく。
「え、うん」
いきなり聞かれたので、とくに何にも考えないまま答えた。
「いつから?」
「え、うーん……いつからってことになるのかな……やっぱ、正式には中1から? ん、でも……その前も違うということじゃないし」
貴樹の心の中では、明里のことを特別だと認識した時点は自覚があるのだが、「両想いである」「つきあっている」ということを何らかの事柄でもって、明確に自覚したことがない。グラデーションのように「いつのまにか」こうなっていた。
雪の日のファースト・キスは、それまでの人生のパラダイム・シフトでもいうべきものだったけれど、あの出来事でもって明確に「恋人になった」かというとそうとも言い切れなかった。そのあとの手紙であの日のことを触れることはなかったし、二人の関係を明確にしようという動きもなかった。むしろ、そういう話があがっていたら、手紙がいったん絶えるということもなかったはずなのだ。
だからこそ、皆既日食のときの再会の場で、あの丘で貴樹はそれを明確にしたのだ。
二人の仲はこのクラスではほとんど「公認」だった。
しかし、8年の時を経て、今も関係が続いているとは、誰も思っていなかった。
そもそも小学生では「男女交際」という概念をまだ持っていない。
「なにぶつぶつ言ってるんだ」
笑いながら周りから突っ込みが入る。貴樹がうーんとうなって考え込むなんていうのは実は珍しいことだった。
「篠原の仕事ってモデルのこと?」
別の声が尋ねる。
「なんだ、知ってるのか。そう、ファッション誌のモデル」
「すげーなあ。どうやってなったの?」
稲垣が聞く。
「それは本人から聞いたほうがいいと思うよ」
そんな話をしていたら、不意に一画で「おおーっ」という声があがった。
「かわいー」
「あかり、きれーになったねー」
主に女性陣の歓声。明里が到着したようだ。
顔をあげると美しく成長した明里が立っていた。
ピンク色のコートに白いマフラー。柔らかそうな黒髪。
毎日目にしている貴樹の目でさえも、毎回新鮮な感動を与えてくれる。
きれいだ。
「篠原、こっちこっち」
稲垣が立ちあがって場を仕切り始める。
明里が自分を指さしながら「わたし?」と首をかしげている。
その仕草さえ、その魅力を引き立てている。
「さあて、これから、遠野・篠原の共同記者会見をはじめるぞ」
稲垣が高らかに宣言する。
そう言われて貴樹は露骨にいやな顔をしたが、
「それはいいな」
「いちいち説明するより、全員に一度で済むぞ」
という声に「それもそうか」と考え直して、貴樹も「明里、こっち」と手招きした。
貴樹は理系らしく、基本的に「効率がいい」のを好む。明里は万事慎重で「面倒くさがり」な面がある。そのかわりこうと決めたらガシガシと進んでいく力強さを身につけていた。
そんな二人だから、自分たちへの詮索にいちいち答えるより楽なのかなと漫然と思ったのだ。
二人を取り囲むように場が作り直された。会場の壁際の真ん中に貴樹と明里が座らされ、その前に水谷や稲垣が陣取る。そのほかの人たちはその後ろ。
座敷に座卓を並べてあったのでまるで江戸時代の寺子屋みたいな感じだ。
稲垣が「とりあえず乾杯してからにしようか」と言ったので、ビールやワインを手にした。
「20歳のおれたち、おめでとー!! かんぱーい」
あちこちでチリン、カチンとグラスの当たる音がして静かになる。
そして、第一声の質問が飛んだ。
「さっきも遠野には聞いたけど、なんか考えこんでるから。二人はいつから付き合ってるの?」
その質問に貴樹と明里は顔を見合わせて「うーん」と思案顔になった。
(つづく)
そこに貴樹が到着した。
「お、遠野だ」
「遠野くん、かっこいい〜」
女性陣から声があがる。小学校のころから実は貴樹は秘かな人気があったが、あまりにも明里と一緒にいたため具体的なアクションを受けることはなかった。そのため、本人にもその認識がまったくない。
キョロキョロしていた貴樹だが、空いている適当なスペースを見つけて座った。
