最終更新: centaurus20041122 2014年05月01日(木) 01:41:19履歴
いろいろあった4年間だけど、離れ離れだった6年間の辛い記憶を癒すには十分な期間だった。双方の両親にも認められ、学校の友人たちにも紹介し(学園祭に連れていった)、お似合いカップルだとたくさんの人に言われた。
明里はモデル卒業の号で、貴樹を登場させた。
最後まで渋っていた貴樹だったが、「こんなこと普通じゃできない経験なんだから」と田村に言われ、にわかモデルデビューする羽目になった。
人気モデルの明里が毎号書いている「今月の一言」で、必ず触れられている「彼氏」とはどんな人なのか? そんな質問がハガキやウェブサイトにも大量に来ていたのだ。それに応えての企画だったのだが、いざ登場したら、今度は貴樹のほうにまでファンレターがやってくるというオチがついた。
「明里ちゃん、いつもの笑顔とぜんぜん違うね」とカメラマンに言われたことを思い出す。好きな人と一緒にいると自然に出てくる笑顔が一番だ。
二人で空を飛ぶ。
モーターボートで引っ張られてふわりと浮きあがると、どんどんロープが延ばされて、空中に浮き上がり20メートルほどの高さになった。意図的スピードを落として高度をわざと落としたり、いろいろやってくるおかげで明里がずっときゃーきゃー言っている。
「貴樹くん、ホント、素敵な夏の記憶になるね!」
「まあ、今は2月なんだけどさ」
貴樹がそう言って、笑った。
二人でアジアンマッサージを受けたり、マリンアクティヴィティで遊んだり、十分なリラックスの時間を過ごした。気力が充電できた感じがする。
「俺も明里も忙しくなるだろうけど、2年に一度はこういうところに来れたらいいね」
もちろん明里もうなづいた。
ホテルのレストランではなく、きままに歩いた先で見つけた地元の食堂で、ガパオを食べながら、友人たちの就職や進学の情報を整理してみた。
飯田理子は大学院に進むという。いよいよスゴい人だなあと二人は率直に思う。
ただ、今もプログラミング関係の助言を受けに貴樹の元へやってくることはある。
佐々木とはここのところ連絡を取っていない。帰国したら聞いてみよう。
澄田とは……結局、あの「プチ同窓会」のあとゆっくりとは会えていない。ときたまメールが入る程度だ。ただし、澄田が毎号載っているサーフィン雑誌は読むようになった。
サーフィンの記事については流し読みだが、澄田のインタビューを読んで近況を知るためだ。幸い、そのサーフィン雑誌は○○出版から出ていたので、バイト先の編集部にバックナンバーも含めて残っていた。あとは2,3度だが、通っているジムの、子供水泳教室で生徒たちに楽しげに教えている姿を見ているくらいだ。
もう一つ、二人の環境が大きく変わる。
それは住まいを変えることだ。
「一緒に暮らす」
二人の念頭にずっとあったことだけど、結局、これまで通り、同じマンションの別々の部屋、という条件で探してみた。貴樹はプログラマ、明里はエディター。いずれにしても時間の不規則な仕事だ。帰宅時間も遅くなるだろう。一緒に暮らして、お互い気を遣うよりは、今までのような環境のほうがいいと二人とも思った。
貴樹の勤め先は三鷹で、明里の勤め先は市ヶ谷だったので、中央線沿線が都合がいい。
年明けから精力的に新築物件を中心に探した。新築に絞ったのは、そのほうが複数、部屋が空いていると思ったからだ。見つからなければこれまでのところでも別によかったのだけど、2週間の不動産屋通いで、東中野と中野坂上の間あたりにある新築マンションを見つけた。
「今日出てきた情報なので、部屋は選び放題」と不動産屋に言われたので、間取りがまったく一緒の隣同士の部屋を選んだ。これまでは貴樹が3階、明里は4階だったのだけど、今回は6階建ての6階でこのフロアにはこの2部屋しかない。
中野坂上という地名のとおり、台地上にあるマンションなので眺めがよかった。
新宿副都心のビル群は目の前に見える。
ベランダというよりはテラスと言っていいスペースが双方の部屋についており、そこだけでパーティーができそうな広さだ。
