最終更新: centaurus20041122 2014年04月24日(木) 10:24:28履歴
部屋に入ってきた理子。その後ろから大柄な木村も顔を出した。
そして、部屋の中に花苗がいるのを見つけると、二人で顔を一瞬見合わせてから、機関銃のように話し始めた。
「なんでなんでなんで、こんなところに澄田さんがいるの?」
「あれ、理子、知り合い?」不思議に思って明里が聞くと。
「ていうか、そうか、知らないか。澄田さんは全日本サーフィン選手権女性の部でおととし初参加で3位、去年はチャンピオン、そして、今年も今のところトップ。日本を代表する選手なんだよおおおおお。愛読してるサーフィン雑誌にも毎号出てるし!!!」
理子が興奮しながら説明している。あの沈着冷静な木村でさえ、「あとでサインもらえますか」と聞いている。
「澄田は高校の同級生なんだよ」と貴樹が言うと、「すごおおいいい!! こんなに近くにそんな縁があったなんてぇぇぇぇ」とテンションがさらに上がっている。
理子のあまりの熱気に、
「そうだったんだ。島にいるときからやっているのは知ってたけど、それはすごいなあ」と、貴樹が感心している。
「貴樹君は特に泳ぎは苦手だし」と明里に暴露されて、「よけいなこと言うなよ……」とうなだれているのがかわいいと花苗は思う。
「遠野くん、泳ぎだめなの?」
そういえば海を眺めているところはよく見たけれど、泳いでいるところは見たことがなかった。
「泳げないわけじゃないけど、まあ、積極的に泳ごうとは思ってなかったなあ」
「でも、ジムに行き始めて、がんばって克服中」と明里が追加。
「へえ、遠野くんでも不得意なことあるんだ」
「そりゃあるさ。誰だって得意不得意はあるから。それにしても、澄田がそんなすごい選手だったなんて、友達に自慢しよう。何人か、サーフィンしてる奴がいるし」
そう言われて、自分があの遠野に勝っている部分があるなんてって思った。
「今年から、スポンサーついてないですか?」興奮さめやらぬ理子が聞いている。
「うん、D社がついてくれたんだけど」
「ああ、説明すると澄田さんは去年プロ宣言していて、賞金ランキングもトップ!」
「サーフィンのプロ?」
貴樹が不思議に思って聞く。
理子によるマリンスポーツにおける「プロ」について、ひとしきり講義のあと、「でも、日本ではサーフィンだけでは食べていけないから」と花苗が沈むように言う。3年生というのはセンシティブな年齢なのだ。
「日本でサーフィンで食べてる人は皆無。世界でも10人くらいじゃないかな。欧米のメーカーからスポンサードされないと無理」
「だいたい、日本のサーフィン界はねえ」と理子が愚痴り始め、祐一がとりなしている。なんだか、夫婦みたい。
そう思って言ったら、理子が真っ赤になって照れていた。
「まあ、就職うんぬんよりも、明日のバイト先が問題なんだよね」
花苗が言う。
「サーフィンのチャンピオンがバイト?」
「賞金はもらえるけど、転戦する旅費やエントリーフィーもバカにならないから、そんなに残らないんだよね……。夏場はサーフィン教室の講師があるけど、寒くなるとコンビニでバイトとか……」
「もったいない……」
「あ、うちらが通ってるジムで、スタッフ募集してなかった?」
理子が思いだしたように言った。
「ジム?」
「子供の水泳教室のコーチができる人。体育免許所持者や体育科在籍者優遇ってあったよ。澄田さんならイケるんじゃない?」
「でも、私の泳ぎなんて我流だし……」
「まあ、話聞いてみるだけでもいいんじゃないの?」
その後の話になるが、お得意様の紹介ということでとんとん拍子に花苗はそのジムでのバイトの口を見つけることができたのだった。
--
3時間も長居をしたので1次会で終わったプチ同窓会だけど、終わってみたらみんな和やかで、連絡先の交換となった。ビルから出て、路上で「ちょっと」と花苗は明里を呼んだ。
「明里さん、私、遠野くんのことがずっと好きでした」
花苗がまっすぐに目を見ていう。
「うん……お話は聞いています」少し緊張して答える明里。
「でも、今日はあなたに会いにきたようなものなんです」
「わたしに?」
「やっぱり、遠野君にふさわしいのはあなただってよくわかりました。今はもう、ものすごくスッキリした気分なんです。これは負け惜しみとか言い訳とかじゃなくて本当です。これで、先輩の申し出に応えられると思うと私自身も生まれ変わったみたいで」
「私と貴樹くんは長くて辛い時代があったの。だから、花苗さんといえども、簡単には譲れないよ?」と冗談めかしていう。
「好きな人と一緒にいるってことはとても大切なことだと思うの。その、サークルの先輩が花苗さんにとって素敵だと思うのなら、それはきっと運命が用意したものだと思う」
「うん。私もそう思う」
「また、お食事しましょう。貴樹くんの中学や高校時代の話、もっと聞きたいな」
その言葉を聞きつけて「もう、いいよぉ……」と情けなくいう貴樹だった。
(つづく)
