最終更新: centaurus20041122 2014年04月16日(水) 22:45:58履歴
日食前日の夜。
花苗は姉に話を聞いてもらっていた。
自分がどうして遠野くんを好きになったのか。
どこがいいのか。
スランプに陥ったショートボードに、また立てるようになったら、告白しようと思っていたこと。
そのほか、いろいろ。
姉が言う。
「きっと、遠野くんの彼女は花苗のことがうらやましいと思ってるわよ」
「……どうして」
「だって、あの二人は今日までの5年3か月、まったく会えなかったのよ。それに引き換え、花苗はほとんど毎日会えたし、会話もできたし。週に何度かはカブで一緒に下校して、家の前まで送ってくれる」
「……」
「あの二人は会えない時期を手紙だけでつないでいたそうよ。あなたはその気になればすぐにでも気持ちを直接、伝えることができた」
そう言われて花苗は気色ばむ。
「だから、そうしようと!!」
「気持ちの強さ、いえ、タイミング……なんていうのかな、いろいろな問題よ……ここと栃木は1000キロ離れてる。私の友人にも長距離恋愛している人はいたけど、みんなダメになってた。でも、あの二人は、見事に気持ちをつなげ続けた。そこに、花苗は入っていけると思う?」
決定的な問いをされて花苗は話題を変えた。
「……遠野君の彼女って、どんな人だった?」
口に出してみて、改めて違和感を感じる花苗。遠野君の彼女。不思議な響きの単語。
「そおねえ……あなたとはタイプが違うわね。色白で、ふんわり優しそうな感じ。でも、芯は一本通ってる。あなたに言うのも酷かもしれないけれど、美人だったよ」
「そうか……お姉ちゃん……私はどうしたらいいの……」
「あなたが今の高校に勉強をがんばって入ったのは、遠野君と同じ学校に行きたかったからでしょ?」
「……ん」
図星だった。
「わたし、ちょっと見直してたんだよ。気持ちの強さ、意思の強さで人はこんなにも変わるのかって。今日、花苗は失恋したけど」
「……」
「あなたの未来が消えたわけじゃないのよ。これからでもあなたは自分で未来を切り開いていける」
「わたし……がんばれると思う?」
「私が思うに……花苗はなかなか素質あると思うけどね。ただ、ぼーっとしてるだけ。自分の本当の力に気づけていないっていうか」
「私……勉強がんばってみようかな」
「え?」
「東京に。私も東京の大学に」
「別に私みたいに九州の大学でもいいじゃない……遠野君につきまとうつもり?」
「違う。遠野くんを通して、私の中には東京っていう存在が、とてもすごいものだってずっと感じてた。勉強はあまり興味がなかった。だから、その二つを征服したら、今よりもっと高いところへ行けるんじゃないかなって……。それに、お姉ちゃんも越えられる」
「……花苗……」
「お姉ちゃんのことは好きだけど、でも、出来のいい姉を持つと、これでもいろいろつらいのよ?」
そういう花苗は少しわらった。
「でも……明日はダメ。遠野くんが他の女の子に微笑みかけてる姿なんて見てられない。しばらく時間がほしい」
「しょうがないわね……明日は世界中からわざわざここまで見に来る皆既日食があるから、庭からでも見てなさい」
「ん……日食ってどのくらい続くの?」
「皆既食は3分くらいだって聞いたけど」
「願い事を唱えたら叶うかな」
「流れ星じゃないから」
苦笑してそう言いながらも、「きっと叶うわよ」と、姉はそっと妹の肩を抱いた。
(つづく)
花苗は姉に話を聞いてもらっていた。
自分がどうして遠野くんを好きになったのか。
どこがいいのか。
スランプに陥ったショートボードに、また立てるようになったら、告白しようと思っていたこと。
そのほか、いろいろ。
姉が言う。
「きっと、遠野くんの彼女は花苗のことがうらやましいと思ってるわよ」
「……どうして」
「だって、あの二人は今日までの5年3か月、まったく会えなかったのよ。それに引き換え、花苗はほとんど毎日会えたし、会話もできたし。週に何度かはカブで一緒に下校して、家の前まで送ってくれる」
「……」
「あの二人は会えない時期を手紙だけでつないでいたそうよ。あなたはその気になればすぐにでも気持ちを直接、伝えることができた」
そう言われて花苗は気色ばむ。
「だから、そうしようと!!」
「気持ちの強さ、いえ、タイミング……なんていうのかな、いろいろな問題よ……ここと栃木は1000キロ離れてる。私の友人にも長距離恋愛している人はいたけど、みんなダメになってた。でも、あの二人は、見事に気持ちをつなげ続けた。そこに、花苗は入っていけると思う?」
決定的な問いをされて花苗は話題を変えた。
「……遠野君の彼女って、どんな人だった?」
口に出してみて、改めて違和感を感じる花苗。遠野君の彼女。不思議な響きの単語。
「そおねえ……あなたとはタイプが違うわね。色白で、ふんわり優しそうな感じ。でも、芯は一本通ってる。あなたに言うのも酷かもしれないけれど、美人だったよ」
「そうか……お姉ちゃん……私はどうしたらいいの……」
「あなたが今の高校に勉強をがんばって入ったのは、遠野君と同じ学校に行きたかったからでしょ?」
「……ん」
図星だった。
「わたし、ちょっと見直してたんだよ。気持ちの強さ、意思の強さで人はこんなにも変わるのかって。今日、花苗は失恋したけど」
「……」
「あなたの未来が消えたわけじゃないのよ。これからでもあなたは自分で未来を切り開いていける」
「わたし……がんばれると思う?」
「私が思うに……花苗はなかなか素質あると思うけどね。ただ、ぼーっとしてるだけ。自分の本当の力に気づけていないっていうか」
「私……勉強がんばってみようかな」
「え?」
「東京に。私も東京の大学に」
「別に私みたいに九州の大学でもいいじゃない……遠野君につきまとうつもり?」
「違う。遠野くんを通して、私の中には東京っていう存在が、とてもすごいものだってずっと感じてた。勉強はあまり興味がなかった。だから、その二つを征服したら、今よりもっと高いところへ行けるんじゃないかなって……。それに、お姉ちゃんも越えられる」
「……花苗……」
「お姉ちゃんのことは好きだけど、でも、出来のいい姉を持つと、これでもいろいろつらいのよ?」
そういう花苗は少しわらった。
「でも……明日はダメ。遠野くんが他の女の子に微笑みかけてる姿なんて見てられない。しばらく時間がほしい」
「しょうがないわね……明日は世界中からわざわざここまで見に来る皆既日食があるから、庭からでも見てなさい」
「ん……日食ってどのくらい続くの?」
「皆既食は3分くらいだって聞いたけど」
「願い事を唱えたら叶うかな」
「流れ星じゃないから」
苦笑してそう言いながらも、「きっと叶うわよ」と、姉はそっと妹の肩を抱いた。
(つづく)
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