ザ・トウキョウという景色の中で、二人は新しく生き始めるのだと感じた。
(つづく)
明里はモデル卒業の号で、貴樹を登場させた。
最後まで渋っていた貴樹だったが、「こんなこと普通じゃできない経験なんだから」と田村に言われ、にわかモデルデビューする羽目になった。
人気モデルの明里が毎号書いている「今月の一言」で、必ず触れられている「彼氏」とはどんな人なのか? そんな質問がハガキやウェブサイトにも大量に来ていたのだ。それに応えての企画だったのだが、いざ登場したら、今度は貴樹のほうにまでファンレターがやってくるというオチがついた。
「明里ちゃん、いつもの笑顔とぜんぜん違うね」とカメラマンに言われたことを思い出す。好きな人と一緒にいると自然に出てくる笑顔が一番だ。
二人で空を飛ぶ。
モーターボートで引っ張られてふわりと浮きあがると、どんどんロープが延ばされて、空中に浮き上がり20メートルほどの高さになった。意図的スピードを落として高度をわざと落としたり、いろいろやってくるおかげで明里がずっときゃーきゃー言っている。
「貴樹くん、ホント、素敵な夏の記憶になるね!」
「まあ、今は2月なんだけどさ」
貴樹がそう言って、笑った。
二人でアジアンマッサージを受けたり、マリンアクティヴィティで遊んだり、十分なリラックスの時間を過ごした。気力が充電できた感じがする。
「俺も明里も忙しくなるだろうけど、2年に一度はこういうところに来れたらいいね」
もちろん明里もうなづいた。
ホテルのレストランではなく、きままに歩いた先で見つけた地元の食堂で、ガパオを食べながら、友人たちの就職や進学の情報を整理してみた。
飯田理子は大学院に進むという。いよいよスゴい人だなあと二人は率直に思う。
ただ、今もプログラミング関係の助言を受けに貴樹の元へやってくることはある。
佐々木とはここのところ連絡を取っていない。帰国したら聞いてみよう。
澄田とは……結局、あの「プチ同窓会」のあとゆっくりとは会えていない。ときたまメールが入る程度だ。ただし、澄田が毎号載っているサーフィン雑誌は読むようになった。
サーフィンの記事については流し読みだが、澄田のインタビューを読んで近況を知るためだ。幸い、そのサーフィン雑誌は○○出版から出ていたので、バイト先の編集部にバックナンバーも含めて残っていた。あとは2,3度だが、通っているジムの、子供水泳教室で生徒たちに楽しげに教えている姿を見ているくらいだ。
もう一つ、二人の環境が大きく変わる。
それは住まいを変えることだ。
「一緒に暮らす」
二人の念頭にずっとあったことだけど、結局、これまで通り、同じマンションの別々の部屋、という条件で探してみた。貴樹はプログラマ、明里はエディター。いずれにしても時間の不規則な仕事だ。帰宅時間も遅くなるだろう。一緒に暮らして、お互い気を遣うよりは、今までのような環境のほうがいいと二人とも思った。
貴樹の勤め先は三鷹で、明里の勤め先は市ヶ谷だったので、中央線沿線が都合がいい。
年明けから精力的に新築物件を中心に探した。新築に絞ったのは、そのほうが複数、部屋が空いていると思ったからだ。見つからなければこれまでのところでも別によかったのだけど、2週間の不動産屋通いで、東中野と中野坂上の間あたりにある新築マンションを見つけた。
「今日出てきた情報なので、部屋は選び放題」と不動産屋に言われたので、間取りがまったく一緒の隣同士の部屋を選んだ。これまでは貴樹が3階、明里は4階だったのだけど、今回は6階建ての6階でこのフロアにはこの2部屋しかない。
中野坂上という地名のとおり、台地上にあるマンションなので眺めがよかった。
新宿副都心のビル群は目の前に見える。
ベランダというよりはテラスと言っていいスペースが双方の部屋についており、そこだけでパーティーができそうな広さだ。
ザ・トウキョウという景色の中で、二人は新しく生き始めるのだと感じた。
(つづく)
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