最終更新: centaurus20041122 2014年03月24日(月) 15:53:53履歴
種子島は温暖な島だ。
桜は3月半ばで満開になり、新学期のころにはすでに葉桜となる。
僕が種子島に引っ越してきて4回目の春になっていた。
この島には高校は3つしかないので進学先は実質上決まっていた。
東京の大学に進学を希望していた僕は、とにかく勉強を最優先にした。次には頑強な体つくり。中学のころは基礎体力を作るためにサッカーを選んだが、高校は精神面を鍛えようと弓道を選んだ。
2年生となり、部活の中心となり、日々の生活はそれなりに多忙だった。
「遠野君、ちょっといい?」
同じクラスの佐々木だ。
彼女も東京の大学に進学を希望している。そのためけっこう僕たちは情報交換をしていた。
僕が通っている高校から大学への進学は、それなりにあるけれど、九州の大学がほとんどで、遠くて関西。東京の大学に進むのは2年に1人から2人、という程度だった。
僕はそれを心配していた。
東京にいるころはわりに成績はよかった。難関の西中の入試も突破した。
だけど、ここの授業は東京の大学入試のレベルに合わせて行われているわけではない。
佐々木が行ってる塾を紹介してもらったりしてはいたけれど、果たして自分がどの程度のものなのか焦りがあった。
学校の中では上位、トップ3にはいつもいた(もう一人が佐々木だ)。
模試も毎回受けていて、希望大学にはそれなりの判定は出ているけれど、それでも心配
だった。
僕が東京に行きたい、いや、戻りたい理由。
それは、明里のそばにもどるためだった。
「で、聞いてる?」
「え、あ、ごめん」
「遠野君、たまになにか別のこと考えてるよね。私のこと見てるようで、もっと向こうを見てるっていうか、焦点があってなくて、ちょっとアブナイ感じがするときもあるよ」
「そ、そうか……。気を付けるよ」
「心配事があるなら彼女に相談してみたら?」
「彼女? 誰?」
佐々木が指している「彼女」の存在には心当たりがあった。
「あれ、3組のコとよく帰ってるから、てっきりそうだと思ってたけど。周りもそう思ってるよ」
「澄田とは同じ中学出身で、帰る方向が同じ、ただそれだけだよ」
僕は淡々と説明する。
澄田が僕に好意を持っているらしいのはわかっていた。
ただ、彼女は僕の周りにつきまといはするけれど、これ以上は入ってこないでほしいというラインの内側には入ってこなかった。だから、放置していた。
自分でいうことでもないが、東京からの転校生で、成績も上位、サッカー部という僕の身上だと、この島ではかなりモテる。中学2年の1年間で数人の女の子からの告白を受けたが僕は「今はそういうことは考えられない」と断ってきていた。
彼女たちは「僕の絶対領域ラインの内側」に入ってきてしまったのでしょうがなかったのだ。
そのうち、僕が澄田とちょくちょく帰っていることが学校で噂になったのだろう、僕に言い寄ってくる女子はいなくなった。
そう、ぼくは澄田の存在と行動を利用していた。その魂胆を他人に知られたら間違いなく非難殺到だろう。だけど、南の島の素朴な人たちには気づかれなかったようだ。
それに、それが罰に価するのならば、きっと僕は罰せられるだろう。
僕が澄田に何か好意をほのめかすようなことを言ったことはないし、逆に何か言われたわけでもない。
確かに、普通のクラスメートとしては親密だったかもしれないが、恋人ではない。
第一、僕には好きな女の子がいたから。
彼女……篠原明里のことは誰にも話さなかった。
興味本位な視線や下衆な勘繰りの材料に提供したくはなかった。
それは僕の心の中心に輝き続ける恒星であり、僕のエネルギー源なのだから。
(つづく)
桜は3月半ばで満開になり、新学期のころにはすでに葉桜となる。
僕が種子島に引っ越してきて4回目の春になっていた。
この島には高校は3つしかないので進学先は実質上決まっていた。
東京の大学に進学を希望していた僕は、とにかく勉強を最優先にした。次には頑強な体つくり。中学のころは基礎体力を作るためにサッカーを選んだが、高校は精神面を鍛えようと弓道を選んだ。
2年生となり、部活の中心となり、日々の生活はそれなりに多忙だった。
「遠野君、ちょっといい?」
同じクラスの佐々木だ。
彼女も東京の大学に進学を希望している。そのためけっこう僕たちは情報交換をしていた。
僕が通っている高校から大学への進学は、それなりにあるけれど、九州の大学がほとんどで、遠くて関西。東京の大学に進むのは2年に1人から2人、という程度だった。
僕はそれを心配していた。
東京にいるころはわりに成績はよかった。難関の西中の入試も突破した。
だけど、ここの授業は東京の大学入試のレベルに合わせて行われているわけではない。
佐々木が行ってる塾を紹介してもらったりしてはいたけれど、果たして自分がどの程度のものなのか焦りがあった。
学校の中では上位、トップ3にはいつもいた(もう一人が佐々木だ)。
模試も毎回受けていて、希望大学にはそれなりの判定は出ているけれど、それでも心配
だった。
僕が東京に行きたい、いや、戻りたい理由。
それは、明里のそばにもどるためだった。
「で、聞いてる?」
「え、あ、ごめん」
「遠野君、たまになにか別のこと考えてるよね。私のこと見てるようで、もっと向こうを見てるっていうか、焦点があってなくて、ちょっとアブナイ感じがするときもあるよ」
「そ、そうか……。気を付けるよ」
「心配事があるなら彼女に相談してみたら?」
「彼女? 誰?」
佐々木が指している「彼女」の存在には心当たりがあった。
「あれ、3組のコとよく帰ってるから、てっきりそうだと思ってたけど。周りもそう思ってるよ」
「澄田とは同じ中学出身で、帰る方向が同じ、ただそれだけだよ」
僕は淡々と説明する。
澄田が僕に好意を持っているらしいのはわかっていた。
ただ、彼女は僕の周りにつきまといはするけれど、これ以上は入ってこないでほしいというラインの内側には入ってこなかった。だから、放置していた。
自分でいうことでもないが、東京からの転校生で、成績も上位、サッカー部という僕の身上だと、この島ではかなりモテる。中学2年の1年間で数人の女の子からの告白を受けたが僕は「今はそういうことは考えられない」と断ってきていた。
彼女たちは「僕の絶対領域ラインの内側」に入ってきてしまったのでしょうがなかったのだ。
そのうち、僕が澄田とちょくちょく帰っていることが学校で噂になったのだろう、僕に言い寄ってくる女子はいなくなった。
そう、ぼくは澄田の存在と行動を利用していた。その魂胆を他人に知られたら間違いなく非難殺到だろう。だけど、南の島の素朴な人たちには気づかれなかったようだ。
それに、それが罰に価するのならば、きっと僕は罰せられるだろう。
僕が澄田に何か好意をほのめかすようなことを言ったことはないし、逆に何か言われたわけでもない。
確かに、普通のクラスメートとしては親密だったかもしれないが、恋人ではない。
第一、僕には好きな女の子がいたから。
彼女……篠原明里のことは誰にも話さなかった。
興味本位な視線や下衆な勘繰りの材料に提供したくはなかった。
それは僕の心の中心に輝き続ける恒星であり、僕のエネルギー源なのだから。
(つづく)
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