最終更新: centaurus20041122 2014年03月24日(月) 16:05:10履歴
最終日。
日食観測隊は午前中の便で種子島を離れることになっていた。
授業はあるが、生徒会と歓迎委員は見送りのため免除されており、貴樹は明里たちが宿泊している民宿へ顔を出し、荷物の搬出を手伝い、空港へ同乗していった。
前日に「なにか」があったせいか、貴樹と明里の間はなんとなくぎこちなかった。
しかし、それに気づいたのは理子だけだった。
一つには、貴樹と明里の二人は、再会してからずっとぎこちなかったからだ。
突然の再会、全校生徒目前での抱擁、皆既食での誓い、そして……。
それまでの、5年の停滞を吹き飛ばすほど、二人の関係の歯車は急激に回ったから、当の本人たちが戸惑い、手さぐりの中で関係を再構築しているためだろう。
それでも、失われていた時間のすきまを埋めるように、二人は寄り添っていた。
あるいは、仮に二人がずっと一緒にいたならば、この3日間の出来事が5年のあいだになだらかに起こっていたのかもしれない。
「いいなー、私も大学受かったら、速攻で彼氏作ろう」
理子がにやにやしている。
「飯田さんは美人だし理系だから、引く手あまたできっとモテモテになりますよ」
貴樹さえ、軽口を叩いた。
「そぅお? ぐふふふふ」
リアクションが「おばちゃん」なところを直せばもっといいのに、と明里は思う。
空港は日食観測で訪れていた一般客も含めてごったがえしていた。
機材を預け、搭乗手続きを済ませると、少しの間だけ自由な時間となった。
他のメンバーは二人のことを察して、二人きりにしてくれた。
貴樹と明里はロビーの片隅のベンチに隣同士に座って、手を重ねながらしばしの別れの時間を過ごしている。
「でも、あの日とは全然違うから」
貴樹が力強く言う。
「あの時は、もう会えないかもしれないと思っていたけれど、今度はまた会えるってわかってるからね」
明里が泣き笑いの表情をした。
「来年の春に、僕は絶対に明里の隣に戻るから。そしたら、」
「うん、一緒に、桜を見ようね」
搭乗開始のアナウンスが流れる。
びくんと体を震わせる明里の肩をしっかりと抱き寄せながら、歩きだす二人。
手紙でも、電話でも、またつながれる。
来年になれば、すぐそばにいられる。
わかっていても涙がとめどなく流れる明里。
「さ、明里は全然、大丈夫だよ。もう泣きやんで」
そういうと貴樹が唇で涙を吸い取った。
「!!」
とっさのことでびっくりした明里だったけど。
「あのときみたいに……」
そういうと目を閉じる。
一瞬躊躇した貴樹だったが、ぎゅっと抱きしめてキスする。
一般客は空港にありがちな光景だと見て見ぬふりをしていたし、事情を知っている人たちはほほえましく見守っていた。
「しかし、明里は大胆なコだったんだねぇ。この姿をクラスメイトが知ったらみんなひっくり返るだろうなあ……あ、全員、今回のことはぺらぺらしゃべらないこと」
部員に通達する理子だけど、もちろん、部員たちもわかっている。
自分たちの目の前で恋が息を吹き返す、素晴らしい瞬間が見れたのだから、汚したくないのだ。
一度は途切れた恋人たちを、奇跡の日食が再び結び付けてくれた。
それはきっと彼らが、離れてはいけない存在だと、祝福されたからだろう。
そして、この想いは来年の春には大きく実を結ぶに違いない。
そこからずっと続く、二人の人生のスタートラインとなって。
(了)
日食観測隊は午前中の便で種子島を離れることになっていた。
授業はあるが、生徒会と歓迎委員は見送りのため免除されており、貴樹は明里たちが宿泊している民宿へ顔を出し、荷物の搬出を手伝い、空港へ同乗していった。
前日に「なにか」があったせいか、貴樹と明里の間はなんとなくぎこちなかった。
しかし、それに気づいたのは理子だけだった。
一つには、貴樹と明里の二人は、再会してからずっとぎこちなかったからだ。
突然の再会、全校生徒目前での抱擁、皆既食での誓い、そして……。
それまでの、5年の停滞を吹き飛ばすほど、二人の関係の歯車は急激に回ったから、当の本人たちが戸惑い、手さぐりの中で関係を再構築しているためだろう。
それでも、失われていた時間のすきまを埋めるように、二人は寄り添っていた。
