最終更新: centaurus20041122 2014年07月14日(月) 11:18:46履歴
両毛線、宇都宮線、埼京線、小田急線を乗り継いで、貴樹が自宅に帰りついたのは朝8時すぎだった。
前日と打って変わって、電車はダイヤ通りに動いていた。
玄関のドアは施錠されている。大丈夫、ばれていない。
扉を開けて靴を脱ぎ、キッチンのイスに座ったとたんに電話が鳴って驚いた。
土曜の朝8時に電話がなるなんて。
ガチャリ。電話に出る。
「はい……」
「貴樹くん? 篠原です」
大人の女の人の声。すこし上ずっているのを無理に押し込めている感じ。
そして、その一声で貴樹は事態を理解した。
「ごめんなさい。僕が悪いんです。明里ちゃんは何も悪くないです」
思わずそう言っていた。
「無事に帰れた? ……いーい、貴樹くん。私はとても怒ってます」
明里の母からそう言われて、絶望的な気持ちになる。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
「無断外泊したのもそうだけど、一番はあなたたちの計画を教えてくれなかったこと」
「……」
そう言われても。こんなことになるなんて思っていなかった。
大宮で電車が遅れているというアナウンスを聞くまで、「電車遅延」なんて考えもしていなかった。雪が降るなんて。
「私は貴樹くんに感謝してる。あなたと会ってからの明里はとても明るくなったし、積極的にもなったから。だから、あなたにはこれまで通り、明里と仲良くしていてほしいの」
「……はい」
それはもうできない。僕は来週、種子島へ行くのに。
そう思った。
「あの、僕は来週、東京から引っ越すんです」
「……明里から聞いたわ。だから、最後にわざわざ会いに来てくれたのね」
「……はい……本当にごめんなさい」
「明里がね、空港までお見送りに行きたいと言ってるの」
明里の母はそう言うことで、貴樹のそれ以上の謝罪は不要だと知らせた。
「え、あ……はい」
「ほら、いきなり空港であなたのご両親に会うと、なんのことだかわからないでしょ? だから、お母さんがいたら代わってほしいの」
どきんとした。親に言われたらどうなることか。でも、明里の母親と貴樹の母親は面識がある。
「母は、父もですが、まだ帰っていません……」
「そう。じゃあ、昼過ぎにでもまた連絡するわ。昨夜のことは私しか知らないから。あなたが十分に反省してくれているようだから、あなたのご両親にも何も言わない。その代わり、一つだけ約束して」
「……はい」
そう言われたら無条件で誓約するしかない。
「あなたたちはまだ子供なの。だから、時間が遅くなるようなときは必ず伝えて」
「わかりました。本当に申し訳ありませんでした」
気づくと貴樹は電話の前で直立不動のまま90度腰を折っていた。
-
その日の午後、再び明里の母から連絡があった。貴樹は帰宅していた母親に取り次ぐ。
「来週、羽田空港まで明里が見送りに来たいと言っているので、行ってもよいか」
そう事前に用件を伝えていたので、話はスムーズに進み、約束は成った。
3月9日、羽田空港第二ターミナル。
時計台の下で二つの家族は落ちあった。
(つづく)
前日と打って変わって、電車はダイヤ通りに動いていた。
玄関のドアは施錠されている。大丈夫、ばれていない。
扉を開けて靴を脱ぎ、キッチンのイスに座ったとたんに電話が鳴って驚いた。
土曜の朝8時に電話がなるなんて。
ガチャリ。電話に出る。
「はい……」
「貴樹くん? 篠原です」
大人の女の人の声。すこし上ずっているのを無理に押し込めている感じ。
そして、その一声で貴樹は事態を理解した。
「ごめんなさい。僕が悪いんです。明里ちゃんは何も悪くないです」
思わずそう言っていた。
「無事に帰れた? ……いーい、貴樹くん。私はとても怒ってます」
明里の母からそう言われて、絶望的な気持ちになる。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
「無断外泊したのもそうだけど、一番はあなたたちの計画を教えてくれなかったこと」
「……」
そう言われても。こんなことになるなんて思っていなかった。
大宮で電車が遅れているというアナウンスを聞くまで、「電車遅延」なんて考えもしていなかった。雪が降るなんて。
「私は貴樹くんに感謝してる。あなたと会ってからの明里はとても明るくなったし、積極的にもなったから。だから、あなたにはこれまで通り、明里と仲良くしていてほしいの」
「……はい」
それはもうできない。僕は来週、種子島へ行くのに。
そう思った。
「あの、僕は来週、東京から引っ越すんです」
「……明里から聞いたわ。だから、最後にわざわざ会いに来てくれたのね」
「……はい……本当にごめんなさい」
「明里がね、空港までお見送りに行きたいと言ってるの」
明里の母はそう言うことで、貴樹のそれ以上の謝罪は不要だと知らせた。
「え、あ……はい」
「ほら、いきなり空港であなたのご両親に会うと、なんのことだかわからないでしょ? だから、お母さんがいたら代わってほしいの」
どきんとした。親に言われたらどうなることか。でも、明里の母親と貴樹の母親は面識がある。
「母は、父もですが、まだ帰っていません……」
「そう。じゃあ、昼過ぎにでもまた連絡するわ。昨夜のことは私しか知らないから。あなたが十分に反省してくれているようだから、あなたのご両親にも何も言わない。その代わり、一つだけ約束して」
「……はい」
そう言われたら無条件で誓約するしかない。
「あなたたちはまだ子供なの。だから、時間が遅くなるようなときは必ず伝えて」
「わかりました。本当に申し訳ありませんでした」
気づくと貴樹は電話の前で直立不動のまま90度腰を折っていた。
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その日の午後、再び明里の母から連絡があった。貴樹は帰宅していた母親に取り次ぐ。
「来週、羽田空港まで明里が見送りに来たいと言っているので、行ってもよいか」
そう事前に用件を伝えていたので、話はスムーズに進み、約束は成った。
3月9日、羽田空港第二ターミナル。
時計台の下で二つの家族は落ちあった。
(つづく)
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