「あれ、遠野くん、篠原さんは? 一緒に来るってはがきに書いてあったけど」
寄ってきた水谷が聞く。
「ああ、明里は仕事がちょっと押してて、15分くらい遅れるって」
「遠野、篠原とつきあってるの?」
挨拶も抜きで稲垣がさっそく突っ込んでいく。
「え、うん」
いきなり聞かれたので、とくに何にも考えないまま答えた。
「いつから?」
「え、うーん……いつからってことになるのかな……やっぱ、正式には中1から? ん、でも……その前も違うということじゃないし」
貴樹の心の中では、明里のことを特別だと認識した時点は自覚があるのだが、「両想いである」「つきあっている」ということを何らかの事柄でもって、明確に自覚したことがない。グラデーションのように「いつのまにか」こうなっていた。
雪の日のファースト・キスは、それまでの人生のパラダイム・シフトでもいうべきものだったけれど、あの出来事でもって明確に「恋人になった」かというとそうとも言い切れなかった。そのあとの手紙であの日のことを触れることはなかったし、二人の関係を明確にしようという動きもなかった。むしろ、そういう話があがっていたら、手紙がいったん絶えるということもなかったはずなのだ。
だからこそ、皆既日食のときの再会の場で、あの丘で貴樹はそれを明確にしたのだ。
二人の仲はこのクラスではほとんど「公認」だった。
しかし、8年の時を経て、今も関係が続いているとは、誰も思っていなかった。
そもそも小学生では「男女交際」という概念をまだ持っていない。
「なにぶつぶつ言ってるんだ」
笑いながら周りから突っ込みが入る。貴樹がうーんとうなって考え込むなんていうのは実は珍しいことだった。
「篠原の仕事ってモデルのこと?」
別の声が尋ねる。
「なんだ、知ってるのか。そう、ファッション誌のモデル」
「すげーなあ。どうやってなったの?」
稲垣が聞く。
「それは本人から聞いたほうがいいと思うよ」
そんな話をしていたら、不意に一画で「おおーっ」という声があがった。
「かわいー」
「あかり、きれーになったねー」
主に女性陣の歓声。明里が到着したようだ。
顔をあげると美しく成長した明里が立っていた。
ピンク色のコートに白いマフラー。柔らかそうな黒髪。
毎日目にしている貴樹の目でさえも、毎回新鮮な感動を与えてくれる。
きれいだ。
「篠原、こっちこっち」
稲垣が立ちあがって場を仕切り始める。
明里が自分を指さしながら「わたし?」と首をかしげている。
その仕草さえ、その魅力を引き立てている。
「さあて、これから、遠野・篠原の共同記者会見をはじめるぞ」
稲垣が高らかに宣言する。
そう言われて貴樹は露骨にいやな顔をしたが、
「それはいいな」
「いちいち説明するより、全員に一度で済むぞ」
という声に「それもそうか」と考え直して、貴樹も「明里、こっち」と手招きした。
貴樹は理系らしく、基本的に「効率がいい」のを好む。明里は万事慎重で「面倒くさがり」な面がある。そのかわりこうと決めたらガシガシと進んでいく力強さを身につけていた。
そんな二人だから、自分たちへの詮索にいちいち答えるより楽なのかなと漫然と思ったのだ。
二人を取り囲むように場が作り直された。会場の壁際の真ん中に貴樹と明里が座らされ、その前に水谷や稲垣が陣取る。そのほかの人たちはその後ろ。
座敷に座卓を並べてあったのでまるで江戸時代の寺子屋みたいな感じだ。
稲垣が「とりあえず乾杯してからにしようか」と言ったので、ビールやワインを手にした。
「20歳のおれたち、おめでとー!! かんぱーい」
あちこちでチリン、カチンとグラスの当たる音がして静かになる。
そして、第一声の質問が飛んだ。
「さっきも遠野には聞いたけど、なんか考えこんでるから。二人はいつから付き合ってるの?」
その質問に貴樹と明里は顔を見合わせて「うーん」と思案顔になった。
(つづく)
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