そして、部屋の中に花苗がいるのを見つけると、二人で顔を一瞬見合わせてから、機関銃のように話し始めた。
「なんでなんでなんで、こんなところに澄田さんがいるの?」
「あれ、理子、知り合い?」不思議に思って明里が聞くと。
「ていうか、そうか、知らないか。澄田さんは全日本サーフィン選手権女性の部でおととし初参加で3位、去年はチャンピオン、そして、今年も今のところトップ。日本を代表する選手なんだよおおおおお。愛読してるサーフィン雑誌にも毎号出てるし!!!」
理子が興奮しながら説明している。あの沈着冷静な木村でさえ、「あとでサインもらえますか」と聞いている。
「澄田は高校の同級生なんだよ」と貴樹が言うと、「すごおおいいい!! こんなに近くにそんな縁があったなんてぇぇぇぇ」とテンションがさらに上がっている。
理子のあまりの熱気に、
「そうだったんだ。島にいるときからやっているのは知ってたけど、それはすごいなあ」と、貴樹が感心している。
「貴樹君は特に泳ぎは苦手だし」と明里に暴露されて、「よけいなこと言うなよ……」とうなだれているのがかわいいと花苗は思う。
「遠野くん、泳ぎだめなの?」
そういえば海を眺めているところはよく見たけれど、泳いでいるところは見たことがなかった。
「泳げないわけじゃないけど、まあ、積極的に泳ごうとは思ってなかったなあ」
「でも、ジムに行き始めて、がんばって克服中」と明里が追加。
「へえ、遠野くんでも不得意なことあるんだ」
「そりゃあるさ。誰だって得意不得意はあるから。それにしても、澄田がそんなすごい選手だったなんて、友達に自慢しよう。何人か、サーフィンしてる奴がいるし」
そう言われて、自分があの遠野に勝っている部分があるなんてって思った。
「今年から、スポンサーついてないですか?」興奮さめやらぬ理子が聞いている。
「うん、D社がついてくれたんだけど」
「ああ、説明すると澄田さんは去年プロ宣言していて、賞金ランキングもトップ!」
「サーフィンのプロ?」
貴樹が不思議に思って聞く。
理子によるマリンスポーツにおける「プロ」について、ひとしきり講義のあと、「でも、日本ではサーフィンだけでは食べていけないから」と花苗が沈むように言う。3年生というのはセンシティブな年齢なのだ。
「日本でサーフィンで食べてる人は皆無。世界でも10人くらいじゃないかな。欧米のメーカーからスポンサードされないと無理」
「だいたい、日本のサーフィン界はねえ」と理子が愚痴り始め、祐一がとりなしている。なんだか、夫婦みたい。
そう思って言ったら、理子が真っ赤になって照れていた。
「まあ、就職うんぬんよりも、明日のバイト先が問題なんだよね」
花苗が言う。
「サーフィンのチャンピオンがバイト?」
「賞金はもらえるけど、転戦する旅費やエントリーフィーもバカにならないから、そんなに残らないんだよね……。夏場はサーフィン教室の講師があるけど、寒くなるとコンビニでバイトとか……」
「もったいない……」
「あ、うちらが通ってるジムで、スタッフ募集してなかった?」
理子が思いだしたように言った。
「ジム?」
「子供の水泳教室のコーチができる人。体育免許所持者や体育科在籍者優遇ってあったよ。澄田さんならイケるんじゃない?」
「でも、私の泳ぎなんて我流だし……」
「まあ、話聞いてみるだけでもいいんじゃないの?」
その後の話になるが、お得意様の紹介ということでとんとん拍子に花苗はそのジムでのバイトの口を見つけることができたのだった。
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3時間も長居をしたので1次会で終わったプチ同窓会だけど、終わってみたらみんな和やかで、連絡先の交換となった。ビルから出て、路上で「ちょっと」と花苗は明里を呼んだ。
「明里さん、私、遠野くんのことがずっと好きでした」
花苗がまっすぐに目を見ていう。
「うん……お話は聞いています」少し緊張して答える明里。
「でも、今日はあなたに会いにきたようなものなんです」
「わたしに?」
「やっぱり、遠野君にふさわしいのはあなただってよくわかりました。今はもう、ものすごくスッキリした気分なんです。これは負け惜しみとか言い訳とかじゃなくて本当です。これで、先輩の申し出に応えられると思うと私自身も生まれ変わったみたいで」
「私と貴樹くんは長くて辛い時代があったの。だから、花苗さんといえども、簡単には譲れないよ?」と冗談めかしていう。
「好きな人と一緒にいるってことはとても大切なことだと思うの。その、サークルの先輩が花苗さんにとって素敵だと思うのなら、それはきっと運命が用意したものだと思う」
「うん。私もそう思う」
「また、お食事しましょう。貴樹くんの中学や高校時代の話、もっと聞きたいな」
その言葉を聞きつけて「もう、いいよぉ……」と情けなくいう貴樹だった。
(つづく)
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