新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

「どうもね、夏休みのあと、『篠原明里がアツい』ってことになっているらしいのよ」

「なにそれ?」
きょとんとする明里。

理系らしく論理的に説明しようとする理子によると……

・夏休みのあと、3年1組の篠原がめっちゃかわいくなってないか
・あ、俺、ずっと前から注目してたんたけど
・ていうか、俺、去年告ってフラれた
・え、お前も?
・でも、男の影、ないよなあ?


「っていう話が広がっているらしいのよ」

「はぁ……」
明里にとっては、ただ「面倒くさい」だけの話だ。なぜ急にそんなことになっているのか。自分の回りの生活は一切変わっていないのに。

「まあ、『なにかあった』あと、女が急にキレイになるっていう話はよく聞くわよね」
そう言われて顔を赤くする明里。それが原因? まさか。

「そういうこと言わない!!」思わず言ってしまう。

「ごめんごめん……夏休みに会ってたってことはないんでしょ?」

「実は……」
おずおずと告白する。

「あれ? 遠野君、来てたの?」

「予備校の短期集中夏季講座っていうので、1週間東京に来てたの……そのときに一泊だけ、東京で会った」

「い、一泊!?」
思いもよらぬ単語に、声のトーンがあがる理子。

無言で顔を赤らめる明里を見て、「確かにかわいくなったなあ」と思う。

「あんた、よく赤面するわりには大胆なことをズバリ言うわよね」

「それは親友の理子だからだよ」
そう言われて気分が悪くなるはずもない。

「ぐふふふふ、そうだったのかー。それで、順調?」

「うん!」

「そっちじゃなくて勉強のほうよ」

「あ」
さらに照れる明里だった。

手紙は2週に一度、その間には電話。
携帯電話は高いので無理だったのだけど、PHSはかなり安く入手できたので明里は種子島から帰るとすぐに契約した。主に使うのはメール機能なんだけど。
二人で取り決めた逢瀬の時間だった。

携帯電話とPHSの通話はまだ割高で、二人は手紙と電子メールを併用して連絡をいつでもとれるようにしていたのだった。パケホーダイの上限にひっかからぬよう、必要最小限の言葉で気持ちを伝えるテクニックが身に着いた。

「きっと、そのせいね。恋するフェロモンでキレイになったのかなあ」

「受験勉強の邪魔にならなければ、私はどうでもいいんだけど」

ぞんざいな物言いにも聞こえるが、明里の目的は「東京の大学に入って、一人暮らしになって、貴樹の横に戻る」の一点に絞られているので、そのほかの事に関しては極端に興味がないのだ。

「それがさ……原口がぶちあげたミスコンにあんたを推薦しようっていう動きまであるんだって」

「ええ?」
さらに面倒だなあ……。今まで目立たないように処世してきたつもりだったのに。

こんなとき、理子なら「美しさは罪ね」ぐらい言いそうだけど。

「他薦は20人だっけ……私を推薦しようっていう、変な人がそんなにいるとも思えないけれど……」


数日後。

「篠原先輩、ちょっといいですか」

昼休みに声をかけられた。2年生の女子らしいが、面識はない。

「なんでしょう」

「実は、篠原先輩を今度のミスコンに推薦したいっていう話がありまして」

「ええ?」
その女生徒は学園祭実行委員だった。確か推薦人は20人以上のはず。この学校には暇な人が多いのだろうか。

「あれって、20人の推薦がないといけないんだよね?」

「もう50人集まってるんですけど……」

「え……」
50という数字は驚きを通り越して、恐怖に近い感情を呼び起こす。
それだけの人が自分を注視していると思うと。しかし、その女生徒は淡々と説明を続けた。

「他薦なのでエントリーは確定です。告知用パンフのために写真と、アンケートに答えてほしいんですけど……」

そのアンケートの、設問内容を読んだ明里はふっとひらめいた。

「わかりました。これに答えればいいのね?」



半月が過ぎ、新企画学園ミスコンテストの予選投票が開始される日になった。

「明里、あんた、マジ?」

血相を変えて、部室に飛び込んできた理子。手には「ミスコン予選参加者プロフィール」がまとめられた小冊子が握られている。

「出るの? こんなのに?」
表紙に明里の写真が載っているのが見える。
「言ったじゃない」
さらりと言うと、「そんなの冗談ていうか、あんた話を適当に流してるときあるじゃん」とぶつぶつ言っている。私もそうだけど、理子も私に対しての対処法を持っているのかと思って少し笑ってしまった。

「まあ、今回は、ちょっと考えがあって」

「考え?」

「それ、中身読んだ?」

理子の手に握られた小冊子に視線を流す。

「いや……まだだけど……」

ぺらぺらとめくり、ある場所でピタっととまり、集中熟読体制に入っている。
そして、視線を上げると呆れたふうに口を開いた。

「なに、このアンケート……」

(つづく)

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