あるいは、仮に二人がずっと一緒にいたならば、この3日間の出来事が5年のあいだになだらかに起こっていたのかもしれない。
「いいなー、私も大学受かったら、速攻で彼氏作ろう」
理子がにやにやしている。
「飯田さんは美人だし理系だから、引く手あまたできっとモテモテになりますよ」
貴樹さえ、軽口を叩いた。
「そぅお? ぐふふふふ」
リアクションが「おばちゃん」なところを直せばもっといいのに、と明里は思う。
空港は日食観測で訪れていた一般客も含めてごったがえしていた。
機材を預け、搭乗手続きを済ませると、少しの間だけ自由な時間となった。
他のメンバーは二人のことを察して、二人きりにしてくれた。
貴樹と明里はロビーの片隅のベンチに隣同士に座って、手を重ねながらしばしの別れの時間を過ごしている。
「でも、あの日とは全然違うから」
貴樹が力強く言う。
「あの時は、もう会えないかもしれないと思っていたけれど、今度はまた会えるってわかってるからね」
明里が泣き笑いの表情をした。
「来年の春に、僕は絶対に明里の隣に戻るから。そしたら、」
「うん、一緒に、桜を見ようね」
搭乗開始のアナウンスが流れる。
びくんと体を震わせる明里の肩をしっかりと抱き寄せながら、歩きだす二人。
手紙でも、電話でも、またつながれる。
来年になれば、すぐそばにいられる。
わかっていても涙がとめどなく流れる明里。
「さ、明里は全然、大丈夫だよ。もう泣きやんで」
そういうと貴樹が唇で涙を吸い取った。
「!!」
とっさのことでびっくりした明里だったけど。
「あのときみたいに……」
そういうと目を閉じる。
一瞬躊躇した貴樹だったが、ぎゅっと抱きしめてキスする。
一般客は空港にありがちな光景だと見て見ぬふりをしていたし、事情を知っている人たちはほほえましく見守っていた。
「しかし、明里は大胆なコだったんだねぇ。この姿をクラスメイトが知ったらみんなひっくり返るだろうなあ……あ、全員、今回のことはぺらぺらしゃべらないこと」
部員に通達する理子だけど、もちろん、部員たちもわかっている。
自分たちの目の前で恋が息を吹き返す、素晴らしい瞬間が見れたのだから、汚したくないのだ。
一度は途切れた恋人たちを、奇跡の日食が再び結び付けてくれた。
それはきっと彼らが、離れてはいけない存在だと、祝福されたからだろう。
そして、この想いは来年の春には大きく実を結ぶに違いない。
そこからずっと続く、二人の人生のスタートラインとなって。
(了)
このページへのコメント
お返事ありがとうございました。
しかし、この作品 名作だと思います。
ワンモアサイドより よっぽど良かったです。
ワンモアサイドは1度読んだだけでしたが、この話は第一部は 少なくとも5回は 読み返しました。
そのうち2回は泣いていましたが・・・。
たぶん 秒速5センチメートル ああいう風に終わるから名作なのはわかりますが・・・。
でも、でも、でも・・。
ちがうんですよね・・・。
なんとか結ばれてほしい・・。
自分が同じシュチュエーションで、うまくいかなかったので、
なんとか むすばれてほしい・・・。
それを かなえていただいた すばらしい作品でした。
本当にありがとうございました。
19のままさ、さん
感想ありがとうございます。
「君の名は。」を見て、過去作品に行き、あなたのような「被害」に逢うかたがきっと出ると思っていました。
少しでも傷が癒えたらいいですね。
もう感動しました。
君の名を見て 新海監督の昔の作品を探して「秒速5センチメートル」を見つけました。
この作品を はじめ見たときは、まさに もう思考停止状態でした。ものすごい喪失感だけがあり なにが起こったのか わからない状態でした。
すぐにKINDLEで漫画をダウンロードして さらに症状を悪化させてしまい さらに小説をダウンロードして もう再起不能の状態になりました。
なんとすくわれない話だ。
何とか救われたい。そうおもってインターネットを探している最中に この作品を見つけさせてもらいました。
もうはじめ 読んで 種子島で あかりとたかきが再開して抱き合うところを 読んだときは 救われたと 思い サイゼリアで泣いてしまいました。